表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/1299

割れる街

 ロゼの暴露で、いきなり魔王だとバレてしまった。

 領主と黒騎士は口が固いから大丈夫らしい。

 余計な事を口にするし、少し彼女の事を甘く見ていたかもしれない。


 ちなみに彼等は、魔王が子供だとは知らなかった。

 秀吉が魔王だと勘違いして近寄ろうとしたところ、僕だと言われて慌てた様子でこっちに握手を求めてきたくらいだ。


 彼は魔族を僕に預けた後、王都軍に自分の首を差し出そうとしていた。

 しかし、そんな事で手が緩むとは思えない。

 彼にその事を話し予想される最悪の展開を教えると、彼の顔色は悪くなった。


 どうすれば良いか?

 それを聞かれた僕は、いよいよ僕達の考えを話した。

 魔族を逃して首を差し出すか、住民全員で逃げるか。

 領主とはいえ自分の一存では決められないと、住民との話し合いが設けられる事になった。


 住民の意見は半分に分かれたらしい。

 半分は僕達と安土や魔族領へ。

 半分は王都軍に降るという。


 しかしそんな時、街の方から騒ぎが起きた。

 黒騎士の副隊長が何人か引き連れて裏切り、食糧庫から強奪して逃げたという話だった。





「ルードリヒが!?それは本当だろうな!?」


「食料庫を守っていた者の証言です。間違いないかと」


 余程信頼していたっぽいな。

 あまりの衝撃に、頭が働いていないっぽい。



「おい、アデルモ。アデルモ!」


「なっ!?このガキ、隊長を!」


「アデルモ、しっかりしろ!お前の指示待ちだぞ!」


「あっ!門を開けさせるな!食料が無くなれば、街の維持も難しい。逃げ出すのは構わないが、食料だけは死守するのだ!」


「ハッ!」


 鐘の音が鳴り響く。

 非常事態だという事を告げている。

 この慌ただしい感じ、海津町や能登村の事を思い出して、あまり好きではない。


【確かにな。懐かしいというよりは、思い出したくない記憶だ】


 兄さん、久しぶりだね。

 あんまり話し掛けてこなかったけど、寝てた?



【寝てたのかな?たまに意識が遠くなるんだよな。お前も俺と入れ替わった時に、そういう事無いか?】


 最近はあまり入れ替わらないからね。

 どうだろう?


