解散
シスコンがめんどくさい。
キーファーの印象が変わった。
彼の言い分は無視して、ターネンの計らいで話を聞いてくれる事になった。
やはり彼は、父を手に掛けるつもりは無かったらしい。
気付いたら考えが変わっていたとの事だ。
彼等は贖罪も含めて旅に出る。
言いづらい事を話してくれた感謝の気持ちとして、ミスリルの剣と小さなキーホルダーサイズのバットをプレゼントした。
そのバットを見せれば、安土や他の都市で何かしら優遇してもらおうと考えている。
しかし彼等は、魔族の都市などに興味は無いと言う。
だから、ヒト族と魔族がどのような関係かを説明した。
彼等は旅の中で、魔族との関係を見直すつもりらしい。
旅の果てには、父と亡くなった部下達の墓や石碑を建て、そこに町を作るという計画になった。
そして最後に、妹を頼むと言って去っていった。
思ったより話が通じる連中だった。
やはりこの事から、ジューダスという神官が如何に怪しいかが浮き彫りになってきた。
必ず敵対する事になる。
それだけを念頭において、僕達は安土へ戻る事を決意した。
王都へ戻ると、既に街は通常通りに戻っていた。
中にはまだ壊れた箇所もあったが、ある程度はノーム達の活躍で補修がされている。
「魔族って凄いな!」
「そんな事無いです。むしろこういう事しか、出来ないんだで」
「いやいや!大助かりだよ。うちの野菜、持っていくかい?」
「ありがとうごぜえますだ」
どうやらノーム達の活躍で、魔族の評判はかなり上がっているっぽい。
代わりにアホな事してそうな奴も居るが。
「アンタは動かないのかい?」
「拙者、役に立たなかったでござる・・・」
「だったらこんな所で寝てないで、復興に手を貸しなさいよ」
「拙者の仕事は戦場にアリ。復興に使う力は・・・」
「という事を言っていたと、又左に伝えておこう」
横から僕が口を挟むと、又左の名前が効いたのか、すぐさま起き上がった。
「さて!拙者がやるべき事を見つけたでござる!女将殿、また!」
「逃げたな」
「あら、何かをしに行ったんじゃないのかい?じゃあご飯抜きにしようかねぇ」
何故か慶次は、このお店に世話になってるらしい。
迷子の時に手を貸してくれたからだと言う。
仕事もしないで飯食って寝てる、ヒモにしか見えないのだが。
「なんだかんだで皆、元気だな」
城に戻ると、全てが解決したからか、九鬼の一族が揃っていた。
相談役を努めるファンキージジイこと元嘉隆。
そして孫娘の方で現嘉隆。
彼等は復興を手伝い、そして相談役とキルシェが進める計画、ミスリル甲船の建造に早く着手したいという事だった。
僕はキルシェと相談役と計画の見直しを図った。
まずはネズミ族とドワーフの鍛治師である真田昌幸を、部屋へ呼び出した。
「まずはネズミ族の連中に協力を要請しよう。ミスリルの提供を頼む」
「かしこまりました。長浜へすぐに送るように手配します」
「それとドワーフに船の一部を、作ってもらった方が良いだろう」
「しかし、ワシは安土へ行くのでは?」
昌幸は安土で、鍛治師として働いてもらいたい。
これは僕と本人の希望なので、正直外せない。
だから代わりのドワーフの鍛治師が必要なのだが、生憎とそう指揮が出来そうなドワーフが思い当たらなかった。
「魔王様よ。どうにかならんかな?」
「うーん、どうしようか」
爺さんとの約束もあるし、蔑ろには出来ない。
困ったな。
「息子達で良ければ、置いていきますよ」
「え?」
「信之と信繁を、修業代わりに置いていきましょう」
「本人達に確認しなくて良いの?」
「そんなもの必要無いです」
とは言っても、向こうも子供じゃないし。
やっぱり本人の意思を尊重しないと。
「良いですよ」
「むしろ願ったり叶ったりです」
「良いの?」
「父の下から離れて、研鑽を積みたいと思います」
予想より淡白な関係なのかな?
