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盗賊に狙われた女

 二人はやはり一度離れるつもりのようだ。

 蘭丸は魔法を駆使した戦い方を考える為。

 ハクトは魔法を教わる為に、ちゃんとした魔法使いに教わりたいと言っていた。


 そこで思い出したのが、鶴の仙人であるセンカクという爺さんの事だ。

 彼ならどちらも知っているのでは?

 二人に仙人の話をすると、まずハクトが乗り気になった。

 そして蘭丸をその案に乗り、僕達は一度安土へ戻った後、三人で仙人に修行を見てもらう事にしたのだった。


 草津を離れ、一路次の目的地である長浜へ向かった。

 その途中、魔物の襲撃に遭ったので、ここは蘭丸とハクト。

 そして罰ゲーム的にロックに任せる事にした。

 蘭丸は支援魔法をハクトにお願いして、魔物を撃退。

 ロックは合気道から何故か途中でプロレスラーになっていたが、無事に倒す事に成功した。


 するとハクトが、まだ馬が迫ってきていると皆に伝える。

 兄も身体強化で確認すると、どうやら魔物ではないようだった。

 茂みの中を越えてきたのは、馬に乗った女性とそれを追う男達だった。





 眠っていると思われる妹らしき小さな子が、馬からずり落ちそうになる。



「危ない!」


 ハクトが叫ぶと、それを感じ取った慶次がすぐに抱き抱える事に成功した。



「私はこのまま奴等の気を引きます。妹だけは助けて下さい!」


「待て。お前、誰に追われているんだ?」


「盗賊です」


 話している間に、五頭の馬が姿を見せた。

 背中には大きく反った剣や短剣、弓を持った盗賊が乗っている。



「お前達、その女を渡せば・・・魔族だと!?クソッ!もう上野国の領内だったか!」


「領内?お前達、何処から来たんだ?」


 振り返って女に尋ねると、疲れがピークなのか息切れが激しくて答えは無かった。

 だったら目の前の連中に聞くとしよう。



「お前等、何処から来たんだ?」


「おっ?ダークエルフのガキだ。コイツも連れ帰って売ろうぜ!」


 全く答える気が無いらしい。

 それなら話す気になってもらおうか。



「太田」


「御意」


「お?コイツもなかなか顔が良い。高く売れるんじゃないか?」


「元の姿に戻って良いぞ」


 太田に渡した魂の欠片を受け取ると、人間風の顔をした子供から元のミノタウロスの姿へと戻った。

 それを見た盗賊は、慌てて後ろに下がった。



「何だ!?魔法か!」


「フン!」


 近くにあった石を馬目掛けて投げると、尻に当たり暴れ始めた。

 しかし盗賊も慣れたもので、すぐに馬を落ち着かせる。



「野郎!」


「なかなか悪くない腕ですね」


「仲間を呼べ!コイツ等を倒せば、金目の物が手に入りそうだ!」


 ヒト族の割には魔族に対しても、そこまで恐れが無いらしい。

 どうやら相手が誰か分かってないからか、勝てると信じているようだ。



「拙者も!」


「お前はその子を守るのが仕事」


「そんな!」


「何人来るか分からないし、最後の砦としてお前は控えていろ」


 慶次の不満そうな顔を見て出すか迷ったが、やはりこの中でも強い慶次に守らせるのがベストだと思った。

 太田でも良いのだが、獣人である慶次の方が五感が鋭い。

 不意打ちされない為にも、この方が良いだろう。



「結構多いぞ!?」


「百人くらいは居るんじゃない?」


「どうだ!驚いたか?金目の物とお前達を置いていけば、他の連中は殺さなくもない」


 完全に優位に立ったと思っている盗賊。

 人数が人数だからなんだろうが、それもすぐに顔色を悪くするのだった。



「誰だコイツ等?」


「追いついたか」


 イッシーとラコーンが、自分達の部隊を連れて追いついたのだ。

 彼等は人数が多かったので、草津を後発隊として出発していた。

 どれくらい遅れて出たのか分からなかったが、ルートだけは教えていたので、合流するだろうとは思っていたのだ。



「盗賊らしいぞ」


「あっ!コイツ!」


「何だ、ラコーンの知り合いか?」


「知り合いなわけないでしょう!帝国でも有名な盗賊団の頭ですよ」


 という事は、帝国から来たのか?

 そうすると、この女の人も帝国から?

 何の為にこんな所に?

