ハクトの悩み
コバは安土に戻ると言った。
上野国にはバンドをしている領主、滝川一益が居るので、ここはバンドの聖地にしたいとの事。
そしてアイドルとダンスグループ部門は安土で行い、安土をアイドルの聖地にするのが目標らしい。
僕には想像が出来ない世界だが、ここでの成功で金はあるみたいだし、安土で大金を使ってもらうとしよう。
蘭丸とハクトは、各自やりたい事が違った。
久しぶりに全員が別行動という事なので、僕は魂の欠片を使った実験に入る事にした。
巨大化と変身は微妙だった。
ライオンなのに二足歩行。
魔法は変身の弱体化が優先されて、威力は弱くなる。
検証の最後に待っていたのが、欠片を三つ同時使用だった。
英雄願望と変身、そして巨大化。
某星雲から来た宇宙人を期待したのだが、検証の結果は失敗に近い。
ある意味では成功なのだが、一分前後しか巨大化していられなかったのだ。
魔力の消費が尋常ではなく、実戦では使えない事が分かった。
上野国出発の日、ロックは四人の若者を連れて来た。
彼等は共に安土へ向かう、多種族からなるアイドルグループだった。
そんなロックが安土デビューの際、ある事をしたいとお願いをしてきたのだが。
それはハクトと蘭丸コンビを前面に出した、同時デビューというものだった。
後ろを振り向くと、当然といった顔で興味が無さそうな二人。
ロックもそれは勘付いていた。
「・・・ダメ?」
「四人を紹介するのに、僕達が出る必要あるのかな?」
「俺も同感。俺達の事なんか安土の皆知ってるんだから、別に必要無いと思うんだが」
「いや、だからそういう意味じゃなくて・・・」
どうやら根本的に、話が分かっていないらしい。
仕方ないから手助けをしてやるか。
「コイツはね、二人の人気にあやかりたいんだよ。二人の事を応援している人達なら、彼等も好きになってくれるんじゃないかって考えてるんだ」
「なるほどね」
「いや、その通りなんだけども。言い方ってものが・・・」
ロックは二人に怒られるのかと思ったのか、しどろもどろしている。
だが、怒っているような雰囲気じゃないな。
「別に悪い事じゃないでしょ」
「へ?」
「戦だって、地の利を生かして戦うだろ。ロックからしたらこれは戦なんだろ?だったら俺達を使ってやるのは、間違った事じゃない」
「じゃあ!」
「やるとは言ってないけど」
「だあぁぁぁ!!頼むよ。ここを出て裸一貫からスタートなんだ。失敗出来ないんだよ!」
ロックの必死さが凄い。
二人に対して拝むように頼んでいる。
花鳥風月の四人も引いているかと思いきや、そうでもない。
むしろ好印象らしい。
「私達からもお願いします!」
「是非一緒に出て下さい!」
四人並んで頭を下げている。
こういう事されると、俺の場合は弱いんだよなぁ。
二人はどうするんだろ?
「・・・条件がある」
「条件!?良いよ、何でも言っちゃって!」
「マオを含めた三人なら出ても良い」
「へっ!?」
「ハァ!?」
蘭丸の条件には、俺もロックも驚きを隠せなかった。
というか、俺を巻き込むな!
もう俺が歌とかダンスが上手くないのは分かってる。
まさか、自分達の引き立て役に俺をダシにしようとか考えてるんじゃ?
「ちょっと待って!何でマオっちが出てくるのかな?」
「俺も聞きたい」
「ハクトの意見を尊重してって感じだな」
「ハクトっちの?」
「どういう事だ?」
ハクトを見ると、何やら考え事をしていた。
この前も、一人で考えたい事があるって言ってたんだっけ。
何か悩み事でもあるのだろうか?
