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荒れる戦場

 山下という召喚者が、僕達の正体に気付いたらしい。

 正確には転生したわけじゃないけど、おおかた間違っていない。

 僕を警戒してか、彼は奥の手である魔物を呼び出した。

 慶次一人ではいよいよ捌く事が出来なくなり、怪我をした黒騎士が覚悟を決める。

 するとそこに、慶次の後を追ってきたイッシー隊が到着した。


 イッシー隊改め、お笑いグループ薄い人達。

 彼等はひとしきりコントを見せた後、魔物と対峙し始めた。

 山下とルードリヒは、慶次とイッシー隊を比べた上でイッシー隊への攻撃を選択。

 隊員達はルードリヒに手こずり、イッシーは山下とのタイマンを強いられる事になった。


 山下は武器である棍棒と魔物を駆使して、イッシーを翻弄。

 対するイッシーも槍に双剣、ブーメラン等、様々な武器で山下を攻撃していた。


 まず均衡を破ったのはイッシーだった。

 後方からの援軍である太田が到着したのだ。

 魔物の相手をしてくれている太田だが、それもすぐに終わりを告げる。


 嘘だろ。

 イッシーと山下は同じセリフを言うも、中身は正反対だった。

 次に現れたのは、セードルフ自らが率いてきた、王都軍全軍だったからだ。





「全軍って何人だよ!」


 イッシーの悲痛な叫びが、山下を喜ばせる。



「おやおや?そんなに余裕無いのかな?」


「コイツ、性格悪いな!どうせ日本でも、友達居なかったんだろ?」


「友達くらい居るわ!」


 数人だけど。

 という言葉が本当は後に続くのだが、それは心の中だけに仕舞っておいた。



「しかし、これはいよいよ俺の運命も終わるか?」


「イッシー殿は病気か何かなのですか?」


「ちょっと前まで頭が寒かったくらいで、病気にはなってないと思うけど」


「じゃあ何故、運命が終わるのです?」


 太田の本心からの質問に、イッシーは少しイラッとしていた。

 見れば分かるだろうと。



「太田殿はこの人数に勝てるというのか?そんな事を思っているのなら、随分と楽観的だな」


「本気を出せば何とかなるかと」


「馬鹿を言え!四方八方全て敵だぞ?四面楚歌ってヤツだ」


「シメンソカ?何ですか、それ」


「周りが全て敵だらけって意味だ」


「なるほど。今度、魔王様の伝記に使いたいと思います」


 どうにも会話が噛み合わないイッシーは、その怒りを敵にぶつける。



「ったく!俺はまだまだやりたい事があるんだ。お前達なんかに負けてたまるか!」


「負けませんよ。魔王様もこちらに向かってますし」


「来るまで耐えられるのかよ?」


「耐える?そんな事しません」


「どうするつもりだ?」


 イッシーの問いに太田は、バルデッシュを振り上げて答えた。



「魔王様の計画を邪魔する汚物ら消毒します」





「ところでお聞きしたい」


 慶次が黒騎士に飛んでくる攻撃を叩きつつ、後ろの黒騎士達に尋ねる。



「そろそろ動ける方は居るでござるか?」


「俺は行ける」


「私もだ」


「同胞を守るだけの力は?」


「短時間であれば、何とか」


 慶次はその言葉を聞いて、ニヤリと笑う。

 ようやく、ようやく自分が解放されると。



「ではその短時間で、周りの敵を出来る限り倒すでござる」


「我々の為に、本当にありがとう」


 後ろの黒騎士から頭を下げられる慶次。

 振り返る余裕は無いので詳しくは分からないが、おそらくはそんな感じだろうと察していた。



「そんなに畏まらなくて良いでござる。拙者は魔王様の指示に従っただけ。それに加えて言わせてもらえば、強い敵と戦いたいのでござる」


「それでも、我々の命は貴方に救って頂いた。強い敵が居るかは分かりませんが、どうぞご自由になさって下さい」


「では拙者、今から修羅に入るでござる。皆々様、後で生きて会いましょう」


 慶次はそう言い残すと、槍を回しながら矢や銃弾を弾き飛ばして、その場を離れた。






 太田は、極力味方が居ない場所へと走った。

 味方を誰も巻き込まないようにだ。


 すると、同じ考えをしていたと思われる慶次が、途中から横へ並走し始める。



