表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/1299

燃えるフランジシュタット

 僕にもやはり異変があった。

 太田に欠片を渡して、抜け道を塞がないとって考えていた。

 しかし身体に戻った途端に、意識が遠のいたのだ。

 兄に起こされて、以前言っていた事はこれだとハッキリ分かった。

 原因不明なのが、とても恐ろしく感じた。


 抜け道を使って侵入を試みた連中は、秀吉の手で帰っていったらしい。

 おそらくは罠を使った事で、僕等の存在がバレた事は確かだ。

 だから秀吉達には、早く地下通路を完成させる事を優先させた。


 しかし相手もゴタついていたっぽいね。

 本来なら大軍で押し潰せば勝ちなのに、それをしてこない。

 内部分裂でもしてるのかなとは予想していたが、まさかそのまま二手に分かれてるとは思いもしなかった。


 秀吉とノーム達の頑張りにより、地下通路は予想より早く完成した。

 向こうの順調な作業に負けじと、トラックの運転教習もほぼ同時に、全員が卒業検定クリアとなったらしい。

 善は急げ。

 敵が行動する前に、翌日の正午にいよいよ街の脱出作戦を敢行する事にしたのだった。





 朝からフランジシュタットの街は騒がしい。

 それもそのはず。

 いよいよこの街から王都軍の包囲網を潜り抜けて、脱出するのだ。

 前日に、最低限の荷物はトラックに積み込んである。

 荷台に書いてある番号さえ覚えていれば、自分の乗るトラックが分かる仕組みだ。



「各車、全員が乗り込んだら報告して。すぐに出発するよ」


「私達はどうしましょう?」


 鎧に身を包み、騎乗した姿で現れたアデルモ。

 領主というよりは、シュバルツリッターの総隊長と言った方が似合う姿だった。



「黒騎士は最後まで残った方が良いんじゃない?トラックに馬が驚いて、暴れる可能性もあるし」


「確かに馬を刺激する乗り物ですな」


「外にはラコーン達が居るし、太田や蘭丸達も運転手として同行する。外に出て危険があるとしても、馬に乗っている黒騎士の方が後から駆けつけやすいしね」


 地下通路は、トラックがすれ違える程の幅は無い。

 外で襲撃を受けても、トラックが渋滞していたら太田達は待つしかない。

 その点、馬ならトラックの隙間を縫って走る事が出来る。

 緊急事態の事を考えるなら、彼等は最後まで残ってもらうべきだと僕は思っている。



「全車揃いました!」


「一号車から番号順に出発してくれ」


 ゆっくりとトンネルの中に入っていくトラック。



 普通のトラックなら、トンネル内は排気ガスで苦しいかもしれないが、そこは魔法のトラック。

 電動車を使用しているので、音も静かで空気も悪くない。



「順調ですね」


「秀吉が手伝ってくれたからだよ。本当に助かった。ありがとう」


 いつの間にか隣に立っていた秀吉に、感謝の言葉を述べる。


 ちなみに秀吉は、運転手から除外されている。

 当然だが、地下通路を作る事に専念していたので、運転の練習などしていないからだ。

 同じ理由で、ノーム達も荷台組になる。

 彼等は最終車両に乗る予定だ。


 本当は乗車して待っていないと駄目だけど、時間があるから僕の所に来たのだろう。



「秀吉は外に出たらどうするんだ?」


「深くは考えてませんが、まずは一緒に安土へ向かおうかと考えております。その後は各地を転々として、長浜の利益に繋がる何かを見つけますよ」


「すぐに見つかりそうだね」


「そうだと良いんですが」



 二人で他愛もない話をしていると、残りのトラック台数が半分になっていた。

 そんな時、トラックの順次出発を指揮している半兵衛が、こっちに向かって叫んでくる。



「危ない!」


 上を指差しながら叫んだその声に、僕は空を見た。

 頭上には赤く燃える火があった。


