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王国追放

 国民に委ねるのは無理。

 王政国家で選挙のような投票を国民に委ねるのは、難しいという事だった。

 彼等は重要な事に対する決断は、王族の仕事だと思っているらしい。

 その話を聞いていた半兵衛は、それならば内緒で行えば良いと言い出した。


 彼の言うやり方は、王子への刑罰を賭博にしてしまおうという作戦だった。

 街中で王子に対する罰は、何が選ばれるか。

 一番人気が彼等が支持する罰になる。

 そしてこの作戦の一番の肝は、キルシェがどういう判断をするか。

 それを国民が考えるという事だった。

 国民が思うキルシェの印象が、全てを決めると言っても良い。

 彼女はそれを受け入れ、街では至る所で王子に対する賭けが行われた。


 その結果を見た彼女は塞ぎ込んだ。

 追放という結果を見た僕等は、彼女に良かったなと話した。

 しかし安心した彼女は、人目を憚らずに泣き出してしまう。

 それを口外するなと僕と半兵衛は脅されたが、口止めに彼女から頬にキスをされた。

 半兵衛は顔を赤くして照れていたが、僕は中身がおっさんだと知っているか、あまり嬉しく思えなかった。

 それを突っ込むと、彼女に激怒されるのだった。




「そんな事無いだろ!まだ子供の姿だからアレだけど、もっと大きくなったらモテる!」


 と思う。

 蘭丸だってモテモテなんだ。

 ダークエルフっぽい僕等も、それなりにイケメンになるはず。



「そういうんじゃない。デリカシーってモノがお前には無い!」


「えっ!?」


 そんな事無いと思うけど。

 兄さんは知らないけど、僕はそんな事無いと自負している。


【おい、人を巻き込むなよ】


 いやいや、その通りでしょ。

 でもここで言い合いをしていてもしょうがない。

 だからこそ、第三者に確認しようじゃないか。

 僕は半兵衛を見た。


「なっ!」


 目が合ったと思った瞬間、顔を背けられた。

 見なかった事にされてしまった・・・。



「ほらな。お前、自分が思ってるより、結構酷いと思うぞ」


「はい・・・。反省してます」


 まさか半兵衛にまで思われているとは。

 これは考えを改めないと、誰もついてきてくれなくなりそうで怖い。


 このままズルズルと言われても嫌なので、話題を戻そう。



「とにかく、この結果は良かったな!」


「誤魔化してるのは分かっているが、でもありがとう」


「どうします?ご自分でキーファー王子達に従う兵達に話しをしますか?」


「私が行けば逆効果だと思う。悪いがお願い出来るか?」


「分かりました」


 半兵衛が、追放となる二人の従者を探しに行く為に部屋を出るというので、僕も一緒に出る事にした。





 部屋を出てしばらくして、人の気配が無い事を確認した僕は、半兵衛にある事を聞いた。


「僕はこの結果に対して、疑問があるんだけど」


「どの点でしょうか?」


「お前、父親殺しの件、国民に説明したのか?」


「・・・気付いてましたか」


「やっぱり」


 あの結果がヤラセでないなら、どうにも納得がいかない点があった。

 それは、あまりに追放処分に偏っていた事だ。

 王子とはいえ自分の父親を殺した者を、そんな簡単に許すだろうか?