「慶次殿、離れて良かったのですか?」


「イッシー殿の薬が効いて、少し回復したと言っていたでござる。このままだと太田殿と拙者は大丈夫だとしても、他の皆が危険でござる」


「慶次殿も同じ考えのようですな」


「流石は太田殿、やろうとしている事は同じでござる。ちなみに入っている魔法は?」


「火魔法です」


「なんと!同じでござるな。では、拙者はこちらから上に向かって」


「ではワタクシは、慶次殿の反対に向かって撃ちましょう」



 背中合わせで立つ慶次と太田。

 前方には味方は誰一人居ない。

 武器が違うので構えは違うのだが、二人は同時に構えた。

 そして、合わせたわけでもなく、同時にクリスタルの中に入っている魔法を全解放する。



「慶次、バアァァニング!!」

「太田、バアァァニング!!」



 バルデッシュを上段から、一気に地面へと叩きつける太田。

 叩きつけた場所から、炎が扇状へと広がっていく。



 伸縮する槍を、右から左へと半円を描くように振る慶次。

 伸びた槍がそのまま、半円状に炎を振り撒いている。



「慶次殿と効果範囲が、少し違うみたいですな」


「太田殿は扇状でござるか。なかなか綺麗でござるな」


「慶次殿の半円も、月のようで綺麗ですよ」


 お互いの技を見合って、何処が違うのかを指摘している二人。

 綺麗だと褒め合う二人だが、その綺麗だと言う炎の中には、誰一人生き残っていなかった。





「敵は少数。時間を掛けずに、数の力で殲滅してしまえ」


 セードルフの指示に従い、全軍が四方から押し潰すように中へと迫る。

 中で戦う連中は、大きな圧迫感を感じていた。



「隊長!どうしますか?」


「耐えろ!太田殿が既に動いた。何かをしてくれるはずだ」


「そうですか。あ、慶次殿も一緒に居ますね」


 遠くから徐々に迫る王都軍に向かって、矢を放つイッシーの部下。

 離れた場所で二人が立つのを発見した。



「え?」


 太田と慶次が、同時に武器を振ったのを確認。

 その直後に、彼等の前方に居た敵は、八割近くが焼失していた。



「た、隊長!」


「な、何だ!?そんなに呼ばれても余裕は無い!」


「て、敵が半分まで減りました・・・」


「ハァ!?」


「おい、お前の部下おかしいんじゃないのか!?」


 山下も聞こえたその言葉に、耳を疑った。

 しかし、お互いに気になるその言葉に、わざと距離を取って部下の言う方向に顔を向ける。



「・・・森が無いな」


「な、何だよこの力は!」


「これが魔族の本気だ!」


 何故かヒト族であり、しかも召喚者のイッシーがドヤ顔で山下に言う。

 石の仮面をしていて顔は見えないが、山下はそれでもウザいと感じていた。



「お前の力じゃねーだろ!」


「・・・仲間の力は俺の力!」


「何処のタケシだ!しかし、こうも凄いとは・・・」


 山下は予想以上の破壊力に、冷や汗が止まらない。

 本当にこのまま敵対するべきなのか。

 山下はセードルフに全てを擦りつけて、逃げる事も頭に入れ始めた。





「お、おい!今の攻撃は何だ!?」


「分かりません!」


「馬鹿もん!分からないなら調べろ!」


 セードルフは声を荒げていた。

 さっき見た攻撃の恐怖を、誤魔化す為だ。

 もし同じ威力の攻撃で、自分の居るこの場所を狙われたら。

 座っているのでバレていないが、膝の震えが止まらなかった。



「報告です。先程の攻撃に関しては調査中ですが、この場に更に敵の増援が来るそうです」


「増援?どれくらいだ?」


「おそらくは二十人前後かと」


「たったそれだけなら問題無いな」


 今の報告でようやく膝の震えが止まるセードルフ。

 だが、次の言葉で今度は汗が吹き出してくる。



「騎馬隊の中にフランジシュタット領主、アデルモの姿もあります」


「何だと!?何故、外からやって来るのだ!?」


「街を抜け出した時、最後尾に居たと思われます」


 セードルフは少し考えた後、部下に相談した。

 しかし、あまりに現実的でない相談だった。



「アデルモを捕らえれば、先程の攻撃を仕掛けた者も止まると思うか?」


