アデルモ奮迅
どうやら見つかったらしい。
中団辺りの連中が狙撃されたという話だ。
しかし念の為と言って助手席に乗せた魔族には、全員に運転席と助手席の守りを任せていた。
走っているトラックの運転手を狙ってくるとは、思いもしなかったな。
先頭を守備していたラコーン達一行は、クラクションの音で異変に気付いたらしい。
イッシーと慶次が様子を見に中団へ向かった頃、いよいよ敵との戦闘が始まった。
元一番隊は強かった。
荷台に乗っていた護衛の黒騎士が、続々とやられていく。
タイヤやホイールを狙ってきたという話を聞いたが、間一髪で逃げる事に成功した。
前方からイッシー達が向かっていると予想した僕達は、後方からは少ない戦力だけで良いと判断。
その結果、太田が単独で戦闘が行われているであろう場所へと向かった。
太田がしばらくして、後方にも異変が起きる。
どうやら街に、誰も居ない事がバレたようだ。
王都軍の騎馬隊が目視出来る距離まで近付いている。
半兵衛の策で、ここで走りながら騎馬隊を倒せば、後ろは大きく引き離せると言う。
久しぶりに僕の魔法の出番だ!
アデルモの微妙な腕前の弓に対して、彼の部下達はそこそこ優秀だ。
弓も銃も、騎乗したままでも当てている。
「アデルモより凄いじゃん!」
その言葉に大人気なくムッとするアデルモ。
どうやら気に障ったらしい。
「ま、魔王様。総隊長は剣が得意なのです。それでも弓や銃は人並みの腕前。騎乗したまま振り返り狙うというのは、訓練した兵でも限られた人のみが出来る技です」
「そうなんだ。じゃあ僕の勘違いだった。ごめんね」
「ぶ、部下に華を持たせているのですよ」
銃を構えながら、アデルモのフォローに必死な黒騎士。
別にそこまで酷いとは言っていないのだが。
フォローがお気に召さなかったのか、それとも僕の謝り方が悪かったのか。
声が裏返っていた。
ここは僕もフォローしとかないと。
「剣が得意って聞いたけど、アデルモの剣って他の人とは違うよね」
「お気付きになりましたか!?」
「お、おう・・・」
「流石は魔王様!総隊長の剣に気付くなんて、お目が高い!」
ヤバイ、笑いそうだ。
僕がフォローしようとすると、矢を放ちながらそれに乗っかってくる人達。
気付くも何も、当たり前だろう。
だって他の人は腰に剣を差してるけど、アデルモだけは背中に二本も背負っているし。
「それはロングソード?」
「総隊長の剣は特注です。ロングソードの中でも更に長く、扱えるのはあの方のみです」
おっと?
少しだけアデルモの顔が緩んできたぞ。
部下達の煽てに、気持ち良くなってきたっぽい。
「確かに長いよね。でも、両手で使えば何とかなる?」
待ってましたと言わんばかりの弓使い。
しかし彼が話し始める前に、調子乗りの総隊長が動いた。
「面倒なので、私が、私が!倒してきますね」
速度を落としたと思ったら、そのまま反転。
騎馬隊に単騎で突っ込むアデルモ。
「馬鹿!お前一人で行ったら危ないだろ!」
「ハァ、やっぱりこうなった・・・」
僕達の横で溜息を吐く部下達。
「アデルモ様、多分相当ストレス溜まってますね」
「だよなぁ。ずっと街に篭って身動き取れなかったし」
「まさか反転するとは思わなかったが、やるしかない」
「総隊長を守るぞ!」
部下達の中では、分かっていた事なのか?
ひとしきり愚痴を言った後、彼等はアデルモのフォローをし始めた。
しかしそれよりも、アデルモの活躍には荷台に乗った魔族三人が、揃って口を開けて驚いてしまう。
「あ、アイツ強くね?」
「ヒト族であんなに強い方、召喚者と呼ばれる人達以外で初めて見ました」
「シュバルツリッター、帝国が誇る番人というのは噂以上ですね」
半兵衛も秀吉も、まさかの強さに魅入っている。
「もっと来い!もっと来いよ!」
もはや足を止めて、王都軍の騎馬隊の真ん中で一人暴れるアデルモ。
彼の強さに驚きなのは、まずはその腕力だ。
両手で持つのが普通のロングソードを片手で持ち、しかも二刀流として扱っている。
遠心力に振り回されてもおかしくないのに、右手を振り回した後に背中の方から左手がその勢いで出てくる。
何故か馬も上手くその遠心力に合わせて回るし、よく分からない戦い方をしている。
「なんか気持ち悪いな」
「それ、褒めてませんよね?」
「というより、私達が魔法を使うまでも無いような気がするのですが」
秀吉に言われて気付いた。
あの変態な動きを見ていたせいで、僕も秀吉も全く魔法使ってない!