 しかも王位を剥奪されて、既に王族とは関係無いという発表をされて賭けが行われている。

 それなのに家族を殺した人間を、そう易々と許せるとは思えなかった。



「彼は病死という事になっています。内乱に心労が重なって、身体を壊したという事です」


 不自然な気がしないでもないが、王都を追われた国王だ。

 それくらいあっても不思議じゃないって思えなくもない。



「その事を彼女は?」


「知りません」


 だよな。

 そうじゃないとあんな大泣きしないよな。

 知らぬが仏。

 この事は半兵衛と二人の秘密にしておこう。





 いよいよ刑罰執行の時が来た。

 彼等は既に、死刑確定だと思い込んでいる。

 しかもご丁寧に、わざわざ断頭台まで用意してあったのだ。

 あんな物を見れば、自分が死刑だと思うのも当たり前である。


 王都で一番の広場で、彼等は縄で縛られて連れられてきた。

 国民は断頭台を見た段階で、自分達の予想が外れたと溜息に包まれている。



「第一王子、キーファー・ツー・ナーデルホルツ。第二王子、ターネン・ツー・ナーデルホルツ。前へ」


 断頭台がある高台へ上がると、彼等は観念したのか、自分から膝を突いた。

 キルシェが正装をしてその前に立つと、彼等は目が合わないように視線を落とした。



「静粛に。これより刑罰を発表する」


 刑罰の発表は、コモノが行っている。

 理由はキルシェに何かがあっても守れるように。

 そしてなによりも、ヒト族だからという理由だ。

 それに彼は元大将。

 人々も彼の顔くらいは知っていた。

 それに他国のこのような席で、流石に魔族が取り仕切るのは問題がある。



 発表と言われても、既に断頭台が出ている。

 広場に集まった国民は、分かりきった事を言うなと思っていたが、それでもその発表を聞く為に静まり返った。



「第一王子キーファー、第二王子ターネン。この者達は今より、ナーデルホルツ家と絶縁。及びライプスブルク王国からの追放を命ずる」


「・・・ん?」


「追放処分?」


 下を向いていた二人が、聞き間違いかと顔を上げた。

 コモノの方を見たが、二度は言わない。



「縄を切りなさい」


 キルシェの指示で後ろ手に縛られた縄が切られると、彼等は一通りの旅に出れそうな道具を持たされた。

 無言のまま受け取る二人。

 頭がついていけないのか、なすがまま行動している。



「ハッ!ちょっと待て!何故俺達が追放なんだ!?」


「死刑ではなく追放?」


 二人の頭が動き始めた。

 しかしその説明をする前に、今度は二人についていく従者達が現れる。

 再び頭がショートする二人。



「彼等も同じく追放処分とする。以上!」


 コモノの発表が終わると同時に、断頭台は片付けに入った。

 それを見た国民は、追放処分が確定だと賭けに勝った事に気付く。

 公にやっていない賭けなので、この場で喜ばないが、それでも握り拳を作って喜んでいる者や静かに声に出している者達も居た。


 と言っても、倍率はたかだか二倍以下。

 銅貨一枚しか賭けていないなら、ほとんど変わらない。

 銅貨五枚で、ようやく九枚になるかなといったくらいだった。


 追放処分を言い渡された二人と従者は、そのまま王都から外へ出される為に門の方へと向かわされていた。





「というわけで兄上、追放処分とさせていただきます」


「どういう訳だ!何故死罪ではなかった!?」


「私達は死罪だと思って待っていた。それがコレだ。理由を聞かせてほしい」


 二人は自分達の裁決に不満があるらしい。

 死刑じゃないなら良いじゃない!

 と思うのは僕だけで、王族のような連中は違うみたい。

 プライドとかが関係してるのかもね。



「これは国民達が選んだ事です」


 国民投票とその結果までの経緯を話すと、彼等はその事に大きく驚いていた。


「信じられないな」


「民が自分達で、私達を追放処分に選んだというのか」


 何故か分からないが、その事を話すと二人とも納得したような顔になった。

 やはり自分達が街や国民に被害を出した事に、少し後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。



 そして驚きなのが、キーファーとターネンについていくという従者。

 その数千人超である。

 よくもまあこんなに人望があったものだ。

 しかも改革派の中から元ターネン派だった連中も、少数ながら参加している。

 彼等はターネンを止めたかっただけらしい。

 改革やら維持やらではなく、ターネンに付き従う連中だった。



「俺は魔族なんか信じないぞ」


「それは僕に言ってるのかな?別に嫌いだって言ってる連中から、無理して好かれようとは思ってないよ。ただ今回は、キルシェとやりたい事があったから協力しただけって感じかな」


