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決裂と別行動

 秀吉の罠は上手く行ったらしい。

 複数の魔物を葬り、それを調べに行ったルードリヒの部下もやられていた。

 そして罠を見抜く事に長けた魔物も、秀吉の罠の餌食となった。

 重傷を負わせる事には成功したが、動けない程では無かったらしい。


 二人は抜け道を使って街に入る事を断念した。

 この先に何があるのか分からない。

 危険は冒せないと判断した二人は、僕達の仕業だと断定して戻る事にしたようだ。

 外に出た一行は、秀吉への復讐を誓っていた。


 逃げられた。

 秀吉は軽口を叩くが、兄と太田には絶賛されていた。

 罠の仕組みが分からない二人は、秀吉にそのやり方を問うた。

 どうやら秀吉は、複数の魔法を同時に使えるらしい。

 二種類の諜報魔法を使い、盗聴と覗き見をしながら、タイミング良くクリスタルの中の魔法を発動させる。

 簡単に言うとこういう事なのだが、やっている事は高等技術だ。

 兄は僕よりも凄いと思ったらしいが、悔しいけどその通りだと自分でも思う。

 魔法使いとしての年季が違う。

 まざまざと思い知らされた話だった。


 秀吉は、途中で引き返した敵を称賛した。

 そして兄も、未開通の地下通路が見つかる事を懸念し始めたのだった。





 秀吉も俺の言葉には賛成らしい。

 敵が抜け道から全員居なくなった事を確認した後、地下通路の作業に戻ると言って、立ち去っていった。


 その後ろ姿を見た俺は、秀吉の有能さに安土で雇いたいと思ったのだが。



「秀吉殿、凄いですね。アレだけの魔法使いにして長浜の領主。加えて半兵衛殿に劣らない頭脳の持ち主ですか」


「パーフェクト人間だな」


 太田に言われて思った。

 安土に来る前に長浜の領主だった。


 というか、パーフェクト過ぎて少し引く。



「キャプテン、魔王様はどう思われているんですかね?」


「あん?そういえば、お前が小さくなってるって事は、人形の中には居ないのか」


 太田の姿を見て、今更気付いた。

 という事は、この身体に戻っているはずだが。

 何の反応も無い。


 オイ、オイ!

 寝てるのか?

 あ、まさか・・・。



(う、うぅ・・・眠い)


 起きたか!



(うん?寝てた?)


 覚えてないのか?

 その症状、俺の時に似てるな。



(ちょっとやらなきゃいけない事を思い出して、太田に欠片を渡して身体に戻ろうとしたんだ。そしたら意識が遠のいていって・・・。今まで寝ていたみたいだね)


 やっぱりそうか。

 何だろう?

 何かがおかしいって事は確かだけど、理由が分からん。


 それよりも、やらなきゃいけない事っていうのは?



(抜け道が見つかる事を考えて、迎え打つ準備をしないとって思ったんだ)


 あ、それか。

 それなら秀吉が、全て上手く片付けてくれたぞ。


(え?そうなの?じゃあ、僕の用件は終わりだ。またトラック教習に戻らないと)



 じゃあそっち行くからさ、ちょっと話に付き合ってくれ。





「秀吉がそんな事をねぇ・・・」


 太田の質問に答えてやってくれと、兄は僕に身体の主導権を渡してきた。

 太田の質問は、秀吉の有能さについてどう思うか。

 という事みたいだな。



「凄いの一言だとワタクシは思いました」


「見てないから僕はハッキリと言えない。でも、確かに魔法の同時使用と、クリスタルの発動まで一人でやるのは凄い」


 僕じゃあ出来ない芸当だな。

 兄は秀吉を、安土で雇いたいって言ってたみたいだけど。



「ちなみに僕は、秀吉を安土で雇うのは反対だね」


「何故です?」


「それだけ優秀なら、一つの都市で使うよりも、色々な所で活躍させた方が良いと思うんだけど。それこそ旅に出るというなら、旅先でその魔法と頭脳を使ってやってほしいな」


「なるほど。一理ありますね」


 それに少しはわだかまりが解けたとはいえ、半兵衛との仲もある。

 あんな凄い頭脳が二人も揃ったら、僕等の立場は無いし。

 半兵衛と違って、小言も多そうだしなぁ。



「まあ、本人も安土で雇われるなんて希望してないよ。そうじゃなければ、半兵衛を長浜に再び戻そうなんてしないからね」


「そうですよね。あの魔法を見て、ワタクシも少し興奮し過ぎたようです」


「ま、来てくれるなら助かるって感じだな。今は地下通路の作業に集中してもらって、僕等はトラック教習を頑張らないと。魔物を連れた連中だけなら、先行部隊だろう。いつ大人数の本隊が現れるか分からない。何事も早め早めに対策するぞ」


