表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/1299

フランジシュタットの選択

 セードルフという敵の指揮官が、二万の兵を率いているらしい。

 そして厄介そうなのは、召喚者が二人居るという事だ。

 まず間違いなく、この戦力では勝てないと思われる。


 どうやって街の中に入ろうか迷っていると、抜け道があると彼女は言う。

 しかし大人数は難しそうという事なので、二手に分かれる事にした。


 抜け道を通っていると、彼女はある事を思い出した。

 最後にロープでよじ登るという作業が待っている事を。

 セーラー服等のスカート姿で、流石にそれはいただけない。

 本人が喜んで登るなら、僕達もそういう目で見る事は出来るが、我慢しますと言うならやり方はあるんでね。


 そんな中、振り返り暗い道を眺める秀吉。

 彼は捕らえられていた時の事を思い出したらしい。

 こんな暗い所にずっと居たのかと思うと、ゾッとした。


 街の中に入ると、住民らしき人に声を掛けられた。

 魔王という事は内緒で。

 彼女に念を押して領主が居るロゼの家に行くと、そこは大きな家が建っていた。

 兵士がひっきりなしに出入りしているが、彼女の父は領主でありシュバルツリッターの隊長も兼任していると言った。

 そして領主に会いに部屋に入ると、開口一番で彼女は僕が魔王だと告げるのだった。





 オイィィィ!!

 お前の頭は穴だらけなのか?

 さっき内緒にしとけって言ったよな?

 すぐに約束破ってくれるじゃんかよ。



「えーと、ロゼさん。さっきの話、聞いてました?」


「はい?あぁ、内緒にという話ですね。大丈夫です。ここには父とその配下しか居ませんので」


「いや、そういう意味でなくて」


「父上、彼が魔王だという事は他言無用でお願いします。じゃないと、私達の命が無いです」


「お前、何言ってくれちゃってるわけ!?」


 何この子、ちょっと怖い。

 勝手に自分で暴露しておいて、約束破ったら命は無いとか。

 僕、一言もそんな事言ってないし。



「そうですか。シュバルツの名にかけて、他言しないと約束しましょう。お前達!」


「同じく誓います」


「は、ハァ・・・」


「それで、どの方が魔王様なのですか?」


 既に彼の中で、魔王っぽいのは秀吉だと思い込んでいるようだ。

 視線の先が、秀吉か蘭丸かといった感じだ。

 明らかにミニ太田と僕は論外扱い。

 ハクトと半兵衛は見た感じで、違うかなと思っているんだろう。



「この方が魔王様です」


「そうですか。えっ!?」


 秀吉の方へ手を差し伸べて近寄ろうとした矢先、僕が魔王だと言われて戸惑っている。



「はじめまして領主殿。僕の名は阿久野。魔王をやっている者です」


「悪の魔王!聞いた事がある。帝国軍を蹂躙した悪魔だと」


 こんな可愛い見た目で、誰が悪魔じゃい!

 なんか段々と、風評被害が酷くなっている気がする。



「ハハッ!根も葉もない噂ですな。僕はこんな可愛らしい見た目で、悪魔なんて程遠いですよ」


「そ、そうですね。申し遅れました。私はロゼの父でフランジシュタット領の領主を務めている、アデルモ・フォン・シュバルツです」


 彼と握手をすると、なるほどと思ってしまった。

 明らかに武人の手なのだ。

 又左や慶次達と握手している感じに近かった。

 あそこまで毛むくじゃらではないけど。



「フランジシュタットに住む魔族を、受け入れてくれるという事ですが。誠に感謝します」


「それなんですけど」


「そんな畏まった話し方でなくても良いですよ」


「あ、そうですか?では失礼して」


「貴方と話していると、子供と会話しているとは思えないのでね」


 中身は全くの別物なので、そう思うのも当たり前です。

 ここまでは挨拶という形だが、次からは本題だ。

 彼の本心を確かめないといけない。



「先に確認しておきたい事がある」


「何でしょう?」


「全ての魔族を街から脱出させた後、どうするつもりしてるの?アデルモさん、貴方わざと捕まろうとしてない?」


「何故そんな事を?」


「魔族を脱出させた後、ヒト族の住民は残るよね?その人達の安全を守る為、領主が全責任を負うつもりだと思ったんだけど」


「そうですか。参ったな。流石は魔王様。考えがお見通しだ」


 軽く流して笑ってはいるが、おそらくは重い罰が降るはず。

 それでも魔族を守ろうとしてくれる彼を、僕達は見捨てたくはない。



「ハッキリと言っておこう。その考えは甘い!」


「甘い、ですか」


「まず一つ。貴方が自首したとしても、必ずしも住民が守られるとは言い切れない。同じ街に住んでいた魔族を逃した、共謀罪とでも言うのかな?そういう事で罰せられる可能性もあるよね」


