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魔王とキーファーとターネンと

 デリカシーが無い。

 まさか自分が言われるとは思わなかった。

 ショックを受けたが、それよりも確認したい事があったので、僕は半兵衛と一緒に部屋を出た。


 半兵衛は国王の死を病死にしていた。

 僕は父親殺しの王子に対して、何故こんなに追放処分が偏ったのか不思議に思っていた。

 その理由がコレだった。

 今後はデリカシーが無いなどと言われないよう、勿論彼女には秘密にするつもりだ。


 ついに刑が執行される日が来た。

 ギロチン前で追放処分を言い渡された二人は、頭が回らない。

 理由を聞かされる事無く、門の方へと連行されていった。


 門の前で理由を知らされた彼等は、渋々納得といった形になった。

 自分達は負けていないなどと、負け惜しみを言っていたが、最後には国を幸せに導けという言葉を残していた。

 なんだかんだで妹を認めていたのだろう。


 敵として城の前でしか話をしていなかったが、どうにもマトモな奴だった。

 もしかしたら催眠の効果で、あのような言動だったのかもしれない。

 そう考えると、彼もある意味被害者である。

 それを確かめる為に出発したばかりの一向に、もう一度会いに行った。

 話があると切り出すと、何を勘違いしたのか結婚の挨拶をしに来たと思われていたのだった。





 妹さんを僕に下さい!

 女性との交際経験が無い僕に、それを言う機会は無かった。

 そして、その機会は彼女に使う事は決して無いと断言出来る。



「全く違います。むしろノシ付けてお返しします」


「どうせあんな事やこんな事をしようと・・・。何だと!?貴様、俺の妹が可愛くないって言うのか!」


 何だこのシスコンは。

 さっきまでやらないと喚いていたのに、断った途端に違う理由でキレ始めた。

 僕はどうすれば良いんだ。



「兄上。違うと言っているので、話を聞きましょう」


「俺の妹は顔だけかと思っていたら、頭まで良かったんだぞ!それを全く・・・。何?」


「とりあえず、わざわざ話をする為に来てくれたのです。聞くくらいは良いでしょう?」


「あぁ、魔族と会話なんかするとは思わなかったがな」


 ようやく落ち着きを取り戻したようだ。

 まだ悪態を吐くくらい嫌われているようだが、話を聞いてくれるだけマシになったと考えよう。



「言いづらい事を尋ねるが、良いか?」


「うむ」


「父親、国王は最初から殺すつもりだったのか?」


 キーファーは無表情で目を瞑ったまま、何かを考えている。

 ターネンは直接関わっていないのか、やはりその答えが気になっているようだ。

 短い時間だったがようやく目を開けると、意を決したように話を始める。



「おそらく殺すつもりは無かった」


「おそらく?」


 ターネンがその言葉に疑問を持った。

 だが、催眠が理由ならその言葉も納得出来る。



「実際には手に掛けてしまったのだ。おそらくとしか言えない。だが、当初は父から権力を譲ってもらう為に、後継者として発表してもらうつもりだった。それが途中から、譲ってもらうはずが奪う事に頭がシフトしていったんだ」


