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秀吉の魔法

 魔物使い山下はルードリヒを好ましく思っていた。

 私利私欲ではなく、連れてきた住民の為ならば、元仲間であろうと殺す。

 そう言ったルードリヒの覚悟に、山下も最悪の場合はセードルフを暗殺しても良いとまで言ったのだった。


 兄は秀吉の仕事を見に来ていた。

 すると彼は、新しい地下通路ではなく抜け道の方に侵入者が来たと言った。

 人だけでなく、魔物まで来ているという。

 それを聞いた兄は急ぎ街へ戻り、太田を呼び出す。

 迎え撃とうと話をしていると、何故か後ろには秀吉が居たらしい。

 秀吉は抜け道に、いくつか罠を仕掛けたと言っていた。

 使える男秀吉。

 兄の中で秀吉の評価がグングン上がっていた。


 侵入したルードリヒ達は、徐々に街に迫っていた。

 山下が連れている魔物は、罠を見破れるらしい。

 今まで何度も罠を潜り抜けたと、自信を持って話していた。

 リラックスしながら進む二人だったが、後方で異変がある事に気付いた。

 異変を調べに行ったルードリヒの部下は、変死して発見される。

 二人は魔物もやられたのではと、動揺したのだった。





 ルードリヒは矢が刺さっている二人の身体を抱き抱え、嗚咽した。



「山下殿!罠を見破れるんじゃなかったのか!」


「俺だって驚いている!だっておかしいだろ。俺達が通過した時は罠が作動してないんだぞ?」


 言われてみれば確かに。

 皆で通過した時には、罠は動いていない。

 なのに二人が戻った時だけ、この矢が飛んできたという事だ。

 矢には毒が塗ってあると思われる。

 じゃないと、一撃で死んだ理由が分からない。



「あ、マズイ!」


「どうした!?」


「先に進んだ太狼が心配だ!」


 太狼というのは、罠を見破れる狼のような魔物の名前だろう。

 急ぎ追い掛ける山下。

 後ろには多くの魔物が付き従っている。

 ルードリヒも少人数になるのは危険だと、死んだ二人を一瞥してから山下を追う。



「あ、あぁ!」


 目の前で炎の球が魔物を襲った。

 火だるまになる太狼を見て、他の魔物の一匹が氷の息吹を掛けた。

 太狼はダメージを負ったものの、瀕死では無かった。



「よくやった冷二!太狼、大丈夫か?」


 心配する山下の声に、返事をするかのように吠える太狼。

 冷二と呼ばれた馬というよりポニーに近い魔物も、心配そうに太狼に近付く。



「ルードリヒさん、この道には隠れられる場所ってある?」


「隠れる場所?人が隠れられるような場所は無いはずだ」


「それなら魔物や魔族は?」


 ルードリヒは顎に手を当てて考えたが、どうにも思いつかなかった。



「子供よりも小さければ、それも赤子くらいのサイズでないと無理だろう。魔物は知らないが、魔族でそこまで小さな者は居ないと思う」


「そうか。・・・ルードリヒさん、どうする?」


「どうするとは?」


「俺の頭の中で、この道はヤバイから戻れという言葉が、グルグル駆け巡ってる。でも、俺の判断だけで戻る事は出来ない。それにアンタは、部下まで死んじまっている。このまま引き下がれないって気持ちも、あるんじゃないのか?」


 山下が今までに無いくらい真剣な声で、自分の考えを話している。

 しかし頭は冷静なのか、ルードリヒの意見も聞く余裕はあった。



「それは、魔物の力を使っても危険という事か?」


「太狼がやられるくらいだ。こっちの猿八の能力でも危ないと思っている」


「なるほど。だったら皆で引き返そう」


「良いのか?仇は討てないけど」


「仕方ない。それに仇を討つと言っても、誰が仇か分からないではないか」


「それもそうだ。その辺の虫でも仇扱いして、殺しても良いけどね」


 山下は軽口を叩いているように見えて、周囲を警戒している。

 魔物が反応出来ないモノを、自分が反応出来るとは思っていないが、それでも周りを見ながら聞き耳を立てていた。



「一つだけ分かっている事がある」


「何?」


「これはフランジシュタットの人間のやった事ではないという事だ」


「え?それって、第三軍が居るって事?」


 報告に無い情報に、山下は驚いた。

 ルードリヒは意図的に、セードルフ達に魔王達の事を伝えていなかった。


 彼等が魔王であると知れれば、手柄を横取りされると思ったからである。

 だが、もはやそんな事は言っていられない。

 自分の部下は死に、山下自慢の魔物は焼かれた。



「領主アデルモの娘であるロゼが、何処からか援軍を連れてきた。おそらく街の中に入れたのは、この道のおかげだろう。その時に奴等の中の誰かが、何かを仕掛けたんだと思う」


