欠片の組み合わせ
蘭丸が真っ直ぐに帰るのかと聞いてきた。
兄は僻み根性丸出しで文句を言っていたが、僕は違う。
軽く死ねばいいと思うくらいだ。
ロックに話を聞きに上野国へ寄ると、早々に領主である一益と遭遇した。
どうやらロックは大成功をしているらしい。
スタジオに居ると言うので、皆と分かれて蘭丸達と三人で向かう事にした。
スタジオに入ると、何故か体験コースの参加者と間違えられた。
どうせだからダンスコースで参加をすると、オーガにダンスを教わる事になった。
しばらくすると、女性が部屋の前に集まっていた。
いつものように、蘭丸とハクト狙いである。
そこにロックが来たので、場所を変えて話をする事になった。
彼は今や、この上野国で知らない人は居ないくらいの有名人らしい。
アイドルグループを誕生させ、そしてその人気を不動のものにした、敏腕社長として名を馳せていた。
バンドも成功をしていて、ロック率いるイワーズ事務所は破竹の勢いだと言う。
それならばと兄は尋ねた。
安土に帰るのか帰らないのか。
「もうそんな事を決める時期かぁ。そうですか・・・」
目に見えてテンション下がったな。
迷ってる証拠だろう。
「別に今すぐじゃなくて良いが、ただ二日後にはここを離れるつもりだ。それまでに決めないと、お前を置いていく事にするからな」
「いや、大丈夫です!戻りましょう」
案外早く決めたな。
既に考えていたのか?
「そんな即決して問題無いのか?こんな立派な建物まであるのに」
「ここは既に俺っちの手から離れても、問題無いので。このスタジオは、バンド育成に集中させたいと考えてるし」
「バンド育成に?じゃあ、アイドルはどうするんだ?それにダンスコースもあった。ダンスボーカルとかのグループも、あるんじゃないのか?」
「アイドル部門とダンスグループ部門は、まだ育成中なんだよね。彼等がどうするかは、後で確認します」
「確認するってどういう事だ?」
「安土に一緒に来るかという事だけど、何か問題あるかな?」
「は?上野国から連れ出すって事か!?」
それは問題云々の前に、領主である滝川一益にも一言連絡しないと駄目なんじゃないか?
これは俺よりも、お前が話してくれた方が助かるけど。
(話がややこしい事になったね。連絡する事に関しては任せてくれて良いよ)
「俺っちの予定では、ここ上野国をバンドの聖地にしようかなって計画してるんだよね。勿論、カズには報告済みだよ。彼も乗り気だから、カズにバンド部門の経営責任者を紹介してもらって、スタジオを任せようと思ってるんだ」
「それで、安土をアイドルとダンスグループ専門のスタジオを作ると?」
「ご名答!流石は魔王様だね。俺っちの計画だと、住み分けが必要だと思うんよ。その点安土はまだ何も染まってない。ここはカズの影響で、バンドの方がやりたい人が多いからね」
そういうもんなのか?
俺には音楽なら何でも良いと思うんだけど。
(そうでもないでしょ。野球って一括りにしても、ピッチャーやりたいのにキャッチャーの練習するのは微妙だと思うよ)
そう言われると確かに。
住み分けってそういう事か。
「話は分かった。だけど安土ではお前のやりたいように出来るかは不明だからな。資金調達は必要無さそうだが、土地やら何やらは自分で用意しろよ?」
「えぇ!?手伝って下さいよぉ!」
「駄目だな。そこまで成功してるなら、土地を用意するにもノームに金払って準備してもらったり、建物もノームとドワーフに話を通して作ってもらえ」
まあドワーフは、昌幸達が忙しい可能性もあるけど。
金があるなら、そっちを優先してくれるかもしれないし、要は相談次第だと俺は思う。
「チッ!分かりましたよ。自分で何とかするから良いもんね」
「ガキかおっさん。ちなみに戻ったら、コバにも話を通せよ。お前の雇い主なんだから」
「そういえばそうだった。コバにお土産持って帰ろう」
「二日後までにその育成中の連中、一緒に行くか聞いておいてくれ」
「わっかりました!」
「終わったぞ」
「あ、マオくん。ロックさんは何だって?」
二人は何故かダンスの練習を、オーガからそのまま教わっていた。
どうやら王国では戦いに出なかったので、身体が鈍っているらしい。
「二日後にまた来るよ。それまでは自由行動だ」
「そうなんだ。蘭丸くんはどうする?」
「うーん、このままダンス教わってても良いかもな。意外と戦いに使えそうな動きもあるし」
そんなもんあるか?
