修行先
ハクトと蘭丸は、ロックの提案に渋っていた。
しかし条件次第でその提案に乗っても良いと言う。
その提案は僕達が一緒に参加する事だったが、それよりも大きな問題が発生したのだった。
ハクトと蘭丸は、この旅が終わったら僕から離れると言っていた。
温泉に入りながらじっくり二人の話を聞こう。
そう思い二人と貸切風呂に入ると、やはり考えは変わらないと言う。
理由は強い連中も頭の良い連中も増えて、今では自分の存在価値が無いかららしい。
蘭丸も自分の不甲斐なさに、一度三人はバラバラになった方が良いと考えていた。
蘭丸はまだ戦うつもりはあるみたいだ。
その理由は結婚なのかもしれないが、それでも分かりやすくて助かる。
しかしハクトは違った。
彼の場合は、自分に自信が無いのだ。
いつか僕達に、必要無いと言われるのではないかという考えが、頭の中によぎっているみたいだった。
二人にも凄い所はある。
それを説明しても、どうしても納得出来ない二人。
兄は最後の手段として、本格的にアイドルをやってもらう事を提案。
そうすればマネージャーである兄は、一緒に行かないといけないという、ちょっと無理矢理なお願いをしてみたのだった。
正直な話、こんな事で気持ちが変わるとは思えない。
だけど、そこまで思い詰める程、難しい問題でも無いと俺は思っている。
「それは、もう戦力として見てもらえてないという事かな?」
「お前達は急ぎ過ぎなんだよ。又左も慶次も太田も、お前達より年上なんだ。いきなり同じだけの活躍をしろなんて、俺は言ってないからな」
「半兵衛さんはどうなのさ」
「アレはアイツの魔法だぞ。しかも甘い物や食べ物を摂取しないと、途端にポンコツだ」
ポンコツは言い過ぎかもしれないけど、秀吉は実際にそれで使えない人材だと切り捨てた。
ある意味間違っていないと、俺は思っている。
「俺はどちらにしろ、一旦は離れるつもりで考えている」
「何故だ?」
「やっぱり修行をするのが一番手っ取り早いからな」
「それなら又左や慶次、佐藤さんに稽古をつけてもらえば解決だろ」
「あの三人は俺とは格が違う。それに俺は魔法も使えるって、さっきお前も言ったよな?三人とは違う、自分の戦い方を身に付けたいんだ」
確かに魔法戦士みたいな戦い方が出来れば、蘭丸は唯一無二の戦士になれるとも思う。
だけど、誰が教えるというのか?
流石に自己流では、途中で行き詰まるのではと勘繰ってしまった。
「それなら僕も、魔法をもっと使えるようになりたい。その為には、もっと魔法が使える人に教わるべきだと思う」
「そんな奴、安土に居るか?」
「居ないと思う。だからこそマオくんから離れて、魔法の達人の下へ修行しに行くんだ!」
うーん、間違ってない気もするけど。
そんな人、アテも無く旅するのはどうかと思う。
(いや、待てよ。何かを、誰かを忘れている気がするんだが。それが何か思い出せない)
思い出せよ。
俺じゃあ思い出せるはずも無いし。
(そこは頑張れよ!しかし何だったかなぁ。あぁ、神様。僕にそんな事を思い出させて下さい)
神頼みとか、最後にする事だろ。
あ、分かったかも。
(何!?思い出したの?)
神様で思い出した。
鶴の爺さんだ。
(それだ!僕が言いたかったのは、あの仙人に、僕達以外にも修行をつけてもらえば良いんだって事だよ!)