「そういう大事なことは、早く言ってよ!」


「申し訳ない・・・」


 ルードリヒは素直に頭を下げた。

 山下もルードリヒの様子を見て反省している事から、それ以上は何も言わなかった。



「消えた魔物は、この辺りで見つけた連中だったから。俺としても、まだそこまで心が痛んでいないから。今はまだ、だけどね」


「なるほど。それならば、早々に脱出した方が良さそうだな」


「俺達も被害を受ける前に」


 山下の言葉にルードリヒも頷く。

 ルードリヒの残った部下も、早く出ようと頷いた。





 罠が作動するのでは?

 危険を考慮して、ゆっくりだが通った道を引き返す。



「俺が罠に怯えるなんて」


 山下の独り言をルードリヒは聞き流す。


 ルードリヒも、慢心していた事は否めなかったからだ。

 勝手知ったるこの抜け道。

 シュバルツリッター副長として、要人の脱出等の訓練でいつも通っていた。

 だからこそ罠が仕掛けられていても、そこまで大した物では無いと甘く考えていたのだ。


 その慢心が部下を殺した。

 ルードリヒも山下も、敵を甘く見た結果がこれである。



「外だ!」


 既に少し暗くなっているが、外の明かりが抜け道の出入口が近い事を示している。

 油断しないようにゆっくりと進みながら、彼等はようやく抜け道の脱出に成功した。



「山下殿、迷惑を掛けた。もっと慎重に行動していれば、こんな事にはならなかったかもしれない。申し訳ない」


「オイオイ、ルードリヒさんよ。それを言ったら俺だって同じだって。太狼や猿八が居れば、罠なんか余裕で見破れると思っていたんだ。その結果がこのザマだ」


「これを反省して、奴等の戦力を上方修正しよう」


「だな。ただ一つ、言える事がある。俺にも奴等が殺したい理由が出来たって事だ」


 山下の険しい表情に、魔物達も反応する。

 ルードリヒも部下をやられた事を思い返して、怒りを内に秘めた。



「この罠を仕掛けた人物、絶対に許さない」





「逃げられちゃいましたね」


 秀吉は隣に居た魔王と太田に、軽い口調で言った。

 二人も抜け道の中の様子を、秀吉の魔法で確認している。

 駄目だとしても、収穫はあったと秀吉の仕事ぶりから、失敗ではないと大きく否定した。



「お前、すげーな!」


「キャプテン、秀吉殿にお前はどうかと」


「お前でも全然構いませんよ」


「いやぁ何と言うか、ホント凄かったわ」


 俺の残念な語彙では、凄いとしか言いようが無い。

 それくらいの活躍だった。



「それにしても秀吉殿」


「何ですか?」


「あの罠はどうなっていたのですか?最初は素通りしていたのに、戻ってきた連中には発動していました」


「おぉ!それ、俺も気になったわ。それに先頭集団が抜けた後、後ろの魔物だけに反応したのも、何でだか分からん!」


 俺も太田も、同じ疑問を持ったようだ。


 太田と一緒かよ!と少しだけ残念に思ったが、とにかくどういう仕掛けか聞きたかった。

 やり方が分かれば弟にも教えられて、後々役に立つからな。



「アレはですね、任意で発動していただけですよ」


「任意で発動?」


 リトル太田と俺が同時に首を傾げていると、周りから可愛いという声が聞こえた。

 いつもなら手を振ったりして対応するところだが、真面目な話なので秀吉の言葉を聞き逃したくない。

 心の中で勿体無いと叫びつつ、秀吉の話の続きを聞いた。



「私があの場に仕掛けた魔法は、まず三つ。一つは諜報魔法。魔王様も一つは使えると聞いていますが?」


「諜報魔法?」


 何だっけ?

