イワーズ
ゴーレムによって破壊された街は、既に復興が始まっていた。
ノーム達の仕事に感心する王国民。
これなら魔族のイメージも好転するだろう。
城には内乱が終わった事を聞きつけ、既に九鬼の一族が揃っていた。
爺さんの宿願でもあるミスリル甲船の為、長浜にはミスリルの提供を、そしてドワーフには加工をお願いした。
ドワーフの件では少し問題が起こったが、真田家の長男次男である信之と信繁が、研鑽を積むという意味も含めて王国に残る事になった。
これでほぼやるべき事は終わった。
王国での最後の夜という事で、皆で宴会をやる事になった。
大勢の前で話すという事に慣れない僕は、途中でテンパってしまった。
そこで兄が手助けをしてくれたのだが、やはり名門校のキャプテン経験者。
大勢の前で話すのに慣れている感があった。
話している事はそこまで大した事ではないのだが、皆の心を掴むのが上手いと思った。
翌日、電話の件でキルシェと少しゴタゴタしたが、最後に解散の一言で、僕達は王都を後にするのだった。
「なあ、このまま安土に帰るんだろ?」
蘭丸が俺の横に来て、そんな事を言っている。
だが俺は惑わされない。
コイツ、早く帰ってセリカとイチャつきたいだけだ!
(そこはちゃんと、話を聞いてからにしようよ)
黙らっしゃい!
モテない男の僻みをナメるなよ!
「ほ〜、そんなにセリカに会いたいかね。へー、ほー、ふーん」
「ちょっとマオくん」
「それもなくはないが」
「奥さん聞きまして?なくはないですって!配偶者が居るこの余裕。がっぺムカつく!」
「僕、奥さんじゃないよ・・・。それになくはないって事は、本題が違うって事だよ」
ハクトの的確なツッコミが、俺の怒りをスルーする。
だけど、本題って何だ?
「上野国には寄るんだろ?」
「何故?」
「お前、ロックの事忘れてるだろ」
ロック?
あの胡散臭い男がどうかしたか?
(そういえば、バンド育成で残ってたんだっけ。バンド育成が落ち着いたら、安土に戻りたいって話だった。一度様子を見る為にも、寄った方が良いかもね)
そういう理由なら仕方ない。
「ロックから話を聞いて、戻るって言うなら連れて帰るか」
厩橋城へ戻ってきた。
ここも一益が洗脳されていた時に攻城戦があったが、今ではすっかり元通りである。
ドワーフの鍛治師の力は、こういう面でも発揮されるようだ。
「一益に会いに行くけど、昌幸はどうする?」
「行く必要は無いかなと考えてますが。別に会っても話す事はありませんし」
仲悪いのかな。
どうにもアッサリというよりは、避けている感じがしてならない。
本人がこう言うのだから、強制をするつもりはないけど。
「オゥ!魔王様!お疲れだったな」
「ゲッ!一益殿!?」
何故か城ではなく、街の中でバッタリと遭遇した。
隣に居た昌幸は、物凄く気まずそうにしている。
確かに今の会話を聞かれていたら、避けているのがバレバレだからな。
「オゥ、真田の。魔王様の役には立ったかい?」
「は、はぁ。武器を大量に納めましたよ」
「違うだろ!魔王様の役には立ったのかと聞いてるんだ」
「役に立ったか立ってないかは、魔王様が判断する事であって、ワシが言う事じゃないと思いますけど」
何故だろう。
某ゴーダと某ノビーの関係に見えるのは、気のせいか?
これ、確実に昌幸は苦手意識持ってるな。
しかも小声で、それくらい考えれば分かるだろうが!とか言ってるのが聞こえる。
身体強化してないと聞こえないから、多分そんな事言われているとは、本人は気付いてないんだろうな。
「旅の疲れを癒しに、上野国に寄ったのか?だったら長浜へ向かう途中の温泉地に寄ると良い。我が優遇するように言えば、最高級のおもてなしで入れるぞ」
「それ良いな!」
たまには少しくらいゆっくりしたいし、ちょっと温泉入るくらいなら問題無いよな?
(良いと思うよ。急ぎで帰りたいのは、蘭丸くらいでしょ)
じゃあ尚更だな。
よし、温泉決定!