「前々から思ってたんだけど、僕はこの旅が終わったら離れた方が良いのかなって」
「何で!?」
「魔王になった今、強い人も頭良い人も増えたでしょ?僕みたいに何も出来ない人が旅とか戦場に行っても、邪魔になってる気がするんだよ」
「そんな事は無いだろ!」
「俺も少し相談は受けてたんだ。それにハクトの気持ちは俺も感じている事でもある」
「は?蘭丸も!?」
ちょっと待て。
考えが追いつかない。
(僕も寝耳に水だった。いつからそんな事考えてたんだろう)
「えと、それでどうなるのかな?」
「あぁん!?それどころじゃない!」
「俺っちも一世一代のチャンスなんだよ!それどころじゃないはないでしょ!」
「ロックの言ってる事も正しい。お前がどうするかだ」
蘭丸までロックの味方かよ。
どうする?
どうすれば良い?
(とりあえず参加にしておこう。それから二人と話をしようじゃないか)
それもそうか。
「分かった!俺も出る!」
「えっ!?いや、ちょっと待てよ。安土の知名度で言ったら、マオっちに敵う人は居ない。それにこの二人が組み合わされば・・・。良いね良いね!それでよろしく〜!」
「話は済んだか?」
「おぉ!?一益か」
ロックとのやり取りが終わるのを待ってたんだろう。
ようやくかといった顔で、話し掛けてきた。
「短い間だったが、また遊びに来てくれ。その時は、我のバンドのライブを魅せてやろう」
「それは楽しみだ。やるならロックフェスでも開催してくれ」
「ロックフェス?」
「いろんなバンドが沢山出る、ロックの祭りだな」
「ほほぅ?良い事を聞いた。それを開催する時には、必ず連絡する」
どうやら本当にバンドにハマっているようだ。
仕事そっちのけでやるのはマズイと思うが、趣味が仕事への活力にもなるなら頑張ってほしいと思う。
「帰り道の温泉街に連絡は送っておいた。楽しんでこい」
「ありがとな。また来るよ」
上野国を離れ長浜方面に向かうと、そこには有名な温泉地である草津があった。
草津は観光地としても有名らしく、ヒト族ですら訪れる場所らしい。
ここで一泊するつもりなので、ハクトと蘭丸の三人で裸の付き合いでもして、話し合いたいと思った。
「三人で風呂に行かないか?」
「風呂行くの?俺っち達も参加して良い?」
この馬鹿は空気が読めていない。
しかし流石は観光地。
宿屋の従業員は逆に、空気を読むのが上手い。
「それでしたら、少人数用の貸切風呂も用意してございます。こちらは如何でしょう?」
「じゃあそれでお願いします。お前等は慶次達と男湯入ってろ」
貸切風呂は小さな檜風呂だった。
四人くらいなら足を伸ばして入れるサイズで、外からの音も聞こえない。
三人でじっくり話すには、とても良い場所だった。
「この前の話を聞きたいんだけど」
「旅を抜けるって話か?」
「それな。何でそう思ったんだ?」
「俺よりも、ハクトの方から説明した方が良いと思う」
話を振ると、ハクトは肩まで浸かった身体を半身浴に切り替えた。
「分かりやすく言えば、僕って戦力になってないよね。自分でもそう思うんだ」
「そんな事は無い」
「慰めは良いよ。僕達が海津町から旅を始めた時は、この三人。それに太田さんが加わって四人になった。でも今は、安土って大きな都市が拠点になって、そこには僕達よりも凄い人が沢山居る」
「村長だった前田さんしか知らなかった俺達は、あんなに凄い人だとは思わなかったし」
「そうそう。弟の慶次さんだってめちゃくちゃ強いし、ヒト族の佐藤さんもこの二人に負けないくらい強い」
佐藤さんは召喚者だから。
だからだよと言っても、召喚者以外にはラコーンのように統率しながら戦える奴も存在する。
召喚者という括りは使えないか。
「戦える奴だけが役に立つわけじゃない」
「分かってるよ。でも僕は、半兵衛さんみたいに頭も良くない。ドワーフの人達みたいに鍛治も出来ない。ノームの人達みたいに家の補修が出来るわけじゃない。極論かもしれないけど、役に立ってないと思うんだ」
「ハクトの話を聞いて、俺も全く同じ事を思った。お前と寺子屋で同じだったってだけで、俺達はそこまで強くもなく、他に秀でた事も無いなってな」