「私が脅して、やらせたと言えば良いでしょう」


「次、貴方が居なくなった街を治める人が居ない」


「私が娘を、後継者指名しておけば良いのでは?もしくはシュバルツリッターの中から、優秀な者を選びますが」


「それね、多分無理。まず、反逆した領主の娘なんか信用されない。それと同じ理由で、反逆者が指揮していた騎士隊から選ばれるはずもない」


「なるほど」


 彼はある程度の予想はしていたっぽいな。

 僕の言葉を聞いても、あまり驚いた様子は無い。



「ちなみに唯一ありそうなのは、貴方の娘さん。ロゼとの政略結婚だと思う。それもお飾り的な男が選ばれるだろうね」


「・・・なるほど」


 これは考えていなかったらしい。

 明らかに声が違う。



「僕の想像する最悪のシナリオは、無能な男との政略結婚により、王都の言いなりになる事。そして反逆者を出したという理由から、重税が課される事。魔族を匿うような住民は同罪みたいな理由でね。こうなる頃には貴方は居ない。それでも良いのかな?」


 顔色が変わったな。

 フランジシュタットは王都から遠い。

 今の帝国の在り方が以前と違う事を、そこまで重く受け止めていなかったんだろう。



「ど、どうすれば良いと思いますか?」


「そこで貴方に相談だ」


「相談?」


 フランジシュタットの人々、分け隔てなく全員を助ける。

 そう、ここからが本題なのだ。



「貴方はフランジシュタットという街と住民、どちらを取りますか?」


「どういう意味ですかな?」


「魔族を逃した後に自首をすれば、フランジシュタットという街自体は残る。だけど、残された人々に何が起きるかは分からない」


「住民を選ぶというのは?」


「フランジシュタットという街を捨てて、魔族もヒト族も全員で逃げる」


「馬鹿な!そんな事出来るわけが」


「出来る!」


 と思う。

 チラッと半兵衛を見たけど、うん。

 自信はありそうな顔をしている。



「しかし、もし住民全員で街を捨てたとしよう。その後、我々は何処へ行けば良いのですか?」


「安土に来ても良いし、他の都市に行っても良い」


「魔族が我々を受け入れると?」


「全ての都市で受け入れてくれるかは、僕にも正直分からない。若狭とか上野、それに長浜はヒト族の商人だって来る。移住するヒト族が出ても、大丈夫じゃないかな?それと・・・」


