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長浜の領主と代理

 彼女は自分が狙われている理由が分かっていた。

 それならば、目の前に居るこのおっさんは必要無いという事になる。

 というわけで、尖った枝を渡しておさらばした。

 武器も食料も渡さずに別れた事で悪態を吐いてきたが、どうせ死ぬんだ。

 どうとでも思ってくれていい。


 彼女に詳しい話を聞くと、帝国のフランジシュタットという領を助けてくれという事だった。

 フランジシュタットには魔族も住んでおり、共存していると言う。

 しかしそこに帝国からの通達で、魔族を全員引き渡せとの命令が入った。

 それを領主が断ると、帝国は軍を派遣して強制的な手段に出たらしい。

 シュバルツリッターという強力な兵を持つフランジシュタットも、召喚者達には苦戦していた。


 魔族を領内から逃して、受け入れてほしい。

 彼女の願いを半兵衛に相談すると、それは可能だと言った。

 問題はその後。

 残ったヒト族は無理だと言うのだ。

 半兵衛の考えでは、フランジシュタットを救うのは不可能。

 だが、街を諦めてヒト族も一緒に逃げるというのなら、不可能ではないという話だった。






 領主を含めて全員で逃げるか。

 フランジシュタットの規模が分からないけど、かなりの大移動になりそうな気がする。



「それって、フランジシュタット領を捨てるという事ですか?」


「そうなりますね。もしくは、運が良ければ残れると思いますよ。貴女次第ですが」


「私次第?」


「両親は追放になるでしょう。ただし、貴女方を捕まえようとしたのは、おそらく利用する為。向こうの都合の良い者をフランジシュタットに送り込んで、貴女と婚姻を結ばせるでしょうね。断るなら両親の命は無いとでも言えば、貴女は断れないでしょう?」


