表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/1299

抜け道

 もう一着買おうよと言ったら、皆にドン引きされた。

 二人は服が高いから遠慮していたが、そんな事は関係無い。

 僕が二人の制服姿を見たいから買うのだ。


 翌日、帝国領内へ向かおうとすると、秀吉が同行を買って出た。

 魔法には自信があるという事なので、力になってくれるはずだ。


 トライクに興味津々な秀吉とロゼを乗せ、いよいよ帝国領内へと潜入した。

 その矢先に敵の補給部隊と遭遇したのだ。

 やり過ごす事も出来るが、ここで敵の増強を見逃すのは勿体無い。


 王国では一切活躍の場が無かった慶次を筆頭に、奴等の包囲を完成させた。


 慶次が暴れ、ラコーンとイッシーによる包囲にわざと穴を空けた。

 すると、そこには待ち構えていた太田、蘭丸とハクトの連携で一網打尽にされていった。

 命令は殲滅だったのだが、蘭丸がどうやら自分で考えて、一人だけ捕虜として捕まえたらしい。

 よくよく考えると、フランジシュタットの様子を聞くのに丁度良かった。

 蘭丸グッジョブである。

 彼の話では、フランジシュタット領は未だに陥落しておらず、黒騎士の頑張りで耐えているとの事だった。





 命惜しさにペラペラと喋ってくれる男。

 しかし凄いな。

 ロゼがこっちに来る前から戦っているのだから、約1ヶ月は籠城しているって事になる。



「フランジシュタットを襲っているリーダーは誰だ?それと包囲している人数は?」


「我が軍は今、二万の軍勢でフランジシュタット領の都市、フランジシュタットを包囲しています。指揮官はセードルフ准将ですが、指揮系統から外れている召喚者が二人居ます」


「二人?能力は?」


「私もそこまではちょっと・・・」


 チッ!

