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暴れる牛

 太田のメタボを解消もとい、鍛錬の為に岩を担がせること二日。

 人間とは違う事を実感した。

 明らかに筋力が増している。

 太もものサイズも一回りは大きくなり、腕や肩も太くなっている。

 二の腕は無駄肉がつまめる状態だったのが嘘のようだ。

 たった二日でこれなのだから、本来はもっと凄いのだろう。

 それにランニングと上半身というよりも、腕周りの筋肉のみしかトレーニングをしていない。

 そう!腹はブヨブヨなのだ!

 俺達が想像するミノタウロスとは、まだまだほど遠い気もするが、それでも身体より精神の鍛練は上手くいったと自負している。


「キャプテン!前の方が騒々しいです!」


 何故か蘭丸とハクトも、キャプテンと呼ぶようになってしまった。

 まあ、そこは気にしないでおこう。


(いや、気にしてくれ。僕も今後キャプテンと呼ばれると思うと、気が滅入る・・・)


 弟も気にしない方向で考えているようだ。


「ハクト!どんな音が聞こえる?」


「うーん、何だろう?聞いた事が無いな。パンパン言ってるような気もするけど」


「もしかしてそれ、銃声じゃないか!?」


 蘭丸は銃の可能性を示唆していたが、ハクトにそれは分からない。

 村にはそんな物無かったし、襲撃してきた帝国兵も持ってなかった。

 おそらくオーガに対しては、俺等よりも脅威を感じて準備してきたという事だろう。


「もし鉄砲だとしたら、オーガも危ないかな?蘭丸、こっちの銃ってどんな銃?」


「どんな銃って、火縄銃しかないだろう。帝国が持っているのが、ただの火縄銃かミスリルとか特別製なのかは分からないが」


 火縄銃か。

 種子島に伝来したとかは知ってるけど、詳しくは知らない。


(信長は火縄銃の重要性を予見して、沢山作らせたって話もある。もしかしたらそれが、帝国にも伝わってるのかもね)


 へぇ、そうなんだ。

 つーかさ、それよりも思ったのが、魔族に火縄銃って有効なの?

 人だと当たれば重傷か死ぬ可能性だってあるけど、オーガみたいな強そうな種族に通用するのかな?


(うーん、この世界の火縄銃が昔と同じとは言えないんじゃない?400年以上経ってるわけだから、それなりに進化改良はされてるんじゃないかな?)


 なるほどね。

 魔族とか魔物っていう危険があるのに、人間がそのままなわけないか。


「なあ阿久野、急いだ方が良くないか?」


「そうだよ!銃なんて危険な物を帝国が持っていたら、オーガもミノタウロスも怪我じゃ済まないよ!」


「待て!この速度を維持する」


「どうして!?」


「太田にペースアップを命じたら、戦場に着く頃に疲れて使い物にならなくなる」


 それを聞いた二人は呆れた顔をした気がした。


「だったら馬に乗せてあげればいいじゃん・・・」


 うん、聞こえたよ。

 小声で言ったつもりだろうけど、魔王イヤーは聞き逃さない。

 今更それもそうだなと思ったが、言っちゃった手前このまま行く事にした。


「よし!太田!そろそろ本番だ!戦場も近いぞ!気合を入れていけ!」


「ハイ!キャプテン!」



 町の入り口に着くと、想像以上の悲惨な状況に俺は絶句した。

 しかし他の三人は違うようだ。

 何故こういう状況に慣れられるのかよく分からないが、現代日本に住んでいた俺達には一向に慣れる様子は無い。

 ふと思ったけど、帝国に召喚された連中って、こういう状況をどう思ってるんだろう?

 佐藤さんみたいに戦士として戦場に出るのが普通だろうし、戦争を知らない日本人が人を殺す事に慣れるのかな?

 佐藤さんみたいな人とは限らないのかな?

 色々と頭の中をグルグル渦巻いているけど、此処は既に戦場の入り口。

 いつこっちに銃弾が飛んでくるのか分からないんだった!

 太田にはあんな事言ったけど、俺の方が精神面で成長していないのかもしれない。

 気を引き締めよう!


