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半兵衛と秀吉

 副長の裏切りは、フランジシュタットに大きな衝撃を与えた。

 彼は食料庫を襲い、中身を強奪していったらしい。

 止める黒騎士を蹴散らして、門の前で王都軍に降る住民を募っていた。

 門番がやられて開けられそうになったところで、総隊長であり領主でもあるアデルモが到着。


 副長ルードリヒの言い分は、フランジシュタットの領民である前に、帝国民だという話だった。

 アデルモは出ていくのは構わないが、食料だけはキッチリと分けろと言った。


 話を聞かずに強引に門を開けたルードリヒだったが、そこはとうとう僕の出番ですよ。

 土魔法で壁を作り、門を途中から開かなくしてみました。

 すると激怒するルードリヒ。

 太田に馬車を持ってこさせ、ハクトと蘭丸に食料を分けてもらおうとすると、ルードリヒの部下である元一番隊の男が二人の邪魔を始めた。


 戦い始めた二人だったが、わずかに部下の男の方が強かった。

 だが、それは槍と剣での戦いに限ればの話だ。

 蘭丸の風魔法とハクトの支援魔法で、敢えなく撃退されたところ、食料の分配が終わった。

 ルードリヒは降る住民を引き連れ、街から出ようとするが、心変わりをして居残る人達が現れる。

 それは単純に、蘭丸の戦う姿を見てファンになってしまった、女性達だった。





 あぁ、蘭丸が活躍すればこうなるのを忘れていた。

 さっきまでは戦いの声だったのに、今はアイドルのライブ会場さながらの声である。

 キミ達、出待ちでもしてるの?



「ねえ、あのエルフの人と一緒に来た子も可愛くない?」


「食料分けてた人でしょ?分かるぅ〜!」


 となれば、ハクトにも注目が行くのは当たり前の展開だ。

 このままだといつものパターンに陥ってしまう。

 だからこそ、爆弾を投下する!



「蘭丸、婚約者のセリカには何かお土産を買ったのかな?」


 フッフッフ、蘭丸に婚約者が居るなんて知ったら、奴等は阿鼻叫喚だろう。

 そして、少しは僕の気持ちもスカッとしてくれるはず。

 むしろそっちが本音。



「あ?お土産?長浜で少し買ったよ」


「あ、そう」


 どうだ、お前達。

 真実を知った今、どういう反応を・・・あら?



「彼女に一途なのね。素敵だわ」


「幸せになってほしいわね」


 ちっがーう!

 違うだろ!

 いや、良い事なんだけども。

 アイドルの追っかけって、もっとドロドロしてるって聞いたのに。

 近所の子を見守るおばさんみたいな感じじゃないか!


【諦めようや。俺達の負けだよ】


 くっ!

 イケメンは何してもイケメンという事か。


 何もしてないのに膝を突いた僕を見たアデルモは、不思議そうな顔をしていた。



「降る者は全員出たな?残っている者達は、本当に王都軍の方へ行かなくて良いのだな?これが最後の宣告になるぞ」


 アデルモの話を聞いても、門から外へ出ようとする者は居ない。

 大半が女性。

 中には男性も居るが、蘭丸が黒騎士を倒した事で、戦力が増強されたから大丈夫だと思っているのかもしれない。



「門を閉じよ」





 怪我をした門番に代わり、新たに数人を残して、再び領主宅へ戻る事にした。

 ぞろぞろと後ろをついて回る女性達が居たが、一定の距離を取っているので何も言わなかった。


 家に着き、中へ案内されると、早々にアデルモは頭を下げてくる。



「お見苦しい場面をお見せしました。我々の為に食料を守っていただき、ありがとうございます」


「とは言っても、結果的に多めに持っていかれてしまった事になっちゃったね」


 半数近い連中が急遽鞍替えをしてきたので、食料を更に分配出来なかった。

 なので、門前で居残りを決めた連中の分だけ、食料は多く持っていかれてしまったのである。



「予定が少し狂ってしまいましたが、大丈夫ですか?」


 アデルモの心配は、まずは住民の安全だった。

 安土への亡命とでも言えばいいのか?

