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アイーダ出陣

 悪い顔した王女が、手品師を裏切るように誘っていた。

 既に自分が王国の女王となる事が決まったかのように話す彼女。

 何故か安土の名前も出されて、衣食住には困らないと彼を誘惑していた。


 ターネン派の兵が改革派を脱したがっているというデマの情報を持たせ、彼は王都へと戻っていった。

 次に来る時は、嫁さんを連れてくる。

 異世界に来て現地の人と結婚とか、かなり羨ましい。


 手品師アイーダは、キーファーに会う為に王都を訪れた。

 ヒト族最高の魔法使いの名は、王国でも知られている。

 すんなりと面会に成功すると、そこには仮面を着けたターネンまでもが待っていた。


 彼等にターネン派の兵が不満を持っていると伝えると、ターネンは自ら仮面を外した。

 自分の派閥の兵を引き入れるよう扇動をすると伝えると、彼等は立ち上がるほど喜んだ。


 ついでに大魔法を使う為に、嫁さんを連れて向かうと言うと、特に反対も無く受け入れられた。

 どうせ二度と会わないだろうと思った彼は、ヒト族最高の詐欺師として言いたい放題言ったのだった。





 大言壮語を吐いたアイーダだったが、二人の反応は薄い。

 言い過ぎたかもしれない。

 心配になった彼は、顔に出ない程度に彼等の顔色を伺った。


「素晴らしい!」


「うおっ!」


 覗き込もうとした矢先、キーファーの顔が急に上がり大声を出された為、彼は思わず仰け反る。


「奥方まで利用して行う魔法。とても興味深いですな。わざわざ連れてきていた事にも驚きですが、王国の為にそんな大魔法を使用していただけると思うと、感無量です」


 ターネンは唇を震わせながら、喜びに浸っている。

 少し良心が痛んだが、自分と家族の命と天秤に掛けたらどうって事は無い。

 こんな知らない国の内乱に関わるなんて、小心者の自分にはまっぴら御免なのである。



「それでは早速向かうとしましょう。今から向かえば、丁度暗くなる頃に到着します。暗くなってからの方が、ターネン殿の兵達に会うのも都合が良いですし」


「それもそうだな。では、健闘を祈る!」





 城を出た彼は、門番が見えている間はマントを靡かせて堂々と帰っていく。

 そして門番が見えなくなった途端に、そのマントを丸めて両手で抱きしめながら猫背になって小走りで帰った。


 嫁に事情を説明すると、彼女は迷う事無く全てを受け入れてくれた。



「持っていく物はないよね?」


「無いわ。むしろ魔族の領地、しかも魔王が治める土地なんて面白そうだもの。向こうで新生活を楽しみましょう」


 魔族に偏見が無いとはいえ、この人受け入れるの早過ぎ。

 アイーダは軽く呆れながらも、その通りだなと思いながら再び砦へと向かった。


「その格好のまま行くの?ちゃんとマントを着けていかないと、門の衛兵さん達に笑われるわよ」


 そういえばマントを丸めて持っているんだった。

 これを着けると、知らない人まで見てくるから嫌なんだけど。

 でも出る時に自分だって説明する必要も無いから、楽で良いかもしれない。



「はい、これで良いわよ」


「外に出てすぐ、僕等の護衛をしてくれる人が居るから。合流しよう」





 やっぱりマントの力は強かった。

 このマントは、ヒト族で魔法が使える人しか着用出来ないらしい。

 何も知らずに受け取った僕は、いつも着けておけと言われてしばらくしてから、その事を知った。