「魔法はまだ温存しておいて下さい。我々が総隊長の援護をしますから」
「我々でも苦戦するような強敵が出てきた時に備えて、魔力は残しておいてもらえると助かります」
「あら、そう?なんか悪いわね」
何故かおばちゃん口調で返事をしてしまった。
しかし普段から慣れているのか、本当に援護が上手い。
アデルモの死角から狙ってくる連中にだけ、銃弾や矢が当たる。
アデルモ達だけで、おそらく数十人。
いや、百人近くは倒してるんじゃないか?
「総隊長!そろそろ戻って下さい!」
「ふむ、そろそろ頃合いか」
後ろを見ると、倒した敵と追手の距離がだいぶ離れている。
アデルモ達に葬られた死体が、ある程度の障害物になりそうなくらい転がっている。
今なら、丁度良い感じに逃げられそうだ。
「上手くすれば、追手を振り切れる。アデルモ早くしろ!」
「慶次殿、何か見えるか?」
「トラックの列が見えるが、途中で切れているでござる」
「切れている?後続が居ないのか?」
「おそらく、その後ろから攻撃を受けたのでござろう。最後尾のトラックに聞くでござる」
すれ違うトラックは、結構スピードを出していた。
やはり何かから逃げているっぽい。
慶次はそう悟り、イッシーにトラックの運転手に話を聞くように勧めた。
「止まってくれ!」
手を振りながら大声で呼ぶイッシー。
それに応えて、少し速度を落とした最後尾のトラックは、窓から顔を出した運転手が早口で捲し立てる。
「援軍か!?シュバルツリッターが残って戦っているが、伏兵に襲われた!数でも戦力でも負けているんだ。俺達は逃げるように言われて、そのまま走ってきた。早く助けてやってくれ!頼む!」
言い終えるとスピードを上げるトラック。
どうやら、敵が居るらしい。
「イッシー殿。拙者、先に行かせてもらうでござる」
「真イッシーな。了解した。このまま馬の速さに合わせていると、全滅するかもしれない。すぐに後を追う。頼んだ!」
「承知!」
アクセルをフルスロットルで回すと、前輪が軽く浮いた。
慶次は戦場に向かいながら、何かを思い出していた。
そういえば太田に、トライクで戦闘をする際に何か教わった
ような?
何だったかな?
「あ、思い出した。ヒャッハー!水だ!水を寄越せぇ!・・・何で水を要求するんでござろう?」
「しつこいな!いい加減死ねよ!」
残った黒騎士達に対して向けられた山下の言葉だが、それは逆効果だったようだ。
満身創痍ながらも、まだ誰も死んでいない。
「我々は命尽きるまで、自分達の任務を全うする!」
死ねと言われると、反骨精神も相まって逆にやる気が出てくる黒騎士達。
そんな彼等の運命も、そろそろ尽きようとしていた。
「加減したつもりは無かったが、やはり心の何処かで甘い気持ちがあったのかもしれない。言葉通り命尽きるまで止まらぬなら、その命頂く!」
ルードリヒの剣が、肩で息をしている黒騎士に襲い掛かる。
盾でルードリヒの剣を防ごうとする黒騎士。
ルードリヒはそれを見越して、盾の上を滑らせるように剣を流した。
そして盾を持つ腕ではなく、剣を持っている腕に向かって、その剣を斬り上げる。
「うわあぁぁ!!」
膝から先を斬り落とされた黒騎士は、膝をついて蹲った。
一人欠ければ、その分周りの負担が大きくなる。
自分達も同じ運命を辿るのだと、他の連中も覚悟を決めていた。
「まずは一人」
蹲る男に対して、剣を突き刺そうと刃を下に向けるルードリヒ。
勢いよくその切っ先を頭に落とそうとした。
「ヒャッハー!水だ!水を寄越せぇ!」
「何だ!」
「なっ!?今度はバイクかよ!?」
全速で、山下とルードリヒの間を駆け抜ける慶次。