 その人数が増えた事に、不安を覚えていた。

 僕も気になったのだが、それに関しては半兵衛に一任してある。

 彼を見ても、まるで気にした様子は無い。

 という事は、問題無いのだ。



「大丈夫!」


 と言い切った後に、半兵衛をチラ見する。



「はい、全く問題ありません。元々、全員を引き連れて退去する予定でしたので、むしろ少し楽になったかと思われます。ただし、食料に関しては我々も考えるところがあります」


 やっぱり食料事情は問題アリじゃないか。

 とは言えず、彼の言葉の続きを促した。



「問題があるというのは、彼等の食料ではなく、我々の食料です。少し多めに持っていかれた分を、我々の食料から負担します」


「それはあまりにも、私達が甘え過ぎなのでは?」


「助けると言ったのは魔王様です。その言葉は絶対に守らなくてはなりません!」


 おおぅ!

 思った以上の忠誠心に、ちょっと恥ずかしい。

 あまり声を荒げる事が無い半兵衛だが、今回は語尾が強めだった。

 うーん、彼に負けじと僕等も頑張らないといけない。



【そうだなぁ。ハクトと蘭丸は友達として、信頼は大きい。太田も病的なくらいの魔王信奉者だ。だけど、半兵衛も太田に負けないレベルだと思わなかった】


 その分、僕達も信頼してるけどね。

 というより、こういう作戦には頼りきりな感もある。

 半兵衛が居なくなったら、これはマズイなぁ。



【見限られないように、立派な魔王になるしかないな】


 立派な魔王って、どんな魔王?

 とりあえず、恥ずかしくない行動を取るようにしよう。

 今後はあんまり蘭丸達に嫉妬しないとかね・・・。


 それより、作戦内容の確認をしよう。



「というわけなので、必ず助けます。その作戦は、半兵衛が既に導き出しているので」


「今回は撤退戦となります。戦いそのものより、被害を出さない事が重要視されます」


「そうですね。しかし、これだけの大きな街。あの井戸の道を使わないのなら、見つからないように街から抜け出すのは無理では?」


 秀吉が半兵衛の考えに少し批判的っぽい。

 普通なら、そういう考えになってしまうのも分かる。

 でも、半兵衛は普通ではない作戦を考える。

 それを実際に、体感してもらった方が良いだろう。



「秀吉、まずは話を聞いてからにしてくれ」


「魔王様は無理だと思わないのですか?」


「僕は半兵衛に、全幅の信頼を置いているから。何かあっても、その時は僕達が手伝えば何とかなるよ」


「そうだね。半兵衛くんの作戦、いつも凄いしね」


「俺達より年下なのに、凄いよな」


 ハクトも蘭丸も、半兵衛を信頼している。

 今までの彼の実績を見ていれば、誰も文句は出ないはずだ。



「彼はそんなに凄いのですか?」


「凄いね。まあ百聞は一見・・・見るわけじゃないか。まあ一回聞いてみてよ」


 少し照れくさそうな半兵衛だったが、気を取り直して作戦内容を話し始めた。





「まず、懸念されていた脱出経路に関してですが」


「それそれ!向こうに行った人達も、井戸の存在は知ってるんでしょ?いくら口外するなって言っても、言う人は現れると思うんだけど」


「そうですね。領主としては心苦しいですが、井戸からの脱出は危険だと考えた方がよろしいかと」


 アデルモも、井戸からの脱出は反対らしい。


 というか、あのルードリヒとかいう奴が絶対に張っていると思う。

 もしかしたら、手柄総取りを考えて黒騎士以外に配置されていないとかあるかもしれない。

 いや、向こうに行った黒騎士は少なかったな。

 副長まで務めた奴だし、そこまで無能じゃないと思う。



「井戸は使いません」


「では、門から正面突破ですか?」


「いえ、新しく作ります」


「新しく作る!?」


 ちょっと予想外の答えだった。

 ん?

 作れなくはないのか?



「もしかして、同行してきたノーム達?」


「流石は魔王様!この計画には、魔王様にも活躍していただきますので、よろしくお願いします」


 ノオォォォ!!

 また土木工事かよ!

 まさか見知らぬ土地で、土木作業員を再びやる羽目になるとは。



「ちなみに、真田殿にも相談してみようかと考えております」


「ドワーフかぁ。土木技術はどうなんだろう?」


「なので、あくまでも相談ですね」


 彼にも手伝ってもらえば、少しは時間短縮、そして僕が楽が出来るかもしれない。

 期待しているぞ、昌幸!



