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挟撃

 どうにか全員、街から脱出する事に成功した。

 凄く綺麗に整備された地下通路に驚きつつ、追手を警戒していた。

 だがその気配は無い。


 相手が何を考えているか分からないが、この様子なら外に出るまでは問題無いと思う。

 どうせ煙が上がったのを見て、アデルモにザマァとか思ってるんだろうな。

 反撃が無い事が分かれば、街に誰も居ない事に気付く。

 それとも、消火に追われてるとでも思うのかな?


 既に街から脱出して、外に出た連中はどうだろうか。

 今頃は丁寧に運転して進んでるはず。

 トラックはこの世界の人が見ても、大きい魔物にしか見えないらしい。

 スピードは出ないけど、逆に恐れて寄ってこないかもしれない。


 この時、前のトラックが見えない事から、僕は順調だとずっと思っていた。

 まさか二手に分かれて、トラックで脱出したのを見られていたとは。

 しかもアデルモさんが外に居る事から、街には誰も残っていない事までバレてしまっていたようだ。

 とは言ったものの、相手には魔法が無い。

 まだ何もされていないが、この後はどうなるのか。

 ちょっと心配だな。





「街には誰も残ってない?」


「多分だけどね。あの黒騎士の中でも少し目立つ格好をした人が、領主のアデルモって人でしょ?黒騎士の総隊長まで務めてる人が、街の住民を守らずに外に出るなんて事、あり得ないと思う」


「うむ。そう言われると、山下殿に賛成だ。では、この後はどうする?」



 それなんだよなぁ。

 俺達の戦力では、必ず勝てるとは言い切れないし。

 癪だけどセードルフにも連絡するしかない。

 足手まといになる可能性もあるけど、ここでトラックが走り去るのを見送るよりかはマシだ。



「ルードリヒさん、覚悟を決めよう」


「攻撃に出るのか?」


「派手にやって、セードルフにもここで俺達が戦っている事を知らせる。上手くやれば、挟撃出来るはずだ」


「私達だけでは勝てないか。致し方あるまい。では、我々も火を使うか?」



 山下の考えなら、火矢でトラックが爆発してくれれば御の字。

 ただ、あのトラックの装甲を矢で貫けるか?



「ルードリヒさん、銃もあるよね?運転手を銃で狙った方が良いかもしれない」


「一人だけ扱える者が居る」


 ルードリヒから言われ、ライフルを持った男が姿勢を低くした。



「先頭集団よりも真ん中辺りを狙おう。列を分断させて半分が見捨ててくれた方が、僕達だけでも戦える。残り半分は、向こうに任せても良いしね」


「分かった。狙うのは荷台?」


「運転席、って言っても分からないか。あの辺りにこれを操ってる奴が居る。ソイツを倒せば、コントロールを失って事故を起こすはずだ」


 山下の指示通り、黒騎士の一人が銃で運転席に狙いを定める。


 同じ場所を通るトラックを見て、数台が過ぎるのを待つ。

 そして同じ場所にトラックが来た時、銃声が鳴り響く。



「上手い!」


 真っ直ぐに運転席へ向かって飛んでいく。

 運転手の顔辺りに直撃すると思われたその時!



「逸れただと!?」


「急におかしな軌道になったな。おそらく魔法で守られているっぽい」


 狙撃手は外したにも関わらず、冷静に分析している。

 その後、運転手が慌ててブレーキを踏んだ。

 止まったトラックから大音量のクラクションが鳴らされる。



 プアァーン!!