 盗賊を使って攫わせようとしたのは、そういう理由か。

 なんとなく背景が見えてきた気がする。



「マトモな方なら、その婚姻を受け入れる事も」


「甘いですね。向こうの傀儡にするのなら、有能な者が来るわけないでしょう?下手をすれば、ロクでもないひとでなしが来る事も考えられます」


 これは彼女には重い選択だな。

 それに両親である領主達も、どういう判断を下すかという点も気になる。

 魔族とも上手くやっている人なら、そこまで無能というわけじゃないと思うが。



「わ、私には決められません!」


「それが普通ですよ」


 穏やかな顔で答える半兵衛に、ロゼは落ち着いた。

 そもそも領主でもない彼女に、選択権も無いと思われる。



「まずはフランジシュタットを助けるなら、我々も行かなければなりません。魔王様、どうしますか?」


「勿論行くに決まっている。ただ、一度補給が必要かな」


 彼女達は馬に乗ってやって来たが、身なりがボロボロだ。

 それに加えてまだ寝ている妹の事を考えれば、少し休憩した方が良い。



「ここからですと、長浜の方が近いです。テンジ様を頼りませんか?」


「そうだね。半兵衛も里帰り出来るし、丁度良いかもしれない」


「半兵衛様は長浜出身なのですか?」


「長浜には、あまり良い記憶はありませんがね。それでもテンジ様に会えるのは楽しみです」


 僕と会う前は、どのような生活をしていたのか分からない。

 だけど、ここまで言い切るのだから、思い出としては相当悪い方なのだろう。

 人の過去を詮索するのは好きじゃないが、正直な話気になる。



「お姉ちゃん?何処?」


「妹が起きたみたいだぞ」


 慶次におんぶされた彼女は、周りを見回すと全く知らない人達に囲まれている事に気付いた。

 最初はおっかなびっくりで泣きそうになったが、姉が無事で穏やかな顔で話しているのを見ると、安心してしまったらしい。

 姉の背中だと思っていたのは犬の獣人の背中で、そのモフモフ具合に再び目が重くなっていく。



「また寝るでござるか!?」


「気持ち良い・・・」


 慶次の背中から、再び寝息が聞こえてくる。



「このまま長浜に行くのでござるか?」


「気持ち良さそうに寝てるからな。起こさないようにしろよ」


「拙者も寝たいでござる・・・」


 とは言うものの、コイツもトライクの後部席に座ってその背に妹をおんぶしているだけである。

 運転してないんだから、文句言える立場ではない。



「まずは長浜だ」





 数日掛けて長浜へ入ると、やはり大きな貿易都市。

 色々な種族が街の中を闊歩している。



「以前より人が増えたな」


「テンジ様の政策が上手くいっているのでしょう」


 それにしても、ヒト族の商人も結構見掛ける。

 色々な物を持っているのを見掛けたのだが、その中の一人が変わった物を持っていた。

 というよりは、腰に差していた。



「ちょっと!アレ売ってるのか!?」


 半兵衛に慌てて話し掛けると、彼も少し珍しそうに見ていた。



「アレ?あぁ、稀に長浜でも売っているのを見ますが、ほとんどが鑑賞用ですね」


「鑑賞用?」


「おそらく使う事は出来ると思います。ただ、大体の人が使い勝手が悪いと言っていて、実際に使っているのは彼の国の人だけですね」


「国!?国があるのか!?」


「有名ですよ。騎士道精神を何より重んじてます」


「騎士道!?そこは武士道だろ!?」


「ブシドー?何ですか、それ」


 世界が違うからなのか?

 あの武器を持っているのに、彼等は騎士に当たるのか。

 しかし、持つなら剣よりこっちが欲しい。

 僕は剣道をやっていたのだから。



「すいません。その刀、売っている人は長浜に居ますか?」


「え?」


「その刀が欲しいんですけど」


「カタナ?これは太刀ですよ」


「太刀?刀とは違うんですか?」


「カタナという物が何か知りませんが、これは我が国で騎士になると賜る太刀という物です」


 ちょっと気になったのでスマホで調べてみたら、太刀の方が刀より長いらしい。

 あと反りも違うとか微妙な差があるものの、ほとんど変わらないと言って良いだろう。



「僕も太刀が欲しいんですけど」


「うーん、僕みたいな子供には危ないかな?それに長浜で太刀を売っている商人はほとんど見掛けないしね。長浜には職人も居ないだろうし、買うなら我が騎士王国に来る方が早いよ」


「騎士王国?」


「はるか東にある異国です。あまり他国や他の領と交友はありませんが、たまにこの人のように、修行の旅に来られる方は居ます」


 半兵衛の説明だと、商人までは貿易都市の長浜ですらあまり来ないみたいだ。

 こんな物があったら、この西洋風世界の中では目立つだろうな。

 是非欲しい!


 彼にお礼を言い、いつか騎士王国なる国に行ってみたいという気持ちが大きくなった。

 あの様子なら、魔族に偏見がある感じでもないし、落ち着いたら行ってみたいと思う。



 それよりもまずは補給が先だな。





「お久しぶりです!魔王様」


「電話連絡だと、ちょこちょこ話すけどね」


「アレは便利ですが、やっぱり直接顔を合わせて話した方が、気持ちが違いますね」


 長浜城を訪れると、すぐにテンジが挨拶に現れた。

 テンジが領主代理に就任してから、だいぶ経つ。

 今では雰囲気も立派な領主だ。



「電話で先に報告を受けた通り、必要物資は既に準備済みです」


「仕事が早いね」


「恐縮です」


 城の中で立ち話をしていると、色々な人が忙しそうに歩いている。

 邪魔になると悪いので、広い部屋へと移動した。



「なんか忙しそうだけど」


「それは王国とのミスリル貿易が原因ですね。今まで取引が一切無かった王国ですから、手続きやら契約書やらが大量に必要なのです」


 もしかしなくても、僕が原因だった。

 すまない、知らないネズミ族の文官達。

 でも王国産の野菜や果物も入るので、それで勘弁してくれ。



「ちなみに代理はいつまで続くんだ?」


 既に領主代理になって長いと言ったが、秀吉は療養生活がまだ続いているのか?

 流石に完治していても、おかしくないのだが。



「いや〜、このまましばらく続く事になりました」


「何故?」


「それが・・・」


「お久しぶりです。魔王様」


 そこに現れたのは、キッチリした濃紺のスーツに身を包んだ秀吉だった。

 今ではすっかり元気になり、身体つきも以前と比べてしっかりしている。

 痩せているというより細マッチョに近い。

 しかし何故スーツ?



