制服とは
半兵衛は、フランジシュタットの領民全員を逃す事を提案した。
それと同時に、彼女が狙われていたのは、配下の者と婚姻させてフランジシュタットを内部から奪うつもりもあると言う。
まずは助ける為に、フランジシュタット領に行くしかない。
だけどその前に、長浜で補給を受ける事にした。
長浜に着くと、僕は刀、ではなく太刀を目にした。
半兵衛はたまに長浜でも売ってると言っていたが、持ち主はほとんど売ってないと言った。
どっちだよ!
買うなら騎士王国という、武士じゃないの?と思わずツッコミを入れたくなる国に行くのが一番だと教えてもらった。
テンジに会いに行くと、城の中は忙しそうに走り回っている人達で混雑していた。
どうやら王国との貿易が原因らしいが、利益に繋がるので頑張ってくれとしか言えない。
そこに快復した秀吉が現れた。
彼は自分の時間が欲しいと、テンジに領主を任せて旅に出るつもりらしい。
安土にも寄ってくれると約束しておいた。
そんな領主達に囲まれたロゼは、身なりがボロボロな事を恥じていた。
半兵衛を伴って服を買いに行きたいと言うので快くOKしたものの、僕は思った。
半兵衛にモテ期が来ていると!
モテていても特定の相手が居ないハクトに、僕は心が癒されるのだった。
「な、何そのセリフ。どうしたの?」
「特に意味は無い。ところで一緒に買い物行かないか?」
「それなら探したい物があるんだけど」
彼が探したいという物は、魔法の書だった。
自分が使えるかは分からないが、基本となる四魔法以外にも覚えたいという事らしい。
僕も大抵の魔法は覚えられるので、新しい魔法の書が手に入るなら願ったり叶ったりだ。
「行ってみよう」
長浜は地区によって、売っている物が違うらしい。
食品街に行っても武器防具は売ってないし、武具街に行っても雑貨品は売ってない。
必要な物はその地区に行くしかないのだ。
「魔法の書って、何処に売ってるんだろう?」
「案内板を見ると、魔法具が一番それっぽいかな」
武具街の隣が魔法具街になっている。
案外、知り合いに会う可能性もありそうだ。
「あ、怪しいね・・・」
「何故こんなに毛色が違うんだ?」
隣の武具街と道を挟んで隣なのだが、昼間なのに明らかに魔法具街は暗く感じる。
それっぽい雰囲気の婆さんが、店の前でタバコを吸っていた。
「ここに魔法の書は売ってますか?」
あんなに怪しい婆さんなのに、ハクトは真っ正面から堂々と聞きに行った。
物怖じしないのは凄いと思う。
「あら、可愛い子だねぇ。悪いけどここには売ってないよ。もう少し奥にある邪悪と魔芽の血という店が、一番魔法の書を置いていると思ったよ」
なんつー店の名前だ。
こんな店が日本にあったら、絶対に入らない。
「ありがとう!お姉さん!」
「イヤだよ!こんなババアを捕まえてお姉さんだなんて!」
なんか、ハクトがモテる理由の一端を見た気がする。
年寄りにも気を使うこの心配りが、人気の秘訣なのかもしれない。
ちなみに僕は、結構思った事を口にするので、多分無理だと思った。
「あった。邪悪と魔芽の血」
「店構えはまだ普通だな」
「魔法具屋の中では、大きいからじゃない?」
「とにかく入ってみよう」
扉を開けると、中には十人くらいの人が物色していた。
客層を見ると、かなり両極端だ。
数人で来ている客は、冷やかし半分の観光客みたいな感じ。
珍しい物を手に取っては、ワイワイ騒いでいる。
片や一人で来ている人達は、目的があって来ている印象だった。
魔道具を手に取っては、真剣な眼差しで見ている。
中にはお試しで使っている人も居た。
「すいません、変わった魔法に関する書物はありますか?」
「変わったというのは?」
「基本の四魔法以外なら、興味あるんですけど」
ネズミ族のおじさんが、ハクトの興味ありそうな本を探してきてくれた。
その中の一冊は、僕も使える毒魔法の本だった。
しかし内容は少し違うみたいだ。
「うーん、使えそうな魔法は毒魔法くらいかな?」
「そうだなぁ。氷とか電気もあるけど、あまり必要無いかな?というより水魔法と風魔法が使えれば、理論が分かればどっちも使えそうだし」
氷や電気の魔法の書は、内容は小学生の理科の教科書に近かった。
何故凍るのか?
