城のバリア
巨大化した僕は、何故か二体目に出現したゴーレムと戦う事になった。
普通、楽な方を譲らない?
でも勝てるかどうか分からない相手は、上司に任せるのも普通なのか?
そんな事を考えつつ、ゴーレムに剣を向けた。
選択授業で剣道を選んだ僕の腕前は、ゴーレムに全く通用しなかった。
相手の変更を願った僕だったが、阿吽に拒否されてしまう。
彼等の言い分は、先に弱い方を倒してから二人で戦うという考えだった。
僕は避ける事に専念した。
その結果がフルボッコである。
攻撃をすればカウンターが、攻撃しなくても殴られ蹴られ、とにかく痛い思いをした。
もう殴られたくなかった一心で槍を振り回していると、兄が魔法は使えないのかと聞いてきた。
予想外に魔法は使えた。
僕はそこに勝機を見出した。
奴を罠に嵌め壁で覆い、そして中を熱する。
だが奴は地面から外へと出てきた。
そこに氷魔法で急激に冷やすと、奴の身体は急激に劣化した。
そこを棍で突くと、ボロボロと崩れ落ちていく。
そして僕は、殴られた腹いせに完全勝利のセリフを吐いたのだった。
クゥ〜、口の中切ったかもしれない。
染みるわぁ。
だからこそ思う。
まだ言い足りない。
「こんな人形で僕等に勝とうなんて、百年は早いな。王族って言っても、所詮は人形遊びが得意なヒョロ男だろ。やーいやーい!王子が揃ってビビってるぅ!」
【一つ言っていいか?】
何?
【めちゃくちゃダサいぞ】
・・・そうかな?
そんな事もないと思うけど。
【砦の方見てみろよ。多分キルシェも呆れてるんじゃないか?】
まさかぁ。
そんなわけ、と言っても僕の身体強化じゃ見えないわ。
そんな事をしていると少し離れた場所からも、ガラガラと何かが崩れる音がした。
「フゥ、私の方が遅いとは。やはり魔王様の力は凄い」
「終わったか。というか、遅いよ!もっと早くケリつけなさい」
「ハハハ。申し訳ありません。何処を壊せば停止するのか、見当も付かなかったので」
「僕の方は頭を壊したら崩れたけど。頭じゃなかった?」
「一番最初に頭を破壊したのですが、動きが止まらずに戸惑いました。最後は左太もものような場所を突いたら、崩れ落ちました」
ゴーレムって個体によって弱点が違うのか?
発掘品らしいけど、また出てこないとも限らないし。
次があった時に備えて、覚えておこう。
【そうだな。ゴーレムならお前が一人で戦う事になるし。今後は剣の腕も磨いた方が良いんじゃないか?】
うぅ、それは否定出来ない。
剣の腕だと、チトリと真イッシーかな。
帰ったら教わる事にしよう。
「バーカ!バーカ!」
魔王の罵倒が辺りに響く。
子供の声だからか、罵倒というよりは友達に向かって言う悪口のようにも聞こえた。
だが、その内容を聞いた目の前のキーファーとターネンは、顔を真っ赤している。
「アッハッハッハ!今の聞いた?アナタ達の希望だったゴーレム、人形呼ばわりよ。しかも壊されちゃったみたいだし。笑っちゃうわよねぇ」
何も出来ずに透明な壁の前で飛んでいるベティが、ざまあみろと言わんばかりにキーファー達に向かって喋っている。
聞きたくなくても耳に入るその声は、彼等を不快の頂点へと押しやった。
「誰か、銃を持ってこい!アイツを撃ち落とせ!」
「あら?無駄だって気付かないのかしら。弾の無駄遣いをする余裕あるの?」
「うるさい!その話し方止めろ!気持ち悪い!」
オカマ口調を突っ込まれるベティ。
逆に嫌がらせをするべく、キーファーとターネンに話し掛け続けた。
「あらあら、人の個性を馬鹿にするなんて、心が狭いのね。人とは千差万別なのよ。男も居れば女も、強い人も居れば弱い人も居る。そんな狭い心で、王族として国を背負っていけるのかしら?」
「黙れ!王族じゃないお前なんかに、私達の何が分かる!」
「お馬鹿ねぇ。アタシ、越中の領主よ。王族じゃなくたって、人の上に立つ立場なの。こんなナリでも、アタシの命令一つで、戦争をする事だって出来るのよ。お・わ・か・り?」