「よし!この速度を崩さずに行くぞ!いっちに!いっちに!」


「ハイ!キャプテン!」


 町に入りちょっと走ると、ようやく戦場らしき場所が見えてきた。

 やはりミスリルで固めた正規兵らしき連中だ。

 その先にはミノタウロスとオーガらしき連中が倒れている。

 撤退を命じているのか?

 下がる連中もいたが・・・。


「なぁ、ちょっと聞いていいか?あの下がっていく連中がオーガなのか?」


「俺も分からん。オーガとは俺達エルフも、ほとんど交流が無いからな。実際に見るのも初めてだ」


「当たり前だけど、僕も村で見た事は無いよ」


 二人とも知らないか。

 太田なら流石に分かるだろう。

 岩の代わりに鉄アレイを持たせたが、戦場の目の前でも筋トレをするとは。

 違う世界に目覚めてしまったか?


「太田、お前なら分かるだろう?」


「ハイ、分かります!彼等がオーガです。集落にもたまに来てくれたので、中には知った顔も居るはずです」


 答えてくれながらも筋トレを続ける。

 しかしアレがオーガか。

 ぶっちゃけ、想像してたのと全然違う。

 もっと角がドーンって生えてて、牙が口から見えちゃって怖いイメージだったのに。

 実際は角は小ぶりだし、牙も見当たらない。

 強いて言えば身体は大きいくらいか?

 小さい人でも180センチくらいだろう。

 平均して2メートルはありそうなプロレスラー体型の人達って感じだ。

 しかも色黒というか、タイとかフィリピンとか東南アジアの人みたいだし。

 彼等が秋葉原とかに居ても、ただのプロレスラー集団にしか見えないかもしれない。


(秋葉原より後楽園ホールの近くに居たら、誰も違和感無いんじゃないか?)


 それだ!

 プロレスラー集団よりも強いんだろうけど、倒れているのを見ると、やっぱり銃弾には耐えられないという事だな。


「太田、これからがお前の初陣だ。その前にこれを授ける」


 俺は創造魔法で、鉄製のキャッチャープロテクターを太田の身体に合わせて作った。


「こ、これは!?」


「ミスリル製の剣や銃弾だったら耐えられないかもしれないが、それでも無いよりマシだろう?それと本来はヘルメットとマスクがあるんだけど、角をどうすればいいか分からないから作らなかった」


「いえ!このような物を作っていただき、ありがたき幸せ!」


 その場で跪こうとするが、止めさせた。


「蘭丸、ハクト。太田に付与魔法を掛けてくれ。土魔法の剛力と風魔法の快速で頼む」


「分かった」


「あと武器なんだけど、ミノタウロスって何持って戦うの?」


「主には戦斧でしょうか?」


 戦斧って何だ?


(ハルバードとかバルディッシュの事かな?)


 名前聞いても分からん。

 代わりに作ってくれ。

 俺の手が勝手に動き出し、目の前にそのハルなんちゃらが出来上がった。

 おぉ!ゲームで見た事あるよ!


「武器が無いと攻撃出来ないだろう。これも持っていくといい」


「戦斧まで準備して頂けるとは!必ずや殲滅してまいります!」


 鉄製だから、多分傷付けられるくらいだと思うけど。

 でも俺の鉄球並みの威力なら、内臓にダメージを与えられるかもしれないか。


「準備は整った。蘭丸達は俺達が攪乱している間に、倒れている人達を頼む。二人が辿り着き次第、四方を壁で覆う。敵の戦力次第では撤退も考えるから、いつでも動けるようにしておいてくれ」


「分かった。無茶はするなよ?」


「無茶をして助けられるなら、無茶をするさ。じゃないと頑張った太田に、偉そうな事言えないからな」


 肩を竦めて冗談のように言ってみせたが、予想よりも数が多いな。

 オーガも気掛かりだけど、下手したら俺達も危ないかもな。

 いや、弱気になったら負けるか。


「よし!太田、行くぞ!頭だけは死守しろ。頭と心臓さえやられなければ、即死は無いはずだ!」


「ハイ!キャプテン、太田出ます!」


 両手に戦斧を持ち、少し屈んだ体勢から一気に敵兵に突っ込んでいく。

 付与魔法の力か、100メートルを十秒以下で走っているだろう。


「な!?ミノタウロスが何故武器を!?」

「俺達に向かってきている?生き残りか!?」

「敵襲!敵襲!」


 勢いよく戦斧を横薙ぎに振るうと、数人の兵が吹き飛んだ。

 これで起きてくる様子だと、アイツの攻撃は効いていない事になるが・・・。

 よし、起きてこない!