「だから、そんな事は無い!」
「じゃあさ、僕達は何で役立ってるって言える?」
「それは・・・料理が上手いじゃないか!」
「それって、戦闘には役に立ってないよね」
料理が美味いと気持ちは上がるし、悪い事ではないと思うんだけど。
そんな事を言っても、分かってくれそうもない。
それに、これはハクトには当てはまるけど、蘭丸はそうじゃない。
あまり追求しても、じゃあ俺は必要無いなって思われたら嫌だ。
「この際だからハッキリ言う。一度俺達は、バラバラの道を行った方が良いと思うんだ」
「僕が蘭丸くんに相談したのも、その話なんだよね」
「バラバラの道っていうのは?もう、三人で集まれないって事か?」
「そういう意味じゃない。俺はお前の役に立たないと、結婚も許されない気がするし」
そういえば長可さんが、そんな事を言っていたっけ。
別に俺の役に立つとかは言い訳で、本当は今すぐにでも結婚を許すような気はするけど。
本人達に結婚の大変さを知らしめる為に、そう言ってるだけじゃないのかな。
「僕は・・・どうなんだろうね。もう無理かもしれない」
「ハクト!」
「だって今更弓を使っても、ミスリルの鎧は砕けないし。それに魔法だって支援くらいしか出来ない。いつも皆を待ちながら、料理をして待ってるのが関の山だよ」
「支援魔法だって凄いじゃないか!長浜に居たグレゴルって覚えてるか?アイツみたいに使えば、弓でだってミスリルを貫く事だって出来るだろ」
「僕はあんなに凄い魔法使いじゃない!」
ハクトがここまで大きな声を出すのは珍しい。
蘭丸も少し驚いている。
こんなに感情を露わにしたハクトは、今まで無かったかもしれない。
ここには三人以外誰も居ないから、初めて本音で話してくれているんだと改めて実感した。
だからこそ、俺も本音で言いたい事を聞いてもらおうと思う。
「俺はお前達の考えが分からない」
「それはそうだよ。だってマオくんは強いもの」
「違う。何故、そんなに役に立つとか立たないとかって考えで、俺から離れていこうとするのかって事がだ」
「魔族は元々、弱肉強食の世界だよ。弱い者が淘汰されるのは当たり前。だからこそ、役に立たない奴は強い人の足を引っ張ったら駄目だと思う」
「俺はお前達が足を引っ張ってるなんて、一度も思った事は無い」
「でも、いつかは思われる。そしてマオくんから、要らないって言われるかもしれない。僕にはそれが怖い」
あぁ、なんとなく分かった。
コイツは自分に自信が無いんだ。
戦いだけが全てじゃないのに、強い連中に囲まれているから、自分の凄さに気付いてない。
「お前の凄さは、俺よりも他の人達から聞いた方が良いのかもしれないな」
「何を言ってるの?」
「そのまんまだよ。蘭丸も同じだ。他人と同じ物差しで測るから、自分が如何に凄いか分かってないだけだ」
「俺の凄い所なんか無いだろ」
「分かりやすく言うぞ?お前と慶次が槍だけで戦えば、慶次が勝つだろう。でも慶次と魔法だけで戦えば、お前が勝つ。だったら、どっちも使って戦えば、やり方次第でお前が勝つかもしれないだろ」
「そうかなぁ?」
コイツも自分に自信が持てない奴だなぁ。
自信過剰も困るけど、あまりに自信がなさ過ぎても、逆に実力が発揮出来ないと思う。
「戦いじゃないけどさ、二人とも俺よりも凄い所があるのは分かってるよな?」
「お前より凄い所?」
「僕達にそんな所ある?」
確実なのは俺よりもモテてる所だが、それは俺の心が致命傷を負うので言わない。
それでも他にもまだまだある。
「ハクトは俺より歌が上手い。蘭丸もギターは弾けるし、踊りも踊れる。何も戦闘だけで役に立つ必要は無い」
「でもそれって、一緒に旅に出る理由にはならないよね」
うーん、そうかもしれない。
でもロックのやり方なら、別に問題無い気もする。
それこそマネージャーと嘯いていた俺の出番でもある。
「歌やダンスで安土や魔族の良さを広める為に、一緒に行くのは駄目か?そうすると俺はお前達のマネージャーだから、一緒に行かないと行けないんだが」