「そんな理由で内乱に参加するのは、頭のおかしい奴がする事だけどね」


「ハッハッハ!ターネンくん、そんな事を気にしてたら負けだよ?」


「人の事を勝手にくん付けで呼ぶな!」


 ターネンは元々改革派に所属していたからか、少しは魔族とも話してくれる。

 でもキーファーはやっぱり、こっちを見ようともしなかった。



「兄様。こういうのもおかしな事ですが、死ななければ何かあります。他国に行かれるも良し。新しい土地を開拓するも良し。お二人には仲間がおられます。やれない事はないはずです」


「俺はお前に心配されるほど、柔ではない」


 ぶっきらぼうに言うと、彼はそっぽを向いてしまう。

 照れ臭いのかな?



「ちなみにこの後はどうされるのですか?」


「そうだな。再び力を付けて、王国に乗り込むのもアリかもしれないな」


「ご冗談を」


「いいか?俺はお前に負けたとは思っていない。魔族に負けたんだ」


 そう言われたキルシェは黙ってしまった。

 確かにゴーレムや城のバリアを破壊したのは僕達だが、趨勢を決めたのは、ラコーンや真イッシーに鍛え直されたヒト族達だ。

 それは負け惜しみに聞こえる。



「それは、お前の意志に負けたとも言える」


「兄様・・・。この後はどうされるつもりですか?」


「お前、それを聞くか?死罪だと思っていたのに、先の事なんか決めているわけないだろう!?」


「し、失言でした・・・」


 彼の言う事はもっともだ。

 少し笑いそうになってしまった。



「フフ、まあ生きていれば何かあるか。旅でもしながら考えるとしよう。ターネン、お前は別行動でも良いんだぞ?」


「どうせ死んだと思った身。一蓮托生で何処までも一緒に行きますよ」


「と言う事だ。長々と話していると、国民から不信を買うかもしれない。そろそろ行くとする」


「会う事は無いかもしれませんが、どうかお達者で」


「・・・俺達に勝ったんだ。以前も言ったが、この国を強く、そして民達を幸せに導いてくれ」


 その言葉に、耐えていた涙が溢れるキルシェ。

 キーファーが軽く涙を拭くと、彼はそのまま王都から出ていくのだった。





 敵だった時は馬鹿演技とかで、ちょっとしたクソ野郎かなと思ったのだが。

 今の会話を聞いていると、どうにも落ち着いていてマトモな兄貴だった。



【これも催眠の効果だったりして。んなわけないか】


 なるほど!

 馬鹿演技ではなくて、馬鹿な奴にされていたのかもしれない。


【馬鹿にされてだと、語弊がありそうだな。でも実際にそうだとしても、どちらにしろ維持派だった事に変わりはない。何処かでぶつかり合う運命だったんだよ】


 そうかもね。

 でもそうやって考えると、父親を殺したのも催眠のせい?

 やる事が過激になっていたから、元々は殺すつもりは無かったんじゃないか?

 父親の権力だけを奪うくらいで、そこまでは考えてなかった気もする。


【今となっては後の祭りだ。直接聞いてないし、奴の心の内なんか分からないだろ】


 それはそうなんだが。

 でも、もしそうだとしたら、彼の中で後悔がありそうかなって。

 そう思ったら、ちょっと可哀想な気がしてきたんだよね。


【もう確認出来ないから、それは気持ちだけで済ませておけよ】


 うーん、やっぱり気になる。

 僕はトライクを作り、彼等が向かった方へ行こうとした。

 だが、キルシェがそれを不審に思った。



「何処へ行くんだ?」


「ちょっと散歩。殺伐としていたからね。少しくらいは自由にさせてくれ」


 その後は返事も聞かずに、彼等の方へ走り始めた。



 やはり千人単位の移動だ。

 トライクならすぐに追いつけた。



「やあ、さっきぶり」


「おまっ!・・・何だ、俺達を殺しに来たのか?」


「そんな怖い目をしないでよ。ちょっと聞き忘れた事があったから来ただけだから」





「まさか!?妹を嫁に寄越せと!?やらせはせん!やらせはせんぞ!」

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