なるほど。
それはナイスアイディアだ。
「二人とも、よく聞いてくれ」
「何だ?修行に行く考えは変わらないぞ」
「その修行なんだが、俺と一緒にやらないか?」
「お前も修行するのか?」
「実はだいぶ前になっちゃうんだけど、以前に鶴の仙人と出会ったんだ。次に会う約束もしていたんだけど、その時には修行をつけてくれるって話だったのを、今思い出した。仙人ならお前達のやりたい事も、理解してくれているんじゃないのか?」
「仙人!?そんな人居るの!?」
「俺も信じ難いな。偽者じゃないの?」
爺さん、アンタ偽者呼ばわりされてるぞ。
だけど、本物だったから凄い人物なのは間違いないはずだ。
「神様のお墨付きだから大丈夫。長浜から上野国へ向かう途中で会ったけど、この人数だと流石に無理だからな。一度安土に戻って解散した後に、三人一緒に行かないか?」
「仙人か・・・」
「僕は仙人様なら魔法の事も詳しそうだから、一緒に行ってみたいと思う!」
ハクトは前のめりに参加を希望してきた。
タオルがはだけて股間が見えそうだが、別に野郎の股間なんか興味は無い。
「ハクトがそう言うなら、俺も魔法について聞きたいかも。槍や剣は使えないかもしれないけど、それは別の人に教われば良いし」
「そうか!二人とも、その気になってくれたか!」
修行の期間がどれだけ掛かるか分からないけど、それでも俺達はやるしかない。
(その通りだ。僕はやっぱり、この三人が離れ離れになるのが嫌だ)
俺も同じ気持ちだ。
センカクの爺さん、二人をどうか強くしてくれよな!
「よし!三人で強くなろう!」
「オー!」
「やってやろうぜ!」
ハクトと蘭丸は勢い良く立ち上がった。
タオルは落ち、二人の大事な所が露わになる。
「デカっ!」
俺は自分の物と見比べて、やっぱり子供なんだなと悲しい気持ちになった。
翌日、次の目的地である長浜へ向かう事になっている。
朝起きると、ちょっと離れた場所から掛け声のようなものが聞こえてきた。
「ミドリ!アナタ、少し遅れてるわ。はい、ワンツーワンツー。そこでイッツターン!」
何故かオカマ口調のロックが、花鳥風月の四人にダンスの稽古をつけている。
俺からすると、既にプロ並みに上手く見えるんだけど。
少し遅れてるの意味があまり分からなかった。
ランニングから戻ったハクトと蘭丸が、丁度そこを通り掛かると、ロックは声を掛けて二人を誘ったみたいだ。
「二人とも、安土に戻ったらセンターをやってもらうからね。その為にも四人並みに上手くなってもらうよ」
「マオくんは何処をやるの?」
「あ・・・」
やっぱり俺は参加確定なんだな。
しかしロックの野郎、あの言い方だと何も考えてなかったな?
身体強化して聞いているから、俺が聞こえているなんて思いもしなかっただろう。
後で聞いていた事を言ってやろう。
「やるなら三人でって言ったよね?ちゃんと考えないと、参加しないよ」
「も、勿論だよ!ヤベー、マオっち何も出来ないぞ。どうしようかな・・・」
「アイツは魔王なんだ。真ん中以外あり得ないだろ」
「で、ですよねぇ・・・」
真ん中で悪目立ちするの、嫌だなぁ。
俺も皆にバカにされないように、ダンスくらいは練習するか。
「皆、揃いましたね。そろそろ行きましょう」
なかなか良い温泉だった。
もっと近くにあるなら、しょっちゅう来たいくらいだ。
これが有名観光地の力か。
今度は二泊以上が良いな。
草津から出てしばらくすると、森の中へ入った。
前回と違い誰かに見つかっても問題無いので、ショートカットで長浜まで向かう事になった。
「どの辺で仙人と会ったんだ?」
「前回とは道が違うから、この辺じゃないと思うぞ」
「そうなんだ。分かりやすいのかなと思ったんだけど」
分かりやすいと言えば分かりやすい?
でも木の中の山とか、意味が分からなかったからなぁ。
何て説明すれば良いか分からない。
「場所は大体覚えてるから、大丈夫だと思う」
「そっか。仙人様に会うなんて、楽しみだな」
「ハクトも思うよな?俺も仙人の存在なんて、ほとんど信じてなかったし。一生に一度会えるか会えないかって考えてたわ」
そんな大層な人じゃなかったけど。
むしろイラつかせてきた記憶しかない。
一応平常心が何たらとか言ってたけど、そんなん知らんわ。
そんな時、前の方から連絡があった。
「魔王様、どうやら魔物が現れたようです」
「どれくらいか分かるか?」
「思ったより数は多いですね。強い魔物かは分かりませんが、慶次殿達でしたら問題無いかと」
問題無い相手なら、やりようはある。
「蘭丸達に任せよう。それとロック!お前もな」
「へ?俺っち!?」
「上野でプロデューサー業ばっかりに精を出してたんだろ?安土に戻るなら、最低限の戦闘力は身につけておけよ」
そんな事を言ったが、ただの嫌がらせである。
ハッキリ言えば、俺をバカにした事による腹いせだ。
死ぬ事は無いが、苦労はするだろう。
頑張って倒してもらおうじゃあないか!