本人が言うなら別に構わないけど。
「じゃあ蘭丸はダンスの練習な。ハクトはどうする?食べ歩きでもする?」
「食べ歩きかぁ。この前結構食べたし、今回は良いかな」
「何かしたい事があるなら任せるけど」
「ちょっと一人で考えたい事があるんだ」
「一人で?そうか。じゃあ邪魔しちゃ悪いし、俺も行くよ」
「ごめんね」
二人とも、自分で何をするべきか考えていたか。
俺は、俺達は何をする?
(そういえば一人というか、二人だけになるのも久しぶりだね)
魔王になってから、大体誰かが近くに居るしな。
(丁度良いから、少し外に出よう。僕も試したい事があるけど、街中では騒ぎになるから)
トライクで、上野国から大きく離れた場所に来た。
ここなら誰にも迷惑が掛からないだろう。
(とりあえず交代しよう)
僕がやりたかった事。
それは阿形達から渡された、魂の欠片の検証だ。
巨大化するのは分かったし、魔力を大量に消費するわけでもないのも実証済み。
だけど、組み合わせの方は何も分かっていないのだ。
【組み合わせか。俺とお前の欠片で、変身ヒーローになるみたいな事な】
その通り。
巨大化して英雄願望があっても、多分周りに人が寄ってくる程度だと思うんだよね。
むしろ戦いづらくなるだけかと。
【それだと、お前の欠片を二つはどうだ?】
僕のを二つ?
【変身と巨大化だ。例えば、大きなライオンみたいな?】
ライオンねぇ。
試してみようか?
欠片を二つとも使用すると、身体が大きくなるのを実感した。
だが、思った以上に変身の方は雑な気がする。
全身は毛むくじゃらになったし、手も見ると肉球はある。
だが、視線は以前巨大化した時と変わらない。
それは分かりやすく言えば、ライオンになったはずなのに、二足歩行のままなのだ。
【巨大な獣人になった感じか?魔法は使える?】
あ、そうか。
巨大化だけなら魔法は使えたけど、変身すると弱体化したんだよね。
間を取ると、少し弱くなる?
何も無い方向へ火球を使ってみたが、これは駄目だな。
普通の巨大化の時の、半分のサイズになってしまった。
これは弱体化が優先されているという事だろう。
【じゃあ最後に、三つの掛け合わせだな】
三つかぁ。
英雄変身、そして巨大化。
となると、アレだな?
【アレだよ。シュワッチ!って言うしかないんだよ】
言いたい事は分かる。
だけど問題がある。
【問題?何が問題なんだ?】
巨大化は僕しかなれない。
変身ヒーローは、兄さんしかなれない。
じゃあ、巨大化した変身ヒーローは?
【あぁ!そっちか!確かにどっちが優先されるんだ?】
僕的には、兄さんが主導の方が良いと思ってる。
巨大化して僕が身体を動かすのは、あまり効率が良くないし。
【それを言ったら、俺が巨大化して魔法使うのもどうかと思う。どっちかになってしまったら、使わずに封印した方が良いかもしれない】
そうかもね。
じゃあまずは僕が試してみよう。
僕の欠片を左手に握り、兄さんの欠片を右手に握る。
変身して大きくなれと念じると、身体が大きくなった事は分かった。
ん?
大きくなっただけ?
手足を見ても何も変わりは無い。
どうやら巨大化しただけらしい。
【右手の欠片、光ってないな。効果を発揮してないみたいだ】
何でだろう。
僕に英雄願望が無いからかな?
でもそうすると、兄さんも変わりたいって願望があるから、使えるって事?
【無いわけではないな。というより、身体も大きくなりたい。ボールを後ろに逸らしづらいし】
なんか理由が全く違うけど、そうなんだ。
それなら大きくなる事も出来そうだけど。
とりあえず交代して、三つ同時に試してみてよ。
「変身!とぅ!」
俺の身体よ、大きくなれ!