 ミスリルで作られていても、中身の人間までは無傷じゃないようだ。


「良いぞ太田!お前の攻撃は効いている!そのまま仲間に攻撃されないように、暴れろ!」


「御意!」


 俺も陽動で鉄球を投げながら、二人が倒れていく人の所へ走っていくのを援護した。

 今回は最初から顔面狙いだ。

 銃まで持ち出して殺しにかかってきている。

 だったらお前等だって、殺されても文句は言えないだろう?



 太田は力の限りに戦斧を振るった。

 銃を構えられると上手い具合に身体を縮め、頭を戦斧で守る。

 致命傷は負わないように、考えて動いているようだ。

 そして周囲からの注目を避けるように、2人が怪我人の元へ到着。

 俺はそれを見て、鉄の壁で四方を囲んだ。


「何だアレは!」


「隊長、敵の新手です!暴れているのは一人ですが、ミノタウロスが戦斧を振り回して先陣を乱しています!」


 ようやく異変に気付いた帝国だったが、その対応は早かった。


「おかしい。敵が少ない。攪乱は成功したのか?」


 小さく呟く太田に、再び帝国兵が周りを覆った。

 さっきと同じように戦斧を振るったが、致命傷は与えられない。

 理由は簡単だった。

 一切の攻撃を諦め、大盾で周りを囲んだだけ。

 ミノタウロスという人間よりはるかに強い力に対抗出来るよう、一つの盾に対し三人で構えたのだ。

 作戦は成功し、少しずつ動きが鈍くなる太田。


「クッ!付与魔法も切れてしまったか。このままでは・・・」


 動きが遅くなったのを確認した隊長は、新たな一手を投じる。


「北方撃ち方用意!周りは盾から顔を出すなよ?同士討ちだけは避けろ!」


 火縄銃の弾はただの銃弾だった。

 ミスリルの盾に傷をつける事は出来ても、ダメージを与えるようなやわな物ではない。

 それを見越しての、四方からの攻撃だった。

 不味いな・・・。

 鉄球で周りに攻撃はしているが、全く奴等の所まで届かない。

 あの様子だと、弾は特別製という感じではないと思うが。


 その頃、太田は突破口を開こうと戦斧を振るっていたが、既に限界が来ていた。

 それは太田にではなく、戦斧の方が先だった。

 ただの鉄製の戦斧で、ひたすらミスリルの鎧を攻撃した結果、太田の身体より先に武器が壊れたのだ。


「奴の武器が壊れたぞ!西方、撃ち方用意!」


 帝国兵の無情な声が聞こえる。


「ワタクシはここまでのようですね。しかし、まだ終われない。仲間を助け、魔王様の脱出だけは手助けしなくてはいけ・・・」


 自分の身体に流れる血を見て、少しずつ動悸が早くなる。

 目の前が血の色に染まり、自分の頭が撃たれた。




「よし!武器が壊れて動かなくなったぞ!」

「待て!何か様子がおかしい」

「アイツはもう動かない。頭を狙えば終わりだ」


 撃ち方用意の声に合わせて構え、後はトドメを刺すだけのはずだった。

 はずだったのだが・・・


「ぶるぅぅぅああぁぁぁ!!!」


 大気を震わせるような今まで聞いた事の無い絶叫に、鉄砲隊は躊躇した。

 構えた鉄砲隊の方へ、折れた戦斧を投げ込む。


「な、何だ!?武器を投げ捨てて、捨て身の攻撃か!?」

「馬鹿め!目の前には大盾隊が控えている。武器も無いのに突破出来るわけが無い!」


 戸惑う鉄砲隊に突っ込む太田。

 目の前に来た時、彼等は異変に気付いた。


「・・・大きくなってる」


「あぶあぁぁぁ!!!」


「ヒィ!」


 身体が一回り大きくなった太田の体当たりに、吹き飛ばされる大盾隊。

 信じられない光景を目の当たりにして、隊長も声を失った。


「う、う、う、ぶうあぁぁぁあ!!!」


 更に身体が大きくなり、着けていたプロテクターを破壊した。

 目が真っ赤に充血したようになった敵のミノタウロスを見て、初めて自分達がないがしろにした魔族の恐怖を思い知ることになる。


