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真イッシーの教え

 アイーダの過去話は、悲しいものだった。

 師匠に先輩、後輩からも幸が薄そうで華が無いと言われる。

 今でもそんな感じなのだが、僕達はそれを口にする事は無かった。


 アイーダに変装したラビは、ターネン派を率いて王都に入った。

 城の前にはキーファーと仮面をしたターネン、モミ卿の姿がある。

 率いた軍勢が、ターネン派だという事を確認に来たようだ。

 正真正銘のターネン派なので、疑われる理由は無い。

 彼等は後ろの兵達には、意を唱える事は無かった。

 ターネン派だった兵達が、キルシェ派になった事には気付いていなかった二人。

 だが彼等はアイーダに扮したラビだけは、見破った。


 アイーダに似合わないその自信が、偽者の証拠である。

 変装に自信を持つラビのショックは大きかったが、彼女は最低限の仕事をこなそうと、門の破壊に作戦を移行した。


 彼女は命を捨てて作戦変更を実行しようとした。

 しかし元ターネン派の一人の言葉に助けられた。

 自分の仕事を全うする。

 彼女は門の開閉機を破壊する為に、開閉機のある隠し部屋へと向かった。

 隠し部屋へ着くと、そこに居た男達は率先して協力を申し出てくれた。

 門を破壊するのではなく自ら開け放つ。

 地上へ戻った彼女が見たのは、槍を振り回している慶次の姿だった。





 門の開閉機を破壊せずに済んだ。

 これはかなり大きい。

 もしキルシェが王都に入っても、守るべき門が無いのはあまりに危険だったからだ。

 もし破壊したとしても、魔王の創造魔法で新たな門を作る事は出来る。

 だが大きな都市の門というのは、相応に素材や魔法が使われていた。

 大量のミスリルを用意する事は出来ても、門を守る魔法を使える者は居なかったのだ。



「城へ行け!キーファーを捕縛するんだ!」


 キルシェ派の印である桜が描かれた腕章をした指揮官が、兵を真っ直ぐ城へと向かわせる。

 共に走る慶次は、城を目指して直進した。



「なっ!?道が無いでござる」


 王都へ入ると正面に城が見えるのだが、今走っている通りは家にぶつかった。

 しかしキルシェ派の連中は迷う事無く左右に分かれる。

 中には王都に詳しくない者も居たが、大半は王都に勤めていた。

 彼等にとってこの王都は、勝手知ったる庭と同じだった。



「どっちに行けばいいのでござる!?」


「右!」

「左!」


「どっちでござる!?」


 別に彼等は間違った事を言っていない。

 道が細い左と、少し遠回りだが広い道になる右。

 どちらを選ぶかは、個人の好みだった。



「えーと、えーと・・・左に行くでござる」


 迷った末に左へ曲がるとそこは細い路地がいくつもあり、彼等はまた分かれていった。

 再び皆が色々な道に分かれていくのを見て、慶次はどうすれば良いのか迷ってしまった。



「待って!どっちでござる?」


 慶次の声に誰も振り返る者は居ない。

 指揮官から言われた城へという指示が、彼等にとって最優先事項だからだ。

 細い路地の先から、戦闘が始まった音が聞こえる。

 慶次は焦りを感じつつ、とりあえず一番左の通路を選ぶ。



「あ、あれぇ?誰も居ないでござる」


 敵も来なければ、味方も前に見当たらない。

 たまに見掛けるのは、ホームレスと呼ばれる路上生活者だけだ。


「少しお聞きしたい!城へはどうやって行くのでござる?」


「ん」


 一人のホームレスが手を差し出してくる。


「何でござる?」


「お前、人に物を聞くのにタダで済むと思ってるのか?魔族ってお人好しばっかなんだな」


 呆れた声で言われると、慶次は渋々銅貨を差し出す。



「銅貨かえ。じゃあ一つだけ。この道真っ直ぐ行くと、行き止まりだよ」


 二人の間に無言の時間が続く。



「・・・それだけ?」


「これだけ」


「なんでよー!」


「アンタ、王都へ侵攻してきた魔族さんだろう?銅貨一枚でそんな重要な事教える国民が、普通居ると思うかえ?」


「むむ!確かに」


 言いくるめられた慶次は、再び銅貨五枚を渡した。



「戻って、右から二番目の道が一番近いよ」


「右から二番目でござるな?ありがとう!」


 慶次は戻って、右から二番目の通路へ入っていった。





 この通路には確かに戦った跡がある。

 桜の腕章が無い事から、維持派の連中だろう。

 既に息は絶え絶えで、何もしなくても死ぬと思う。


「し、死にたくない・・・」


 小さな声で懇願する維持派の兵。

 だが慶次は、一言だけ答えてそのまま素通りしていった。


「死ぬも生きるも、自分の選んだ道でござる」



 倒れている人の数が増えてきた。

 中には桜の腕章もある。

 やはり激しい戦闘が行われていたのだろう。

 そして細い道からようやく抜けると、そこはまた幾つもの分かれ道になっていた。



「・・・あれ?」


 迷っていると、視界の端に見覚えがある人物が座っていた。


「お、お主!さっきの!」


「誰かえ?ワシゃあ魔族の知り合いなんかおらんでの」


 人違いだったか?

 顔も臭いも似ているのだが。



「人違いであったか。では先を急ぐ故、ここを通らせてもらうでござる」


 一番左の通路を選び、慶次はまた走り出す。



 また人が見当たらない・・・。

 行き止まりかと考えつつ、とりあえず自分で選んだ道なのだからと先へ進んだ。

 しばらく進むと、再び広い通りに出る。

 やはり自分の選択に間違いはなかった!