あっさりと承諾されてしまった。
でもこれは好都合なので、ありがたくその気持ちを受け取っておこうと思う。
「というわけで爺さん、彼等が主にミスリルの加工をしてくれる事になった」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
自己紹介も済んだ事だし、これで僕の仕事もひと段落着いたと思われる。
これ以上王国の事に首を突っ込むのは、野暮というものだろう。
「魔族全員を集めてくれ」
バルコニーからこうやって見下ろすと、本当に多種族が集まったなと実感する。
こんなに多種族が一堂に会したのは、初めてなんじゃないか?
ってそういえば、前の魔王が集めてたか。
キルシェも挨拶をしたいと言うので、彼女と二人、並んで下を見ていた。
全員集まったところで、最後の挨拶をしようと思う。
「皆、これまで他国の為に頑張ってくれてありがとう。おかげで内乱も終わり、こうして魔族を忌み嫌っていた王国にも、魔族と新しい関係を持つ事が出来た」
「私からもお礼を言わせて欲しい。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるキルシェ。
彼等は歓声で応えた。
「王国は生まれ変わります。今後は皆様の都市とも、関係を築ければと思っております」
「だったらアタシの越中国と、青果で取引をお願いしたいわ」
「ベティ様は領主でしたわね。後程、お話を伺いますわ」
早くも一つの都市と国交を広めようとしている。
「でしたら、若狭国も交渉をお願いします」
阿形も同じく口を開くと、若狭も越中のように貿易をしようという感じだ。
「ライプスブルク、なかなかに人気だな」
「なあに、国土が広大だからな。その土地土地で採れる物が違うから、特産品が沢山あるのさ」
なるほどね。
そういう事なら、うちも美味い物が欲しいし。
良い物が手に入れば、新たな料理も完成するかもしれない。
「それよりも、挨拶は良いのか?」
あ、途中だったんだっけ。
美味い物欲しさに頭がトリップしてた。
「えーと、何が言いたかったんだっけ?あ、そうそう。皆のおかげだ」
「それはさっき言った」
ヤバイ。
思いつかない。
このまま終わるのも何か気まずい。
【仕方ないな。少しだけはなしてやるよ】
「お前等!皆と協力した感想はどうだ?」
「は?」
「隣の連中はどんな奴だった?一緒にメシを食べた時、何を喋った?新鮮だっただろ?」
「確かに。今まで知らない話をした」
「知らない土地に行って、知らない人と会うのは難しい。だけど今回、お前達はこうやって集まった。戦いをしに来たわけだが、それだけじゃ無かった。こう言っちゃなんだが、楽しくなかったか?」
「・・・そうですね。私は楽しかったです」
「兄上と同意です。慶次殿との出会いは、ワクワクした気持ちになりました」
「拙者?」
自分の名前が呼ばれると思わなかったのか、アクビをしていた慶次が少し驚いた顔をしている。
つーかアクビしてんじゃねーよ。
「アタシも面白かったわぁ。特に阿形と吽形ちゃん達、領主目線で見ても満点よ。うちに欲しい人材だわ」
「ありがとうございます」
当たり前と言わんばかりに、胸を張ってお礼を言っている。
流石はエリートだな。
「ハッハッハ!同じ魔族でも普段関わらない奴と一緒に働くと、いつもと違う気持ちになるだろ」
「慶次殿のような方、若狭ならクビになってますからね」
「クビ!?拙者、働いてるでござるよ!」
「お前、肝心な時に迷子だったじゃん」
「それは・・・皆が置いていくから!」
思い出したのか、ちょっと涙目の慶次。
あの時の話を聞くと、こっちは笑いしか出てこない。
「隣の奴を見ろ。今日まで一緒に働いてきた仲間だが、これでお別れだ」
顔を見合わせる連中。
名残惜しいような、ようやく帰れるといったような。
少し複雑な気持ちをした顔をしている。
「だからな、今夜はパーっとやってお別れだ。ラーメン、カレー、その他諸々。沢山準備したから、飲みまくれ!」
「そんな挨拶で良いのか?」
キルシェが呆れた顔をしているが、良いんだよ。
お別れって言っても、また会う機会があるだろうし。
(そんな機会ある?)