 知らない間に意識を失っていたのは痛恨だった。

 秀吉が代わりに対策してくれていなかったら、本当に危なかったと思う。

 だからこそ今は、自分が出来る事をやらないといけない。

 被害を少しでも無くす為にも、頑張らんとね。





「もう戻ったのか?」


 セードルフの嫌味が二人を襲う。

 ルードリヒは顔に出さず、山下は敢えて笑顔を崩さない。



「アレは無理だね。僕等だけで行って、むしろ正解だったと思うよ」


「それは何故だね?」


「准将の部下なら、確実に全滅してたから」


 一瞬だが、真顔で言い放った山下。

 セードルフの後ろに控えていた部下は、馬鹿にされたと怒り心頭である。



「後ろの、誰だっけ?まあいいや。そこのアンタ。俺に対してキレてるけどさ、俺の魔物と戦えるわけ?」


 山下がそう言うと、誰もが黙ってしまった。

 隣の顔色を伺いながら、誰かが言ってくれる事を期待している。

 他人任せな連中だと分かっていた山下は、鼻で笑って見下した。



「とまあ、こんな連中が先行して入っていたら、確実に全滅だったわけさ」


「山下殿の言いたい事は分かった」


 もうそれ以上言うなと、山下の口を制した。

 しかしこの話は終わりではない。

 矛先がルードリヒに変わっただけだった。



「ルードリヒ殿。そちらが抜け道を使って入ろうと進言したのだが。その結果がこれだ。本当は、全滅させる為にやったんじゃないのか?」


 セードルフはオブラートに包む事もせず、ストレートに裏切り者ではないのかと疑ってきた。

 ルードリヒはそれを予想していたと言わんばかりに、作戦失敗の原因を話し始める。



「この度の失敗、申し訳ありません。だがその結果、向こう側には援軍が来た事が発覚しました」


「援軍だと?」


「まず、我々が抜け道の中で受けたのは、魔法です。しかしフランジシュタットの街に、あのような魔法を使う者はおりません」


「大した事のない魔法にビビっただけじゃないのか?」


 セードルフの後ろでボソッと言う腰巾着。

 それにはルードリヒが話す前に、山下が嫌味で返した。



「俺の魔物が攻撃されたんだよね。罠を見抜く力がある魔物がだ。魔物に勝てないアンタ等じゃあ、気付いたら避ける間も無く丸焦げだね。良かったじゃん、気付いたらあの世に行けるよ?」


「山下殿!」


 セードルフが再び止めに入った。

 ルードリヒの説明を遮っていたので、顎で続きを促す。



「どうやら領主の娘であるロゼが、何処からか連れてきた連中が居るそうです。おそらくその中に、凄腕の魔法使いが居たものと思われます」


「なるほど。魔物も気付かせない魔法を使う凄腕か。そう言われると、途中で引き返したお主等は懸命な判断だと言えるな」


 セードルフがそう言うと、後ろの連中は面白くなさそうな顔をしている。



「だが!それが本当ならの話だ」


「我々が偽りを申していると?」


 ルードリヒは内心で、セードルフの勘が鋭い事に驚いていた。

 顔には出していないので、気付かれていないはず。



「そこまで言うなら仕方ない」


「山下殿は疑ってはいないが」


「でも、俺も加担してると思ってるって事だろ?ぶっちゃけ信用されてないのは、お互いに分かってるわけじゃん。だからやり方を変えない?」


「やり方を変えるとは?」


「俺はルードリヒさんと一緒にやる。セードルフさんはセードルフさん達で、勝手にやればいい」


「な、何を言っている!?」


「ちょいちょい、オタク等分かってる?俺と長谷部は、アンタ等と違って命令権は無いんだけど。疑って掛かるアンタ等に、俺達が付き合う道理は無いね」


 とんでもない事を言っている山下。



 これにはルードリヒも冷や汗が止まらない。

 実際には命令権は無いが、協力しなければいけないという話だった。

 これは指揮下に入っていると言っても過言ではない。

 しかし堂々と言い放つ山下に、セードルフはこの事実に気付かなかった。



「山下殿の言い分は分かった。だが、長谷部殿はどうなる?」


「長谷部ねぇ。本人に聞けば?」


「聞けたらとっくに聞いてるわ!」


 怒鳴るセードルフを、軽く往なす。

 山下にも、長谷部がどうするか分からない。



 というより、山下も長谷部とあまり関わりたくなかった。

 下手に機嫌が悪いと、こっちにまで飛び火してくる。

 だから確認よろしくね?