 まあ相手が准将と召喚者二人ってのは分かった。

 しかし問題は、二万という数だろう。

 こんなに多いと、逃げるにしても見つかる可能性がかなり大きい。



「ロゼ、黒騎士は何人なんだ?」


「約五千と聞いております」


「四倍か。よくここまで守れたな」


「シュバルツリッターは選抜試験がとても厳しいです。首都の国軍とは、練度が違います」


 ロゼの目が捕まっている彼を見て、蔑むように言い放った。

 というか、彼女も二人だけでよく長浜の方まで逃げてきたなと思う。

 彼女もある程度は戦えそうな気がする。



「ただいま戻りました」


 あ、存在を忘れてた。

 全然見なかったけど、やられたわけじゃないとは思っていたが。



「秀吉は何処に行ってたの?」


「包囲を抜けた連中を倒してたんですけど。アレ?私、何もしてないと思われてました?」


「そ、そんなわけ無いでしょ!キミの活躍は、織り込み済みですよ」


「嘘くさいですね。でも流石は安土の人達は優秀ですね。抜けてきたのは一人だけでしたよ」


「それを見つける秀吉も凄いと思うよ」


 まさか、ちゃんと仕事してるとは。

 てっきり安全な場所にでも、逃げていたのかと思った。



「キミの持ってきた物は、僕達がありがたく頂くとしよう」


「そ、それはもう、全然構わないですが・・・」


 聞く事は聞いた。

 既に用は無いんだけど、だからと言って無抵抗な奴を殺すのもどうかと思うし。



「命だけはお助けを!」


 僕が何を考えているのか分かったらしい。

 フランジシュタットの街に入るまでは、連れていくかな。





 さて、問題は山積みだ。

 まず、帝国軍に包囲された街に、どうやって入るか。

 そして、街の皆を全員、どのようにして脱出させるか。

 大きな問題はこの二つ。



「抜け道とか、無いよね?」


「あります」


「あるのかよ!」


 そんな物が用意されているなんて、ただの街とは思えないな。

 ロゼの言葉には、結構驚いてしまった。



「ただし、流石にこの人数ではバレると思います。それに馬やこのトライクという乗り物は、大きくて通るのは難しいです」


「じゃあ、二人が乗ってきた馬は?」


「先に出た者が外で準備していた馬になります」


 という事は、二手に分かれる必要がありそうだな。



「馬が多いラコーンや真イッシーの部隊は、街の外で待機。それと太田も大きくて目立つから」


「小さくなりますぞ!」


「そういえばそうだね。じゃあ中に入るのは太田と蘭丸とハクト。それと半兵衛に秀吉で」


「拙者は?」


「外の方が良いだろ。多分、大きな戦闘は外になるから」


「任せてほしいでござる」


 負けないとは思うが、多勢に無勢。

 二人の部隊でも、万を超える敵には勝てない。

 だから、万には負けても千には勝てそうな慶次を置いていこうと思った。



「敵さんはどの辺りが本陣かな?」


 振り返って、縄で縛られたトライクの後部座席に座っている男に尋ねた。



「セードルフ准将が何処に陣を敷いているかは、私も分かりません。いかんせん、これから向かうところだったので」


 すぐに殺されないと分かってから、彼は落ち着きを取り戻した。

 思った以上に、こちらに協力してくれている。



「アンタ、何故急に協力的になったんだ?」


「え?」


 蘭丸が突然、そんな事を聞いたもんだから、驚いて声が裏返っている。

 でも、それは僕も気になるところだ。



「協力的に感じますか?そうですか。何だろう、この派兵には少し疑問があるから?」


「それは、王子の批判かい?」


 秀吉が嫌味っぽく聞いているが、彼は首をブンブン横に振っていた。



「とんでもない!王族に逆らうなんて、そんな大それた事出来ませんよ」


「じゃあ何故?」


「うーん、何故魔族を全員捕まえる為だけに、こんな大軍を出したのかなと。しかも王都から遠く離れた、国境に近い街ですよ?そこまで重要なのかなって、後ろに座らされてから思ったんですよね」


「名目はともかく、国の手足となる者達がそんな事を考えたら、駄目なのでは?」


「勿論、言いたい事は分かります。命令されれば動きますが、理由を考えるくらいは許されませんかね?」


「私なら、深く考えて動きが鈍くなるなら、あまり考えてほしくないというのが本音です」


 秀吉と彼の会話を聞く限り、双方の考えの違いが顕著になった。


 元々、上に立つ側と指示を出される側だ。

 そりゃ、考えに違いがあってもおかしくない。



「まあまあ、その辺で落ち着いて。秀吉様も捕虜のおっさんも、そこまで熱くならなくて良いから」


 ラコーンが間に入った事で、この話は一旦終わりを告げた。



「でも、そういう考えで協力してくれるって分かったら、あまり嘘を言っているって気にはならないよね?」


「ハクトの言う通りだな。だから俺達も、このおっさんを無碍に扱うのはやめてあげよう」


「そう言ってもらえると、助かります」


 ここまで来ると、あんまり命を取ろうとか考えなくなる。

 出来れば、寝返ってくれると助かるんだけどね。



「とりあえず、抜け道まで行ってみよう」





「ここです」


 出入口は草に覆われていて分かりづらい。

 どうやら見つからないように、元々カモフラージュされているみたいだ。



「この近くで屯していても、出入口がバレる可能性がある。二人の部隊と慶次は、見つからないように離れた所で待っていてくれ」


「了解しました」



 部隊の馬が離れた事を確認した後、茂みの奥へと入っていく。

 すると、小さな地下へ降りる階段があった。



「この階段を抜けると、フランジシュタットの中に入る事が出来ます」


「早速行ってみよう」


 ハッキリ言おう。

 地面にある地下へ降りる階段とか、ゲームみたいで結構唆る。

 僕の中では、ファンタジー世界でやってみたかった事上位に入っていた。

 ちなみに他にも、ダンジョンに入ってみたいというのも上位に当たる。

 いつかダンジョン探しもしたいと思う。


 降りていくと、中は真っ暗だった。



「松明が近くに用意してあります。えと、どの辺だったかな?」


 手探りで辺りに手を伸ばすロゼ。

 だが、その前に僕が光魔法を使った。

 蘭丸の持つ槍の穂先が、大きな光を放つ。



「凄い!光魔法なんて初めて見ました」


「魔力消費はそこまで酷くないし、遠くなければこのまま進むけど」


「歩いて二十分くらいですが、どうしますか?」


「このまま進んで良いよ」


 彼女が先頭を歩こうとしたので、待ち伏せの危険を考慮して蘭丸とハクトに任せた。



「少しだけ分かれ道があります。その時は声を掛けて下さい」


 三つほどあった分かれ道を、彼女の言う方へと進んでいく。



「もうすぐです。あっ!」


「どうした!?何か問題でも?」


「いえ、私が我慢すれば良いだけなので・・・」


 どういう意味だろう?