「ま、またか!」


 再び分かれ道が多く存在している。

 また考えなくてはならない。

 すると今度も視界の端に、先程と同じような人物が目に入った。

 路上生活者は、似たような格好をしているのかもしれない。

 だが彼は、その人物から耳を疑う事を言われて気分が急降下するのだった。



「用は済んだのかえ?」


「は?」


「用が済んだから戻ってきたんだろう?」


「な、なにいぃぃぃ!!?」


 振り返ると、五本ある内の通路の右から二番目から出てきた。



「・・・この通路とこの通路、繋がってるでござる?」


「ん」


 手を出されると、慶次は渋々銅貨三枚を渡す。



「この二本は繋がってる。こっちは行き止まり。あと二本は城へ向かう道」


「二本とも?」


「ん」


「王国の人は貪欲でござるなぁ」


 慶次の呆れた声に、彼は反論した。



「何もせんと教える馬鹿はおらんて。魔族もヒト族も、そこは変わらんと思うけど」


「魔族はもう少し優しいでござるよ」


「ふん。ヒト族は優しくないか」


「拙者の知ってるヒト族は、優しいでござるよ」


「そりゃヒトに恵まれとるんだわ。皆が皆、そうだと思わん方が良いじゃて」


「忠告ありがとうでござる」


 慶次は最後の銅貨を一枚渡した。



「一番右に行くと良い。右から二番目は分かれ道が多い。一番右も分かれ道が待っとるけど、隣より少ない」


「アンタ、なんだかんだで良い人でござる」


「良い人か悪い人か、それはその人の判断で決まるんじゃて。覚えておくと良い」


「先人の教え、心にしまっておくでござる」





 慶次が迷路にハマっている頃、城の前には続々と向かう改革派の兵が集まっていた。

 キーファーとターネンは、既に城の中に居た。

 彼等は剣と鎧を取りに戻っていたのだ。



「まだ城は落とせないか?」


「どうやら帝国兵が城を守っているとの事です」


 王国兵とは練度が違う帝国兵。

 今まで倒してきた連中よりも、二回りほど強さが違った。



「ラコーン殿達に教わった戦法と同じか」


 ラコーンは元々帝国兵。

 教わった基礎の戦法は、同じ帝国兵なら使えるのであった。

 だが彼等は、もう一人の人物からも集団戦を叩き込まれている。



「真イッシー殿のやり方に切り替えるぞ!」


「真イッシー陣形、バーコードの型。用意!」


 彼等は三列に分かれ、戦闘を大盾、その間から銃を持った後衛組が待機していた。

 三列に分かれたうち中央の兵は、主に軽装だった。

 片手剣に小盾を持ち、周りとも干渉せずに動きやすさ重視といった様相だ。



「攻めてきたら撃つ。真イッシー殿曰く、互角以上の相手に攻撃に出ても、無駄な死傷者を増やす。敢えて守る。生えるまで我慢だ!」


 生えるまで我慢。

 それは真イッシー隊のスローガンでもあった。



「生えるまで我慢!生えるまで我慢!」


 意味不明な言葉を不気味に感じた帝国兵は、突撃陣形へと変えていく。

 鋒矢陣形と呼ばれる矢印のような陣形だ。

 先頭の大男が大剣を持ち突撃してくる。

 大男の後ろを矢印の陣形のまま、他の帝国兵も突撃してきた。



「来た!」


「下がれえぇぇ!!」


 中央の部隊が突撃してくる敵に合わせて、全速力で後方へと下がる。

 そして三列に並んだ兵達から見えない形で待機していた大盾部隊の後ろへと回った。

 気付くと横一直線から、Vの字型に変わっている。



「真イッシーV字型!用意!」


 知っている人が見ると、多分こういうだろう。

 鶴翼の陣だよねと。