 全てを知った頃には、僕は帝国や王国、そしてその他の国に、帝国にヒト族最強の魔法使い在りと、大きく知られる事になった。

 この国に来た時も、マントの力で畏敬の眼差しが痛かった。



 そして今回、外へ出ると言った時も、何も疑われる事無く最優先に外へと出してもらえたのだった。



「やっぱり魔法使い様は凄いわね」


「揶揄わないでくれよ」


 彼女は僕の真の力を知っている。

 真の力というより、ハリボテで出来た魔法。

 手品というモノの存在の事を。

 それでも一緒になってくれた事に、僕は感謝している。



「アイーダ殿!」


「えーと、吽形さん?」


「阿形です」


 間違えてしまった。

 気を悪くしたら申し訳ないなぁ。

 でも言い訳させてほしい。

 妖精の双子の見分けなんか、僕が分かるわけないじゃないか。



「あら、可愛い妖精さん」


「あ、あのやめて・・・」


 吽形の頭をナデナデしている嫁を見て、アイーダは汗が止まらなくなっている。

 あの魔王が護衛に選ぶ存在。

 間違いなく信頼出来る強さを持っているはず。

 僕なんか息を吹きかけられたら、死んじゃうかもしれないというのに。

 そんな人達の頭を撫でたりしないでくれ・・・。



「私達、成人しているので。そのような扱いはやめていただけると助かります」


「そうなの?妖精族初めて見たから、知らなかったわ。ごめんなさい」


「あの・・・早く戻りませんか?」


「そうですね。偉大なる魔法使い、アイーダ殿がそう仰るのなら」


 ブフォッ!

 僕より絶対強いこの二人が、何でそんな事を言うのか!?

 あの魔王様、絶対に僕の真実を伝えてないな。

 妙に恭しいのは、そのせいだったか。

 本当に勘弁してくれ。



「只今戻りました」


「予想より早かったね」


 砦の門の目の前でテーブルを広げ、何故かカレーを食べている魔王。

 良い匂いに誘われて、皆でテーブルに着いてしまった。



「もうすぐ夕飯だろ?どうせ緊張して食べてないだろうなと思って、用意しておいたんだ」


「この子は?」


 嫁が魔王を見て、誰だか聞いてきた。


「この人は魔王。えーと、悪の魔王様だよ」


「この子が魔王様!?見かけによらず悪いのよね?こんな可愛い顔してるのに」


 その言葉を聞いた魔王は、目がカッと開いた。

 あぁ、失礼な紹介だったかもしれない!

 嫁だけは守らなくては!


 すると魔王は、自ら嫁にカレーの皿を差し出した。



「アイーダさんの奥さんですね?いや〜、アイーダさんは女性を見る目があるなぁ。羨ましいですよー。あ、これね、帝国に出てるカレーとは違うので。是非食べてみて下さい」


 何故か上機嫌な魔王。

 失礼どころか妙に優しい。

 何をしたのか分からないが、この匂いには勝てない。



「このカレー、日本のカレーと同じだ」


「日本のカレー?」


「僕が召喚される前に居た国のカレーだよ」


「こんな美味しい物を食べてたのね。ズルイわ」


 何故、魔王が日本のカレーを知っているのか。

 謎は深まるばかりだが、美味い物が食べられるならどうでも良いかな。



「それで、上手くいったんでしょ?」


「ブッ!」


 このタイミングで聞くか!?

 思わず口の中のカレーを吐き出してしまった。



「汚いなぁ。で、どうだったの?」


「は、ハァ。成功したと思いますよ。ターネン派の兵が裏切ると思わせたので、彼等はターネン王子を助けさえすれば、兵達が寝返ると思っています」


「なるほど。それでは、キミがターネン派を率いる陣頭指揮をしてもらおう」


 ん?

 聞き間違いかな?


