九鬼水軍の船
喧嘩は収まったが、何故かそのまま嘉隆の婚約者探しへと発展。
孫が心配な爺さんは良さげな相手を、各領地からの代表者から探そうと考えていた。
白羽の矢に立ったのはラビだったのだが、僕達はラビが女性だという真実を初めて耳にした。
アジトへ着くと、キルシェから早々に招集が掛かる。
同じ改革派である兄ターネンが、処刑されるという話が舞い込んできたのだ。
処刑日まで時間はあるが、慶次の一言が僕等に考えさせる事になった。
ターネンは助けるべき人物なのか。
ターネン派よりも自分達の方が強いと自負する彼等は、ターネンを見捨ててキルシェが盟主になるべきだと言う。
だがそれは、王国の内乱を魔族が終わらせるという事になる。
僕等はあくまでも手助け程度が丁度良いと、半兵衛から伝えられた。
早速砦作りに取り掛かろう。
ラコーンやイッシー達はアジトで王国兵の強化を。
ビビディ達が砦作りと、二手に分かれて作業する事になった。
そして各々が自らの仕事に取り掛かろうとした時、とうとう船をバラした事が爺さんにバレてしまったのだった。
「それはですね、魔王様が船を使って武具を作ってくださったのですよ」
船の修復作業をしていた作業員達が、俺達の仕業だと爺さんに言ってしまった。
彼が胸を張っている事から、多分そのおかげで生き残ったと誇っているのだろう。
完全に逆効果だけど。
「おま!お前かあぁぁ!!」
「だって仕方ないじゃん。相手は何倍も多い人数だったんだから。生き残る為にはミスリルを使った鎧や盾を使って、相手から身を守らないといけなかったんだよ」
「それにしては人数分より多いではないか!」
「そりゃ武器にも使うでしょ。ちなみにそのおかげで、重傷者は出ても死亡者は出なかったんだぞ」
「その通り!兵士もほとんど居ない中、我々が勝てたのは魔王様のおかげなのです。事務員達ですら戦場に駆り出されましたが、彼女達も痕になるような傷は無かったと喜んでました」
それは知らなかった。
ビキニ着て仕事してるのに、傷痕が残ったら可哀想だったかも。
今思えば、守りを重視して良かったと思う。
「むぅ・・・。そこまで言われると、ガミガミ言うワシが悪者みたいじゃな」
「まあまあ爺さん。さっき係留地を作った昌幸達の手際を見ただろ?ドワーフの協力を仰げば、もっと早く作れると思うぞ。それに長浜からネズミ族も来ているし、戻る時にはミスリルの催促をしておけば、資材購入も速やかに出来るはずだ」
「なるほど。それも一理ある」
「だろ?アンタ等だけで作るより、ミスリルに詳しい人物を仲間に引き入れた方が、もっと良いのが作れるって。今はその為の遠回りだと思えば良くない?」
「どちらにしろ、内乱が終わらないと出航も出来ないか。魔王様の意見、参考にさせていただく」
我ながら驚いた。
俺にしては上手く説明出来たと思ったが、爺さんの説得にはもっと時間が掛かると思っていたからだ。
「ワシも早く内乱を終わらせる為に、皆の協力をしよう。王都までの荷物運びは、ワシも手伝うつもりじゃ」
「爺さんが先導するのか」
「ワシの九鬼嘉隆としての、最後の仕事かのう」
そう言うと、横には孫娘が何やらメモを取っている。
爺さん本気のテクニックでも、あるのかもしれない。
「行くぞい!ヨーソロー!」
爺さんの掛け声に合わせて、船が動き出す。
後ろの船も続々と出航している。
これだけの船が一斉に動くのは圧巻だな。
「数隻は残すのか?」
「アレは王国兵が強化鍛錬を終えて乗ってくる為に、残したのじゃ。ワシ等の持つ船の中で、数少ない高速船。開戦に遅れる事は無いじゃろう」
「なるほど」
船は流れに逆らい、ドンドンと上流へ向かっていく。
仕組みはよく分からないが、九鬼の持つ船はこの辺が他の国や領地と違うらしい。
後ろの船を見ると、阿形達やラビ、真田昌幸は興味深そうに船を観察している。
ちなみにベティは、空を飛んで移動するのが主だからか、そこまで船に拘りはないようだ。
「そうじゃな。彼等は後ろの船じゃ。ワシ等の船の話を、特別に魔王様にお話ししよう」
「企業秘密ってヤツじゃないのか?」
「別に秘密にしてるわけじゃないのだがの」
笑いながら言うと、彼は後ろの船を指差して言った。
「他の国や領地と何が違うか、魔王様は気付いたかの?」