「兄上、何故そのような事に?」


「分からない。その結果、俺は維持派のトップに立ち、そしてお前達に敗れた。父を手に掛けてまで行った結果が、コレだがな」


「・・・言われてみると、我々は父親殺しまで行ったのに、何故追放処分で済んだのでしょう?」


 ターネンの疑問に、キーファーもそれに気付いた。

 普通ではありえない結果だからだ。

 彼等は僕を見て、それを問い質してきた。



「父親は王都から追い出された後に、心労が重なって病死したって事になってるんだ」


「なるほど」


 重々しく返事をした二人に、今度は僕が質問をした。



「まだ死にたいか?」


「いや、生きていれば何とかなります」


「妹からそう言われたからな。それに俺達の不甲斐無い指揮で死んでいった者達に、申し訳ない。彼等に報いる為にも、俺達がやらなくてはならない事もあると思うんだ」


「そうか」



 父親の件をほじくり返したのもあって、やはり気持ちが整理しきれてないのかもしれない。

 彼等は旅をする事で、その答えを見つけると思う。

 というか思いたい。


 彼等はある意味被害者だ。

 理性的な彼だったら、もっと穏便に済ませる事も出来たはずだから。


 そんな彼等に、父親の件で傷口をえぐった僕から多少の謝罪をしようと思った。

 バッグから取り出したミスリルで、二人分の剣を作り渡した。



「これが魔王にしか使えない創造魔法!」


「・・・思ったより綺麗だな」


「これあげる。それとコレも持っていっていいよ」


「何だ?これは?」


 それは余ったミスリルの端材で作った、小さなバットだった。

 なんとなく作ったのだが、これをパスのような扱いで渡しておこうと思う。



「安土や他の魔族の領地に行った時、それを見せると良い事ある。かもしれない?」


「何故疑問形なのだ」


「まあ行ってみてからのお楽しみという事で」


「フン!誰が魔族の治める土地なんぞ行くか!」


 という憎まれ口を叩くだろうなと予想して、ターネンに渡しておいた。

 だけど、少しだけ反論しておく。



「お前達は王国の人間だから、ヒト族の居る国しか行った事無いんだろう?」


「それはまあ。帝国か騎士王国くらいですかね」


「ターネン!」


「別に間違っていないじゃないですか」


 キーファーは図星だった事を突かれるのが嫌だったのか、それに答えたターネンを怒鳴りつけた。

 案の定というか、やっぱり王国はそうなんだろうなと思った。

 だから少しだけ説明しておこう。



「お前達のゴーレムを倒した妖精族。彼等の都市である若狭国は薬草類が豊富だ。ヒト族の薬師も沢山来るぞ。ミスリル関係だと、ドワーフ達の上野国だ。帝国が軍備を整えるのに結構持っていったらしいし。なんだかんだで、魔族もヒト族と持ちつ持たれつやってる」


「だがそれは、商売が成り立つというだけだ。共生までは出来ないだろう?」


「そんな事は無い。安土には帝国の軍人も住んでるし」


「住んでる!?」


 召喚者も居るけど、それは別に言う必要性も感じないから良いや。

 それから手招きして、彼等の耳元で重要な事も伝えた。



「帝国の国王、バスティアンって知ってるよね?アイツ、今安土に滞在してるぞ」


「ハァ!?」


「それは流石に嘘ですよね!?」


「言いふらさない方が良いぞ。多分、王子のヨアヒムに命を狙われかねないから」


「マジか・・・」


「えっ!?何の為に?」


 軟禁されていたところを助けたって言っても、信じないだろうなぁ。

 というわけで、流そうと思います。



「それは安土に来て、本人に聞くと良いよ」


「何なんだよ!」


 キーファーは教えない事に怒るが、知らない方が良いという事もある。

 本当に気になるなら、自分で確認した方が良い。



「とにかくだ。魔族とヒト族だって、別に合わないわけじゃない。キミ等も旅を始めるなら、変な偏見を持たずに行動してみなよ」


「偏見ねぇ。魔族の妙に大人びた事を言う変なガキが、魔王となって領主をやってるって時点で、偏見なんかとっくに無くなってしまったけどな」


「微妙にイラつかせてくれますが、役に立つ情報もくれますし。そこは我慢しておきましょう」


 あら?

 そこまで悪い印象ではないのかな?