あるだろ。
今の帝国なら、多分また集まる事になる。
(あー、なるほどね。ジューダスの件もあるし、そう遠くないうちにありそうだ)
だろ?
だから今日は、思い出作りで良いんだよ。
翌日、騒ぎに騒いだ魔族達は、二日酔いの顔をして帰路に着く事になった。
「ここのお酒、なかなかクセがあるわね。頭痛いわ・・・」
「西方で作られた焼酎でしたね。私達も少々はしゃぎ過ぎました・・・」
「その割には元気そうじゃない?」
「若狭から持ってきた薬がありますので」
「・・・少し頂けないかしら?」
顔色が悪いベティは、阿形から薬をもらった。
すぐには治らないだろうが、それでも多少は楽といった感じだ。
「慶次殿は・・・何故そんなに元気なのでしょう?」
「昨日は楽しかったでござるな。このお酒とアレ、お土産で買って帰るでござる」
「うっ・・・。今はお酒の話はしないでちょうだい」
それを聞いた慶次は、悪い顔で酒瓶をベティの前で見せびらかしていた。
明らかに煽っている。
「アンタ、治ったら本気で張り倒すわよ」
「それは楽しみでござる!」
「あぁ、アンタにはその方が良いんだったわ・・・。いや、そうだ。お兄さんに連絡しましょう。弟が生意気だと」
「ベティ殿、水をお持ちしますか?」
高速で態度を変えた慶次に、苦笑いのベティ。
阿形達も笑っている。
「これで解散だな」
「魔王様!」
「皆、本当にお疲れさん。これで各領地に戻ってもらうわけだが、また集まる事になるだろう。それまでは英気を養ってくれ」
「また集まる?」
「ジューダスの件、領主達に話しておいてくれ」
「奴を見つけた時、また集まるという事ですね。分かりました」
アイツは絶対に倒さないと、ヒト族だけじゃなく魔族にも害をもたらす。
必ず倒す為にも、全力を持って叩き潰すべきだ。
「あまり言いたくないが、知っている顔だとしても油断はするなよ。催眠の効果で、そう思わされているだけかもしれないからな」
「そうですね。それを考慮して、今後は相互に連絡を密に行いましょう」
「今は電話もあるし、簡単に連絡取れる。魔王様が来る前とは大違いだわ」
「電話!?」
しまった!
キルシェに聞かれてしまった。
これ、魔力を使ってるから、キルシェには内緒にしてたんだった。
(黙っておきたかったけど、どっちにしろ使えないからね。知られても問題無いよ)
そうかな?
「おい、王国にも電話を置いていけ」
「置いていけって・・・。アレは俺達でも作れないんだ。だから安土で買ってくれ。ちなみに魔力で動くから、ヒト族には使えないぞ?」
「問題無い。造船所には魔族が居るじゃないか」
信之と信繁か。
ミスリルの加工でも魔力を使うのに、電話もアイツ等の魔力をアテにするとか。
コイツ結構えげつないな。
「それなら私が残りますから」
「え?そうなの?」
声を掛けてきたのは、ネズミ族の代表だった。
どうやらミスリルの受け渡しにここに残って、王国と長浜の間に入る役職になったらしい。
「おぉ!そうですか。今後ともよろしくお願いしますわ」
こういう時だけ姫スマイル。
彼は顔を赤くしているが、俺はさっきまでの置いていけというチンピラおっさんのイメージが強くて、何か気持ち悪くて駄目だった。
そういう事言うと、デリカシーとか言われるのは分かっている。
だから口にはしない。
「さてと、そろそろお別れだな」
「船が完成したら、また連絡くれ」
「相談役も居るし、ドワーフの協力もある。そう遠くないうちに完成の報告をするさ」
「楽しみにしてる」
最後にキルシェと握手をして、俺は門の外へ出た。
「安土へ帰るぞ!それでは解散!」