どうやったら電気は起こるのか?
そんな事が書いてある。
ぶっちゃけ、スマホでもっと詳しい事が分かる。
それを書き写せば、もっと高性能な魔法の書が出来てしまう。
・・・資金稼ぎに使えそうだな。
「あまりお気に召さないかね?それなら特殊過ぎるから皆覚えようとしないけど、これはどうかな?」
渡されたのは古い魔法の書だった。
しかもかなり安い。
古いから昔からある魔法なんだろうが、何故誰も覚えようとしないのか?
「えーと、何だ?音魔法?」
「そう。これね、どういう魔法か記録には残ってるんだけど、実際に使うと不便で仕方ないんだよね」
「記録には何て残ってるんですか?」
「音魔法は一言で言えば、聞こえた言葉がそのまま魔法になる感じだね。例えば今日は寒いと言えば、聞こえた人は冬のような寒さを感じる事になる」
「じゃあ、身体が燃えるように熱いと言えば?」
「身体に火が付いていると思うだろうね」
何と!
四魔法が使えなくても、言葉だけで同じだけの効力が発揮されるんじゃないか!?
これ、凄い魔法だぞ。
いや、ちょっと待てよ。
そんなに便利なら、何故覚えようとしないんだ?
「デメリットは何だ?」
「デメリット?」
「あー、不便な点」
「あぁ、それね。聞こえた人全員に、魔法が発動するのよ。だからさっき言ったみたいに今日は寒いって言ったら、敵だけじゃなく、隣に居る味方も耳を塞がないと寒くなっちゃう」
「敵味方関係無く、魔法が発動しちゃう感じ?」
「そう。だから味方を巻き込む事故が多発して、被害が大きいんだよね」
んー、それなら耳栓でもすれば良い気がするけど。
「それともう一つ。魔物にはほとんど通用しないから」
「何で?」
「魔物に寒いって言っても、言葉の意味が分からないでしょ?そのせいか、魔物には全くの無反応だったらしいよ」
なるほど。
その説明は分かりやすい。
となると、敵だけに聞かせないと駄目なのか。
これは確かに、使い所が難しい魔法だなぁ。
「うーん」
ハクトもこの説明を聞いて、この書物を買うべきか迷っている。
僕としては、考え方次第では使えなくはないとも思うんだけど。
「・・・買います!」
「珍しいお客さんだね。毎度あり」
ハクトはその音魔法の書物を受け取ると、他にも良い魔法の書が置いてある店はないか、聞いていた。
「駄目か。やっぱり珍しい魔法の書はそうそう無いね」
「毒魔法と音魔法か。でも毒魔法は便利だから、覚えておいて損は無いぞ」
「覚えられればね。買ったは良いけど、修得出来るかは僕次第だし。とりあえず頑張ってみるよ」
魔法の書探しもひと段落した頃、日も傾き、辺りが暗くなってきた。
テンジが夕食を用意すると言っていたし、そろそろ長浜城へ戻った方が良いだろう。
「おかえりなさい。もうすぐ用意が完了しますので、丁度良い時間だと思います」
「ただいま。他の皆は?」
「魔王様達が一番最後です」
予定より時間が掛かってしまったようだ。
テンジがわざわざ挨拶しに来てくれたが、もしずっと待ってたのではと思うと、結構申し訳ない気持ちになった。
「それでは、部屋にご案内します」
この部屋にはラコーンやイッシー達、安土関係のヒト族は居ない。
彼等は連れてきた自分の部下達と街中で食べると言って、遠慮したらしい。
「魔王様!わ、私達の服や靴の代金を支払っていただいたそうで。あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
ロゼとエタが部屋に入るなり、お礼を言ってきた。
が、それどころじゃなかった。
着ているその服に、目を奪われたからだ。
「なっ!?」