人差し指を立てながら、子供を諭すように説明するベティ。
その仕草が癇に障ったのか、何も言わずに銃を撃ってきた。
だが、ベティはそれをいとも簡単に避ける。
「感情的になって行動している時点で、上に立つ者としては失格ね」
「うるさいうるさい、うるさぁい!」
ベティの指摘に、最早キーファーは語彙を失っている。
「いやぁ、耳が痛い言葉だなぁ」
「全くです。私達も精進しなければ」
元の姿に戻った僕と阿形と吽形。
再び城へ向かうのに、あの巨大な姿は目立つという事で、正面から入り直す事にしたのだった。
「魔王様!?阿形殿達も!」
「お疲れさま」
僕達が怪獣大戦争をしている間に、改革派と維持派の戦いは終わりに向かっていた。
門前の戦いは、既に掃討戦へと入っている。
維持派の人間は全て斬り殺すのか。
それとも助命を乞われたら、見逃すのか。
そこまで口を出すのは、僕達の範疇ではない。
「ベティ殿が見えてきました」
「何か言ってるね。何だろう?」
「感情的になって行動している時点で、上に立つ者としては失格ね」
うっ!
心に刺さるお言葉ですな。
チラッと横を見ると、阿形達も似たような気持ちなのか、こっちを見て苦笑いしてきた。
「耳が痛い言葉だなぁ」
「魔王様!?戻ってくるのが早かったですね」
ベティの方が驚くの?
普通、敵側の二人が驚くところじゃない?
「そ、そうだ!お前達の魔王だって、感情的に喚いていたではないか!」
「あ、はい。ぼくはこどもなので、かんじょうてきになってもいいのです」
敢えて無感情に喋ると、馬鹿にされたと思ったのか、僕に向かって銃を向けてきた。
スッと手を下に下ろし土壁を作ると、彼はその矛先を変えた。
「そ、そこの妖精族だってそうじゃないか!」
「私達としては、溜まったモノをたまに外へと出さないと、色々と不都合がありますので」
「兄上の言う通りです」
「不都合とは何だ?それこそ、お前達の都合だろう」
「そうですね。私達の都合というよりは、相手への思いやりでしょうか?」
「兄上の言う通りです。限界まで溜め込むと、私達自身で抑制が出来ず、相手を殺してしまうまで止まりませんから。それでもよろしいのであれば、別に構いませんが」
淡々と喋る二人だが、言ってる事は怖い。
要は我慢の限界を超えると、殺すまで止まらないって言ってるのだから。
今後は要注意人物に入れておこうと、心の引き出しに入れたのだった。
「あ、兄上、その辺で止めた方が・・・。あの二人、アングリーフェアリーですよ。怒らせると後がどうなるか・・・」
「スカイインフェルノにアングリーフェアリー。だが、彼等でもこのバリアは突破出来ていない」
そう言われてみると、未だにベティは突破出来ていない。
クリスタル内蔵の武器でも、無理だったのだろうか?
「ベティ、あの双剣使っても駄目なのか?」
「駄目ね。内蔵してる魔法が魔法だから」
「は?何入ってるんだ?」
「光魔法よ。というより、光魔法しか入れたくないわ。空に舞うアタシ。双剣を翳してアタシは叫ぶ。光り輝くアタシに、誰もが目を奪われるわ!その時の感情、たまらない!」
頭を抱えたくなった。
誰もが目を奪われるというのは、視界を奪われるという意味でなら間違っていない。
だが、違う意味なら勘違いだ。
「良いですねぇ」
「私達もそういう武器欲しいです」
「そうだね。今回の報酬として、コバに掛け合ってみよう」
「本当ですか!?」
「やったね、兄ちゃん!」
余程嬉しいのか、吽形は素が出てしまっている。
二人専用の武器となると、ダガーとスティレットになるのかな。
本当に考えておこう。
そんな事を話していると、銃弾が数発飛んできた。
「私達を無視するな!」
「おぉ、忘れてた。すまない」
向こうはもう、ゴーレムという切り札は無いっぽい。
銃で威嚇してくる程度しか出来ないのだ。
それに対してこちらも、透明な壁を破壊する事が出来ていない。
結局はお互いに見合う事しか出来なかった。
【試しに俺が全力でやってみようか?】
変身するの?