ルードリヒは得体の知れない魔物が来たと警戒して、トドメを刺す前に距離を取った。
「ギリギリ間に合ったみたいでござるな」
「魔族!という事は、援軍ですか!?」
「どっちも黒い鎧を着ているが、どっちが魔王様の味方でござるかな?」
「我々はフランジシュタット所属のシュバルツリッター隊。相手はその裏切り者です!」
「なるほど。向こうが敵でござるな。今はまだ拙者一人でござるが、少数の騎馬隊も向かっているでござる。もう少しの辛抱なのでござる」
慶次の言葉に、再び活力を見出す黒騎士達。
慶次はトライクから降りて、黒騎士達の数歩前に立った。
「聞け!裏切り者よ!この前田慶次利益、縁あって彼等の助太刀を致す。死にたければ、掛かってこい!」
いつものござる口調ではない慶次だが、それに気付く者は誰も居ない。
そして慶次の挑発に乗って、ルードリヒの部下達が扇状に慶次を囲んだ。
「訳の分からない事を言いやがって!死ね!」
左右から矢が射られ、それを躱す慶次に槍が突かれる。
槍を掴んだ慶次はそれを引っ張ると、槍使いの男がバランスを崩した。
その顔面へと、片手で持っていた槍を突く慶次。
「!?」
言葉を発する前に顔面を槍が貫き、一撃で絶命させる。
「こ、コイツ、強いぞ!」
相手の力量が初めて分かったルードリヒ隊は、距離を保ちつつ慶次に弓や銃、投石で攻撃を始めた。
「そうだ。それで良い。強者でもスタミナが切れる時は来る!まずは弱体化させる事を考えるんだ!」
ルードリヒの指示に従い、遠くからの攻撃に専念する部下達。
だが、予想外の攻撃には対応出来なかった。
持っていた槍をその場で手放し、腰に手を当てる慶次。
奇妙な動きをする慶次に警戒心を強めたが、手は緩めていない。
そして慶次の手が腰から離れると、一人の男が心臓を貫かれた。
「何だ!魔法か!?」
「手が伸びたぞ!」
「違う!アレも槍だ!」
予想外の攻撃に、攻撃の手から守備を重点的に考え始めると、慶次の槍が他の人にもどんどん襲い掛かった。
「強い!」
「や、山下殿!魔物で援護出来ないか!?山下殿?」
ルードリヒが慌てて山下を見るが、何かを考えている山下。
ブツブツと言葉を口にするが、戦場でその声は誰にも聞こえていない。
「ええい!他の者達も奴に攻撃しろ!」
ルードリヒがとうとう元一番隊にも指示を出すと、彼等は慶次の攻撃を見事に捌いた。
「なかなか手強そうなのが、複数来たでござるな。少し荷が重いか?」
一人で複数戦う事には問題は無い。
慶次が心配しているのは、背後に居る怪我人達だった。
満身創痍で疲労が溜まっている連中だけなら未だしも、片腕を斬り飛ばされた男は、立つ気力も無い。
今慶次が攻撃に重点を置くと、彼等の事が疎かになってしまう。
だからこそ、慶次はこの場から動かなかった。
「分かったぞ。コイツは後ろの連中を守る為に、自分から前に出る事は出来ない」
「強いのに攻めてこないのは、そういう事か。だったら!」
一人の男が弓で黒騎士達に攻撃を仕掛けた。
すぐにその矢の軌道上に、槍を伸ばす慶次。
「卑怯なり!元仲間ではないのか!?」
「元仲間だからこそ、その苦痛を楽にしてやろうと考えているんだがな」
「この外道が!」
攻撃を弾く為に、少しずつ下がる慶次。
「山下殿!今なら攻勢に出れるはず!山下殿?山下殿!」
山下は思った事を口にして、自分の考えをまとめていた。
「男は魔王と言った。魔族側にも魔王が居るのは聞いていた。そして魔王配下の男がバイクに乗って登場。その魔王が来てから、バイクだけじゃなくトラックが作られた。という事はだ・・・魔王が転生者か!」