 ただ、僕個人の印象が悪そうなんだが・・・。


「ま、まあそれなら嬉しいんだけど」



 そしてキーファーは、これからやろうとしている事の一端を話し始めた。

 その計画は、僕としても賛成出来る意見だった。


「まずは父の墓を建てるさ。王国とは別の場所に。そして私達のせいで散っていった英兵の墓もな」


「石碑も作りたいですね。忘れてはいけない記憶として、後世に残したいと私は思っています」


「そうだな。それも良いかもしれない」


 彼等は悔いているのだと、改めて思った。

 自分達のせいで、多くの命が亡くなった事を。


 彼等にも魔族とは相容れないという、譲れない思いがあったのだという事は、僕でも理解出来る。

 だが、その手段が悪かった。

 もし武力で解決などしようと考えなければ、このような結末にはならなかったのだろう。



「アンタ達はもう少し、魔族を知るべきだと思う。そういう観点からすれば、旅に出るのは良い判断だったのかもしれないね。石碑とか墓を作るなら、そこに新しい町でも作れば良い。どういう町になるか、それは旅を終えた後の二人の考えが反映されるだろう」


「王族に向かって偉そうに。いや、元王族だったな」


「しかし、その案は悪くないと思います。私達がやはり魔族とは相容れないと思えばそういう町になるし、考えが改まればこれまた違う町になる。これから始まる長い旅路の中で、決まるでしょう」


「そういう事」


「クソッ!ムカつくガキだが、間違っていないな。ただ、同じ過ちだけは繰り返したくない。相容れないとしても、それだけは忘れてはならない。そういう町にするさ」


 二人が言い終えると、もういいだろと言って、二人を残して前進が始まった。



「我々は行く。こんな不甲斐無い自分達について来てくれた彼等に報いる為にも」


「また会う機会があるかもしれません。それはまた、敵としてかもしれないし、味方になっているかもしれない。魔族と言われる者達を、この旅で見極めてみせますよ」


「見極めるも何も、あんまりアンタ等ヒト族と変わらないと思うよ。まあ慶次や太田みたいな、ちょっとおかしな連中が居るのは否定出来ないけど」


「ハッ!お前が一番おかしいわ!」


「それに関しては兄と同意ですね」


 僕が一番おかしいとか、そんな意見が出るのがおかしい。

 まったく、こんな幼気な魔王を捕まえておかしいとか、何処をどう見ればそう思うのやら。

 彼等はまだ、見る目が無いな。



「最後に言っておく。妹には手を出すなよ!」


「出さんわ!」


「それならば良い。魔王と一緒になったなんて旅先で知ったら、安土に攻め入るからな」


 安土がこの先も安泰だという事は、分かったわ。



「フフ、そういう意味ではないですが、妹をよろしく頼みます」


「あぁ、落ち着いたら彼女とは共同事業が待っているんだ。バックアップはしていくから、任せておいてくれ」


「それは一安心。ただし、妹には手を出さないように」


「だから出さんわ!」


「ハハハ!冗談ですよ」



「それでは我々は行くとしよう。さらばだ!」





 二人は前に追いつくべく、馬を走らせた。

 姿が見えなくなったところで、僕もトライクを王都の方へと向きを変える。


 やはり当初に思っていた二人とは、大きく異なった印象だった。

 長年演じてきたモノから解放されたのもありそうだ。

 今の二人なら、部下達が千人以上残ったのも理解出来る。

 魔族を見極めると言っていたが、それも公平な目で見てくれるだろう。



【話してみると、そこまで悪い連中とは思わなかったな】


 確かにね。

 やっぱり催眠の効果があったとしか言いようがない。


【いつかは分かり合えると思いたい。そんな連中だった】


 今度会ったら、また変わってるよ。

 そんな気がする。




 それよりも大事な事は、ジューダスと呼ばれる神官についてだ。

 やっぱり継続的に催眠を掛けないと、その効果は薄れるんだろう。

 だから今、あの二人は僕等とも会話出来たんだと思う。


【最初は取り付く島も無かったな。うるさいとか喚いてるだけだったし】


 そうそう。



 ジューダスって何者なんだ?

 精神魔法が使えるという事は魔族?

 じゃあ何故、自分と同じ魔族を敵対させるんだ?

 謎が多いけど、確かな事は一つ。

 コイツは敵だ。

 僕等の前にまた姿を表すはず。

 その時は絶対に倒さないといけない。


【それはひとまず、頭の片隅に置いておこう。終わったばかりだしな】


 それもそうだね。





 これで王国も落ち着いたし、安土へ戻るとしよう。

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