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帝国領内への潜入

 ハクトは魔法の書が欲しいらしい。

 戦力強化を考える彼は、新たな魔法を覚えたいのだろう。

 邪悪と魔芽の血という、あまり入りたくない名前の店に、魔法の書が多いと教えてもらった。

 使えそうな魔法は毒魔法くらいかと思われたが、最後に出てきた魔法がとにかく変わり種だった。

 変わり種である音魔法は、言葉の意味をそのまま伝えるような魔法らしい。

 寒いと言えば寒く感じ、熱いと言えば熱く感じる。

 聞こえた人全てに影響があるせいか、味方にも被害が及ぶという話だった。

 なかなかクセの強い魔法だが、使えこなせば役に立ちそうな気もする。


 長浜城へ戻ると、既に他の皆は帰ってきていた。

 ロゼとエタは新たな服を着て待っていた。

 その服が、なんと制服だったのだ!

 しかも彼女の年齢は十六歳。

 まさにピチピチのJKと言っても過言ではない。


 だが僕は気付いてしまった。

 これは帝国から入ってきた、最先端であり流行りのファッション。

 社交界で年増なおばさんがこれを着ているかと思ったら・・・。

 許すまじ!!


 ちなみにロゼには、是非ブレザーの方も着ていただきたいと思っております。





 何故だろう。

 とても皆からの視線が痛い。



「こんなに高い服をもう一着だなんて!」


「魔王様、流石にそれは財布がゆる過ぎるのでは?」


「何で?駄目なの?」


 秀吉が勧めたのに、何故か秀吉に高い買い物をし過ぎだと怒られた。

 むしろ長浜に金を落としているのだから、逆に感謝してほしいのだが?



「お姉ちゃんもお揃いの服?」


「そうだよ。エタもお揃いが良いよね?」


「エタ、一緒なら嬉しいな!」


 フハハハ!!

 子供を味方に付ければこっちのもんよ。

 これでロゼも断りづらくなっただろう。



「エタ!アナタ、この服の値段分かって言っているの!?金貨二枚もするのよ!」


「えっ!?高い・・・」


「こんな高い服を二着も買っていただくなんて、私には出来ないわ」


 えっ!?

 ちょっと、エタの様子が・・・。



「ワガママ言ってごめんなさい」


「良いのよ」


「良くないのよ!」


「え?」


 思わずオカマみたいな口調になってしまった。

 だけどね、ハッキリ言おう。

 僕が見たいの。

 可愛い女の子の制服姿とか、この世界に来て見てないの。

 見れる事なら求めたいのよ。

 その為なら、金貨数枚は惜しくないのである!



