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手品師の放言

 彼は手品師だった。

 阿形達魔族は警戒し、そして恐れながらも警備を全うしようとした。

 しかし僕等はそんな事よりも、手品が普通に見たかった。


 楽しい時間が終わり、彼がお辞儀をして顔を上げると、何故か困った顔をしている。

 ギャラだろう。

 キルシェは金貨を五枚渡して、その場から立ち去ろうとした。

 するとまだ困った顔をしている。

 兄とキルシェは理由が分からずに言い合いをしていると、彼は困った顔で降伏をするのかしないのかと、問い掛けてきた。


 勿論、降伏はしない。

 彼はそれをすぐに受け入れた。

 それには魔法ではなく、手品だとネタバレしたのが理由だった。

 召喚者なのに帝国で結婚したという彼は、王都に奥さんを連れてきているらしい。

 降伏勧告に失敗した彼は、おそらく稀代の魔法使いとして戦場へ出させられるだろう。

 キルシェの言葉に、彼と義理の兄妹達も困惑した。

 嫁と義理の兄妹だけはと嘆願する彼に、キルシェは悪魔のように囁く。

 維持派も帝国も裏切ってしまえと。





「えっ!?裏切る?」


「そう。アナタが奥方を救出してしまえば、維持派に協力する義理は無いでしょう?それとも、帝国から出るAクラスの給金が惜しいかしら?」


 そういえば、Aクラスくらいになると良い金額貰えるんだったっけ。

 上位になれば貴族にすらなれるとか。



「確かに日本に居た頃に比べたら、はるかに良い給料です。だけど僕は、そんな事に執着してませんよ」


「だったら帝国を出てもよろしいのでは?幸いな事にここには、もうすぐ王国を治める私と、安土を治めている魔王様がいらっしゃいます。どちらに住むかはお任せしますが、不自由な暮らしなどさせないとお約束します」


 気付くと僕も巻き込まれている。

 だが全く戦えない人を戦場へ送り出して、しかも自分達が殺す役目を担うなんて、そんなのまっぴらゴメンだ。



「そこまで言っていただけるのなら・・・」


「その前に、一つお願いがあるのです」


 出た!

 悪い顔した王女のお出ましだ。

 やはりタダでは帰さないらしい。


「奥方を連れてくるにしても、やっぱり現状報告をしろと言われるのは目に見えています。ならばキーファー兄様達の近況も、此方へお渡し下さい。城へ戻る際には、ターネン派の兵をお貸しします。彼等を王都近くで待機させ、こちらへ戻る時の護衛に使って下さい」


 ターネン派なら、キーファー達の兵も下手に手出しはしないのではって事かな。

 末端の部下にまで、キーファーとターネンが繋がっている事が伝わっていれば良いけどね。

 所詮、部下は使い捨てとか考えていそうな連中だ。

 そうはならないんじゃないかと僕は思っている。



「阿形、吽形。お前達も一緒に行ってきなさい」


「わ、私達がですか!?」


「行かないなら別に良いよ。若狭の領主殿へ、キミの所の守護が怖がって仕事にならないと連絡しても良いんだけど?」


 若狭から出たこの二人は、守護という責任から解放されたようで、少し気が抜けているようにも思える。

 やはり長秀に手綱を握ってもらった方が、確実に仕事をする。



「ターネン派の兵を率いて、是非行かせて下さい!」


「頼んだよ」





「そういえば手品師さんの名前は?」


「僕はアイーダ、いや会田です。召喚された時に、何故かアイーダって呼ばれたのでそのまま使ってますけど」


「まあどっちでも良いよ。じゃあアイーダさん、二重スパイよろしくね」


「二重スパイですか。映画みたいですね」


 日本じゃあまり馴染みが無いからなぁ。

 でも実際には、世界大戦や冷戦でかなり居たって聞くけど。



「それで、私はなんと報告するべきでしょう?」


「そうですわね。ターネン派の兵が早くターネン兄様を助けろと、暴動を起こしかけているらしい。だから今、降伏なんか出来ないとでも言っておけば良いかと」


「半兵衛もそれで良いと思う?」


 アイーダを王都へ向かわせる前に、半兵衛に話をしておいた。

 彼も異論は無いみたいだったが、やはりターネン派の兵を単独で護衛に行かせるのは反対らしい。

 おそらく降伏勧告を断った見せしめとばかりに、殺される可能性があるとの事だった。



「では、こう付け加えましょう。ターネンを早々に助けないターネン派の兵達は、改革派から脱したがっている。故にターネンを助けさえすれば、ターネン派は寝返るかもしれないと」