 しかし何も知らない王国兵達は、真イッシーから教わった呼び方で覚えていた。

 彼はバーコードとV字の他に、M字や円形、そして最後にスキンヘッドと呼ばれる型を教えている。

 それ等の陣形は言葉からは分からず、帝国兵も知っている陣形なのに混乱を生じていた。



「発毛用意!行くぞ!」


 V字型になった陣形の先頭が、大盾を持つ部隊へと変わる。

 その間からは銃を構える部隊が既に撃つ準備を済ませている。



「発毛!」


 指揮官の指示に従い、一斉に引き金が引かれた。

 左右からお互いに向けて撃ち合う事で、危険度は大きく増している。

 だがその為の大盾部隊。

 撃った銃をすぐに引くと、盾が一斉にピシャッと閉まる。

 隙間を無くした盾は、反対から飛んできた銃弾を弾いた。

 跳弾が帝国兵に飛んでいく。


 今回派兵された帝国兵は、そこまで期待されていないのだろうか?

 全員がミスリルの防具を使用しているわけではなかったらしい。

 何人かが銃弾に倒れている。



「効いているぞ!育毛準備!」


「育毛準備!」


 発毛の次は育毛である。

 確かに間違っていないが、帝国兵にはその言葉の意味が全く理解出来なかった。



「真銃撃隊、準備完了しました。育毛、開始します!」


「育毛開始!」


 先程とは違う銃を持つ部隊が、盾の間から再び銃口を向ける。

 すると帝国兵は、ファイアと似た言葉を耳にした。



「生えろ!」


 新しい銃が彼等を襲った。

 ただ銃を変えただけ。

 そう思っていた帝国兵が、徐々に崩れていくのが分かる。



「何故ミスリルの装備を穿つのだ!?」


 隣に居たミスリルの防具に身を包んだ男が、銃弾に倒れたのを見た。

 間違いなく鎧を貫いている。

 彼は身の危険を感じて、弾を避けようと自ら地面に倒れるのだった。



 気付くと大半の兵が倒れている。

 残ったのは盾を持った連中と、運が良い者だけだった。


 そして自ら倒れた頭の良い男は、目の前に落ちてきた銃弾を見た。


「この弾に付いた痕は何だ?螺旋?」


 ミスリルの防具を貫いた弾の正体。

 それはライフリングで直進性と加速を増した、現代式の銃だった。

 ドワーフである真田昌幸率いる鍛治師が、魔王とキルシェのアドバイスによって作り出した試作品である。

 故に数は少ない。



「育毛やめ!」


 数回の攻撃で、真銃撃隊と呼ばれる部隊の攻撃は止んだ。

 この銃には、メリットもあったがデメリットもあった。

 今のV字陣形には合わないのだ。

 反対側から飛んでくる銃弾を、先程までなら弾いていた。

 しかし今は、その貫通力によって盾にめり込んでいるのだ。

 ヒビが入った事に気付いた指揮官は、同士打ちを避ける為にその銃の使用を中止したのだった。



「帝国兵はなんとかなりそうですね」


「この人数差だ。後は剣で押し切れば勝利は目前。城を落とすぞ!」


「待って下さい!」


 突撃をしようとする改革派だったが、一人の男がある事に気付く。

 一瞬、空が暗くなった。



「帝国兵を助けに・・・いや、潰されました」


 突撃を躊躇ったおかげで助かったものの、大きな金属の塊に帝国兵はそのまま潰されてしまった。

 空を見上げると、大きな金属の塊が足である事が分かる。


「な、何だこれは!?」





「ククク、クハハハ!どうだ!?これが王国の領内から発掘された伝説の兵器、ゴーレムの力だ!」

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