「脱出に関しては分かりました。でも、我々は包囲されていますよね?これだけの住民です。必ず見つかると思うのですが」


 秀吉の言う事は尤もだ。

 どうしたって、何処かでバレる気がする。

 それに逃げる為の足も必要だろう。

 ただの住民が、軍の足についていけるとも思えないし。



「まず、逃げる為の乗り物が必要だと思われます。それは魔王様に作っていただきたく」


「でも、トライク程度じゃあヒト族全員を乗せる事は出来ないよ?」


「あの車という乗り物は?」


「うーん、バンでも難しい気がする」


 東南アジアでよく見掛ける、その車に何人乗ってるの?くらいギュウギュウに詰めれば乗れるだろうけど。

 そんな事してもスピードは出ないし、逆に危ないと思うんだよね。

 そうなると、バスだな。



【別にバスじゃなくても良くないか?】


 どういう事?


【ここは日本でも、ましてや地球でもない。トラックの荷台に人が沢山乗っていても、誰にも怒られないだろ?】


 言われてみれば確かに。

 トラックの荷台に十人くらい乗れれば、全員行けそうだ。


【問題は、運転手だ。トラックの運転なんか、皆出来るのかって話だよ】


 それな。

 ちょっと要相談にしよう。



「乗り物に関しては何とかなりそうだけど、ただ運転がね。流石に初見で扱えって言っても無理だし、練習が必要だと思うよ」


「なるほど」


 半兵衛は少し考えた後、再び口を開いた。



「では魔王様には、土木作業ではなく乗り物の教習をお願いします」


「誰に教えるんだ?」


「フランジシュタットの魔族です。彼等の為にこの街は、大きな騒動になっています。ならば彼等にも、ヒト族を守る気概を持って行動してもらわないと」


「半兵衛の言う通りだな。守ってもらうだけの魔族なんて、安土に来ても無能の烙印を押されるだけだぞ」


「僕もそう思う。ここの人達って、自分達の生活を捨ててまで魔族を守ってくれたんでしょ?だったらそれに応えないと、同じ魔族として納得出来ないよ」


 蘭丸もハクトもなかなか言うね。

 でも、それに反対は無い。

 僕も同じ考えだし、彼等もやる気はある。



「新たな通路作りに時間が掛かるかもしれませんが、やむを得ないでしょう」


「はぁ、そうではないでしょう」


「秀吉は反対なのか?」


「違いますよ。もっと味方を頼りなさいという事です」


「どういう事です?」


 あまり秀吉に良い感情を抱いていないのか、半兵衛が微妙な顔をしている。

 秀吉は少し顔を顰めた気がしたが、大人の対応というか、すぐにその顔を隠した。



「私が魔王様の代わりに、土木作業を手伝いましょう」


「出来るのか!?」


「貴方も大概、私の事をナメていますね。木下は魔法に関しては誰にも負けませんよ。例えそれが、どんな種族であっても」


 凄い自信だな。

 四属性の土魔法さえ使えれば問題無いのだが、魔力が大きければそれだけ作業も早い。

 秀吉はその点、うってつけなのかもしれない。



「じゃあ、僕の代わりに土木作業員をよろしく。半兵衛も良いな?」


「はい。よろしくお願いします」


 流石に個人の感情で、拒んだりはしなかったな。



「それと外に出てからですが、ヒト族を乗せた車が帝国から離れるまで、我々で足止めをします」


「どうやって?」


「わざと少数で行動をして、彼等を刺激します。とある地点まで誘い込み、逆に大勢で各個撃破です」


「甘い」


 またしても半兵衛の意見に、秀吉は異論を唱えた。



「何が甘いというのです?」


「罠へ誘い込む少数が、怪我をするかもしれない。我々の戦力は数の面では、大きく負けています。少しでも戦力を減らさない為にも、私が火魔法で偽の松明を作り、敵を誘導した方が安全でしょう」


「なるほど・・・」





「作戦自体は悪くないのです。さっきも言いましたが、半兵衛殿。もう少し私を頼ったら如何ですか?」

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