「ひ、久しぶりだな。というか、その服装は?」


「似合いませんか?帝国から来た商人が売ってくれたのですが」


 召喚者にサラリーマンでも居たのかな?

 しかしこのスーツ姿、秀吉の印象とマッチしてやり手の外資系企業のサラリーマンに見える。

 日本に居てもおかしくないくらい、似合っていた。



「凄い似合ってるよ。でも、そんなに元気なのに、何故領主に復帰しないんだ?」


「私もしばらくは自分の時間が欲しいと思いました。今ではテンジも、すっかり領主代理として仕事をこなしています。ならば魔王様の為に見聞を広めるのも、重要な役目だと思いましてね」


「そう言って、自由気ままに過ごしたいだけじゃないの?」


「ハハ!バレましたか?長い間囚われていましたから。その分、外に出たくなったのですよ」


 隠し部屋でずっと監禁生活をしていたのだから、それも仕方ないのかな?

 それが分かっているから、テンジも領主代理の仕事を延長しているのかもしれない。



「秀吉様、どうせならこのまま魔王様と安土に行かれては?」


「それは面白い!私も安土へご一緒しても良いですか?」


「うーん、それがね・・・」


 二人に安土へ戻る前に、フランジシュタット領へ行く事を話した。

 後ろに居る女性が領主の娘である事。

 そしてフランジシュタット領が、今召喚者に襲われている事を伝えた。



「は、はじめまして。フランジシュタット領主の娘、ロゼと申します」


「こっちが長浜の領主で、今は領主お休み中の秀吉。こっちが彼の領主代理をしているテンジ」


「いきなり領主様に会うなんて、思いもしませんでした!しかもこのような汚い格好で・・・」


 そういえば、格好はボロボロだった。

 このままだと可哀想なので、街で新しい服を買う方が良いだろう。



「慶次、二人と一緒に服を買いに行ってきて」


「拙者!?女性の服なんか分からないでござるよ!」


「お前にそんな事求めてない!護衛役だよ。長浜は色々な場所から人が来る。帝国から内密にスパイのような連中が来ても、お前なら対応出来るはずだ」


「なるほど。そういう理由なら納得でござる。さあ帝国兵よ!拙者に挑んでくるでござる!」


 来ない方が良いに決まってるのに、既に奴の中では襲われる事前提らしい。



「でしたら、半兵衛様もご一緒に行かれませんか?」


「私ですか?」


「どうかお願いしたいのですが」


 僕とテンジを見てきたが、テンジは行ってきなさいといった目だった。

 だったらと、僕も同じく問題無いと告げた。



「お許しも出たので」


「ありがとうございます!」


「それなら私が、長浜の最先端ファッションを教えましょう」


「最先端ですか?あ、ありがとうございます」



 何故か秀吉も、一緒に見て回ると言う。

 スーツを着ている事といい、彼はファッションにうるさいのかもしれない。



「いってらっしゃい」



 ロゼとその妹のエタ。

 慶次と半兵衛、そして街の案内を買って出た秀吉が、城から出て行った。



「魔王様はどうされるのですか?」


「予定も無いし、蘭丸達とブラブラしてくるよ」


「そうですか。では食事を用意して待っております」


 テンジもそう言って、仕事に戻っていった。

 やはり忙しそうだな。





 しかし半兵衛とロゼを見ていると、何かこう悶々とした気持ちになる。

 蘭丸とセリカを見ているような、そんな気持ちだ。


【ロゼの方が半兵衛に興味ありそうだよな。ヒト族なのに魔族に偏見が無いし】


 うーん、確かに半兵衛は見た目僕達よりちょっとは年上っぽく見える。

 だったら僕達だって、そういう対象になっても良くない?


【そうだよなぁ。慶次は妹の方に好かれてるし】


 アレは別に良い。


 よくよく考えると、ハクトってモテるけど特定の相手が居ない。

 羨ましい事に変わりはないが、それでも何故か少し親近感が湧く。



「マオくん、僕の顔見てどうしたの?」





「おぉ、心の友よ!どうか特定の彼女を作らずに、僕達と一緒に居てくれよな」

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