おっと、その前に。
「ロックはどうしてる?」
「ロックか?今はあのスタジオで講師をしているぞ」
「スタジオ?」
「スタジオを知らんのか?」
それくらいは知ってる。
俺の友達もバンドやってる奴居たし、学校帰りにスタジオ寄って練習するとか言ってたから。
どんな場所かは知らないけど。
「今だと、ギターコースじゃないか?」
「そんなに分かれているのか。アイツも凄いな」
「凄いなんてもんじゃないぞ!今やこの街でロックを知らない奴などおらんわ!」
「は?何で?」
「それは本人に聞くが良い。ワシは政務があるから城に戻る。スタジオに行けば会えるぞ」
一益はそう言って城へ戻っていった。
どうやら本当は戻りたくないみたいで、政務なんか下の連中にやらせとけと、文句を言っていた。
そのスタジオだが、俺達がここを離れた時には無かった建物だ。
街の中でも少し上に大きい建物で、四階建てくらいの小さなビルといった印象だな。
それに少し現代的な建物でもある。
いろんな意味で目を引く建物だった。
「この人数で行ってもしょうがない。明日まで自由行動にしよう」
俺と一緒に来たのは、ハクトと蘭丸だけ。
いつもは半兵衛が一緒に来たりするのだが、うどんが食べたいと珍しく慶次と二人で何処かへ行ってしまった。
「さて、行ってみようか」
スタジオの前に来て、まず驚いた事がある。
この建物の名前が、イワーズスタジオになっている。
イワーズって何だ?
少し混乱したが、扉を開けるとそこは本当に異空間だった。
「いらっしゃいませ。初めての方ですか?体験コースをご希望でしょうか?」
「体験コース?」
「体験コースをご希望されると、短時間でこのイワーズスタジオにある、全ての楽器に触れる事が出来ます。その中からお気に入りの楽器を見つけましょう」
「いや、楽器じゃなくて・・・」
「では、ボーカルコースを希望ですか?ダンスボーカルとバンドボーカル、どちらを希望でしょう?」
「えっ!?ダンス?」
「ダンスコースを希望ですね。分かりました。少々お待ち下さい」
・・・何だこの空間は?
まんま日本にありそうな感じが凄い。
俺ですら驚いているんだ。
後ろの二人は口が開いたまま、周りをキョロキョロと見回している。
「ねぇ、このままだとロックさん会えないんじゃない?」
「ギターコースとか言ってなかったっけ?ダンス?の方に行って良いのか?」
「とりあえず、ここがどんな場所か知りたい。少しだけ体験してみよう」
二人にそう伝えると、俺が良いならと快諾してくれた。
流石は心の友だ。
「お待たせしました」
「マジか・・・」
どうせダンスって言っても盆踊りとかだろ、なんて考えていたのが甘かった。
普通にダンスだ。
ヒップホップとかブレイクダンス、ジャズダンスって言うのもあるらしい。
これ、全部ロックが教えたのか?
「二人とも、上手いですね!」
「そうですか?」
「これ、意表を突く時に使えそうだな」
ブレイクダンスを習っている二人が、何やら褒められている。
ちなみに教えている講師は、ドワーフではない。
何故かオーガだった。
「先生は角が邪魔でね、特定の技は使えないんだけど。キミ達なら出来そうだ」
テレビでたまに見る、頭でクルクル回るヤツか?
角が邪魔とかじゃなくて、オーガがダンス教えてる事に驚きだっつーの。
「じゃあ三人とも、音楽に合わせてやってみましょう。レッツパーリィ!」
パーリィって何だ。
コイツの頭がパーリィなんじゃないか?
「マオくん、踊らないの?」
「自信無いのか?」
「ムカっ!お前、言ったな」
少し踊れるからと、蘭丸にナメられている気がする。
というか、俺達が楽器を全く弾けないから、ダンスも同じだと思ってるんだろ!
ところがどっこい!
身体を動かす事には自信があるんでね。
「ワ〜オ!キミ凄いな!この教室始まって以来の天才児じゃないか!」
「フハハハ!本気を出せばこんなもんよ」
「ただ勿体ないのは、音楽に全く合ってない動きだけどね。もっと高速なら合うのかもしれないけど、でも凄いよ」
褒められているのか貶されているのか。
曖昧な答えだな。
って、何だ?