俺は敢えて目を瞑って、同じように三つ全てに念じてみた。
恐る恐る目を開けると、そこはツムジの背からしか見た事の無い景色が広がっている。
俺は、巨大化に成功したのだ。
(凄い!三つ同時に使えたじゃないか!)
オゥ!
思ったより上手くいったな。
手足や胸を見ても、キャプテンストライクの時と同じでプロテクターがある。
これは成功か?
「ん?」
身体が縮む・・・。
あ、何だこの倦怠感。
(魔力切れ?)
多分そうだと思う。
というか、こんなの実戦では使えないぞ。
(大きくなってたの、一分くらいじゃない?)
もっと短いだろ!
慣れてないから魔力消費が激しいのか。
それともキャプテンストライクの状態で巨大化したから、更に短くなったのか。
何にせよ、今はこの姿になるメリットは無いと感じる。
(メリットどころかデメリットしか無いね。しばらくは練習くらいでしか、使用は禁止しよう)
それが良いな。
下手したら俺達、敵の目の前で魔力切れ起こして、トドメを刺されてもおかしくない話だし。
だけど、練習して効果時間が延びるかな?
(延びないかもしれないけど、やらないよりやった方が良いでしょ)
それはそうだ。
魔力が無くなるから、一日に何回も出来ないけど。
上野国でやりたい事も無いし、この二日間はやっておこう。
二日後、上野国から出発予定の日になった。
兄は話が面倒そうだと、既に交代をしている。
ロックが集合場所にやって来た。
「どうもどうも!遅れてないよね?」
「大丈夫だよ。話はしたんだろ?どうなったかな?」
「今回はデビュー済みの、彼等四人だけ一緒に行くよ。他はまだ子供だし、流石に親元を離れて暮らすのはどうかという意見もあってね」
親としては、アイドルやダンスグループなんて怪しいものにさせたくないのかもね。
ましてやロックは胡散臭いし。
「その顔、なんとなく言いたい事分かるけど。でも俺っち、怪しい男とは思われてないからね?カズのおかげで信用度は高いよ」
「だったらもう少し慕ってついて来ても良かったんじゃない?」
「逆だって!親と一緒に居られるのは今だけだからね。もう少し大人になってからでも、僕の所には来れるから。それに魔族は寿命がヒト族と違う。見た目が可愛いのに大人とか、合法的に・・・」
「分かったからもう良い。それで後ろの四人が一緒に行くのか?」
「はじめまして魔王様!私は花火」
「私は緑鳥。ミドリと呼んで下さい」
「僕は青風。アオって呼んで欲しいです!」
「俺、黄月。よろしく」
これまた名前と衣装が分かりやすいな。
全員名前に因んだ色のヒラヒラした服を着ている。
「ロック、名前はお前が決めたの?」
「そうだよ。良いでしょ?グループ名は花鳥風月。ここでは老若男女問わず、名前が知られているよ」
うーん、安直?
でも覚えやすいから、名前を知らしめるって意味ではアリなんだろうな。
それよりも気になるのが、種族だ。
花火は妖精族かな?
他の連中はエルフに獣人、最後にヒト族なんだが。
「なあ、これだけバラバラの連中なのに、一緒にやっていけるのか?」
小声でロックに聞くと、指で丸を作っている。
問題は無いらしい。
「彼等、性格はおとなしいんですよ。むしろあまり人前に出るのが苦手というか。引っ込み思案な自分を直したいという理由で、カズのバンドメンバー募集オーディションに来たくらいだし」
「バンドからアイドル?」
「彼等、見た目は良いからね。楽器持たせるより、前に出した方が良いと思ったから。ちなみにセンターは目立つから、誰もやりたがらない」
センターをやりたがらないアイドルグループって何だよ!
普通はセンターを目指して、切磋琢磨するんじゃないのかよ。
「ま、まあ良いや。挨拶出来る人達だし、安土でも上手くやっていけるよ」
しかし、ここでまたロックがとんでもない事を言い出した。
「あのね、つきましてはデビューイベントに、この二人を借りたいのですが?」
「ハクトと蘭丸か」
「安土で抜群の人気を誇る二人に乗っかって、彼等を紹介したいんだよ!というわけで、この四人をバックダンサーにして、二人も同時デビューしてもらいたいんだけど。ダメ?」