 俺が使えるんじゃなくて、弟が使えるわけで。

 俺が魔法の名前とか、覚えているわけがない。



「キャプテン、丹羽殿に教わった魔法かと」


「あ!あの遠くの人と話せるヤツね。教わった教わった」


「使えるのは森の囁きでしたか。ちなみに私が使ったのは話すのではなく、聞く事に特化した諜報魔法です」


「何が違うの?」


「前者は話す事が出来ますが、大量に魔力を消費します。魔王様くらいの魔力量なら問題無いかもしれませんが、一般人が遠距離を会話するのは難しいです」


 そういえばそんな事言ってたな。

 だから携帯電話が必要だって話だった。

 その辺は割と最近の事だから、俺も覚えてる。



「そして後者ですが、聞くだけなので魔力消費を大幅に抑えられます。そして二つ目、これも諜報魔法です」


「俺達にも使ってくれたヤツだな?」


「その通り。これで抜け道の中を見ていました」


 俺と太田は、抜け道の様子が全く分からなかった。

 井戸の近くで秀吉が、何かを見ているのは分かった。

 しかし俺達には、秀吉が何処か遠くを見ながら何かをしている危ない人にしか見えなかったのだ。


 その事を太田と話していると、苦笑いした秀吉がこの魔法を使ってくれたというわけだ。



「壁に耳有り障子に目あり」


「何ですか?それ」


 太田は知らんのか。

 まあ俺も意味は分からん。

 なんとなく聞いた事がある語呂だなと思っただけ。



「魔法名は全く違いますが、まあそんな感じです。盗聴に覗き見。言い方は悪いけど、使った魔法はこの二つですね」


 めっちゃ犯罪だな!

 日本だったら捕まってるぞ。


 と思ったけど、抜け道にそういうの設置するのって、自分の家に設置するのと変わらないよな。

 自分の家に盗聴器とか着けておくのは、犯罪になるのか?

 それで会話を盗み聞きするのは、犯罪なのか?

 うーん、ワカンネ。



「そして最後に、これを使ってます」


「あ、クリスタル!」


 秀吉の掌の上には、親指の第一関節くらいの大きさのクリスタルが乗っていた。



「これをいくつかの場所に設置しました。それを少数になった時に使えば」


「なるほど。効果は大きいという訳ですね」


「でも、任意っていうのは?」


「何と言えば良いのか。ヒト族風に言うなら、普通は罠を踏んだりするとオートで発動しますよね。それを自分で見ながら、タイミング良く発動していたという訳です」


「そういう理由か。やっと分かったわ」


 という事は、秀吉って二つの魔法を同時に使用して、更にクリスタルの発動もタイミングを見計らってやっていた?

 それって凄いんじゃないか?



「見ていた感じ、おそらく罠を感知する魔物でも連れていたのでしょう」


「何でそう思った?」


「覗き見た感じ、誰も罠に警戒してませんでした。だったら理由は、罠を感知する魔物か魔法具を持っているからだと判断しました」


 最初からそう思っていたという事か。

 コイツ、半兵衛並みに頭良くないか?



「しかし、何個かの罠は使っていないのでは?」


「太田殿、鋭い!」


 何だと!

 頭良いって思った奴にそう言われるとは。

 太田、やるな!



「警戒していない魔物には、風魔法で毒矢を飛ばして処理しました。あと二人くらい人にも使ってますが」


「それで、残ったのは?」


「火魔法や水魔法ですね。火魔法を魔物に当てましたが、致命傷にはなりませんでした。しかもすぐに消火され、大事にもなっていない。途中で異変に気付いた彼等は、引き返しました」


「あ、俺分かったかも。全員で警戒しながら引き返したから、クリスタルを使うタイミングが無かったって事か」


「流石は魔王様!その通りです」


 ホッホッホッ!

 褒められちゃった!

 結構嬉しいぞ。



「しかし、井戸まで半分を切った辺りで引き返した勇気。彼等は実に冷静でした」


「ワタクシもそう思いました。味方がやられて逆上もしなかったですし、彼等の心も強いですね」


 なるほど。

 言われてみると、喧嘩とかした様子も無かった。

 話し合いでちゃんと戻ると決めたって事だ。





「今作ってる地下通路も、あの連中なら案外見つけるかもしれない。その時の対応も決めとかないと、後手に回るかもな」

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