【そうか。その時になったら教えてくれ】


 分かった。

 それよりも、僕達も門を死守しに行こう。

 半兵衛の作戦に、支障が出るかもしれないからね。





「邪魔だ!通さねば斬る事になる!」


「副長!」


 困惑した顔で道を塞ぐ黒騎士。

 だが騎乗している連中に躊躇は無い。



「やれ」


「何!?お、応戦体制!」


 大きな盾で進路を塞ぐようにする守備隊。

 だが、鎧を装着した馬に蹴散らされていく。



「進路を塞ぐな!無駄死にする事になるぞ!」


 それだけを言い残し、門の方へと走り抜ける。



「ルードリヒ様!」


「王都軍へ行く住民へ告ぐ。今すぐに門の前に来い。このルードリヒ、お前達を導いてやる!」


 走りながら街の中で叫ぶと、それに賛同した人達が徐々に集まり始めた。


 門の前に到着してしばらくすると、多くの住民が集まり始めていた。



「ヒト族の半分だと言ってたな。これくらいか?」


「そうですね。広場に集まった半分くらいかと」



 住民の代表者が答えると、ルードリヒが動き始めた。



「門を開けろ。約束通り、降る者達を連れて出ていく」


「し、しかし、まだ総隊長の指示が出ていません」


 アデルモの指示無くして、勝手に開く事は許されない。

 彼は職務に全うしていたが、それが仇となった。



「仕方ない。力ずくで行かせてもらう。死んでも文句は言うなよ」


 後ろに控えていた一人が、馬から降りて剣を構えた。

 それを見た門番も、剣を構える。



「一番隊は先駆けだ。そこで生き残るという事の意味を、お前に教えてやる」


「速い!」


 言い終えた男が突撃を開始。

 すぐに目の前まで入られた門番は、防戦一方だった。

 数度剣を交えただけで、自分との力量を察知した門番は、とにかく生き残る事に専念していた。



「甘いな。それでは一番隊ではやっていけない」


「ぐあっ!」


 咄嗟に取り出したナイフが、門番の足を斬りつけた。

 膝を突く門番に対して、トドメを刺そうと剣を構え直す。



「待て!」


「チッ!もう勘付いたか」


 間一髪で間に合ったアデルモ。

 騎乗したまま二人の間に入ると、ルードリヒ達に剣を向けた。



「ルードリヒ、何故お前が指揮をしている?」


「アデルモ様、貴方は分かっていない。我々がどう頑張ろうと、住民全てを守る事など出来ない!」


「それを承知で、先程の話し合いが行われたのだ。お前が王都軍に降るのは構わない。だがそれは、食料を強奪していく理由にはならん!」


 怒気を放つアデルモに、集まった住民はおろか、黒騎士の連中も後退りをした。

 唯一彼の放つ怒気に対抗出来たのは、ルードリヒだけだった。



「なるほど。では降る連中には、分け与える食料は無いと?」


「何?」


「これは食料庫にあった半分の量ですよ。ヒト族が半数減るのなら、その分は我々がもらう権利があると思いますが?」


「それはおかしな事を言う。それでは魔族の分はどうする?それを差し引いての半分であろうな?先程の連絡では、全食料の半分が減っていたという話だが、その辺りはどうなのだ?」


 それを聞いたルードリヒは、顔を顰めた。

 そしてぶっきらぼうに言い放つ。



「魔族はどうせ逃げるんだから、食べ物なんか与えなくても良いでしょう?大体、魔族のせいでこの街はこんな危機に陥ったんだ。生きて逃げられるだけ、感謝してほしいものですな」


「馬鹿を言え!魔族もこの街の住民である。互いに協力し合い、普通の隣人として暮らしている。お前だって病気になった時、薬を調合してもらった事があるだろう?」


「しかし、それを王都は許さないと言っている。我々はフランジシュタット領の領民である前に、帝国民なのだ。ならば帝国に従うのが筋ではないのか!?」


「では、その帝国が黒騎士は危険だから解体。農民になれと言われたら、ルードリヒ、お前は納得出来るのか?」


「我々の強さがあれば、そんな事は言われない」


「それは傲慢だな。お前の考えがそうならば、王都に行って自分で確かめるが良い。だが、食料は置いていってもらう」


 剣を構えるアデルモ。

 ルードリヒも負けずに、アデルモへと剣を向ける。



「ルードリヒ様!門を開けます!」


「何!?」


 住民の一人が叫ぶと、門が少しずつ開いていく。

 食料を積んだ馬車を住民に任せ、ルードリヒ達は門を死守しようとアデルモ達の前を塞いだ。


「先に行け。私達は後から追う」


「いかん!」


 叫ぶアデルモだったが、途中でおかしな事に気付く。





「何故だ!何故、門が途中から開かない!」


「お答えしよう。それは、僕が門の前に壁を作って塞いでるからです」


「お前、誰だ!」


 いやぁ、道に迷ってしまった。

 初めての街に案内人もいないし、どうしようかと思ったよ。



【俺が身体強化で建物の上に登って、騒ぎがある場所を見つけなかったら、まだ迷ってたな】


 ホント、兄さんが居なかったらアウトだった。

 でも間に合ったし、丁度良いタイミングだったみたいで結果オーライかな。



「フッフッフ、答えてあげよう。身体は子供、頭脳は大人。安土の領主、阿久野だよ!」


 決まった。

 少し前に考えていたポーズも上手く出来たし、皆驚いているな。



「その動きは何だ?門を塞ぐ魔法を唱える為の仕草か?」


「えっ?いや、そういうわけではないけど」


「では何だ?」


「何だって言われたら、決めポーズ?」


「そうか。無駄な動きだというわけか」


 む、無駄!?

 コイツ、何なの!