「明日、買いに行きます。これ、決定事項ね」


「でも・・・」


「お黙り!魔王の命令である。ロゼとエタはもう一着買う事!」


 魔王の命令と言ったからか、誰も反対意見は無かった。

 最初からこうすれば良かった気がする。



「ただのエロガキですね・・・」


 秀吉がボソッと言ったのが聞こえたが、ここで突っ込んだら負けである。

 聞かなかったフリをしよう。





 翌日、新たに服を購入した後、再びフランジシュタット領を目指す為に長浜を出る準備を始めた。



「じゃあテンジ、領主の仕事頑張ってな」


「ありがとうございます。それでは気を付けて」


 挨拶を済ませて門を潜ろうとすると、一頭の馬が走ってくる。

 その背中には、似合わない姿の男が乗っていた。



「待って下さい!私もお手伝いします」


「僕達、帝国領内に行くんだが、それでも良いの?」


「私も魔法なら自信があります。足手まといにはなりませんよ」


 テンジの方を見ても、特に反対意見は無さそうだった。

 彼が長浜を離れる事に関して、問題は無いらしい。



「じゃあ秀吉、よろしく頼むよ」


「お任せ下さい」



 新たに秀吉を加え、僕達は長浜を後にした。





「長浜からだと、どれくらい掛かるかな?」


「この速度であれば、三日もあれば着くと思います」


 トライクの後部座席に、エタと二人乗りをしているロゼ。

 運転手はハクトだ。

 彼は安全運転なので、子供を乗せても問題無いと判断した。



「しかし、このような物まで作られているとは。私を助けに来た時も、乗っていたのですか?」


 トライクに興味津々の秀吉。

 彼も初乗りなので、ドライバーは別人である。

 後ろからハンドルやメーターを覗き込む秀吉は、その作りに驚いていた。



「はぁ、こんな物があるとは。安土は特殊な発展の仕方をしていますな」


「そう?車、馬無しで動く馬車とかもあるよ」


「ホゥ!?それも興味あります」


「機会があったら見せるね」


「よろしくお願いします」


 秀吉は後ろの席から深く頭を下げた。



「これは、魔族の乗り物なんですか?」


「いや、安土専用かな?」


 ロゼもやはり見た事も無い乗り物だったので、興味があるらしい。

 エタは速いと嬉しそうにしているが、暴れると大怪我をするからと伝えてあるので、変な行動はしていなかった。



「魔力を使用してますよね。ヒト族には扱えないんですか?」


「扱えない事もないけど、それにはエンジンという部位を作る必要がある」


「エンジン、ですか?」


「内部で爆発させて、その力を使って走るんだよ。ガソリンが必要だから、エンジン以外にも必要な物が多いかもね」


「なるほど。とても便利な乗り物なので、ヒト族にも扱えないかなと考えていました」


 本当は魔力なんか使わないんだけど、それを敢えて伝える必要は無い。

 帝国とはいずれ、というよりこれから戦う羽目になる。

 わざわざ敵に、便利な物を与える必要など無いのだ。



「ちなみに三日って、休憩して三日だよね?」


「はい、むしろ馬と違って休憩が必要無いようなので、もう少し早いかもしれません」


 運転手は馬と同様に疲れるけど、その辺は分かってないんだろう。

 それに魔力は消費する。

 その辺の休憩は必要なのだ。



「急ぎつつも、事故を起こさないように最新の注意を払ってね」






 帝国領内に入ったらしい。

 何故分かったか。

 簡単だ。

 フランジシュタットを襲っている連中なのか、それともその援軍なのか。

 帝国兵とニアミスしたからだ。



「アレは?味方、ではない?」


「違います。フランジシュタットの兵は、全員黒い鎧を着ています」


「じゃあ敵って事だな」


 人数にして百人くらいか?

 向かっている方向は同じなので、おそらく敵の援軍か補給部隊ってところだろう。



「魔王様、後ろには荷台に食料を載せているようです」


「補給部隊っぽいね」


 ラコーン部隊からの報告で、おそらく補給用の食料を載せているみたいだと分かった。



「ここは敵の補給線を断つ為にも、叩いた方が得策かと」


「半兵衛的には策がある?」


「策は必要ありませんね。こちらの戦力の方が上です。強いて言えば、誰一人逃がさないようにして下さい。我々が帝国内に居る事。そしてフランジシュタット領を解放しようと来ている事がバレるのは、あまり好ましくないです」