「そ、それは答えかねます」


「ではこうしよう。アデルモを殺せば、ここに居る連中は逃げると思うか?」


「セードルフ様、そもそもアデルモを倒す事は可能なのですか?」


「どういう意味だ?」


 不機嫌になるセードルフ。

 部下の一人が言葉を選びながら、セードルフに説明していく。



「まず、アデルモはフランジシュタット領主であると同時に、あの有名なシュバルツリッターの総隊長です。彼に匹敵する戦士は、うちには居りません」


「数で圧せば良いではないか」


「先程の攻撃で、四割の戦力が消失。他の部隊の抵抗を鑑みると、ここの守備が少なくなりますが。それでもよろしいでしょうか?」


「う、む。それはマズイな」


 さっきの攻撃が、頭の中でチラついて離れない。

 守備を減らすどころか増やしたいとも思っている時に、それは無理だった。

 しかし、そこに他の部下からある提案がされる。



「シュバルツリッターの総隊長ならば、その副長を彼にぶつけるというのはどうでしょう?」


「そうだ、ルードリヒだ!奴の強さはどうなのだ?」


「アデルモの強さが分からないのでハッキリ申せませんが、副長ならば匹敵するのではないでしょうか。奴とルードリヒが互角の戦いをしてくれれば、その隙を突いて奴を狙撃してもよろしいかと」


「良い!それ良い!そうしよう」


「では、早速ルードリヒを呼び戻します」


 提案した男がしたり顔で、ルードリヒを呼びに行った。



「これで倒せれば、向こうの戦力も落ちるだろう」





 最後尾を走っていたトラックは、どんどんと前のトラックを抜いて行った。

 何故か赤いランプを回しながら走るトラック。

 皆、その光に気付いて振り返っていた。



「指示があるまで待機。指示があるまで待機です」


 いつ作ったのか分からないスピーカーから、半兵衛の大きな声が辺りを響かせた。



「ところで、何故こんなに急いでるんだ?」


「おそらくですが、敵の軍が動いたと思われます」


「それは、太田達が危ないって事?」


「太田殿というよりは、ヒト族の方々ですね。もし王都軍が動いたとなれば、その物量で押し潰されるかと」


「それは困りますね。魔王様、どうか私を先に行かせて下さい」


 アデルモが先行したいと言ってきた。

 うーん、狙われているであろう男を、敵のど真ん中に送り込むってどうなんだ?



「魔王様、一緒に行かれては?」


「え?」


 半兵衛の思わぬ提案に、ちょっと間の抜けた返事をしてしまった。

 秀吉はその声に笑いを堪えている。

 コイツ、どうにも僕の事を少し馬鹿にしている感があるな。



「トラックには秀吉様やノームの方々もおります。何とか自衛は出来ると思うので、安心して下さい」


 そういう心配をしていたわけじゃないのだが。



【俺は今の意見に賛成だな】


 そうなの?


【向こうにはラコーンやイッシー達も居る。彼等が弱いとは言わないけど、本来の隊員の人数じゃないからな。如何に強い部下を連れていても、王都軍の数は脅威だと思うぞ?】


 なるほどね。

 一理あるわ。



「分かった。アデルモ、僕と一緒に行こう」


「よろしくお願いします!」





 トライクに乗り換えた僕は、アデルモと並走しながら走っている。

 アデルモの馬は結構速い。

 他の黒騎士達も追従したご、途中で置いてきてしまった。



「見えました!」


「うわぁ、マジで敵だらけだな」


 予想以上の敵の数に、うんざりしてきた。

 これは面倒だ。



「おそらくですが、王都軍の大半を送り込んできたと思われます」


「いや、全軍じゃないか?あの辺り、焼けて空き地になってる。多分太田と慶次が敵ごと燃やしたんだと思うよ?」


「敵ごと、ですか?」


 半信半疑のアデルモだが、クリスタル内蔵の武器の凄さを知らない彼には分からないだろう。

 それよりもアデルモは、何かを見つけたらしい。

 そこへ突撃を掛けていく。





「ルードリヒ!貴様、住民を危険に晒すとは何事か!?その腐った性根、叩き直してくれる!」

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