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知らない神官

 阿形によって捕縛された王族二人。

 安全だと思ったバリアの向こうから、散々悪口を言ってくれた彼等には、キツイお仕置きが待っていた。


 ハリセンで往復ビンタを繰り返す兄だったが、ベティは顔だけでなく尻叩きも加え、一仕事終えた後に良い笑顔でハリセンを返してきた。


 彼等への悪口に対するお仕置きを終えると、ようやく慶次が登場する。

 コイツ、今回役立たずだったな。


 バリアを張っていた召喚者は女性だった。

 脅すわけではないが、再び帝国に戻り敵対したら、今度こそ命のやり取りになると言うと、帰らないと即断即決していた。

 考え無しの言動には阿形から窘められていたが、僕もそう思う。


 彼女の能力は魅力的だった。

 阿形はさりげなく、彼女を長秀の護衛へとスカウトを始めた。

 悪いが負けるわけにはいかない。

 僕もスカウトを始めたが、その対象が長可さんだと知ると、何故か前のめりに興味を持ってきた。

 長秀も妖精なのだが、美人エルフには勝てず、スカウト合戦は僕の勝利で終わった。


 そして二人が心酔していたジューダス。

 彼の消息が唯一分からず、二人にその事を尋ねると、彼等はそんな人は知らないとすっとぼけたのだった。





「ほぅ?わざわざ庇うとは、余程大事な存在と見える」


「いやいや!本当に知らんぞ!?」


「しらを切るつもりかしら」


「待って下さい!本当に知らないのです!」


 おかしい。

 この二人、長年一緒に居たキルシェが気付かないくらいの演技派なのは分かる。

 だが、汗をかくくらい焦っているように見えるのも、演技なのか?



「そのジューダスというのは強いでござるか?」


「何者かも知らないのに、答えられるわけがなかろう」


「我々の事を知っていて深い仲だと言うなら、貴族か大商人といった辺りでしょうか?」


「そんな事言っちゃって。本当は知ってるんでしょ?」


 軽口風に言ってみたが、敢えて目は逸らさない。

 やましい事があれば、目を背けると思ったからだ。

 だが、二人ともその素振りは見せない。



「魔王様、少し様子がおかしいと思うのですが」


「吽形の言ってる事も分かる。確認の為、二人以外にもジューダスの事を知っているか聞いてみよう」



 というわけで、一番近い針谷から。


「私もそんな人は知らないです」


「会った事無いの?」


「知らないので、無いと思いますけど」


 まあ彼女の場合、帝国からいつ来たのか聞いてないし、会ってない可能性もある。

 それなら、城で働く従者の連中なら確実だろう。



 おかしい。

 誰も知らないなんて、ありえないだろ。


「どういう事なのかしら」


「ラビ殿が変装しましたし、映像も残っています」


「我々もこの目で映像は見ました。実在する人物なのは確かなはずです」


 それなんだよなぁ。

 僕だけが見てるなら勘違いでも済むんだけど。

 他の人も見てると断言したし、勘違いなわけがない。

 そうなると、何かしら証拠隠滅を図った?

 あ、これ久しぶりの子供探偵の出番だ。



「てれてーてーてれてーててー」


「急に不快な鼻歌、何なのかしら?」


「ふ、不快って言うな!」


「何か分かったのですか?」


「いや、全く」


 身体は子供、頭脳は大人。

 だけど全く真相は分からない。



「ちょっと良いでござるか?」


「何?」


「分からないなら、知ってそうな人物に聞くでござるよ」


「そんな奴居ないから困ってるんだろ」


 慶次は簡単に言うが、既に城で働いている人達の聴取は終えた。

 それでも名前も顔も出てこない。

 他に誰に聞けというのだ。



「一人だけまだ居るでござる」


「誰だよ。アーメラウの事か?既に聞いて駄目だったぞ」


「ブーフ殿でござる」


「・・・あぁ!!」


 誰もが想像してなかった人選。

 阿形と吽形ですら、驚きを隠しきれなかった。

 慶次のくせに冴えてるぞ!