 やり過ごせば、僕達の行動がバレる事は無い。

 ただし敵の補給も行われ、フランジシュタットは更に苦境に追い込まれる。

 それならば、多少の危険を冒してでも、奴等の事は全滅させないと問題だろう。

 という事は、ここはこの男の出番だろう。



「慶次!」


「任せるでござる!殲滅殲滅ぅ!」


 名前を呼んだだけで、トライクで爆走して行った。

 既に槍も持っていて、やる気、いや殺る気満々だ。



「ラコーンとイッシーの部隊は、一人も逃がさないように包囲」


「イッシーじゃない。真イッシーだ」


「ハイハイ、頼んだよ」


 二人の指揮で騎馬隊が散っていく。



「蘭丸とハクトは、太田と一緒にこの地点へ行ってくれ」


「あんな離れた所へ?」


「慶次に追われた連中は、ラコーンとイッシーの部隊に挟まれて逃げ場が無くなる。この方向以外にはね」


「俺達は、逃げてきた連中のトドメ役って事か」


「ご名答」


「分かった!任せろ」


 三人もトライクで走っていくと、この場に残ったのは僕と半兵衛とロゼとエタの四人だけだった。



「私達は朗報を待ちましょう」





 慶次の目は血走っていた。

 久しぶりの戦闘で、しかも自分一人しか居ないのである。

 相手の強さも分からずに行くのは本来なら愚策だが、元々何も考えていない。

 もし相手が強くて負けるよりも、強い相手と戦える喜びが勝ってしまうような男だ。

 特に今回、王国でヘマをして迷路で延々と時間を潰した彼は、とにかく暴れられる場所を求めていた。



「拙者が参った!お前等、掛かってこいやあぁぁ!!」


「え?誰?」


 横から訳の分からない乗り物で、叫びながら突撃してくる男を見て、何の危機感も持たなかった男は首を刎ね飛ばされた。

 首から勢いよく血が吹き出すと、ようやく敵襲であると帝国兵は警戒する。



「ぬるい!ぬる過ぎる!危機感が足りない挙句に、実力差も分かっていない!お前等は雑兵だあぁぁぁ!!」


「な、何だあの獣人。一人で来ておいて、おかしな事言ってるぞ!?」


「でも強い!このままだと全滅だ。花火を打ち上げた後に早く本隊と合流するぞ」


 いち早く慶次の異常さに気付いた連中が、救援の花火を上げた。

 その後、本隊の方へと走ろうとする。



「駄目だ!囲まれている」


「敵が居ない方へと走れ!」


 左右を見ると、馬に乗った連中に包囲されている事が分かった。

 しかし危機感が足りないとは、この事だろう。

 一人で暴れているのが獣人なのに対して、囲んでいる連中はヒト族だった。

 それに一切気付かない連中は、魔族の襲撃だと勘違いしていた。



「包囲を抜けられそうだぞ!」


「いや、三人ほど前に立っている。たった三人、気を付けるのはミノタウロスの大男だけだ!倒して抜けるぞ!」


 太田の左右に蘭丸とハクトが立っている。

 二人は敵が前から来ているのを確認して、太田の後ろへ三歩ほど下がった。



「行きますよ?太田、フリイィィィジング!!」


 バルディッシュを地面へと振り下ろすと、放射状に地面が凍っていった。

 脚が急に凍りつき、その勢いから足がもげたり骨折をする馬達。


 中には前の馬を見て、急に止まった馬も居た。

 そう言った馬は脚が凍ったものの、立ち止まっていたので命に別状は無かった。

 馬の命には。


 騎乗していた兵達は、空を舞い氷の上に叩き落とされている。

 走っている馬の上から落馬するのだ。

 やはり軽い怪我では済まなかった。

 動かなくなった連中は、氷の上で痛みに呻きながら転がっている。



「は〜、クリスタル内蔵の武器って、こんなに凄いんだ」


「目の前で見ると圧巻だな。俺も欲しい・・・」


「後でマオくんに頼んでみようね」


「その前に掃除だな」


 蘭丸とハクトは弓を構えると、倒れている男達目掛けてどんどん射抜いていく。



「ま、待ってくれ!俺達が何をし」


 何かを言おうとした男にも、容赦無く矢が刺さる。

 開いていた口に矢が入った男は、そのまま倒れて動かなくなった。



「全員倒していいと思う?」


 蘭丸が太田に尋ねると、太田は少し考える素振りを見せた。



「一人残しましょうか。何か情報が得られるかもしれませんよ?」


「この中で偉そうな人は・・・。あの指揮をしていた人かな?」


 ハクトは走って指示を出していた人の声を、遠く離れた場所から聞いていた。

 呻き声だが、その声と同一人物が生き残っていたのだ。



「よし、他は射抜くぞ」


 蘭丸とハクトの弓が、気付くと何十人もの死体を作り上げていった。





 生き残った一人は、動揺していた。

 何故一人だけ残されたのか?

 少し考えれば分かりそうな事も、頭がパニックになって考えつかない。

 そこに、火魔法や松明で氷を溶かしながらやって来る三人が居た。


「ヒイィ!何でもしますから、殺さないで下さい!」


「じゃあ、後で知っている事を教えてもらおうか」





「あら?全員殲滅じゃなかったっけ?」


「一人だけ生かしておいて、情報を得ようかと思っていたんだが。やっぱり要らない?」


 槍を彼に向ける蘭丸。

 涙から鼻水、ありとあらゆる穴から液体を流して懇願する彼に、今更それは無いなという気持ちにさせられた。

 女の子二人の前で殺すのも、躊躇うし。

 それよりも、彼女達が知りたい情報が得られるかもしれない。



「フランジシュタット領はどうなった?」





「ふ、フランジシュタット領は、未だ健在です。召喚者を投入したけど、黒騎士の連中が耐えに耐え抜いて、落ちていません!」

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