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問題児

 まさか秀吉が引き抜きに掛かるとは。

 断ったみたいだから良いけど、こんな大事な話を、兄しか居ない時にしないでほしかった。


 ラコーン達と合流した兄と半兵衛。

 どうやら偵察部隊が、ちょこちょこ来ていたらしい。

 ノームと昌幸に仕事を頼みに来たのだが、どうやら昌幸は個人行動をしていたらしい。

 戻ってきた彼を問い詰めると、罠のようなモノを作っていたとの事。

 魔物を誘導するというちょっと変わった方法に、半兵衛は興味津々だった。


 地下通路の件を昌幸にも頼むと、半兵衛は急に昌幸の意見を取り入れたいと言ってきた。

 しかも地下通路制作は、昌幸に一任すると言うのだ。


 彼等に地下通路を任せ、戻ってきた兄達。

 その時に秀吉の話を聞いたのだが、兄は昌幸の引き抜きもあり得ると話していた。

 昌幸は独立志向の高い人物だ。

 下手に好条件を出したら、引き抜かれるかもと心配だった。


 秀吉にその件で注意すると、形だけの返事はもらった。

 コイツ、絶対にまたやるだろうな。

 そう考えていた矢先、ハクトが秀吉に興味を示していたのだった。





 長浜は貿易都市だから、様々な物が入ってくる。

 それこそ食べ物も、色々な土地の物があったりするし。

 ハクトが興味を持ってもおかしくないのだ。



「秀吉様には興味あるけど、だからと言って安土を離れるつもりは無いよ」


「そうだよね!心配なんかしてないよ?」


「心配くらいはしてほしかったかも」


「心配したさ〜。とってもしたさ〜」


「怪しい・・・」


 もう変な事言わないでほしい。



 しかし秀吉の奴、この旅の目的がスカウトじゃないかって気にさせられてきたぞ。

 土木作業を手伝ってもらう手前、あまり大きく言いづらい。

 でもそういう行動に出るなら、キッチリとお断りさせてもらわないとね。





 作戦開始から結構経った。

 俺は地下通路工事の監督をしている。

 監督という名の暇人とも言う。


 ハッキリ言えば監督とは名ばかりで、俺はフラフラしているだけだ。

 秀吉と昌幸が話しているのを聞いても、全然理解出来ない。

 たまに耳を澄まして、引き抜こうとしてない事を確認するくらいだ。


 あまりに暇なので、ノームに頼んで穴掘りの手伝いもしている。

 たまに出る大きな岩をバットでぶち割るとか、邪魔になった土を運んだりとか。

 とは言っても、魔法で土を固めているので、大きな岩が出ない限り俺の出番は無い。



 だったら、人が少ない秀吉側を手伝えば良いんじゃ?

 とも考えた。

 しかし本人から、断られてしまった。

 何でだよ!と思ったりもしたのだが、彼の作業風景を見ると、確かに俺は必要無かった。

 むしろ邪魔なのでは?と思った。


 秀吉の魔法は、多分弟よりも凄いと感じた。

 何というか、洗練されている?

 弟が大きな魔力での力押しだとしたら、秀吉は細かな技術で翻弄するという感じだろうか。


 土魔法で通路を作りつつ、光魔法で全体を照らす。

 トラックが通れるか微調整をしながら、岩も魔力弾とかいう技で破壊していた。

 これ等の作業を一人でこなし、尚且つ昌幸の希望した罠?のような物も作っている。

 俺が横から手を出すと、逆に時間が掛かるんじゃ?と思った次第だ。

 だから俺は、秀吉側の方にはあまり行かないようにしている。



 もう一度言おう。

 暇なのである。





 流石に運転能力にも、バラつきが出てきたみたいだ。

 フランジシュタットの住民の中でも、上手い人はもうぶつけたりするのはおろか、急発進急ブレーキはしていない。

 今では大半の人達が、急発進急ブレーキは無くなったのだが、やはりバックだけは難しいと言われた。


 だが日本と違うこの世界。

 バックする際の方向転換が上手くいかない場合、彼等はとんでもない方法で解決した。


 身体強化をして、トラックの後ろを持ち上げて向きを変えるのだ。

 流石に重いのか、結構顔が真っ赤になったりしているが、ズレた位置を持ち上げて直し、真っ直ぐにしてからバックするようにしていた。


 僕はそれを見て思ったね。

 自転車じゃねーんだよ!