 咄嗟に風魔法を使って全て押し流すと、それが火矢だと初めて気付く。



「このタイミングかよ!」


「敵も同じ時期を狙っていたみたいですな」


「トラックに戻った方が良いんじゃないか?」


「いえ、この場で防ぎましょう」


 逆に壁の方に近付く秀吉。

 対応に追われていた黒騎士の横に来ると、外の様子を伺う。



「敵が攻撃をしてきているのは、こちらだけですか?」


「見た感じ、全方向からです!」


 振り返ると、全ての方向から火矢が飛んできていた。

 こちらの黒騎士達も弓矢を放っているが、ほとんど付け焼き刃だ。



「半兵衛!」


「・・・ましょう!」


 半兵衛に指示を仰ぐと、街の内外が騒がしくなったせいで声が聞こえない。

 何かをしようと言っているのだが、分からなかった。



「もう一回!」


「・・・捨てましょう」


 捨てましょう?

 何を捨てるんだ?



「半分見捨てましょうって言ってますね」


「半分見捨てる!?」


 何を見捨てるんだ?

 黒騎士を見捨てるとか言うのか?

 それはマズイだろう。



「私達は大丈夫。どうか作戦をお願いします!」


 火矢の対応に追われる黒騎士達から、半兵衛の所へ向かってくれという声が上がる。



 だが、外を見ると本格的に攻めてきているのは、一目瞭然だった。

 今離れれば、彼等はその物量にやられる可能性は高い。

 現に今は、風魔法で火矢が届かないように逆風を吹かせているのだ。

 逆風になれば、こちらからの矢は速度を増して威力が上がる。

 しかしそれも、人数差が埋まるほどではない。



「私が対応します。行ってきて下さい」


 秀吉が言うなら。

 兄や太田が見たという魔法の凄さなら、風魔法を二つくらい同時に使うのも可能だろう。



「任せた!」





「半分は見捨てましょう」


 半兵衛はすぐにそう言ってきた。


 門がある方を重点的に守り、出入口の無い壁は守らなくても良い。

 もはや人が住まない街だ。

 家が燃えても、それは仕方ない事だと割り切る事にした。



「トラックはどうなってる?」


「慶次殿に持たせた携帯電話からの連絡で、一台が通路から出てきたら一台送り出してます」


「面倒だな。全て出発された方が良くない?」


「地下通路内で追突したら危険です。それは推奨出来ません」


 急ぎ過ぎて事故っても逆効果か。

 確かに半兵衛の言う通りだな。



「半兵衛はこのまま、トラックに出発指示を出し続けてくれ。見捨てる壁は、この二つだな?」


「そうです。街への門だけは死守して下さい。中に入られれば、住民が居ない事がバレます。彼等が物量で探しに掛かれば、いずれ地下通路の場所も見つかってしまいますから」


「少しでも時間を稼ぎたいって事だな。分かった!」



 再び壁の上へと登った僕は、アデルモの場所へと向かう。

 すぐに半兵衛の作戦を伝えると、アデルモ経由で四方を守る黒騎士達に守るべき場所が伝えられた。



「半分見捨てるですか。そう、ですよね。この街から出るのだから」


 近くに居た黒騎士の一人が、矢を放ちながらボソッと呟いた。

 やはり街を出るにしても、名残惜しい気持ちはあるのだろう。

 いつかは戻ってくるかもしれない。

 そんな希望を抱いているのだと思う。



「守りたいという気持ちも、分からんでもない。でも、本当に守らないといけないのは、街じゃなくて人だろう?」


「それはそうですが!」


「ハイ、手を止めない。街を守れないのは、シュバルツリッターに力が無いからだ。王都軍より強いのに、数が足りないし、召喚者より弱い。悔しいなら、その気持ちを忘れずに生き残れ!次の街で、同じ事を繰り返さない為に」


「クッソー!コノヤロコノヤロ!」


 ヤケクソになった黒騎士は、矢の早撃ちをし始めた。

 下には大勢の王都軍が居るので、どこに放っても当たるから構わないけど。


 そんなやり方だと疲れるんじゃないか?

