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怪獣大戦争

 ゴーレムの装甲は新たな銃を使っても、貫く事は出来なかった。

 城の前まで迫りながらも退避を余儀無くされ、一目散に逃げる改革派。

 そこに現れたのは、ヒト族にスカイインフェルノと呼ばれ恐れられたベティだった。


 ベティは炎の竜巻を作り出し、ゴーレムを封じ込めたに見えた。

 しかしゴーレムの腕が竜巻を突き破ると、ベティは竜巻を起こすのをやめてキーファー達へとターゲットを変えた。

 目の前に居る二人に突撃すると、そこには透明な壁が現れる。

 ベティは壁に激突し、その壁を越える事が出来なかった。


 次に現れたのは阿形と吽形だった。

 彼等も二人を先に仕留めようと城まで来たのだが、透明な壁に阻まれて、ベティにその場を任せてゴーレムの方へと向かった。

 執金剛神の術で合体巨大化した二人は、ゴーレムを止める為に後を追った。


 ゴーレムによる街の被害が心配なキルシェは、阿吽の二人による二次被害が無いかと尋ねてきた。

 だがその心配も他所に、ゴーレムは外の方へと寄っていくと、阿吽が王都の外へと投げ飛ばした。

 その様子を見た半兵衛は、これは王国兵と魔族が協力した歴史的瞬間だと口にしたのだった。





 言われてみると、阿形達ってあんまりヒト族と仲良くないな。

 若狭国にはヒト族の商人も来てたけど、あの二人は無表情で対応してたし。

 凄い事なのかと、なんとなく実感した。





 少し時間を遡ると、阿形達が巨大化した後、何をするべきか迷っていた。

 ゴーレムと組み合い、市街地の中で奴を倒す。

 もしくはゴーレムが追っている連中を囮に使い、背後から急所へと一撃を入れる。

 彼等は頭の中で、その話し合いをしていた。


 魔王様の命令は、民への被害は最小限にしろって事だった。

 倒すのに必要なら、最小限という理由で市街地戦もやむを得ないだろ。


 いやいや、市街地戦をやって怒られる可能性の方が高い。

 ならばゴーレムが俺達を敵として認める前に、背後から急所へ攻撃した方が良いだろう。


 市街地戦をすれば怒られるかもしれない。

 急所を攻撃するにも、この姿では武器が無い。


 結論、とりあえず様子を見よう。



「そこのデカイの!」


「誰だ?」


 ゴーレムを追って歩いていると、足下から声がする。

 誰かが自分に話し掛けてきているらしい。



「私だ!ブーフだ!」


「あぁ、元裏切り者の隊長が何のようだ」


 この姿になると、途端に口調が悪くなる。

 それを知らないブーフは、顔を歪めながらも用件を話した。



「頼む、この人形を外へ出してくれ!」


「外へ出すにしても、止まらない事には奴へ攻撃出来ない。それに、こんな市街地から王都外へ出すには遠過ぎる」


「それは分かっている!だから今、このデカブツを壁の方へと誘導している。ある地点まで来たら、我々は動きを止める。そこから外へ出してほしいのだ!」


「お前達が動きを止めたら、ゴーレムに殺されるぞ」


「それは覚悟の上だ。このままだと関係無い街に住む者達に、被害が及んでしまう。だから、頼む!」



 阿吽の二人は後を追いながら少し考えた。

 彼等を見殺しにしても、魔王から怒りを買うのではないか?