「ターネン派の兵を、自由に動かす為の布石ですか?」


「そのようなものです」


「分かりました。では降伏勧告は受け入れられなかった。しかし砦内部では両派の意見が分かれて、分裂の危機にある。ターネン派は裏切る可能性大。と、伝えておきましょう」


「王都を再び出る際は、ターネン派と内通する為にもう一度向かうとでも言えば、彼等は信用するでしょう。その際、奥方が必要な魔法を使うと伝えておけば、連れ出すのも容易だと思います」


 半兵衛の言葉に頷いた彼は、義理の兄妹達を連れて王都へと向かっていった。



 ものの一時間もゆっくり歩けば、すぐに王都である。

 護衛なんか必要無いと言われれば、そうかもしれない。

 だがその数キロの距離でも追手が来るのなら、戦闘力皆無のアイーダには絶望的な距離なのだ。


「この辺で待っていて下さい。半日もしないで戻ります」


「承知した」


 阿形の返事を聞いた彼は、王都へと入っていった。





「キーファー殿へのお目通りを願いたい」


「誰だ貴様は」


「私はアイーダ。帝国から協力を命じられて王都へ来た者だ」


「アイーダ!?アナタがヒト族最強と呼ばれる魔法使いでしたか!失礼しました。今すぐに連絡を致します」


 ヒト族最強の魔法使いと言われた彼は、頬を引きつらせながら返事をする。

 Aクラスという立場上、傲慢な態度をわざと取っている事から、彼等はアイーダを恐れと尊敬の念を持って接していた。



「お待たせしました。キーファー様がお待ちです」



「失礼します」


 城の一室へ案内されると、そこにはキーファーと仮面をした男が待っていた。


「使者の任務、ご苦労だった。その様子だと、良い返事は貰えなかったようだな」


 キーファーはアイーダの顔を見て、早々に降伏勧告が失敗したと判断した。

 Aクラス対応顔で、弱気な姿は見せていない。

 にも関わらず即バレた事に、アイーダは驚きを隠せなかった。


「私はそんなに顔に出やすいですか?」


「そんな事は無いと思うぞ。なぁに、私達は隠し事が得意だからな。逆に隠し事を見抜く力も、多少は持ち合わせているというだけだよ」


 アイーダは背筋に冷たい物を感じた。

 隠し事を見抜く力。

 それは自分がこれから話す偽りの報告をも、看破するのではという心配からだった。

 しかし、彼も言わば人を騙すプロ。

 マジシャンとして素人にバレるようであれば、三流と呼ばざるを得ない。


 彼は覚悟を決めて、ポーカーフェイスを装った。



「降伏には今一歩及びませんでした。しかしながら、彼等改革派の内情というものは掴む事に成功したと自負します」


「内情?それはどういう意味かな?」


 仮面の男が横から口を挟んできた。

 明らかに興味を持っている。

 彼がターネンだという事は、既に知っている。

 そのせいか、わざわざ仮面を着けてまで正体を隠している事が、滑稽に思えてしまった。


「私の顔に何か?」


「いえ、紹介もせずにいきなり口を挟んでくるとは思いもしませんでしたから。ただ、それだけでございます」


 無礼な言い方だが、彼流のAクラス然とした態度だった。

 というより、自分の周囲の連中はこんな態度の奴等ばかりだったので、真似ているだけなのだが。

 それでも他人からすれば、威圧感を持って接しているように見えると、今までの経験上で分かっていた。



「これはすまない。ヒト族最強の魔法使いと称されるアイーダ殿に、この姿は失礼だったな」


「キーファー殿の親しい方なのでしょう。事情はお聞きしませんが、何とお呼びすれば良いかだけ教えていただけると助かります」


 全然最強じゃないです。

 そんな気持ちを隠しながら、胃がチクチクする思いで彼に聞いた。