「に、似合いませんか?」
「これが帝国から入ってきた、最先端の服です。どうですか?私は似合っていると思ったので、オススメしたのですが」
「秀吉が勧めたのか。あ、いや。似合ってますよ」
何故か最後は敬語になってしまった。
それくらい驚いたからだ。
「と、ところでロゼは今、いくつなのかな?」
「年齢でしょうか?十六になりましたが、何か?」
「そう!良いね、良いと思うよ」
年齢を聞いて、僕は少し安堵した。
もしこれが二十歳を超えていたとしたら、少し痛いと思ったからだ。
彼女の格好、それはセーラー服だった。
間違いなく召喚者の誰かが着ていた。
もしくは、誰かが教えて作ったという事だろう。
僕としては、制服というのは年齢相応の人が着る物だと思っている。
コスプレなら別に気にしないんだ。
それは、前以てそういう目で見る事が出来るから。
でも、普通の制服は違う。
それはあくまでも学校の制服であり、大人が着る物ではない。
【お前、誰にそれ言ってんの?】
勿論兄さんにだよ。
【あ、長そうなので結構です】
聞けよ!
とにかく、彼女が十六歳と聞いて僕は安心したのだ。
「ねえ魔王様?アタシは?」
「ん?エタも似合ってるよ」
エタは多分、五歳前後だろう。
この子はセーラー服ではなく、ブレザーのような服にスカートを履いている。
僕の中では、幼稚園の制服みたいに見えた。
だからとても似合っていると、本当に思っている。
「ちなみにこの服、どれくらいするの?」
「えっと・・・」
水を飲みながらその金額が書かれた紙を見ると、予想以上の金額に吹き出してしまった。
まさか金貨を使う羽目になるとは。
流石は帝国から入ってきた、流行のファッション。
やはり高いんだな・・・。
「ん?これ、帝国から入ってきた最先端のファッションなんだよね?」
「そうですよ。私も聞きました」
秀吉に確認すると、太鼓判を押された。
しかしそうなると、僕の頭の中でとんでもない光景が目に浮かんでしまった。
「秀吉は帝国に行った事は無いよね?」
「当たり前の事を言わないで下さい!」
「そっか」
「何か思い当たる事でも?」
「いやね、これと同じ服装をした人が帝国には沢山居るわけでしょ?どんな人が着てるのかなって思って」
流行りの服と聞いて思った。
これ、年齢関係無く着てるんじゃないかと。
金貨で払ったくらいだ。
高い服だから、平民にはそんな出回ってないと思う。
でも、貴族階級には沢山出回ってるだろう。
それこそセーラー服は色違いとかで、なんかお水の人が着てる安っぽい感じの色とかもありそうな気がする。
そしてここからが肝心だ。
セーラー服やブレザー等の制服を、貴族階級のおば様達が着て社交界に出ていると想像してみろ。
とてもじゃないが、直視出来んぞ。
【あ、あぁ・・・、その考えには至らなかった!確かに痛い!痛過ぎる!】
しかも自分達の異常さに気付かないどころか、最先端の流行ファッションを取り入れましたみたいな、そんなドヤ顔で登場されてみろ。
悪いが、僕には堪えられそうにない。
【前言撤回だ。さっきお前が言った通り、制服は年齢相応の人が着るべきだな。その話を聞いて、強く、とても強くそう思った!】
分かってくれて嬉しいぜ、マイブラザー。
だからこそ、ロゼの制服姿はとても眼福なのだ。
「ロゼ、その服気に入った?」
「えぇ、とても素晴らしいと思います」
「あ、そう?じゃあもう一着買う?今度はブレザーの方で。いや、変な意味は無いよ?エタとお揃いの服があっても、良いかなって思っただけだよ?特に下心みたいなモノはありません。えぇ、ありませんとも。おぢさん、キミの為なら払っちゃうからね」