 自転車で向きを変える時、後ろを持ち上げて反対に方向を変えたりする。

 それをトラックでやる馬鹿は、この世界に来て初めて見たわ。



「バックは難しいなぁ」


「なあ、俺達もあの方法をしちゃ駄目なのか?」


 ハクトと蘭丸も、同じ方法を取りたいと言っていた。

 だがそこは、僕が許さなかった。

 変態方向転換は、ここの住民だけで良いのである。

 安土の街中で、そんな方向転換をしたら罰金みたいな法を作ろうかと、本気で考えたいレベルだ。


 それとこのやり方、問題もある。

 今は誰も乗っていないのだが、脱出時にはヒト族の住民に加え、彼等の荷物に自分達の荷物も積むのだ。

 積載荷重で言えば、トンに近いと僕は思っている。

 だから、ただでさえ何も載っていないトラックで顔が真っ赤なのに、本番では無理なんじゃないかと予想している。



「だからお前達には、ちゃんとした方法で覚えてもらいたいんだ」


「なるほど。ちゃんと考えて言っていたんだな」


「僕達の身体強化じゃあ、持ち上がるかも心配だしね」



 安土でもいつか、トラック配送業を作ろうかな。





「お互いに順調っぽいね」


「俺は暇だけどな。秀吉がたまに昌幸と話している時に、聞き耳立てる以外はほとんど何も無いぞ」


「それは暇だね・・・」


 夜になると、お互いの近況を話している。

 こうやって口に出すと、会話している感があって楽しい。

 面倒な場合は元の身体に戻って、頭の中で整理して終わりなのだ。



「しかし、順調なのも少し怖いよな」


「そうだね。何故、王都軍は攻めてこないんだろう?」


「普通なら、黒騎士の副長も抜けて戦力不足になった時点で、攻撃を開始しても良いはずだ」


「副長からの報告で僕達の存在を知ったとしても、彼等はラコーン達の部隊を知らない。数の上では僕達くらいしか知らないはずなのにね」


 地下通路やトラックの運転の練習を考えれば、とてもありがたい事ではある。

 だけど、何も無いという事が逆に不気味に思えて仕方ないのだ。



「案外さ、召喚者が問題児だったりするんじゃないか」


「言う事聞かなくて、自分勝手に行動してるみたいな感じ?」


「強いのに言う事聞かないから、言うに言えないのかもな」


 まさかなぁ。

 帝国内の中でも田舎の方だとは思うけど、黒騎士って存在は王都でも有名みたいだし。

 強い奴を派遣しているはずなんだけどな。



「ま、来ない奴の事で悩んでいても仕方ない。今はこの時間を有効に使おうぜ」


「それもそうだね」





 フランジシュタットから離れた場所に敷かれた拠点。

 そこには王都軍を率いるセードルフが、怒りに任せて物を投げていた。



「あの馬鹿共は何処に行った!」


 誰も答えない部下に、彼の怒りは更にヒートアップする。



「次やったら死刑だと伝えてやれ!」


「お、お言葉ですが准将。あの剣士の方はともかく、山下殿は仕方ないのでは?」


「仕方ないだと?何が仕方ないのだ!」


「彼は今、味方を増やす為に森へ出向いているのです。彼が森から多数の味方を引き連れてくれば、私達が出る事はほとんど無いと思われます」


「山下は何が出来るんだったか?」


「魔物の使役です」


「なるほど。それならば居ない事にも理解出来る。しかしだ。戻ってくる期日くらい、設けておけ!」


 セードルフの言っている事は尤もだった。

 派遣された翌日には、山下は既にこの本陣から姿を消したのである。

 もう一人の召喚者、長谷部から聞いていなければ、逃げたと勘違いしてもおかしくなかった。



「それで、もう一人の方は?」


「長谷部殿ですね。彼は・・・その・・・」


 部下の歯切れの悪さが、セードルフを更に苛立たせる。

 近くにあったペンのキャップを外し、先端を部下へ向けて投げた。

 真っ直ぐに飛んだペンは、彼の頬を掠めて後ろの壁に突き刺さった。



「申し訳ありません!」


「謝るだけなら聞き飽きた。何処に居るかと聞いているのだ」


 再びペンを取ろうとするセードルフ。

