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翻弄される魔王

 阿吽がゴーレムを相手にどうするか迷っていると、馬に乗ったブーフが話し掛けてきた。

 ゴーレムを外に出すのを手伝ってほしい。

 囮を申し出た彼は、阿吽の承諾を得る事に成功。

 ゴーレムを投げ飛ばし、王都外に投げ飛ばした。


 切り札と思われたゴーレムは外へと姿を消した。

 ベティはその事を突くと、キーファーは余裕を持って答える。

 すると地面の中から、かなりの速度で拳が突き出してきた。

 地面から這い出てきたのは、姿が違う二体目のゴーレム。

 ベティは攻撃を仕掛けるも相手にダメージは無い。

 そしてゴーレムの攻撃もベティにかすりもしなかった。

 慶次の援護を避けながら待つベティ。

 だが彼は来なかった。


 そこに武器をくれという大きな声が聞こえてきた。

 僕はダガーとスティレットを彼に作ると、均衡は一転して攻勢に変わった。

 だがそれも長くは続かず、二体目のゴーレムが阿吽目掛けて攻撃を仕掛けてきた。

 二体がかりの攻撃に、次第に傷が増える阿吽。

 阿吽はその時、僕等の魂の欠片を持っていた事を思い出す。

 その欠片を使うと、僕は右顧左眄の森で見た召喚者のように、巨大化に成功した。

 これで兄と交代すれば大丈夫。

 と思ったのだが、どうやら僕しか大きくなれない事に気付いたのだった。





 どうしようどうしよう。

 僕、喧嘩なんかほとんどした事無いぞ。


【駄目だ。全然交代出来る気がしない】


 マジかぁ・・・。

 とりあえずこの身体を試してみよう。



 掌を見て開いたり閉じたり、足も柔軟をやるようにグリグリ回してみた。

 どうやら巨大化しただけで、身体を動かす感覚は全く変わらないらしい。

 だけど問題は、どうやって攻撃をするかだ。



「魔王様!?なるほど、あの襲撃の時に現れた巨体の帝国兵は、あの石の使用していたわけですね。ブハッ!」


「オイ!そんな事を感心してないで、敵に集中しろ!」


「も、申し訳ありません」


 僕の姿を見て動きを止めた阿吽は、一体目のゴーレムの右フックを食らっていた。


 二体がかりの攻撃だから劣勢なわけで、僕が一体を担当すれば彼なら問題無いはず。

 ならば、僕がゴーレムを倒すしかない!



「僕が一体受け持つ。もう一体は頼んだ」


「承知!」


 最初からそのつもりだったのだろう。

 一体目のゴーレムに向かって、武器を構え突撃していった。

 という事は、こっちの速い方とやるのか。

 ・・・逆にして欲しかった。



【そういえばお前、その姿で魔法は使えるのか?武器も何も無いんじゃ、あの速いのに勝てないだろう】


 言われてみると確かに。

 変身してる時は、弱体化はするけど使えた。

 もしかして同じく魔法が弱くなる?


【とりあえず武器でも作ってみれば?】


 よし、試してみよう。

 僕はいつものように手を地面に翳し、欲しい武器を想像した。



「あ、ちゃんと剣作れた。しかも変身魔法の時より違和感無い」


【凄いじゃん!巨大化、結構使えるんじゃないか?】


 でもデメリットもあるね。

 兄さんのヒーロー程ではないけど、やっぱり魔力消費がいつもより大きい。

 あまり時間を掛けていると、後々が大変になる。


【まだ馬鹿アニキ達が残ってるんだったな。だったらすぐに終わらせて、その巨体であの透明な壁をぶち破ってやれ!】


 よーし、行くぞ!





 僕は剣を両手で持ち、そして構えた。


 いつか異世界で剣を持つ時が来る。

 なんて厨二病を煩わせていた学生時代。

 僕は柔道と剣道の選択授業で、迷う事無く剣道を選んだのだった。


 そう!

 今こそ僕の真の力を魅せる時!


「めえぇぇぇん!!へぶっ!」


 な、何だと!?

 僕の面を掻い潜って、顔面にパンチしてきた。

 このゴーレム、やるな!