「う、うわぁぁぁ!!!殺されるぅぅ!!!」

「ま、待て!隊列を崩すな!!」


 恐怖に耐えきれなくなった大盾隊の一部が、自分の仕事を放棄して逃走した。

 守ってくれるはずの盾が居なくなり、無防備に姿を晒す鉄砲隊。

 そこへ付与魔法を掛けた時よりも速い勢いで突進をされ、無残にも角で身体を貫かれた。

 頭を振り、ゴミを払うかのように兵を投げ捨てる。


「角が伸びてる!?」

「角が赤くなってるし、何なんだよアレは!」

「来るな来るな来るな!!」


 混乱した鉄砲隊は確認せずに発砲を開始し、味方へと銃弾を浴びせる。

 ミスリルすらも貫く角を持つ怪物に、先陣は混乱の真っ只中となった。




 鉄球を投げ込み、どうにかして太田への突破口を開こうとするも、大盾を持つ複数の兵が邪魔で先に進めないでいた。

 クソッ!

 あんな事を言っておきながら、俺がアイツを死地へ追いやった形になっちまった!

 どうにかして行かないと・・・。


「ぶるぅぅぅああぁぁぁ!!!」


 な、何だ!?太田の声!?

 まさか断末魔ってヤツじゃないよな!?

 中の様子が見えずに、焦りを感じる。


「あぶあぁぁぁ!!!」


 人が空を舞っている!?

 太田がやっているのか?

 何か悲鳴と銃声と怒号が聞こえるけど、よく分からないな。


「太田ー!聞こえるなら返事しろー!!」


「う、う、う、ぶうあぁぁぁあ!!!」


 これは返事なのか?

 返事はハイ!ってアレほど言ったのに。

 しかし太田が見えるようになってきたけど、何か様子がおかしいぞ?


(おかしいってもんじゃないよ!巨大化してるし、角が赤くなって伸びてるよ!)


 言われてみれば確かに。

 もう四方を囲んでた帝国兵も四散してバラバラだ。

 アイツ凄いな!


(そんな悠長な事言ってられないよ!こっち向かってきてる!)


 俺を見つけて、こっち向かってきてるだけじゃなさそうだ。

 ちょっと離れよう。


「太田ー!?太田くーん!?太田さーん!?」


「ぶるうぅあ!!ぐるうぅぅ!!!」


 返事が無い。

 ただの太田ではないようだ。


(分かり切っている事を言うんじゃないよ!)


 さて、どうしたものか。

 近付けば、攻撃の巻き添えになる予感は満々だし。

 落ち着くまで様子を見るしかないか。


「阿久野ー!?外の様子が分からんのだが、その悲鳴と絶叫は大丈夫なのかー?」


「分からん!こっちには被害は無いが、いつ出るかも分からん!」


 蘭丸が壁の向こうから様子を聞いてくるが、あまり不安にさせるのも悪い。

 最低限の情報だけを伝えよう。


「こっちの応急処置は終わったぞ!大丈夫なら壁を解除してくれ!」


「後で連絡する!それまでは待機!」


 もう言っちゃ悪いが、投げやりだ。

 怪我人をこんな混乱した中で放り出すのは無理だし。

 正直なるようになれという気分である。

 しかし、アレは何なんだ?


「お前があの壁を作ったのか?」


 後ろからオーガが話しかけてきた。

 さっき撤退の命令を出していた人だ。


「そうです。俺が作りました」


「あの中に俺の仲間も居るんだろう?恩に着る」


 頭を軽く下げ、混乱の様子を見守る。


「アレ、あの集落のまとめ役だよな?あの人、あんな力があったとは・・・。ただの変人だとばかり思っていたのに」


「知っているんですか?」


「あぁ、あそこには食料や物資をたまに届けに行くからな。しかし、あの集落にこれが出来る奴が居るとは思わなんだ」


「アレが何だか分かるんですか!?」


 どうやらミノタウロスに詳しいらしい。

 アイツ、こんな隠し玉持ってる事言わなかったからな。



「アレは見たまんまだよ。暴走だ」

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