抜け道
もう一着買おうよと言ったら、皆にドン引きされた。
二人は服が高いから遠慮していたが、そんな事は関係無い。
僕が二人の制服姿を見たいから買うのだ。
翌日、帝国領内へ向かおうとすると、秀吉が同行を買って出た。
魔法には自信があるという事なので、力になってくれるはずだ。
トライクに興味津々な秀吉とロゼを乗せ、いよいよ帝国領内へと潜入した。
その矢先に敵の補給部隊と遭遇したのだ。
やり過ごす事も出来るが、ここで敵の増強を見逃すのは勿体無い。
王国では一切活躍の場が無かった慶次を筆頭に、奴等の包囲を完成させた。
慶次が暴れ、ラコーンとイッシーによる包囲にわざと穴を空けた。
すると、そこには待ち構えていた太田、蘭丸とハクトの連携で一網打尽にされていった。
命令は殲滅だったのだが、蘭丸がどうやら自分で考えて、一人だけ捕虜として捕まえたらしい。
よくよく考えると、フランジシュタットの様子を聞くのに丁度良かった。
蘭丸グッジョブである。
彼の話では、フランジシュタット領は未だに陥落しておらず、黒騎士の頑張りで耐えているとの事だった。
命惜しさにペラペラと喋ってくれる男。
しかし凄いな。
ロゼがこっちに来る前から戦っているのだから、約1ヶ月は籠城しているって事になる。
「フランジシュタットを襲っているリーダーは誰だ?それと包囲している人数は?」
「我が軍は今、二万の軍勢でフランジシュタット領の都市、フランジシュタットを包囲しています。指揮官はセードルフ准将ですが、指揮系統から外れている召喚者が二人居ます」
「二人?能力は?」
「私もそこまではちょっと・・・」
チッ!
まあ相手が准将と召喚者二人ってのは分かった。
しかし問題は、二万という数だろう。
こんなに多いと、逃げるにしても見つかる可能性がかなり大きい。
「ロゼ、黒騎士は何人なんだ?」
「約五千と聞いております」
「四倍か。よくここまで守れたな」
「シュバルツリッターは選抜試験がとても厳しいです。首都の国軍とは、練度が違います」
ロゼの目が捕まっている彼を見て、蔑むように言い放った。
というか、彼女も二人だけでよく長浜の方まで逃げてきたなと思う。
彼女もある程度は戦えそうな気がする。
「ただいま戻りました」
あ、存在を忘れてた。
全然見なかったけど、やられたわけじゃないとは思っていたが。
「秀吉は何処に行ってたの?」
「包囲を抜けた連中を倒してたんですけど。アレ?私、何もしてないと思われてました?」
「そ、そんなわけ無いでしょ!キミの活躍は、織り込み済みですよ」
「嘘くさいですね。でも流石は安土の人達は優秀ですね。抜けてきたのは一人だけでしたよ」
「それを見つける秀吉も凄いと思うよ」
まさか、ちゃんと仕事してるとは。
てっきり安全な場所にでも、逃げていたのかと思った。
「キミの持ってきた物は、僕達がありがたく頂くとしよう」
「そ、それはもう、全然構わないですが・・・」
聞く事は聞いた。
既に用は無いんだけど、だからと言って無抵抗な奴を殺すのもどうかと思うし。
「命だけはお助けを!」
僕が何を考えているのか分かったらしい。
フランジシュタットの街に入るまでは、連れていくかな。
さて、問題は山積みだ。
まず、帝国軍に包囲された街に、どうやって入るか。
そして、街の皆を全員、どのようにして脱出させるか。
大きな問題はこの二つ。
「抜け道とか、無いよね?」
「あります」
「あるのかよ!」
そんな物が用意されているなんて、ただの街とは思えないな。
ロゼの言葉には、結構驚いてしまった。
「ただし、流石にこの人数ではバレると思います。それに馬やこのトライクという乗り物は、大きくて通るのは難しいです」
「じゃあ、二人が乗ってきた馬は?」
「先に出た者が外で準備していた馬になります」
という事は、二手に分かれる必要がありそうだな。
「馬が多いラコーンや真イッシーの部隊は、街の外で待機。それと太田も大きくて目立つから」
「小さくなりますぞ!」
「そういえばそうだね。じゃあ中に入るのは太田と蘭丸とハクト。それと半兵衛に秀吉で」
「拙者は?」