 だが、様子見は終わりだ。



「小手、どおぉぉぉぉ!!アイタッ!」


 まさかの連続攻撃も躱された。

 逆に剣を握っている手に、チョップを入れてくるとは。

 危うく剣を落とすところだった。



「次こそは本気だ!面!面!めえぇぇぇん!!あっ・・・」


 三連続の面。

 頭に当たらなくても、肩とかに当たればゴーレムはダメージを負うはず。

 僕の渾身の攻撃だったのだが、このゴーレム。

 仮の名をゴレ男と呼ぼう。

 ゴレ男は僕の手を蹴り飛ばして、剣を後方へと弾いた。


 僕は思った。

 中に人が入ってるんじゃないの?

 特撮ヒーローみたいに、スーツアクターが入ってるんじゃないの?

 面を打つ手に向かってミドルキックしてくるなんて、普通の人でも出来ないぞ。


 これは考えを改めなくてはいけない。

 魔王としてあまり言いたくなかったが、これは仕方ない。



「チェンジ!」


「・・・」


「阿吽、チェエェェンジ!!」


「はい?何がです?」


 彼等には余裕がある。

 こっちを見てはいないものの、声のトーンは普通だ。



「コイツとソイツ、交代して」


「何を言ってるんですか?」


「いや、このゴーレムと今相手にしてるゴーレム、交換してって言ってるの。ぬあっ!危なかった」


 話をしている最中でも、ゴーレムの攻撃が止む事は無い。

 まさか明後日の方向を向いてるのに、こっちに向かってパンチをしてくるとは思わなかった。

 寸前で上半身を反らして避けたけど、いつまでも避けられない。


 断言しよう。

 僕じゃ避けられない。



【うーん、そんなに強いとは思わないんだけどなぁ】


 あのね、僕は運動が得意なわけじゃないの。

 そりゃ野球部としてバリバリ活躍してた人からしたら、コイツの動きなんか見切れるんでしょうよ。

 でも、日々机の前で研究やレポートを書いてた人間には、コイツの動きは常人より上なの。

 お分かり?


【そこまで怒らなくてもいいのに・・・】


 僕だってマジでやってるつもりなのに、そんな事言うからだよ。



 しかし返事が無いな。

 って、無視して戦ってるうぅぅ!!



「おい、話聞いてなかったのか!?」


「聞こえてました。だから先にこちらを倒して、二人で相手をしようかなと思いまして」


「なるほど。それは一理ある。だが!僕はコイツ相手にそんなに長くもたない!」


「冗談が過ぎますよ。私より強い魔王様なら、一騎討ちで負けるはずがないではありませんか」



 あ、そういう考えなのね。

 でも勘違いをしている。

 対人戦闘で強いのは、僕じゃなくて兄さんである。

 僕はサポート的な魔法とか、大人数を罠に嵌めるような方が得意なのだ。


 とは言っても、そんな事を説明している余裕は無い。

 さっきから急に攻撃が飛んでくるので、避けるのに精一杯なのである。

 それに加えてあまり余裕も無いので、気付くと砦の方向へ離れていってしまっている。

 それはそれでマズイのだが、方向を気にする余裕が無い。



「そうやって離れていっておられる。やはり倒す気満々ですね。私はこのゴーレムを破壊したら、応援に向かいます。魔王様ならそれまでに倒しているとは思いますが、ご武運を」


 何かとてつもなく勘違いされている気がするが、時間稼ぎで粘るのが吉だろう。

 早く応援に来てと心で願いつつ、僕はゴレ男の攻撃を避ける事に専念した。





 ごめんなさい。

 もう無理です。

 いろんな所が痛い。

 喧嘩をしてない男の根性ナメるなよ。

 ちょっと殴られると凄い凹むからな。


 少しは反撃を、なんて考えて剣をブンブン振ってみたが、まあ当たらない。

 ヤケになってパンチとかキックもしたけど、むしろそれに合わせてカウンターで殴られた。

 気のせいだとは思うが、ゴレ男に馬鹿にされてる気がしてならない。

 ハッキリ言って巨体で皆に見られてなかったら、泣いてるよ。



 だけど、一向に視界の端では戦闘が終わる気配が無い。

 向こうも手こずっているのが分かる。


 やっぱり僕が頑張るしかないんだ。

 剣が駄目なら、槍でも棒でも鉄砲でも・・・。

 当たる気がしないのは、気のせいじゃないと思う。



【とりあえず槍でも作ってみれば?武器が長ければ、向こうも間合いに入って来づらいんじゃないか?】


 なるほど。

 それだけ殴られる回数が減るという事か。

 それはありがたい。

 攻撃が当たる気はしないが、向こうの攻撃も防げる気がする。

 早速槍を作ってみた。



「ちょえぇぇい!!」


 真一文字に槍を振ると、ゴレ男は距離を取るかのようにバックステップをした。

 やはり中の人は優秀なようだ。


 その後も縦に横にたまに突いたりしてみたが、ゴレ男には当たらない。

 というか、僕が疲れてきた。

 ずっと槍を振ってたから、腕がパンパンになってる気がする。


【気のせいだ。多分まだ振れる】


 いや、振れない。

 もう振りたくない。


 おわっ!