 後ろからクラクションを聞いた先頭集団は、少しスピードを上げた。



「今の音は何でござるか?」


 慶次には音が大きかったらしい。

 少し目眩を起こしたような顔で、ラコーンに尋ねた。



「詳しくは分からない。ただ、異常事態な事に変わりはない」


「待て待て。今のはトラックのクラクションだ」


「イッシー殿は知っているのか?」


「真イッシーな」


 間違えるなよと釘を刺したものの、実は内心ヒヤヒヤだった。



 彼の正体は斎田という召喚者なので、トラックもクラクションも当然知っている。

 だが、仮面を着けて素性を隠している手前、慶次やラコーンにこの世界には無い乗り物の事を何故知っているかと聞かれたら、言葉に詰まるしか無かった。


 自分が余計な事を言ってしまったと、口にしてから気付いたが、ラコーンのおかげで話をすり替える事に成功した。



「とにかく、後ろで何かあったらしいな。ラコーン殿の隊は、このまま先頭の護衛に。俺の部隊で後ろを見てこよう」


「拙者も行くのでござる!」


「いやいや、慶次殿まで行ったら危ないでしょ。もし後ろを襲ったのが陽動だったら?ラコーン隊だけで対応出来るか?」


 真イッシーの言っている事は間違っていない。

 だが、逆に後ろを襲っている連中が、敵の本命という考えもあった。



「どちらにしろ、後ろが危険なのでござる。先頭が危険に陥ったら、ラコーン殿がすぐに知らせてくれるでござるよ」


 ラコーンも慶次の意見に賛成らしい。



「慶次殿、俺達の分も暴れてきてくれ」


「任せるでござる!」



 トライクに乗った慶次と、真イッシー騎馬隊はクラクションが鳴った辺りを目指して走り始める。

 それを見たラコーンは、自分の役目を果たすべく、先頭集団の護衛をしながら長浜を目指すのだった。





「今のクラクションで、完全に俺達の事がバレちまった!」


「やるしかない。行くぞ!」


 槍とハンマーを持った黒い鎧を着た男達が、トラック目掛けて走っていく。

 その周りを何種類もの魔物が並走していた。



「敵襲!敵襲!」


 プアァーン!という音が数度鳴ると、荷台から何人かが顔を出した。

 弓や銃、そして投石で対応している。



「裏切り者の黒騎士達だ!」


 荷台から裏切り者呼ばわりされた槍使いは、荷台の銃を構える男に向かって突く。



「マズイ!やられた」


「走った方が安全だ!前の集団を追ってくれ!」


 最初に狙撃を受けたトラックが止まった事で、後ろのトラックも全て止まっている。

 森の中をトラックが渋滞を起こしていた。



 止まったトラックの荷台から攻撃するにしても、高さが街の壁や城門とは違う。

 簡単に槍や弓、銃弾が届く為、荷台から顔を出している護衛の黒騎士達は徐々に被害が広がっていった。



「やはり腐っても一番隊。強い!」


 腕を槍で貫かれた男が、悔しさを滲ませながら口に出す。



「ハンマー!タイヤを狙え!」


 山下の指示が元黒騎士達の耳に入る。

 だが、彼等はタイヤを狙わなかった。



「おい!タイヤだ!」


「山下殿、タイヤとは何だ?」


「そこからかよ!」



 この世界、まだ馬や馬車が主である。

 ゴム製のタイヤは存在していなかった。



「チッ!車輪だ、車輪をぶっ叩け!車輪の外側の黒い部分を槍で刺せば、空気が漏れる。走行出来なくなるぞ!」


「絶対にやらせるな!」


 荷台から降りた黒騎士達は、タイヤを死守し始める。

 指示出しの段階で二の足を踏んだルードリヒ隊は、あと一歩のところで間に合わなかった。



「クソッ!もう少し早ければ」


「山下殿、魔物に狙わせては?」


「駄目だ。魔物の体当たりや牙で破壊出来るとは思うが、狙っている隙を突かれる」


 山下とルードリヒが話している間に、トラックは動き出す。



「俺達がここを守る。今のうちに先に行け!」





 クラクションの音が前方から聞こえた。

 何かあったに違いない。



「まさか、この辺りを偵察している連中が居たとは」


「私の判断が誤っていたようです。申し訳ありません」


 半兵衛が自分のミスだと頭を下げる。

 だが僕は、半兵衛の考えに全面的に賛成だったので、これは僕のミスでもある。

 気にしてはいない。


 それに秀吉も、これは想定外だと言っている。

 頭の良い二人が言うんだ。