 というのが、山下の本音だ。



「それで、俺の意見についての返事は?」


「むぅ。少し待ってほしい」


 騒がしい後ろにイラつきながら、山下を牽制するセードルフ。

 しかしセードルフが断ったところで、山下が協力しなければ同じ事。

 渋々ながら、セードルフは山下に賛同した。



「何点か決まり事を決めておこう。まず一つ、お互いの邪魔はしない。二つ、強者を見つけたらすぐに連絡する。三つ、手柄は半分ずつ」


「・・・一つ目は分かる。二つ目と三つ目の理由は?」


「例えば、さっき話した凄腕の魔法使いを見つけたとしよう。魔法使いは魔力が尽きれば雑魚だ。しかしその前に、俺の魔物が全滅したら逃げられるかもしれない。それはそっちの兵達も同じ事が言える」


「確実に倒す為だと?」


「流石はセードルフさんだ」


 茶化す山下だが、セードルフはあながち間違っていないと納得した。



「では三つ目は?」


「俺のワガママを通すんだ。例え俺が活躍したとしても、分け前は半々にした方が良いだろう?」


「随分と殊勝な考えだな」


 逆にセードルフ側が活躍する可能性もあるのだが。

 セードルフは騒がしい後ろの連中を見やって、それは無いなと早々に諦めている。



「分かった。それでやろう」


「決断が早いね。そういう人は嫌いじゃないよ」


「煽ては要らん。どうせ協力的でないなら、始めから別行動の方が良いと思っただけだ。アデルモの首をどちらが取っても、手柄は半々だぞ?」


「勿論、凄腕の魔法使いもね。それとお互いの動きが邪魔にならないように、作戦開始の時間だけは決めない?」


「そうだな。それが良い。では、一週間後の正午はどうだ?」


「OK。そうしよう」


 二人はお互いを見やると、手を差し出して握手した。



「それじゃ、一週間後の正午にね」


「うむ。よろしく頼む」





 ノーム達が作っていた地下通路が、とうとう開通した。

 秀吉の作った向こう側を見て、自分達が作った通路とのギャップに驚いていたらしい。



「私の担当した方が短かったのでね。その分こだわって作りました」


 僕も見たけど、一度しか使わないのだから無駄だなと思った。



「マオ、もう全員乗れるぜ」


 蘭丸の言葉通り、トラックのドライバーの準備も万端。

 途中から僕とハクト、そして覚えが早かった住民の一部が協力して、下手な人を重点的に指導したおかげだ。



 余談だが、自信満々に乗れるぜと言った蘭丸は、かなり下手な部類であった。

 途中、諦めてヒト族と同じ荷台組に入れてしまおうか悩んだくらいだ。



「これで脱出する準備は出来ましたね」


「そうだな。半兵衛と秀吉、アデルモは何か気になる点はある?」


「私は特にございません」


「同じく」


「私もです」


 三人とも問題無いと言う。

 僕としては、半兵衛の隣にずっとロゼが居るのが気になっているのだが。

 父親であるアデルモが気にならないと言うので、口が出しづらい。


 ねぇ、いつから?

 いつからそんな関係なのかな?



「チクショウ!羨ましいなんて思ってないんだからね!」


「何がです?」


「何でもない」


 心の声が漏れてしまった。



 それよりも、これで確実に脱出出来る。

 抜け道は使ってこなかったが、新しい地下通路が発見させるのも時間の問題だ。

 早急に作戦を開始しよう。





「よし!明日の正午に脱出を開始する。住民は持ち出す物をトラックに載せる準備を。シュバルツリッターは、半兵衛と秀吉の作戦を頭に叩き込んでくれ。皆、無事にこの街を出るぞ!」

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