「そうだな。私の事は、モミ卿と呼んでくれると助かる」


「分かりました。それではモミ卿の質問の答えですが、そのままの通りです。キルシェ王女との対面をした後、私は砦を魔法を使って調べました」


「おぉ!魔法で!?」


「え、えぇ・・・」


 声が裏返り、バレてないか心配になってきた。

 仮面の奥の目は、何を考えているか全く分からない。

 しかしキーファーの方は、疑っている様子は無い。


「内部を探索していると、王女派閥とターネン王子の派閥で揉めている光景を目にしました。どうやらターネン王子の救出に関して、意見が食い違っているみたいですね。王女派閥はターネン王子を、最悪見捨てても良いという考えのようです。しかしターネン派の兵達はそれに反発。もしかしたら改革派を離れて、ターネン王子を救出に向かうかもしれません」


「ほう?それは面白い」


 キーファーとモミ卿が顔を見合わせると、何も言わずに頷いて続きを促した。


「私はターネン王子を味方に引き入れれば、彼等が寝返ると予測します。政治に素人の私の戯言なので、聞き流していただいた方が良いかもしれませんが」


「彼等がそう言っているのか?」


「裏ではそう言う連中も、多く存在するようです」


 再び顔を見合わせる両者。

 するとモミ卿は仮面をおもむろに外し始めた。

 そしてターネンが素顔を晒すと、彼はアイーダに向かって言った。


「ご覧の通りだ。私はキーファー兄様と繋がっている。先程の話、もし本当なら実行したいのだが。貴殿はどう思う?」


 わざと驚いたフリをしたアイーダは、そのわざとらしさがすぐにバレる結果となった。


「その様子だと、魔法で既に正体がバレていたんじゃないか?」


「なるほど。さっきのわざとらしい驚き方は、私達の意を汲んでくれたのかもしれない。気を使わせて、すまないな」


「い、いえいえ。それと先程の話ですが、それなら私が再び目の前の砦へと赴きましょう。そしてターネン王子派の兵達に、内密に王子がキーファー殿と繋がっていると流します」


「行ってくれるか!」


 キーファーが太腿を叩き立ち上がると、ターネンも立ち上がった。


「ついでにキルシェ王女の派閥にも、釘を刺しておきましょう。更に強力な魔法を使い、勝ち目が無いと思わせます」


「流石はヒト族最強の魔法使い。やる事が違う」


「ククク。キルシェもその恐ろしさに、姿を消すかもしれんな」


 姿を消すのは私の方です。

 心の中で叫びながら、最後に肝心な用件を伝えた。


「しかしこの魔法、私と契りを交わした者の力が必要です」


「契りとは、兄妹達の事ではないのかね?」


「彼等よりも更に親しい者です。私の妻の力を借ります」


「なるほど。しかし帝国から呼び出すとなると、時間が掛かり過ぎるのではないか?」


「ご安心を。こうなる事も考慮した上で、既に王都へ来ております」


 実際はただ単に、嫁が自分だけ置いていかれるのが嫌がっただけです。

 心の中でそんな事を思いつつ、彼は言う。


「私が帝国から来たからには、最低限の仕事はこなします。その最低限とは、キーファー殿。アナタを勝利に導く事です」


 我ながらありえない事を言っているなぁ。

 だが、二人に会うのもこれが最後になる。

 どうせだから、言いたい放題言ってサヨナラをしようと決めた。





「勝たせる為には命を惜しまない。それが帝国の軍人です。ターネン派の兵達と共に、再び戻ってくる時をお待ち下さい。ヒト族最高の魔法使いの実力、お二人の記憶に刻み付けて差し上げましょう」

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