 と思ったのも束の間。

 理由がすぐに分かった。



「ロープか」


 確かにセーラー服とブレザーの制服コンビである姉妹は、このロープを登るのは問題があった。

 スカート姿では、目のやり場に困るのだ。



「大丈夫です!我慢します!」


「いや、我慢しなくて良いだろ。太田、元の姿に戻って背負ってくれ」


「御意」


 欠片を返してもらい、元に戻った太田はロゼを背負った。



「先に登って待っています」


「エタは慶次が居ないし、蘭丸に背負ってもらいな」


「俺?」


「いつか子供出来るだろ」


 ちょっと自分で言ってて釈然としなかったが、事実なのでその思いを飲み込んだ。


 あー、彼女とか羨ましいなー。

 なんて考えていると、既に蘭丸も居なかった。



「私達も行きましょう」


 半兵衛が登っていくのを見ていると、秀吉が後ろを気にしていた。



「誰か来ているのか?」


「いえ、なんとなくこの道が、捕まっていた隠し通路に似ているなと思いまして」


「あ、なるほど。トラウマになってる?」


「そこまで酷くはないですよ」


 明るい声で答えてくれたので、僕達が気にするほどじゃないみたいだ。

 というより、トラウマって日本語だっけ?

 あ、長浜は貿易都市だから、そういう言葉も詳しいのか。

 そんな事を考えながら、最後に僕がロープを登った。





 ロープは井戸に繋がっていた。

 桶なんか無かった事を考えると、秘密の抜け道用の井戸なんだろう。


 街の外れだと思われるこの場所は、近くに人は居なかった。



「まずは領主である父に会って下さい」


「分かった」


 彼女の案内で街の中を歩いていると、すぐに住民に見つかった。



「ロゼ様!無事だったんですね!良かった・・・」


「あぁ、ありがとう。それよりも、ここを救ってくださる客人を案内している」


「えっ!?この子供達がですか!?」


 太田も再び子供姿になっている事から、やはり目を引いていた。

 エタに僕と太田。

 小さいのが三人も居るからな。



「この方はこう見えて、まお・・・」


 僕は慌てて、彼女の口を塞いだ。



「こんな所で、魔王が助けに来たなんて言ってみろ。大騒ぎになるのは目に見えている。そしたら、包囲している連中にバレちゃうだろ?下手をすれば、ギリギリ保っているこの均衡も、総攻撃を掛けられて崩れるかもしれない。僕達の扱いは、慎重に行うように」


 小声で伝えると、彼女はコクコクと頷いた。



「彼等は特殊な魔法が使えます。皆が逃げる時に役に立つと、長浜の方々が派遣してくれました」


「なんと!長浜の方々でしたか。遠路はるばる、このような危険な場所に足をお運びいただき、ありがとうございます」


「子供の僕達に、そんな丁寧な話し方は不要です。それよりも、領主に会いに行きましょう」




 デカイ家だな。

 一発で貴族の家だと分かる。

 だけど煌びやかというよりは、重厚感がある家だと思う。



「我が家です。今はこのような時なので、丁寧なおもてなしは出来ませんがご容赦下さい」


「それは当たり前だよ。しかし兵士の出入りが多いね」


「シュバルツリッターの隊長は私の父なので、その為でしょう」


「えっ!?領主が騎士の隊長も兼任してるの!?」


 凄いな。

 領主という守られるべき人が、最前線で戦うのか。

 なんとなく、この黒騎士連中の強さの秘密が分かったかもしれない。


 一番奥にある部屋の扉の前に着いた。

 彼女はノックをした後、返事も待たずに扉を開けた。



「失礼します。父上、援軍として魔王様をお連れしました」





「ロゼか!よく帰った!援軍に来てもらえるとは。えっ?魔王様?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