「僕が率いるとか、間違いですよね?」


「いやいや、アイーダって人に率いてもらうよ」


「無理ですよ!僕は戦えないんだから!」


「まあまあ。キミ本人が出るわけじゃないから」


 意味がよく分からない。

 ただ、食べていたカレーが急に美味くなくなった気がした。



「とりあえず、そのマントだけ貸して」





 とうとうターネンが処刑される事になっている前日になった。

 自作自演なので、実際は影武者か難癖つけて処刑自体が無くなるかのどちらかだとは思うが。


「それでは準備に入ります」


 壁の上で腕を組んでいるアイーダが、僕にそう言った。

 半兵衛が元ターネン派の連中に対して、これからの作戦内容を伝えている。



「いよいよですわね」


「キルシェか。そうだね」


「長かったですわ」


「そうかな?」


「俺からしたら長かった。だって生まれてから、この日をずっと待っていたんだからな」


 途中で口調をおっさんに変えるのは、やめてほしい。

 つーか、生まれた時から王国を牛耳るつもりだったのか。



「なあ、お前の兄さん達はどうするんだ?」


「どうするとは?」


「いや、何というか・・・」


「生かすか殺すか?」


「言いづらい事をズバッと言う奴だな。その通りだよ」



 僕は弟と敵対する事は無いから、そんな事を考える必要は無い。

 だけどこの人は、前世の記憶がある中身はおっさんだとしても、二十年以上血の繋がった兄二人と暮らしていたわけだ。


 もし自分が弟と争う事になったら。

 物凄く胸が締め付けられる思いだった。

 それを考えると、彼女はどんな思いで兄二人と敵対しているのだろうか。

 他人事ながら、気になってしまった。



「良いか?この戦い、勝負の結果は見えている。私達に敗北は無い。だからこそ、彼等が何処で見切りを付けて敗北を受け入れるか。それによって考える」


「見切りを付ける?」


「そうだ」


 白旗を上げるタイミングで、二人の兄の処遇を決めるという事か?



「例えば、最後まで王都内で抵抗したとしよう。そうすれば王都内に居る民にも被害は及ぶし、自らの兵達の命も多数落とす事になる。そうなれば国力だって落ちるし、臣民からの求心力も落ちるだろう」


「そうなったら?」


「民の納得させるには、処刑以外には無いだろうな。自分達を苦しめた根源なのだから」


 淡々とした口調で言うが、目には決意がある。

 やると言ったら、必ずやり通すつもりらしい。



「でもその言い方だと、別の結末もあるわけだよね?」


「王国の事を思って早めに投降するのなら、その命は保証するつもりだからな。流石に王族として扱えるかは未定だが、何処か遠くでひっそりと暮らしてもらっても良いと考えている」


 というより、そっちが希望なんだろうな。

 本人は気付いてないけど、話している時の目が優しくなっている。


 ただ、一つだけ訂正したい。



「負ける理由が無いとか言うのは駄目だぞ。戦場では何が起きるか分からない。百パーセントなんてものは存在しないからな」


「言葉の綾だよ。それは分かってるつもりだ」



 二人で話していると、半兵衛の説明が終わった。

 アイーダが前へ出ると、元ターネン派から歓声が沸き起こる。



「諸君!いよいよキミ達の元主君に、目に物見せる時が来た!」


 騙されていた事に余程怒りを覚えたのか。

 声が大きくなった気がする。


「先程の作戦内容を聞いた通り、我々の仕事如何で作戦の成功率が変わると言っても過言では無い。だが安心してほしい」


 アイーダはマントを翻すと、大きくマントに描かれた紋章を見せた。


「私が誰だか分かるか!?そう、私はヒト族最高の魔法使い、アイーダである!キミ達の前には私が居る。安心して付いてきてほしい」


 ヤベッ!

 安心してついてこいとか、そんなカッコ良いセリフ、僕には言えない。



「それでは皆の衆、出陣!」



 砦の門が開くと、アイーダを先頭にした集団が王都へ向かって歩いていく。

 まさかこんな堂々と出て行くとは、向こうも思ってないだろう。



「元ターネン派は、全員出て行ったみたいだね」


「アイーダさんの演説、凄かったですわね。今出て行った連中、かなり心酔してたんじゃないですか?」


 僕とキルシェが、横に居る人物に話し掛けた。

 彼は無言で頷いている。


「でもあのマントって、まさか人からの注目を集めるなんて魔法効果あったんだ」


「阿形さん達に言われなければ、全く気付きませんでしたわ」


 彼も隣で大きく頷いている。



「というか、もう喋ってもいいんじゃない?」


「あ、そうですか?」


 彼は途端に口を開いた。

 どうやら、先程の出陣式に興奮したらしい。



「自分が先頭に立って向かっていくのを見た感想は?」





「あんな事言えませんよ!しかしラビさんでしたっけ?あの人、変装は上手いのに演技は下手ですねぇ。僕、あんな堂々としてませんから。皆、よく気付かないなぁ」

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