 しかしこのままだと、ブーフの言う通りに被害は大きくなる一方だ。

 どちらも被害が出るのなら、彼等が言う方が正しいと思う。

 それに若狭国の守護として、彼等の言っている事には大きく共感出来た。

 彼等は守護ではないけれど、心は守護と変わらない。

 王都を守る為、自分の命を賭しているのだ。



「そうだな。その気持ちに応えるのが、私達の役目かもしれない。奴が動きを止めた時、私が奴を王都外へ投げ飛ばそう」


 いつもは巨大な姿だと怒気を発する二人だが、この時は何故か穏やかな口調だった。

 ブーフはその事にも気付かず、感謝の言葉を述べる。



「ありがとう!」


「気にするな。ただし、無駄死にだけはするなよ」


「当たり前だ!だが、忠告感謝する」


 言う事を言ったブーフは、そのまま前へと走り去った。





 外へ投げ出されたゴーレムを追って、阿吽の巨体も王都から姿を消す。

 しばらくすると、外から聞こえる音が離れていく気がした。


「アナタ達が頼りにしているゴーレムは、王都から消えたわよ。オホホホ!後はこの壁ぶち破ったら、アンタ達をタコ殴りにしてキルシェの前に素っ裸で引っ張り回してやるわ」


「ぐぬぬ!だが甘いな」


「それは負け惜しみかしら?」


「兄上、まだ何かあるのですか?」


 ターネンが心配そうにキーファーの後ろへ回っているが、キーファーの顔にはまだ余裕があった。

 更に後ろに居る召喚者の顔は見えない。

 無言のまま両手を前へ出しているだけだ。

 おそらく透明な壁を出している間は、攻撃等の他の行動は出来ないのだろう。

 現状、あの召喚者からは攻撃の心配は無かった。

 だが、それよりも更に驚くべき攻撃がベティを襲い掛かる。



「何っ!?」


 地面の下から、かなり速いスピードでベティを拳が襲った。

 不意を突かれたベティだが、驚いたものの避けられない程ではない。



「流石にスカイインフェルノと呼ばれるだけはあったか」


「な、何ですか。アレは」


 ターネンも知らないその腕は、ゆっくりと地面の中から姿を現す。

 ベティは見える腕に警戒しながら、少し上昇した。



「ゴーレム!?」


「兄上!もう一体発掘していたのですか!?」


 姿を現した二体目のゴーレム。

 だが先程の拳の速さは、外に出て行ったゴーレムの比ではなかった。



「クハハハ!!驚いたか!?」


「凄いです!」


「形が違う?全く、面倒な相手を増やすのね」


 裾を掴むターネンは、キーファーを称えるように声を掛けている。

 だがベティにとっては、自分の攻撃も効かずに攻撃をしてくる相手が増えたという、悪夢のような展開だった。



「せめてこの街だけでも!」


 ベティは竜巻を起こさず、新たに出現したゴーレムの目の前を飛び回る。

 自分へ注意を向けて、ゴーレムをその場へ留める事を優先したり



「なんだなんだ!スカイインフェルノだろうが手に負えないじゃないか!」


「この野郎!」


 何も言わずにゴーレムの目の前を飛び回るベティ。

 ベティが攻撃を仕掛けないからか、目の前を飛び回る虫のように手で払っているだけだった。



「クハハハ!飛び回る虫のようだ!殺れ、ゴーレム!」


 先程のゴーレムより速いと言っても、ベティには余裕で避けられる速度である。

 当たらない攻撃に通用しない攻撃。

 お互いにダメージを与えられぬまま、時間だけが過ぎていく。



「当たりませんね」


「だが、いつかは当たる」


「何故言い切れるのですか?」


「ゴーレムは疲れを知らない。だがいくら鳥人族の領主と言えど、飛び回っていればいつかは疲れる。体力の限界が来た時、奴はゴーレムのパンチの餌食になるのだ」


 キーファーの説明に納得するターネン。

 しかしベティの体力はまだまだ余裕があった。



「どうせ体力切れるまで攻撃をすれば良いなんて思ってるんでしょうけど。アタシ、そこそこタフなのよ」


 ベティは飛び続けた。

 やる気満々で一番最初に向かった、迷子の彼を待って。



 しかし来なかった。

 慶次は絶賛迷子中だった。

 イライラが募るベティ。


「あの馬鹿、何やってんのよ!?」


「期待している味方は来ないなぁ?」


「その辺でゴーレムに踏まれて、死んでるんじゃないですか?」


 ターネンの言っている事を、少し考えてみた。

 慶次ならありえそうだった。

 死んではいないだろうが、その足に向かっていって返り打ちにされた可能性はないとは言い切れない。

 ベティの中で慶次は、かなり馬鹿な部類に入る。

 あながち、踏まれてもおかしくないなと思っていた。



「仕方ないわ。自分にやれる事をやるだけよ」


 来ない慶次を諦めて、ベティは気を引き締めてゴーレムと向かい合った。