 しかしそこに、探し人である長谷部がやって来た。

 助かった。

 ペンを投げつけられなかった部下の彼は、大きく息を吐いた後にキッと長谷部を睨みつけた。



「あ?何睨んでんだよ?ブチ殺すぞ!」


「ヒィ!」


 睨み返された後に罵声を浴びせられた部下は、恐ろしさにセードルフの後ろへと下がった。

 それを見た長谷部は、あまりの貧弱さに余計に苛立ちを感じていた。



「この雑魚が!自分で何とか出来ねーなら、人に命令なんかしてくるんじゃねぇ!」


「その反抗的な態度、また精神魔法で痛めつけられたいのか?」


「使ってみろよ。その前にお前等を殺してやる」


「・・・フン。目の届く場所から離れるなよ」


「俺の行動は俺が決める。勝手にほざいてろ」


 長谷部はテントから出ていくと、少し離れた場所で昼寝を始めた。

 目の届く範囲なので文句は無いだろうと、態度で示していた。



「あまりに傍若無人ですが、良いのですか?」


 隠れていた部下が、急に強気な態度に戻っている。

 それを見たセードルフは、ゴミでも見るかのような目で見下していた。



「最悪の場合は、預かったクリスタルで精神魔法を使って良いと言われている。奴はあまり指示を聞かないから、他の者達と違って未だに契約を解除されていない。頭を締めつけるなど、造作もないのだよ」



 セードルフは懐に入れてあるクリスタルを取り出し、部下に見せた。

 能力で劣るはずのセードルフが強く出れるのは、まさにコレがあるからだった。



「長谷部に関しては問題無い。それよりも山下が帰ってこない限り、我々は動くに動けないのだ」


「奴はどうなのです?」


「シュバルツリッターの副長か。ルードリヒと言ったか?」


「はい。彼も我々より強いですが、命令されないのですか?」


 セードルフは顎に手を当て、少しの時間考えに耽った。



「今はまだ難しい。奴が本当に裏切っているか、分からない。むしろスパイである可能性も捨てきれん」


「流石はセードルフ様。そこまでお考えとは」


 お前が考えていないからだと言いそうになるが、無駄を悟った彼はその言葉を飲み込んだ。



「とにかくだ。ルードリヒから情報だけは集めておけ。先鋒は必ずうちの連中。そして戦闘になったら、捨て駒にでもすれば良い」


「ルードリヒも捨て駒ですか?シュバルツリッターの副長ですよ。勿体無い気がするのですが」


「うーむ、それは分かっているのだが。使い所が無いなぁ・・・」


「長谷部と一緒に行動させては?」


「長谷部と?何故だ?」


「お互いを監視に使えば良いのです。長谷部はルードリヒを、ルードリヒは乱暴な長谷部を警戒するでしょう。お互いが牽制し合えば、下手な行動は取れないはずですよ」


 この無能な部下にしては、珍しくマトモな意見だった。

 扱いに困る者同士、まとめてしまえば良い。

 毒を以て毒を制するという考えに近かった。



「よし、それで行こう」





「山下殿!」


「何故そんなに驚いているんですか?」


 戻ってきた山下達を見た見張りは、思わず叫んだ。

 何故驚くか。

 それは山下を見て驚いたのではなく、後ろに控えている魔物を見て驚きの声を上げたのだ。



「この中には連れて行けません。何処かで待機をしていて下さい」


「おとなしいから暴れたりしないよ?」


「規則ですので」


 魔物を中には入れさせない。

 当たり前の事を言われた山下は、少し不機嫌になった。

 そこに現れたルードリヒ。

 山下を魔物使いだと知らない彼は、連れていた魔物に向かって剣を構えていた。



「俺の仲間に何してんの?」


「仲間?」


「コイツ等は俺の仲間。俺の命令に従う、大事な仲間だ」


 魔物を使役するのかと驚くルードリヒだったが、彼は魔物達を見て作戦を思いついた。





「どうせだから、魔物を街の中で暴れさせないか?秘密の抜け道がある。魔物なら暗闇の中でも進めるだろう?」

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