 注意しようかとも思ったが、少し涙を浮かべている彼の目を見て、やめておいた。

 悔しくて仕方ないのに、余計な事を言うべきじゃない。



「トラックが全て出たら、僕達も撃つのをやめて出るから。アデルモの指示に従ってくれ。タイミングを見誤るなよ」





「ハッハッハ!街から火が上がったな」


 セードルフの高笑いが、部下達を調子に乗らせている。

 セードルフの腰巾着達は、何を言ってもその通りですとしか言わなかった。



「帝国に逆らうとどうなるか、思い知るが良い」


 煙が上がっているのを見て、優越感に浸るセードルフ。

 だが彼は、街の中の様子を一切分かっていなかった。





 一方その頃、ルードリヒと山下は、森の中を歩いていた。



「ルードリヒさん、何故森の中に入ったんだ?」


「あの抜け道が使えない事は、向こうも分かっているんだ。だとしたら、違う抜け道を使うはず。それは、シュバルツリッター副長の私も知らない道だ」


「そんな道あるの?」


「無いかもしれない。というよりは、無かったのかもしれない」


 ルードリヒが懸念していた事。

 それはこの短期間で、新しい抜け道を作ったのではという考えだった。

 そして、その考えは間違っていなかった。

 一つ間違いがあるとしたら、それはその道の長さだ。

 ルードリヒは短期間で、長距離のトンネルを掘るなど無理だと考えていた。

 そんな理由から探していたのは、比較的街に近い場所だったのだ。



「煙が見える。街に火が放たれたか」


「ルードリヒさんの言う事が本当なら、街から逃げ出してるよね?」


「あくまでも、勘だけどな」


「でもそれが本当なら、大勢の列があるはず。見つけやすいと思うんだけど。全然見つからないなぁ」


「この辺りではないのかもしれない。もう少し西へ寄ってみるか」





「残り二台!前のトラックが行ったら、そろそろ黒騎士にも準備をさせないと」


 半兵衛が前のトラックにGOサインを出した。

 という事はラスト!



「アデルモ!」


「撤退準備に入れ!」


 号令により僕の居る壁の上は、徐々に黒騎士達が壁から降り始めている。

 問題は、正反対を守っている秀吉が居る壁だ。

 誰かが連絡をしないといけないのだが。



「こういう時の諜報魔法ですよ」


「秀吉か!」


 なるほど。

 この距離なら森の囁きでも、魔力消費は少ない。

 このような使い方をするとは、目から鱗だわ。



「会話出来るという事は、話は聞いてたな?」


「既に撤退を始めさせております」


「ありがたい!黒騎士が撤退したら、トラックの前で会おう」




 こちら側の最後の黒騎士が、壁を降りた。

 馬に騎乗して、先に地下通路へと走っていく。



「魔王様、早くお急ぎを」


「アデルモこそ、先に行きなさいよ」


「何をおっしゃる。私はこの街の領主ですよ。最後に街を出るのは、私の役目です」


 そう言って聞かないアデルモだが、お前が残ると何人かの黒騎士も動かなくなるんだよ!

 その辺考えて言ってくれる?



「向こう側の黒騎士は撤退しました」


「秀吉、お疲れさん」


 労いの言葉を掛けると、流石に少し疲れているのか、珍しく汗をかいていた。

 先にトラックに乗せると、荷台の上で大きな溜息を吐いている。



 ちょっと、じゃないか。

 かなりだな。

 秀吉に頼り過ぎていたかもしれない。

 ここからは、僕達が頑張る番だ。



「アデルモ、僕達も行こう。半兵衛、もう出た方が良いよな?」


「そうですね。あまり遅いと、今度は我々が敵軍の中に孤立します。アデルモ様には申し訳ないですが、感傷に浸っている時間は無いです」


「ハッ!その方が助かりますわ!ここを出たら、私はフランジシュタットの領主ではなく、シュバルツリッターの総隊長だけになります。気兼ねなく、奴等を粉砕してやりますわ!」


 とってもやる気勢になったアデルモは、腰に差してある剣の柄を触ると、街をもう一度眺めた。

 既に火矢で燃えている家は、多数ある。

 最初の方に燃えた家は、今では崩れていた。





「すまないフランジシュタット。私が不甲斐無いばかりに、このような事になってしまった。いつかこの地に、再び足を踏み入れられる事を夢見て・・・。さらばだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