「外の方が良いだろ。多分、大きな戦闘は外になるから」
「任せてほしいでござる」
負けないとは思うが、多勢に無勢。
二人の部隊でも、万を超える敵には勝てない。
だから、万には負けても千には勝てそうな慶次を置いていこうと思った。
「敵さんはどの辺りが本陣かな?」
振り返って、縄で縛られたトライクの後部座席に座っている男に尋ねた。
「セードルフ准将が何処に陣を敷いているかは、私も分かりません。いかんせん、これから向かうところだったので」
すぐに殺されないと分かってから、彼は落ち着きを取り戻した。
思った以上に、こちらに協力してくれている。
「アンタ、何故急に協力的になったんだ?」
「え?」
蘭丸が突然、そんな事を聞いたもんだから、驚いて声が裏返っている。
でも、それは僕も気になるところだ。
「協力的に感じますか?そうですか。何だろう、この派兵には少し疑問があるから?」
「それは、王子の批判かい?」
秀吉が嫌味っぽく聞いているが、彼は首をブンブン横に振っていた。
「とんでもない!王族に逆らうなんて、そんな大それた事出来ませんよ」
「じゃあ何故?」
「うーん、何故魔族を全員捕まえる為だけに、こんな大軍を出したのかなと。しかも王都から遠く離れた、国境に近い街ですよ?そこまで重要なのかなって、後ろに座らされてから思ったんですよね」
「名目はともかく、国の手足となる者達がそんな事を考えたら、駄目なのでは?」
「勿論、言いたい事は分かります。命令されれば動きますが、理由を考えるくらいは許されませんかね?」
「私なら、深く考えて動きが鈍くなるなら、あまり考えてほしくないというのが本音です」
秀吉と彼の会話を聞く限り、双方の考えの違いが顕著になった。
元々、上に立つ側と指示を出される側だ。
そりゃ、考えに違いがあってもおかしくない。
「まあまあ、その辺で落ち着いて。秀吉様も捕虜のおっさんも、そこまで熱くならなくて良いから」
ラコーンが間に入った事で、この話は一旦終わりを告げた。
「でも、そういう考えで協力してくれるって分かったら、あまり嘘を言っているって気にはならないよね?」
「ハクトの言う通りだな。だから俺達も、このおっさんを無碍に扱うのはやめてあげよう」
「そう言ってもらえると、助かります」
ここまで来ると、あんまり命を取ろうとか考えなくなる。
出来れば、寝返ってくれると助かるんだけどね。
「とりあえず、抜け道まで行ってみよう」
「ここです」
出入口は草に覆われていて分かりづらい。
どうやら見つからないように、元々カモフラージュされているみたいだ。
「この近くで屯していても、出入口がバレる可能性がある。二人の部隊と慶次は、見つからないように離れた所で待っていてくれ」
「了解しました」
部隊の馬が離れた事を確認した後、茂みの奥へと入っていく。
すると、小さな地下へ降りる階段があった。
「この階段を抜けると、フランジシュタットの中に入る事が出来ます」
「早速行ってみよう」
ハッキリ言おう。
地面にある地下へ降りる階段とか、ゲームみたいで結構唆る。
僕の中では、ファンタジー世界でやってみたかった事上位に入っていた。
ちなみに他にも、ダンジョンに入ってみたいというのも上位に当たる。
いつかダンジョン探しもしたいと思う。
降りていくと、中は真っ暗だった。
「松明が近くに用意してあります。えと、どの辺だったかな?」
手探りで辺りに手を伸ばすロゼ。
だが、その前に僕が光魔法を使った。
蘭丸の持つ槍の穂先が、大きな光を放つ。
「凄い!光魔法なんて初めて見ました」
「魔力消費はそこまで酷くないし、遠くなければこのまま進むけど」
「歩いて二十分くらいですが、どうしますか?」
「このまま進んで良いよ」
彼女が先頭を歩こうとしたので、待ち伏せの危険を考慮して蘭丸とハクトに任せた。
「少しだけ分かれ道があります。その時は声を掛けて下さい」
三つほどあった分かれ道を、彼女の言う方へと進んでいく。
「もうすぐです。あっ!」
「どうした!?何か問題でも?」
「いえ、私が我慢すれば良いだけなので・・・」
どういう意味だろう?