 やはりこれは向こうが上手だったってだけだ。



「魔王様、我々も前に行った方が良いですか?」


 アデルモは馬で、何か起きている場所に駆けつけたいと言った。



「まずは様子見だよ。黒騎士達が居なくなったらマズイ。後方から襲われたら、数の差でどうしても被害が出るよ」


「そうですか」


 やはり予定外の事態に、心配で仕方ないといった感じだ。

 だけどここで慌ててしまうと、他の事態に対応出来なくなる。

 もう少し、余裕を持って行動しないと駄目だ。



「どうやら前が止まったようです。本格的に何かありましたね」


「誰かが木にでも正面衝突して事故ったか?」


「もしくは敵襲でしょう」


 敵襲だと言う秀吉の言葉に、僕も半兵衛もその可能性が一番高いと頷いた。



 アレだけ運転の練習をしたのに、今更木にぶつかったりするとは思えない。

 やはり襲われていると考えるのが妥当だろう。



「ワタクシが行きましょうか?」


「太田殿が一番無難でしょう。半兵衛殿の護衛は、私と魔王様でも出来ますからね」


「そうだな。それに先頭の方からも、誰かしらが来ているはず。多分、こっちからは太田一人でも大丈夫じゃないかな」


「では、ワタクシが行ってまいります」


 ヒャッハー仕様のトライクが、久しぶりに活躍する時が来た。



「太田よ。元黒騎士の連中に言ってやれ」


「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!」





 流石は太田。

 僕が何を言って欲しかったか分かっている。

 満足気な僕に、秀吉は少し苦笑いをしていた。



「前の襲っている連中さえどうにかなれば、大丈夫だと思います」


「そうか。召喚者が居たとしても、太田が居れば大丈夫だろうし。慶次も先頭集団には居るからな」


 なんだかんだで上手く行っていると思う。

 少し安心した僕だったが、事態はそう甘くはなかったらしい。



「何か聞こえますね」


「僕には聞こえないけど」


「いえ、私も聞こえます」


 半兵衛と秀吉、ネズミ族の二人には聞こえるらしい。

 やはり身体能力は少し低くても、そこは獣人。

 ヒト族や僕よりは耳が良い。



「いや、これは何かありますね」


「アデルモも聞こえるの?」


「ちょっと待って下さい」


 下馬したアデルモは、地面に耳を当てる。

 近くに馬やトラックが居るのに、そんなんで分かるのか?



「何か来ます!」


「後ろから来るって事は、街の方角か!」


「どうやら門を破られて、追手を差し向けられたようですね」



 そんな事を話している間に、前のトラックが動き始めた。

 前方の敵は片付いたのかな?



「どうする?ここで待ち構えて、迎え打つか?」


「まだ少し遠いです。あの音は、向こうも全速力で来ていると思われます。もっと走らせれば、敵は間延びして各個撃破出来るかもしれません」


 アデルモの作戦を半兵衛も支持した。



「このまま走って、極力逃げるとしますか!」





 と思ったのも束の間。

 やはり全速力の馬は速かった。

 見事に敵騎馬隊が追いついたのだ。



「このまま走りながら戦闘?」


「ハイ、幸い向こうは武器が近接戦のみ。弓や銃持ちは居ません」


「なるほど。追いながら攻撃を仕掛けるのは無理か」


「こちらは逆に、魔法が使える方が二人も居ますので」



 荷台から一方的に、僕と秀吉の魔法で攻撃しろって事ね。

 しかも向こうは走りながら前方に攻撃か。弓も余程強く引かないと無理だろうし、銃は馬の揺れで無理だな。

 ま、どっちも持ってる人居ないけど。



「我々も手助けしますよ」


 アデルモは弓を構えて後ろを向き、すぐに放った。



「おぉ、当たった」


「そんな驚かなくても・・・。そこまで上手くはないですが、それでも数撃てば当たります。それに敵が多いので、適当に撃っても当たりそうです」


 アデルモの矢は真っ直ぐに飛んでいないのに、たまたま馬の首に刺さった。

 バランスを崩したものの、絶命するまでに至っていない。

 あの馬、凄いぞ。

 刺さったまま追いかけてくる。





「ここで連中を倒せば、前方の敵に集中出来ます。そうなれば、長浜への道も開けるはずです。頑張って下さい!」

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