 やっぱり振る!

 振るのを止めた途端に、ゴレ男の攻撃が再開されてしまった。

 コイツ、本当に中には誰も居ないんだよな?

 というか、誰かリモコンで操ってたりしないか?



【ちょっと思ったんだけどさ、剣も槍も作れるじゃない?】


 そうだね。

 多分だけど、銃も作れると思うよ。

 直線にしか飛ばないから、避けられるだろうけど。


【いや、そっちじゃなくて。普通の魔法は使えないの?】


 普通の魔法?

 火魔法とか水とか土魔法の事?


【そう。そっち使えるなら、負ける事は無いと思うんだけど】


 考えもしなかったな。

 どれ、一発試しに火魔法でもぶっ放してみるか。





 意識を掌に集中して、相手に向けて炎の球が出れば・・・。


「おわっ!出た!」


 ちょっと予想と違い、思っていたよりも大きな火球がゴレ男に向かって放たれた。

 ゴレ男は予想外の攻撃に、両腕をクロスさせて防御する。



 ふむ。

 当たったけど、そこまで大きなダメージは無さそうだ。

 だけど、これでやりようがある事は分かった。



「フフ・・・」


 僕は自分の口角が上がったのが分かった。

 無意識に笑っていたのだろう。

 だって、勝てそうだって分かっちゃったからね!

 ゴレ男破れたり!!



 まず、武器を槍から棍に変え、奴との距離を取る事にした。

 その後、適度に棍を振ってから、わざと攻撃の手を休めると、ゴレ男はスッと前へ出てきた。


 だがそこには、僕が棍で地面を突いて作った、罠を仕掛けてある。

 奴は予想通り、罠のある場所を踏み抜いた。

 地面が膝くらいの位置まで陥没し、奴は前のめりに倒れた。



 その瞬間、武器を捨てた僕は地面に掌を着き、大きな壁で全てを覆った。

 天井も覆うと、そこからは以前やった方法に近い。

 壁の四方を炎で覆い、中を熱したのだ。



【何かの実験みたいだな】


 あながち間違ってもいないよ。

 これがしばらく続けば、ゴレ男は倒れるはず。



 そう考えていたのだが、やはり生物ではないゴーレムは予想外の行動に出た。

 唯一覆わなかった箇所。

 地面から穴を掘り、壁の中から這い出てきたのだ。

 目の前の炎に覆われた壁の前から、ズボッ!という音を立てて腕が出る。

 ハッキリ言ってホラーだ。


【おいおい、脱出されちまったぞ。どうするつもりだ?】


 大丈夫。

 作戦は二段構えなのだ。



 大火力に熱せられた壁の中から出て、更に炎の下から登場したゴレ男。

 奴の身体は今、ありえない高音になっている。

 奴の身体が何で出来ているかは分からないが、融解していない事からそれなりの硬度を持つ鉱石で作られていると思われる。



 だが、鉱物で出来ているなら話は早い。

 僕はゴレ男に向かって水魔法の応用で、氷魔法を使った。



「阿久野、フリイィィィジング!!」


 奴の動きが、途端に鈍くなるのが分かる。

 今では、錆び付いたブリキ製のおもちゃのような動き方をしていた。


 熱せられた鉱物を急激に冷やすと、その鉱物は急激に劣化する。

 ゴーレムと言えど、その劣化からは免れなかったようだ。



「えいっ!」


 その辺に捨てていた棍を拾い上げ、奴の腹を突くと、大きな穴が開いた。

 さっきまで悠々と避けていた動きは、今では見る影も無い。


 続けて足に腕、そして頭も砕くと、ゴレ男は完全にその動きを止めた。


【凄いな。俺が思っていた方法とはまるで違うやり方で倒した。やれば出来るじゃないか!】


 そりゃあ魔法が使えればね。

 しかし、それよりもだ。

 僕はコイツに散々殴られた。

 ちょっと泣きそうになるくらいに。

 だからこそ、言ってやる!





「バーカ!バーカ!お前なんか魔法が使えると分かった今、何体出てきても敵じゃないもんねー!あぁ、思い出したら頬が痛くなってきた・・・」

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