と思ったのも束の間。
理由がすぐに分かった。
「ロープか」
確かにセーラー服とブレザーの制服コンビである姉妹は、このロープを登るのは問題があった。
スカート姿では、目のやり場に困るのだ。
「大丈夫です!我慢します!」
「いや、我慢しなくて良いだろ。太田、元の姿に戻って背負ってくれ」
「御意」
欠片を返してもらい、元に戻った太田はロゼを背負った。
「先に登って待っています」
「エタは慶次が居ないし、蘭丸に背負ってもらいな」
「俺?」
「いつか子供出来るだろ」
ちょっと自分で言ってて釈然としなかったが、事実なのでその思いを飲み込んだ。
あー、彼女とか羨ましいなー。
なんて考えていると、既に蘭丸も居なかった。
「私達も行きましょう」
半兵衛が登っていくのを見ていると、秀吉が後ろを気にしていた。
「誰か来ているのか?」
「いえ、なんとなくこの道が、捕まっていた隠し通路に似ているなと思いまして」
「あ、なるほど。トラウマになってる?」
「そこまで酷くはないですよ」
明るい声で答えてくれたので、僕達が気にするほどじゃないみたいだ。
というより、トラウマって日本語だっけ?
あ、長浜は貿易都市だから、そういう言葉も詳しいのか。
そんな事を考えながら、最後に僕がロープを登った。
ロープは井戸に繋がっていた。
桶なんか無かった事を考えると、秘密の抜け道用の井戸なんだろう。
街の外れだと思われるこの場所は、近くに人は居なかった。
「まずは領主である父に会って下さい」
「分かった」
彼女の案内で街の中を歩いていると、すぐに住民に見つかった。
「ロゼ様!無事だったんですね!良かった・・・」
「あぁ、ありがとう。それよりも、ここを救ってくださる客人を案内している」
「えっ!?この子供達がですか!?」
太田も再び子供姿になっている事から、やはり目を引いていた。
エタに僕と太田。
小さいのが三人も居るからな。
「この方はこう見えて、まお・・・」
僕は慌てて、彼女の口を塞いだ。
「こんな所で、魔王が助けに来たなんて言ってみろ。大騒ぎになるのは目に見えている。そしたら、包囲している連中にバレちゃうだろ?下手をすれば、ギリギリ保っているこの均衡も、総攻撃を掛けられて崩れるかもしれない。僕達の扱いは、慎重に行うように」
小声で伝えると、彼女はコクコクと頷いた。
「彼等は特殊な魔法が使えます。皆が逃げる時に役に立つと、長浜の方々が派遣してくれました」
「なんと!長浜の方々でしたか。遠路はるばる、このような危険な場所に足をお運びいただき、ありがとうございます」
「子供の僕達に、そんな丁寧な話し方は不要です。それよりも、領主に会いに行きましょう」
デカイ家だな。
一発で貴族の家だと分かる。
だけど煌びやかというよりは、重厚感がある家だと思う。
「我が家です。今はこのような時なので、丁寧なおもてなしは出来ませんがご容赦下さい」
「それは当たり前だよ。しかし兵士の出入りが多いね」
「シュバルツリッターの隊長は私の父なので、その為でしょう」
「えっ!?領主が騎士の隊長も兼任してるの!?」
凄いな。
領主という守られるべき人が、最前線で戦うのか。
なんとなく、この黒騎士連中の強さの秘密が分かったかもしれない。
一番奥にある部屋の扉の前に着いた。
彼女はノックをした後、返事も待たずに扉を開けた。
「失礼します。父上、援軍として魔王様をお連れしました」
「ロゼか!よく帰った!援軍に来てもらえるとは。えっ?魔王様?」