「単純な見た目なら、船体の大半が鉄で出来ているくらいかな?」
「そうじゃ。理由は魔物対策と、水上戦闘の突撃の為じゃ」
「水上戦闘の突撃?」
「船同士で戦う際、どうしても飛び道具に頼りがちになる。しかし我々は、船で突貫して近距離戦闘を相手に強いる事が出来る。不安定な船上において、我々のような種族は強いのじゃ」
船を鉄で作っているから、多少の攻撃も効かないし、敵の船に突っ込んでダメージも与えられるってわけか。
河童だし水に叩き落とされても、すぐに船上に戻れそうだ。
不安定な船の上という足場も、相撲が得意で足腰が強い彼等にはピッタリなのかもしれない。
「俺の考えが正しければ、河童って船上戦闘だと最強だな」
「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん。特にベティ殿率いる鳥人族が相手だと、下手をすれば一方的にやられるかもしれんしの」
空から一方的な攻撃か。
河童にも飛び道具はあるだろうけど、それも空に居る連中を攻撃する為じゃないしな。
あながち間違いじゃないかも。
「それに関しては、また別の戦い方を教えよう」
俺じゃなくて弟がだけど。
多分対空戦闘も、それなりに考えがあるはずだから。
(結局他人任せかい!まあその辺はそのうちね。ベティが裏切る事は無いにしても、対空戦闘というモノを考えないといけない時が来るかもしれないし)
例えばどんなの考えてるんだ?
(一番手っ取り早いのは、ベティ達と嘉隆の連合軍。九鬼水軍を空母に見立てて、ベティ達を飛行機みたいに扱う。それだけでかなり変わると思うけど)
うち等は連合軍だからな。
内輪揉めさえしなければ、そういうのも可能か。
ただしその為には、俺達がキチンと皆を引っ張る必要がある。
魔王としてのカリスマが無いと、誰もついてきてくれないからな。
(独裁とは違うけど、ちゃんとしたリーダーシップを発揮しないと、この魔族連合は瓦解するかもね)
結局は皆、各領地の領主が別に居る。
その領主の上に俺達が居るけど、俺達についていけないと思われたら、それで連合は終わりだ。
ふざけてはいても、そういうところはビシッと締めないといけない。
「魔王様は我が水軍、いや孫の水軍を見て、何か気になった点はありますかの?」
「気になった点?」
いきなりだな。
でもこういう場面でしっかりと答えないと、威厳というモノは保てない。
弟よ、頼んだぞ!
「水軍で相談役を助けに厩橋城を攻めた事があるんですけど、まず城攻めには向いてないですよね。それと対空攻撃はもっと考えるべきだと思う」
「対空攻撃?何故です?」
「今後は外洋に出るかもしれないだろう?その時に水棲生物だけじゃなく、海鳥のような空を飛ぶ魔物も考慮しないといけないんじゃないか?」
というのは建前で、帝国が飛行機なんか作り出した時の為の保険だけど。
「なるほど!魔王様の意見は至極当然ですじゃ!いや〜、流石は魔王様。さっきとは打って変わって、的確な意見で助かりますじゃ」
さっきとは別人なので、意見が違うのは当たり前。
というか、彼等に僕達の事を話してないんだった。
機会があれば伝えておこう。
「しかし鉄甲船は九鬼水軍しか持ってないんだな。さっきの水上戦闘の話を聞いていて、ちょっと予想外だった」
「川でしか活躍しないと、他の国や領地は軽視しているんじゃないか?オレも上野国にじぃじと遊びに行って、他の領地の船とは違うと初めて知ったからな」
嘉隆は鉄甲船が普通なんだろう。
他の国や領地の船なんか、おもちゃくらいにしか見えないのかもしれない。
「それでも外洋では、この船は板切れが浮いているのと同じなのですじゃ。鉄で覆われた船体も簡単に食い破られ、何度も撃沈しました・・・。だからこそ新たに、ミスリル甲船を建造したいのじゃ!」
なるほどね。
海の魔物はそれだけ強力ってわけだ。
僕達も一度は見てみたいし、完成する事を強く願おう。
「そろそろ到着します」
予定していた停泊地は、王都から少し離れていた。
というのも、王都近くには大きな川が流れていない。
これだけの大量の船を一度に集められるのは、ここが最短だったらしい。
「ここからは船から荷を下ろして運びます。建築予定地点は王都から距離三キロ」
三キロ!?