「こうなったら一度砦に戻ろう。キルシェに二人の処遇を決めてもらうのと同時に、ブーフにも確認を取りたいし。それと、直接接触しているラビにも異常があるか聞きたい」


「分かりました」





「お兄様・・・」


「敗軍の将に憐みか?」


 悪態を吐くキーファーだが、やはり後ろめたいのか目を合わせようとしない。

 ターネンはその横で、必死に助けてくれと懇願している。



「何故、お父様を殺したのですか?」


「分かりきった答えを聞くな。老害以外の何者でもないからだ。奴は考えを改めようとした。お前の勧める魔族との和解を、受け入れようとしたからに決まっているだろう」


「殺す必要は無かったのではないですか?幽閉しておけば済んだ事なのではないですか?」


「くどい!魔族と協力してどうする!?信長がやったように、また追い出されるのを頭に入れて、ビクビクして暮らせと言うのか!」


「それは勘違いだと説明したでしょう!?」


「では我等が祖先は、勘違いにも気付けない愚か者だったという訳だな」


 随分と捻くれた思考の持ち主のようだ。

 売り言葉に買い言葉な気もするが、奴は奴なりに考えていたというのは分かった。


 裏切られるのが怖いから、最初から近付かない方が良い。

 端的に言えばこういう事だろう。

 父親を殺してまでも頑なに拒否する姿勢は、その怖さが尋常じゃなかったのかもしれないな。



「ゴーレムなんて物まで引っ張り出して、民への被害は考えていないのですか?」


「考えていたさ。お前達さえ来なければ、ゴーレムを戦闘に使う事なんて無かったけどな」


「それはおかしいでしょう。発掘させたのは使う為。それ以外に理由がありますか!?」


「元々は牽制の為に、立たせるだけのつもりだったんだ。お前達のせいで戦闘に出す羽目になったがな」


 何でもかんでも僕達のせいなんだな。

 思考が偏ると、こうまで子供のような理屈になるとは。

 僕等も気を付けないといけないな。



「兄妹喧嘩は三人でやってくれ。僕等は席を外す。二人の事をどうするのか、それはキルシェが決めてくれ。一人で決めるのが辛いなら、相談くらいは乗るけど」


 なんて言ったものの、兄を追放もしくは処刑等、そんな相談はされても困るだけなのである。

 内心では、社交辞令だから本当に来ないでねというのが、本音なのだ。



「ありがとう。何かあったら頼む」





 三人と護衛に針谷を残して、僕等はブーフが待つ別室へと向かった。

 途中で半兵衛と合流し、彼の考えも一緒に聞く事にした。



「待たせたな」


「この度はありがとうございました」


 部屋に入るや否や、いきなりお礼を言われてしまった。

 少し挙動不審でいると、どうやら僕に対してではなかったらしい。



「私達は私達の仕事をしたまでです」


「貴方が身体を張ってゴーレムの動きを止めたから、私達が王都外へ出せたのですよ」


「それでも言わせてほしい。ありがとう」


 あの時か!