 僕はアデルモの耳元に口を持っていき、とある重要な事を話した。



「バスティアン陛下、今は安土に住んでるよ」


「えっ!?」


「ハッハッハ!初めて素の顔をしたね」


 驚く彼に人差し指を口に当てて、内緒だと伝えた。

 まさかという顔をしていたが、僕の顔を見てからは呆れたような顔で頷いた。



「・・・少し時間を頂いてもよろしいですか?私の一存で決める事ではないと思うので」


「そうだね。住民にも選択権はある。フランジシュタットから離れたくない人も居るだろうし、話し合いはするべきだと思うよ」


「ありがとうございます。なるべく早く終わらせますので」




 部屋から出ると、アデルモは黒騎士の一人に指示を出した。

 どうやら街の広場に、住民全員を集めるらしい。



「夕刻に、この街の存亡に関わる重要な話をする。必ず集まるように伝えて回れ」


 彼の一言で走り出す黒騎士達。

 外を見ると、一斉に四方へ散らばっていった。

 確かに通常の帝国兵より、動きに無駄が無い。



「それじゃ、僕達は話し合いが終わるまでは休もうか」


「私の家でお休み下さい。ロゼ、案内して差し上げなさい」


「はい。では、行きましょう」


 ロゼはエタの手を握り、部屋を後にした。




「こちらです」


「お邪魔します」


 うーん、何だろう。

 あんまり領主の家っぽくない。

 もっと貴族って感じの大きな家かと思ったが、一般の家より少し大きいくらいで質素な造りだった。



「あまり貴族の家らしくないでしょう?」


「え?あぁ、そうなのかな?」


「ハッキリ言って良いですよ」


「というか、帝国の貴族の家なんか行った事無いし、知らないから」


「それもそうですね。でも魔族の領主様と比べたら、分かるんじゃないですか?」


 奴等の場合、城だからな。

 それを知らないから言っているんだろうけど、比べたらちょっと可哀想だ。



「とりあえず僕達はここで休憩」


「話し合いには参加しないのか?」


「彼等の事は彼等が決めるべきだろう。僕達が行ったら、話しづらい事もあるはず」


 蘭丸や秀吉、半兵衛は、どうやらその話し合いが気になるらしい。

 太田やハクトは早々に目を閉じている。



「それじゃ申し訳ありませんが、私も広場に行ってきます。エタはここで魔王様達と居なさい」






 数時間後、僕もうたた寝をしていた頃に扉が開いた。

 開いたのは半兵衛だった。



「どうやら結果が出たようです」


「お休み中に申し訳ない。早く伝えなくてはと思いまして」


 半兵衛の後ろには、アデルモとロゼが控えていた。

 どうやら今後の事についての話し合いが、終わったらしい。



「それで、どうする事になった?」


「半分に分かれました。と言っても、分かれたのはヒト族がという事です」


「というと?」


「魔族は全員、魔族の都市や領へ行く事を決断しました」


 それは当然だろう。

 自分達の住みやすい場所は、魔族領なんだから。



「ヒト族の住民に関しては、領主である私と一緒に、安土方面へ向かいます」


「それで、残る人達は?」


「このまま王都軍へ降ります。流石に領主を見限った住民を、手荒く扱うとは思えませんから」


 確かに今なら大丈夫な気もする。

 というより、まだ抵抗を続けているこのタイミングしかないと思う。



「それで、今後はどうなるのかな?」


「降るなら早い方が良い。なので今夜にでも門を開けて、私から逃げ出してきたという体で向こうに行ってもらいます」


「ちなみにちょっと確認だけど、僕達が通った抜け道は住民全員が知ってるの?」


「全員ではないですが、知ってる人は知ってます」


 うーん、あの道を今後使うのは難しいかな。



「魔王様、大丈夫です。作戦に支障はありません」


 僕の考えを理解したのか、半兵衛からの一言があった。



「半兵衛が言うなら安心だ」


「ちょっと待って下さい!そんな簡単に決めて良いんですか?」


 秀吉が異論を唱えてきた。

 彼は半兵衛の凄さを知らない。

 だからこうやって言ってきたのだろう。

 てもそれは、彼なりの心配があるからだと分かるし、咎める事は出来ない。



「安心して下さい。半兵衛ですよ」


「全く意味が分かりませんが」


 僕のちょっとした、一発ギャグアレンジが通用しないだと!?

 というより、軽くキレ気味だな。



「王都軍へ降る人が街から出ていったら、詳しく話をしよう。外に出る人達の耳が何処にあるか、分からないからね。下手な場所から作戦が漏れるのはよろしくない」


 僕の言った事に、皆同意している。

 これはフランジシュタットだけでなく、僕達の命にも関わる事だ。

 数の暴力の前には、魔力が切れたら魔族はひとたまりもないのだから。



「では、もう少しここで待機していて下さい。まずは降る連中を王都軍の方へ向かわせますので」


「承知した。ん?外が騒がしくないか?」


「少々お待ちを」


 アデルモが部屋から出ようとすると、黒騎士が慌ててアデルモ宅の扉を叩いていた。



「どうした?」


「お休みのところすいません!王都軍へ降る連中が、食料を強奪して門を勝手に開けて出て行きました!」


「何だと!?ただの住民が、何故そんな事が出来る!?」


 そしてアデルモは顔色が一瞬で真っ青になる一言を言われた。





「副長が裏切りました!一番隊の複数人を引き連れ、犯行に及んだ模様です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