本当に近いな。
すぐに敵が攻め込んできても、おかしくない距離だ。
「まずはビビディ様とノームさん達に、建築予定地点に仮の堀や壁等を作ってもらいます。阿形様達の妖精族と共に、先行して頂けますか?」
「承知した。では、先に行って準備をしておこう」
ビビディはノームが運転するトライクに乗り込み、阿形達は自らが運転していた。
若狭に行った際に渡しておいたトライクは、既に若狭国内で普通に運用されているらしい。
妖精族が運転するトライクは、太田達と違って少し可愛らしく見えた。
太田が世紀末雑魚軍団なら、彼等は公園に向かう子供三輪車みたいに見える。
そんな事本人には言えないけど。
「資材はどうする?」
「トライクで運ぶしかないでしょう。かなり往復する事になりますが、馬で運ぶよりは早いです」
うーん、時間短縮を考えたい時にこれは痛い。
やはりアレを作るしかないか。
運転した事は無いけど、交通ルールなんか無いこの世界。
安全運転なら大丈夫だと思いたい。
「ちょっと待ってくれ。今から運搬用を作るから」
僕は初めて、創造魔法で大型トラックという物を作ってみた。
牽引は流石に運転出来る気がしなかったので、やめておいたが。
それでも積載十トンくらいはある大きなトラックだ。
これならトライクと含めれば、一度で運び出せる予定になる。
「何ですか、これは!?召喚魔法ですか?」
これだけ大きなサイズになると、作ったというより召喚したように見えるのか。
その感想は予想してなかった。
「とにかくこれで一度に運べるはずだ。皆、全部積み込め」
持ってきたミスリルや鉄、木材等を積み込むと、ウイングを下げた。
ボタン一つで下がってくるのを見て、彼等は生きていると勘違いしていた。
なかなかに面白い反応だ。
「凄いですね。これだけの荷を、一度に運ぶ為だけの乗り物ですか」
「規模が大きくなったら、フォークリフトとかも用意しても良いかもしれない。まあ、ドワーフ達みたいな力持ちが居れば、必要無いかな」
「力ならワタクシもおりますよ!」
必死にアピールしてくる太田を無視して、僕はトラックを発進させた。
太田は急ぎトライクで追い掛けてきたが、あまり周りをウロチョロされると怖い。
半兵衛に言って、注意してもらった。
「中もかなり広いですね」
「そうだね。僕達は身体が小さいし、余計にそう感じるのかもしれない。ちなみに王国兵くん、このまま真っ直ぐで良いのかな?」
「は、はい!このまま真っ直ぐです!途中で森があるので、それを抜ければ最短で目的地に着きます」
道案内の王国兵を一人乗せているのだが、かなり緊張している。
真ん中の席をガチガチになりながら座っているのだ。
少し可哀想だから、緊張から解き放ってあげたい。
僕はいつも背負っているバッグから、お菓子を何個か渡した。
「これは?」
「僕達が普段食べているお菓子だ。甘い物を食べると、疲れも少しは取れるよ」
「私もいつも口にしていますが、本当に美味しいですよ」
半兵衛もいつも持ち歩いているバッグに、お菓子と水筒が入っている。
これが無いと、彼の頭脳は十分に発揮されない。
「私からもどうぞ」
彼は半兵衛からもお菓子をもらい、チョコを開けて恐る恐る一口食べた。
「甘っ!美味しい!こんなの王国に出回ってないですよ!魔族って普段からこんなの食べてるんですか?羨ましいなぁ」