 アレ、ブーフが囮やってたんだ。

 裏切ろうとまでした奴が、あそこまで身体張るとは思わなかったな。

 半兵衛も凄い事だと言ってたけど、これを機会に阿形達ももう少し距離が縮まってくれると嬉しい。



「本題に入る。ブーフはジューダスという人物を知っているか?」


「ジューダス?あの神官を名乗る男ですか?」


「知ってるのか!?」


「え、えぇ。直接関わる事はほとんどありませんでしたが、キーファー王子が懇意にしているとか」


 この話を聞いて、僕達は確信した。

 城の中で何かがあった。

 城の者全員にジューダスの存在を忘れさせるなんて、只者の仕業ではない。

 様子が分からないブーフの為に、城の中で起きていた事を説明すると、彼はおかしな事を言い始めた。



「なるほど。あの人が祈りを捧げると言っていたのは、こういう意味だったのかもしれないですね」


「祈り?何をされたんだ?」


「実は私、されていないんです」


 どうやらブーフが知っていたのは、彼の祈りを聞いていないからかもしれないと言った。

 その理由として、主にキルシェと行動していて会う機会が少なかった事。

 そして祈りを捧げると言われたが、キルシェを裏切り襲う為、急いで城を出た事等が挙げられた。



「今の話から推測すると、催眠の可能性がありますね」


「催眠?催眠術の催眠?」


「術というより魔法です」


 半兵衛の説明によると、催眠は精神魔法の一種でその効果は人によって様々らしい。



「私も精神魔法に詳しくないので推測の域を出ませんが、持続的に使う事で自分を忘れさせるという、普通ではありえない事を信じ込ませたのかもしれません」


「普段は何ともないけど、潜在的に刷り込まれてたのかもしれないわよ」


「ベティ殿の言う通りだとしたら、奴はこの戦闘が始まる前後に、既に城から脱出していた可能性も捨てきれないです」


「後催眠というヤツですか。なかなかに厄介ですね」


 皆の意見を聞いていると、色々な可能性があるという事が分かった。

 何にせよ、現状では捕まえる事はほぼ不可能だという事だ。



「とりあえずラビの映像を元に写真を作ろう。要注意人物として、皆には気を付けてもらわないといけない」


「そうですね。催眠というのが厄介な点として、いつ掛けられたか分からないというのが挙げられます。我々も不審人物には気を付けましょう」


 ブーフを含め、全員が返事をすると、扉がノックされた。



「キーファー様とターネン様の刑罰が決まりました」





 キルシェは一人、夜の空を見ていた。

 一人で彼等に対する罰を決めたのは助かったが、やはり荷が重かったのかもしれない。

 誰にも相談せず、自分の兄二人に関しての刑罰決めたのだから。

 声を掛けるべきか迷っていたところ、逆にこちらを発見されてしまい向こうから声を掛けてきた。



「魔王か。別に避けなくても良いんだぞ」


「見つかってしまったか」


「隠れてもいないんだから、そりゃ見つける事は出来るさ」


 隠れようとは思ったけどね。

 そして彼女は、その悩みを話し始めた。

 やはり社交辞令なので、そういう事はやめて下さい。

 などとは口が裂けても言えない。

 言える雰囲気でも無かった。



「お前、兄弟が居るとか言ってたよな?もし兄弟がとても悪い事をしていたら、お前はその罰を兄弟に与えられるか?」


「なるほど。兄に対してその罰を行使出来るかって事ね。出来ると思うけど」


「例えそれが命に関わる事だとしても?」


「え?うーん、もう少し考えさせてくれ」


 今の話し方だと、キーファー達は死刑もしくはそれに近い刑罰が待っているという事だろう。



 しかし、血の繋がった兄に対してそんな罰を選択出来るのか?

 彼女の言っていた事が、頭の中で繰り返される。


 僕の場合、甘めの判決を言う気がした。

 いかんせん、僕は両親が既に他界している。

 兄しか残されていない事を考えると、どうしても正常な判断が出来る気がしないのだ。

 しかし父が殺された事で、兄しか残されていないのは、キルシェも同じである。

 それを考慮すると、彼女は公平な判断を下したのかもしれない。



「そんな事を考えたんだけど、その割には浮かない顔をしてるよね」


「そんな事ってどんな事だよ。まあ浮かない顔っていうのは、当たってるだろうな」


「結局はどうしたいのさ?」


「二人を殺したくはない。だけど、民に犠牲者を出し、街を破壊したゴーレムに指示を出したのは、紛れもなくキーファー兄様だ。なによりも、国王殺し・・・父殺しの罪は重い!」


 公私の間で気持ちが揺れ動いている感じかな。

 でも僕はハッキリこう言いたい。





「嫌なら嫌だとハッキリ言えば良い。国民の為だなんだと理由付けする前に、その国民に投票でもして聞いてみれば良いじゃないか」

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