 初対面の人に向かってそういう事言っちゃうんだ。

 僕、コイツ嫌いだわ。


【安心して下さい。俺も嫌いですよ。だってこのポーズが駄目なら、俺の変身ポーズもダメ出しされるぜ】


 そりゃそうだ。



「さて、軽くイラッとさせてくれたところで、馬車は返してもらう」


「何だと?」


「太田、牽いて持ってこい」


「御意」


 リトル太田が馬車に歩いていくと、ガキが馬車なんか扱えるのかと笑いが起きた。



「欠片をこっちへ投げろ」


「行きます」


 下手投げで、軽く山なりに投げられた魂の欠片。

 それを受け取ると、皆が投げられた物に凝視していた。



「太田」


「はい」


「うぇっ!?」


 リトルから本来の姿に戻った太田に気付いた連中は、腰を抜かして後退りを始めた。



「マオ、馬車を持ってきたぞ」


 蘭丸が御者をして、同じ大きさの馬車を持ってきた。



「ハクト、袋は持ってきた?」


「勿論。これで良いんだよね?」


「そう。半分こっちに詰めてくれ」


「了解」


 ハクトと蘭丸が持ってきた馬車に、食料を半分移し始める。

 するとその動きを見ていたルードリヒの部下が、絡んできた。



「貴様等、この街の者ではないな?勝手な事をするな!」


「勝手?だってこの半分は、この街の魔族の物だろう?勝手に持ち出したのは、お前等の方じゃないか」


「言わせておけば!」


 剣を蘭丸に突きつけると、少し下品な笑顔でふざけた事を言ってきた。



「エルフの顔とかグチャグチャにしてみたかったんだ」


「マオ、良いのか?」


「ムカつくから良いよ」


「ムカつくか。奇遇だな。俺もムカついた!」


 横に置いてある槍の石突きで、咄嗟に剣の腹を叩く蘭丸。

 ルードリヒの部下はその勢いで身体が横へ泳ぐと、回転しながら横斬りをしてきた。



「ハッ!槍が使えるエルフか。斬り甲斐がありそうだ」


「お前には負けたくないな」


 馬車から距離を取り、槍を構え直す蘭丸。

 蘭丸が抜けて一人になったハクトは、ブツブツと言いながら食料を載せ替えていた。



「なかなかやるな」


 高速の突きを避けながら、軽口を叩く部下。

 だが蘭丸も、まだ底を見せていない。



「今度はこっちの番だ」


 両手から片手に剣を持ち替え、空いた手にナイフを持った。

 ナイフで槍の軌道を逸らし、剣で蘭丸を狙う。

 そんな動きが続いていたが、段々と蘭丸が押されていく。



「多少槍は上手いが、所詮はエルフ。剣の腕で負けるわけがないんだよ!」


 蘭丸の槍が、ナイフで大きく上に跳ね上がられた。

 ナイフを落とし、両手に持ち替えた剣で斬りかかる。



「もらった!」


 万事休すかと思われたが、蘭丸の顔には余裕があった。

 少し口角が上がったかと思うと、部下は大きく後ろへと吹き飛び、地面を転がっていく。



「な、何が起きた・・・」


 腹を押さえながら起き上がると、自分が何をされたか尋ねてきた。



「お前、馬鹿だな。俺はエルフだって、お前が自分で言ったんだぞ」


「・・・魔法か!」


「はい、正解」


 再び同じ魔法を奴に向かって放ったが、流石にそれは避けられた。



「俺はエルフだ。獣人とは違って身体強化をしても、ヒト族より強くなる程度だと理解している。多分、召喚者には力では敵わないだろうな。だからこそ、自分の戦い方をしなければならない!それに俺は一人じゃない」


 蘭丸のスピードが一気に上がった。

 不意を突かれた男は、槍で右腕の二の腕辺りを貫かれる。



「がああ!!」


「身体強化してもたかが知れているかもしれないが、支援魔法まで使えば、ヒト族より大幅に身体能力が高くなるんだよ」


 蘭丸はハクトに、親指を立てて見せた。

 ハクトもそれを見て、笑顔で答える。



【なるほど。あのブツブツ言ってたのは文句じゃなくて、支援魔法を唱えていたんだな】


 僕も文句だと思ってたけど。

 よくよく考えてみれば、ハクトが戦いで抜けた蘭丸に文句を言うはずが無いんだよね。

 冷静に考えれば、すぐに分かる事だった。



「俺の勝ちだな」


「クソッ!」


 腕を押さえながら、ルードリヒの下へ戻る部下。

 蘭丸の完勝だった。



「食料分け終わったよ」


「じゃ、この壁を戻すから。どうぞ、王都軍へ降って下さい」


「・・・後で吠え面をかいても知らんぞ」


 ルードリヒの指示で、黒騎士の後ろを住民が少しずつ出ていく。

 だが、一部の住民が残ると言い出した。

 ルードリヒが最後の通告をしたが、それでも残ると言い張る。



「お前達の命は、残りわずかになるかもしれんが、それでも良いんだな?」





「ハイ!こんなイケメン、王都に行ったって会えるわけがないもの。私達は彼と一緒に行動します!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