 謎が多いが、考えるのは俺の仕事じゃないし。

 後で半兵衛と弟に任せておこう。



「帝国兵だと!?何故そんな連中が魔族と!脱走兵か!?」


「ふざけるなよ!俺はバスティアン陛下の配下である!」


「帝国の兵ではなく、死んだ国王の兵だと!?」


 死んだ?

 あのおっさん、死んだ事になってるの?



「死んだだと!?誰がそんなデタラメを」


「帝国では長期間顔を見せない国王は、死んだ事を伏せられているとの噂だぞ」


 良いぞ盗賊。

 その調子で帝国の内情を教えろ。



「あのクソ王子め!」


「おいおい、そんな事言って良いのか?」


「バスティアン様の息子というだけで、今は弓引く存在です。ぶっちゃけ関係無い!」


 ラコーンの言い分は筋が通っているというか、大雑把というか。

 本人の前で言っているわけじゃないから、良いのかな?



「なるほど。本当は生きているのか。それは良い事を知った。帝国の情報屋にでも売るとしよう」


 イッシーやラコーン達が合流しても、まだ逃げ切れると思っているらしい。

 しかしそのニヤけた面が、蒼白になるのが目に見える。



「馬鹿だなぁ」


「・・・何だと?」


「何でこの軍を前にして、逃げられると思ってるんだ?」


「逃げる?それに軍だって?馬鹿を言え。せいぜい中隊くらいの人数だろうが。俺達の方がまだ数も多い。魔族が如何に強かろうが、それは大人数の前では無力だと知らないのか?」


「知らん」


「・・・お前の方が馬鹿じゃないか?」


「テメー、バカって言った方がバカなんだぞ!」


(兄さんが先に言ったんだよ・・・)


 うるさい!

 黙らっしゃい!



「本当に馬鹿のようだ。魔王が帝国に挑んで負けたのを知らないのか?アレも数の暴力に負けたじゃないか。所詮は魔族も個人の能力が高いだけで、魔力さえ尽きればヒト族よりも劣る存在よ!」


 ムカつく!

 コイツだけはただでは済まさん!

 というか、既に俺の周りには殺気立ってる人達が沢山居る。

 半兵衛ですら、敵意剥き出しだ。



「お前達、やっておしまいなさい!」





 ぶっちゃけ、ただの蹂躙劇だった。

 太田がバルディッシュを振るえば、一撃で複数人が吹き飛ぶ。

 慶次が槍を伸ばせば、何人もの串刺しが出来上がった。

 蘭丸とロック、イッシーにラコーン達は周囲と上手く連携を取りながら、徐々に追い詰めていく。



「な、何なんだコイツ等。こんな所で死にたくねぇ!逃げろ!」


 斬り倒れていく味方を見て、とうとう逃げようとする者が現れた。

 だが話を聞く為にも、然うは問屋が卸さない。

 お前さん、やっておしまい!


(何?時代劇にでもハマってるの?)





「誰が逃すか!」


 魔力を大量に使って周囲を土壁で覆うと、奴等は馬ごと壁に激突していった。



「止まれ!壁だ!止まれ!ふぐぅ!」


 後ろからの追突で、壁と板挟みになる奴が続出。

 中には内臓破裂などを起こして、死んだ奴も居た。



「凄い!貴方達は一体?」


 過呼吸気味だった女性も、半兵衛による介抱で元気になったようだ。

 僕の魔法を見て、目を丸くしながら驚いている。



「この方は安土を治めている魔王様です」


「魔王!?魔族の王は、帝国に敗れたと聞いておりますが」


「次代の魔王様です」


「はじめまして。阿久野です。魔王やってます」


「は、はぁ・・・」


 反応が薄いなぁ。

 信用されてないのかな?