そこまで魔力残ってるか分からないよ。
【全力で一撃だけ打ちかましてみる。それで駄目なら、次の機会に考えよう】
分かった。
「変・身!とぅ!」
「おぉ!何ですかそれ!?」
「カッコ良い!」
阿形達からの評判は良い。
彼等は俺と同じ感性のようだ。
今度、ヒーロー談義を二人としても良いかもしれない。
(あんまり時間無いよ)
おっと、そうだったな。
下手な事をして魔力切れで終わったら、ただのバカになってしまう。
「行くぜ!全力、フルスイング!」
手に持ったバットを、透明な壁に向かってフルスイングした。
失敗だな。
物凄い衝撃で、バットを落としてしまった。
金属バットでコンクリートの塊を叩いたような、そんな感触が手に残っている。
そんな事をやった経験は無いから、勘だけど。
「す、凄い音でしたね」
「一瞬、壊れたかと思ったんですけど」
「見て。まだ透明な壁が波打ってるわ。それだけ凄い衝撃だったって事よ」
失敗はしたものの、どうやら三人には俺の一撃の凄さが伝わったみたいだな。
あと何回かやれば、ヒビくらいは入る気もしないでもない。
(でも今日は弾切れ。魔力の残りが少ないよ)
仕方ない。
明日以降に、キャプテンストライクの真骨頂は取っておこう。
「お、驚かせおって!」
「破られるかと思った」
城に居る二人も、この攻撃には肝を冷やしたようだ。
だが、今度は奥の手を使って破らなかったからか、向こうが悪態を吐いてきた。
「魔王と言っても所詮は子供だなぁ!」
「何だと!?」
「そんな子供に頼る魔族。ププッ!ダサっ!」
「兄上。駄目ですよ、そんな本当の事を言っては。彼等のプライドがズタズタになってしまいます」
こ、この野郎。
完全に喧嘩売ってやがる。
変身を解いたからといっても、俺自身の魔力はまだまだ残ってるんだ。
「テメー!安全な所に居るからって、言いたい放題言いやがって!降りてきやがれ!」
「あらあら?さっき感情的になるのは、何て言われましたっけ?」
「知るかボケ!テメー等、絶対に泣かす!」
あまりにムカついたので、身体強化を全開にしてバットをフルスイングし続けた。
「魔王様?」
「何だ!」
「ちょっと落ち着いては如何でしょうか?」
「俺は冷静だ!」
「いや、怒ってますよね?」
「怒ってない!」
「ほら、怒ってますよ」
うぅ、腕が疲れてきた。
しかも何度も叩いているせいか、手も痺れてきてる。
ここで止めるのは悔しい!
「ちくしょおぉぉ!!このやろ!このやろ!」
「ハッハッハ!馬鹿が何か負け惜しみを言ってるぞ?」
「兄上、だから本当の事を言ったら可哀想ですって」
上から目線で言ってくるコイツ等を、絶対にブン殴りたい。
俺はその気持ちだけで、何度もフルスイングを続けた。
「あ、あれ?」
「どうかした?」
「少し壁に傷付いてませんか?」
「あら、本当だわ!ヒビのような小さな傷があるわね」
吽形が俺のバットの先のバリアの異変に気付いた。
ベティもそれを見て同意している。
それを聞いた俺は、俄然やる気が出てきた。
「割れろ!割れろ!割れろおぉぉぉ!!」
「も、もう駄目ですうぅぅぅ!!!」
波打っていた透明な壁が、ガラスが砕け散るかのような音で崩れていく。
どうやら、召喚者が先に我慢比べに負けたらしい。
「割れたな」
「割れましたね」
「割れたわ」
「という事はだ、後は分かるな?」
俺の言いたい事は、三人とも理解している。
阿形と吽形はすぐに城へと入る。
そしてベティは、空から城内へと逃げるキーファー達を追った。
「アイツ等、絶対にブン殴るぞ!必ず捕まえろ!」