「蘭丸くん!」
「ハクトは支援魔法で、俺とロックの強化を!」
「俺っちもホントに戦うんだ・・・。うわっ!来た!」
馬が何かを追い掛けて走ってきた。
前は大きめのトカゲみたいな感じ。
後ろの馬が見た目は強そうだ。
馬なのに大きな牙が二本見えている。
あんなんで草食べられないだろ。
「アレはサーベルホースですね。という事は、群れで行動しているはず。見えているだけではないですよ」
半兵衛の説明に、三人は頷いて答えた。
「どりゃ!」
蘭丸の槍の一突きで、前のトカゲは絶命した。
だが獲物を取られた馬は、今度はお前達が餌だと言わんばかりに、三人をターゲットに切り替えたようだ。
「う、馬に合気道なんか効かなくない?」
「そんなん知らんがな。お前が考えて頑張れ」
「なんつー投げやりな答え!死んだら化けて出てやる!」
流石に死ぬ前には助けるわ。
この人も残念なおっさんだなぁ。
「せい!せい!せえぇぇい!」
「えいっ!」
蘭丸は突進してくる馬に向かって槍を突く。
馬は食らいながらも左右に動きながら、的を絞らせないように向かってきていた。
そこへハクトの弓が、左右に散らばって放たれ、馬の動きを制限する。
「えいやっ!」
蘭丸の槍が馬の牙の間、口の中へ吸い込まれた。
馬は倒れ、痙攣した後に動かなくなった。
「流石蘭ちゃん!俺っちも活躍の場が見せられなかったのが残念だなぁ」
「ロックさん!横から二頭来てる!」
「うえぇぇぇ!?」
「良かったな。活躍の場があって」
茂みの中から、障害物を超えるようにジャンプしてきた馬が二頭。
一頭は近くに居たロックに。
もう一頭は、ハクトの前で身構えていた蘭丸に向かった。
「おのれえぇぇ!馬だって空気投げ出来るうぅぅ!?」
ロックは馬の首を手で滑らすようにずらし、馬の脚を引っ掛けるように払った。
すると、前のめりになって倒れそうになる馬。
だが後ろ脚が倒れるのを許さない。
「脚が硬い!つーか俺っちの足、一歩間違えたら折れる!」
またも突進してくる馬を今度は逆に同じ行動に出た後、更には倒れそうな馬の背に乗った。
何をするのかと思ったら、馬にチョークスリーパーを掛けている。
「俺っち、ボンバイエ!俺っち、ボンバイエ!」
「自分で言うんだ・・・」
暴れる馬に振り落とされそうになると、今度は首を掴み、ロデオで前のめりになった馬を投げた。
馬は宙を舞い、頭から地面へ激突。
首が変な方へ曲がっていて立ち上がろうとしたが、しばらくすると動かなくなった。
「ウイィィィィ!!」
古いプロレスラーが何人も混ざっている。
合気道は何処へ行ったのだろうか。
「蘭丸は・・・さっきと同じように倒したな」
「二人の連携、見事ですね」
半兵衛も称賛するくらい、蘭丸とハクトの連携は取れていた。
やり方次第では、こうやって戦力になるという証明だと俺は思うのだが。
それでも二人は、慶次達みたいな強さが欲しいみたいで、不満足そうな顔をしていた。
他の人なら、もっと簡単にあしらえるくらいの気持ちなんだろう。
「アレ?また来るよ。でも、これおかしいな。魔物じゃない気がする」
「魔物じゃない?」
俺も身体強化で五感を研ぎ澄ませると、確かにこっちに向かって走ってくる馬が居た。
追われているのは一頭だが、後ろには馬が五頭居る。
群れを率いているような感じではない。
むしろ前の馬を囲むように展開していた。
「そろそろ来るよ!」
茂みを抜けてきた馬は六頭。
やはり人が乗っていた。
どうやらヒト族のようだ。
追われていた馬には、子供と女性の二人が乗っている。
そしてこちらに気付くと、早々に叫んできた。
「助けて下さい!せめて妹だけでもお願いします!」