 それよりも、聞かなきゃならない事がある。

 おっと、その前に勝敗が決したみたいだな。





「魔王様、首魁の者を引っ捕らえました」


「魔王だと!?」


 さっき散々馬鹿にしてくれた奴が頭か。

 他にも何人か生き残っているが、やはり皆キレてたんだろう。

 ほとんどが死体となって転がっている。



「お前には名乗らなくていいな。とりあえずお前、何でこんな所に居る?」


「フン!誰が言うかよ!」


 顔を背けて唾を吐いた。

 縄で縛られているのに、なかなかの度胸じゃないか。


 悪いが僕はもう、昔のように甘くない。

 散々人の生き死にを見てきたからか、善悪に関係無く自分に害を為すと思ったら、徹底的にやる事にした。


【マジかよ。俺も視線が同じだから、ちょっと怖いな】


 フフ、まあ見ててくれ。



「仕方ない。話したくなるようにするしかないな」


 僕は魔法で爪切りを作った。

 頭のおっさんは、何をされるのかと少し緊張気味に見ている。



「フハハハ!怖いだろう!今からお前は、これで爪を切るからな」


「爪?」


「動くと危ないぞ」


 前もって危険を伝えたからか、奴は動かずに爪を切られた。

 それはもう深くなるくらいに。



「どうだ!」


「どうだと言われても・・・」


「深爪だぞ!血がうす〜く滲んでるんだぞ。痛いだろ」


「・・・まあ確かに染みるけど」


「バイ菌が入ったら危ないんだぞ。分かってるのか?」


「バイ菌?」


 な、何だと!?

 バイ菌を知らないのか。

 まさか他人に爪を切られるのが怖くないとは。



【え?これで終わり?】


 終わりです。


【ふざけんなよ!もっと顔面をバットで殴るとか、そういうのかと思ってたじゃないか!】


 それはやる方も、見るだけで痛そうじゃないか。


【ダメだな。全くもってダメ】


 ちょっと拷問的な感じなのは、怖くて出来ないんだよね。



「コイツ、バカだろ?」


「な、何だと!?人がせっかく優しめにしてやってると言うのに」


 まさか相手に馬鹿にされると思わなかった。

 ちょっと悔しい。

 あ・・・。



「貴様、今魔王様の事を馬鹿だと言ったな?」


「え?ちょっと」


 バルディッシュを持った太田が、有無を言わさずに横に薙いだ。

 首魁の頭を掠めるようにしてバルディッシュが空を切る。

 すると、彼の頭は毛髪が一気に無くなっていた。

 今は落ち武者のような髪型になっている。



「次はもう少し下を薙ぐ。どうすれば良いか、分かっているな?」


「わ、分かった!」


 あまりの迫力に、おっさんはすぐに観念した。

 太田って普段はアホみたいに思えるけど、こうやって迫力ある姿を見ると、ミノタウロスなんだなと実感出来るな。

 今の太田なら、ダンジョンのボスとかで現れても納得出来る。





「さて、洗いざらい吐いてもらおうか」


 太田の迫力ある言葉に、彼は息を飲んだ。

 僕よりも魔王っぽいセリフだ。



「えーと、何から話せば?」


「魔王様」


「お、おぅ。まずはさっきの質問だ。何故、上野国領内に帝国で有名な盗賊が居るんだ?」


「それは、この二人を追ってきたからだ」


「からだ?」


「追ってきたからです!」


 太田の言葉に、すぐさま訂正が入る。



「となると、この二人が何者かって事になるな」


 わざわざ遠くはるばる、こんな所まで逃げてきた二人を追うくらいだ。

 身分が高いか、弱みを握られているとかじゃないとありえないと思われる。



「その二人は帝国のある領主の娘達だ、です」


「領主の娘?捕まえて、身代金でも要求しようとしたのか?」


「それもある、あります」


「それも?という事は、本来の目的は別?」


「それはその・・・」


 言い淀んでいるところを見ると、どうやら別の理由がある事は明白だな。

 しかも言えないって事は、生き残りに依頼者が混ざっている可能性がある。

 だが、まだ自分の立場を理解していないようだ。



「太田」


「何処を切りましょう?」


「股間に付いてるモノが良いかな。どうせあっても無くても変わらんだろ」


「御意」


 バルディッシュを振り上げる太田を見て、盗賊のおっさんは慌てて言葉を口にした。



「分かった!言います!だからそれを振り下ろさないで!」


「最初からそういう態度をしてくれないと、いつか振り下ろすよ?」


「す、すいません」


 自分の置かれている状況を把握したおっさんは、それを口にしようとしたところ、後ろから大声で止めに入る男が居た。



「貴様!言えば分かっているな!」


「蘭丸!」


「オゥ!」


 槍の石突きの部分で後頭部を叩かれた男は、そのまま昏倒した。

 死んではいない。

 コイツにも、後から話を聞く必要があるからだ。



「じゃ、続きをどうぞ」





「お、俺達に二人を誘拐しろと依頼してきたのは、帝国の兵士だ。今の男は帝国兵の一人で、俺達と依頼者の仲介人の役目を受けている」

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