気付いたら、窓の外に人が大勢集まってるぞ。
(ハッ!まさか!?)
何か分かったのか?
(女性人気のある二人が、こんな外から丸見えの場所で上手いダンスを踊っててみなよ。後はどうなるか、分かるな?)
・・・確かに女しか居ないな。
でも、俺の方がダンスは上手かった。
まさかの展開もあるんじゃ?
「キャアァァァ!!サイコーよ!」
「この二人見た事無いけど、新しいイワーズJr.かしら?」
「推し変あるわよ!」
やはり二人の人気だった。
しかし簡単に触れられると思ったら、大間違いだぜ。
ここはジャーマネの俺が・・・。
「ちょっとジャリ、邪魔よ」
「いや、俺ジャリじゃなくて魔王・・・」
「ああん?アンタも新しいイワーズJr.?売れそうも無いわね。違う道を探した方が良いわよ」
・・・何だろう、この敗北感。
別にダンスを極めるつもりもないけど、知らない人に違う道を行けと諭されてしまった。
俺、久しぶりに泣きそうだわ。
(その気持ちは分かる。だけど、意味深な言葉があったね)
イワーズJr.の事?
(それだよ。Jr.って事はだよ、もしかして既にデビューしてる連中も居るんじゃない?)
確かに。
だけど、この短期間でか?
いや、このスタジオも知らんうちに出来てたし、何処までロックがやっているか分からない。
早く本人に会わないと駄目だな。
「ちょっと!ダイヤの原石が居るってホント!?」
「あ、ロック」
「え?ハクトっちに蘭ちゃん!何でダンスしてるの!?」
「おい、俺も居るんだけど」
「あ、魔王様」
コイツ、俺の事はついでみたいな言い方しやがった。
随分と態度デカくなったな。
「お前、ちょっとこっち来い」
「ちょっと!イワーマロック様に何偉そうな口聞いてるのよ!」
「い、イワーマロック様ぁ!?」
「アンタ知らないの?とんだ田舎者ね」
王国に行って戦っている間、俺は田舎者認定されていたようだ。
果てしない怒りが、俺の中でこみ上げてきているのだが。
「ちょっと、イワーマロック様。俺、今からここを更地にしたいと思うんだけど、構わないかね?」
「え?いやホント勘弁して下さい!何なら二回転捻りを加えた、ムーンサルト土下座もさせていただきますから!」
彼は何も言ってないのに、本当に捻りを加えたジャンピング土下座をした。
その様子を見た女達が、ザワザワと騒ぎ出す。
「ちょっと場所が悪いね。場所変えませんか?」
「ハクトの言う通りだ。この中で人が居ない場所を案内してくれ」
「ハクトっち、蘭ちゃん。キミ達はやっぱりスターだなぁ」
「おい、早くしないと更地だぞ」
「うぅ、魔王様はやっぱり極悪だなぁ・・・」
社長室。
そこが三人が案内された場所だった。
「お前、社長になったの?」
「えぇ、おかげさまでこの通り成功しまして」
社長室にあるのは、かなり高級そうな物ばかりだった。
上野国だけでなく、越中や若狭の品、それに俺も見た事が無い土地の物まである。
「それで、イワーズってのは?もしかしなくても、あのアイドル事務所のパクリか?」
「パクリだなんて!オマージュと言って下さい」
パクリ確定だな。
つーか、バンドに力を入れてたんじゃないのかよ。
「こんな大きな建物を作ったくらいだ。既に何人かデビューしてるんだろ?」
「それは勿論です。最初はバンドが数組デビューしたんですが、それよりも凄かったのは、あっちですね」
指を差した方向を見ると、イケメン四人組の絵が貼ってあった。
似顔絵だけど、かなり上手い。
「やはりアイドルというのはどの世界も共通みたいでして、女子の人気がハンパなかったです」
「バンドは?」
「こちらはコアなファンが応援してくれて、これまた人気があります。カズのバンドは、上野国で知らない人が居ないくらいですよ」
そりゃ自分の領主だ。
知らん奴なんか居るわけがない。
「で、お前どうする?」
「え?どうするとは?」
「結構成功したみたいだけど、安土に戻るの、戻らないの?」