 すると、外から大きな声が辺りに響き渡る。



「魔王様!武器を下さい!」





「クッ!何か言ってるぞ!?」


 耳を塞ぎながら、その大きな声に反応するキルシェ。

 鼓膜が破れるんじゃないかと心配になってくる声の大きさだ。



「仕方ない。トライクで足下まで行って、作ってくる」


「あんな怪獣大戦争の中を行って、大丈夫なのか?」


「以前も行った事があるから。多分大丈夫だ」


 以前は知らない召喚者らしき人物と阿吽が戦っていた。

 あの時に作ったダガーとスティレットなら、今でもすぐに作る事が出来る。

 僕は早速トライクに乗り込み、阿吽が戦っている場所へと向かった。




 ゴーレムは部分的に削れている箇所はある。

 だが、動きに支障を来すような壊れ方ではなかった。



「行くぞー。受け取れー!!」


 少し離れた場所にダガーとスティレットを作ると、そのまま急ぎその場を離れる。

 彼が武器を両方拾い上げると、均衡が崩れた。



「よし!良いぞ、そこだ!」


 離れた場所から応援していると、ゴーレムの大きな破片が凄い勢いでこちらへ飛んでくる。

 あまりの速さにトライクから横っ飛びで降りると、自分が居た場所を岩のような塊がトライクに直撃。

 その勢いのまま後ろの方へと転がっていった。



「危なかったぁ!これは兄さんの方が安全かもしれないな」


「魔王様、もう少し離れていた方が良いかと!」


「分かった!」


 叫んではいないようだが、それでもかなり大きいその声に、僕は思わず返事をした。



 もう少し離れた場所からその戦闘の様子を見ていた。

 ダガーでゴーレムのパンチを受け流し、身体が泳いだところをスティレットで穿つ。

 段々と削れていくゴーレムの巨体に、これは勝ったなと内心で勝利宣言をしていた。

 だが、それは早計だったらしい。



「ん?何か来ます!」


 余裕がある彼は、残してきたベティの方を気にし始める。

 すると、王都の方から何かが走ってくるのが見えた。



「何かって何?」


「分かりません。土煙が凄いです。いや、アレはゴーレム!」


「ゴーレム!?一体だけじゃないのか!」


「形が少し違います!しかも速い!」


 王都の壁をジャンプで飛び越すと、その足は止まらずに阿吽の方へと向かってくる。

 奴の後方は土煙が舞い上がり、王都は何も見えなくなっていた。



「来ます!うわっ!」


「速いな!全然機械的な動きじゃない!」


 その動きは滑らかで、人が動いているかのような動きだった。

 まさかの乱入者に、阿吽も防戦一方に変わる。

 そして元から居たもう一体のゴーレムも、構わずに攻撃を再開した。



「グハッ!」


 二体での攻撃にとうとう殴り飛ばされる阿吽。

 僕の横まで吹き飛ばされてきた。



「アタタタ・・・。このままだとマズイです。どうにかしないと」


「流石に二体同時はキツイか。こっちももう一人、巨大化出来れば良いんだけど」


「巨大化?あっ!そういえば忘れていました!」


 彼が急にポケットの中を探り始めると、中から小さな石が落ちてくる。

 その巨体からは小さ過ぎて、うまく掴めなかったようだ。



「すいません!ずっと預かったままで忘れておりました」


「今落とした物は何?」


「右顧左眄の森で拾った石です。何故か魔王様と同じ魔力を発しています。次に会ったら渡そうと思っていたのですが、何年も経っていたので忘れていました」


「石?」


 僕と同じ魔力って事は・・・。

 魂の欠片だ!


【おい!どっちの欠片だ!?】


 そんなの分からないよ!

 早く探し出して拾わないと、踏み潰されちゃう。


【俺が行く!】





 確かこの辺に・・・。

 あった!


「ガハッ!!」


 危なっ!

 また阿吽が吹き飛ばされてきた。

 このままだとコイツの体力も持たないな。



(早くその欠片を使おう!)


 分かってる!

 だけどさっきから試してるんだが、何の反応もしてくれないんだよ。

 という事は、お前の欠片か?


(その可能性が高いね。じゃあ今度は僕がやってみる)



 意識を切り替え石を持ってみると、それは起こった。

 急に目線は大きくなり、木々よりも高い視点になる。

 後ろを振り返ると砦が見え、頭の高さにはキルシェが立っている壁が見えた。



「巨大化した!?」


【これなら一緒に戦える!俺に代われ!】


 そうだった。

 兄さんならあの速い方のゴーレムだって・・・。


【どうした?】





「あら?交代出来ない・・・。え?まさか僕しか大きくなれないの?」

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