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アジト会談

 王都の前に砦を築く。

 ビビディとノーム達が来た理由は、それが狙いだった。

 その話をしている最中、半兵衛が船団が見えると言う。

 敵か味方か分からずにどうするべきか迷ったが、ベティに様子を見てきてもらうとすぐに状況は一変した。


 船団は九鬼嘉隆率いる九鬼水軍だった。

 二人の嘉隆と蘭丸ハクト達が志摩へと向かっているはずだったのだが、どうやら途中で拾われたらしい。

 そのまま船に乗り、戦力を携えて再び王国へと戻ってきたのだ。


 嘉隆達と各領地からの代表者が自己紹介をさせると、阿形と吽形の様子が少しおかしい。

 どうやら二人は美人に弱かったようだ。

 それを兄とベティに揶揄われるが、ベティの一言で二人は自信を取り戻す。

 しかしそれは、妙な勘違いから始まる修羅場の幕開けでもあった。


 嘉隆をナンパしていると思った阿吽の二人は、慶次に対して喧嘩を売り始める。

 ゲラゲラと笑うベティだったが、止めない時点でこの四人は再び正座確定かに思われた。

 だが、孫娘がモテモテだと自慢げに話す相談役の声に、彼等は言い合いをやめて止まるのだった。





「・・・申し訳ない。頭に血が上ったでござる」


「私達の方こそ申し訳ありません。貴方の話をちゃんと聞くべきでした」


 爺さんに毒気を抜かれたのか、慶次からの謝罪に二人も同じく謝罪で返した。

 ベティは未だに笑っているが、コイツは後で一人反省させるしかないな。

 三人は口喧嘩だけだし、口頭注意だけで良いだろう。


「ワシの孫、ええじゃろ?美人でボインで、ちょっと気が強いが優しいんじゃぞ?領主になっちゃった今、お主等のような選ばれた者達に嫁いでほしいんじゃがの」


「じぃじ!やめて!」


 爺さんの勝手な話に、当の本人は困惑していた。

 まさか代表者の中から、婿探しをしようとしているとは。

 確かに実力は申し分ないが、俺は無理だと思う。

 そして阿形が予想通りにお断りをしていた。


「確かに嘉隆殿は美人で綺麗で素晴らしい方です。だけど私達は若狭国にて丹羽長秀様に仕える身。志摩へ行く事は出来ません」


「そうねぇ。それを言っちゃうとアタシも越中国の領主だもの。他の領主が嫁いでくるなら未だしも、アタシが志摩へ行くのは不可能だわ」


「ワシ、既婚者ですので。美人は素晴らしいですけど、流石にもう一人嫁を貰うのは無理ですな」


 ベティ、昌幸も続けて話していたが、その辺は爺さんも理解しているらしい。

 だが、爺さんの狙いは別にあった。


「ラビ殿と言ったか?彼はどうなのかな?」


「ラビ!?」


 面白い人材を狙っているようだが、本人にその気があるのかどうか。

 ラビはハッキリ言うと、年齢性別全てが不詳である。

 そして一つだけ今日ハッキリした事があった。



「私ですか?同性婚になりますがよろしいのでしょうか?」


「同性!?ラビさんって女だったの!?」


「は、初めて知った・・・」


 ハクトもビックリ。

 俺も口があんぐり。

 こんなタイミングで暴露してくるとは思わなかった。

 その一言には爺さんも驚いたらしく、苦笑いで返すしかなかった。


「なんじゃ、良い婿候補だと思ったら、良い嫁候補だったとはの。ワシの目は節穴じゃったな」


「いやいや!我々も今言われて驚いていますよ。この場に居る全員が、彼、いや彼女の性別を今知ったんじゃないですか?」


「そうねぇ。アタシも性別が分からないって言われるけど、ラビちゃんはもっと分からないわね」


 お前はどう見ても男だから。

 誰しもが声に出ない叫び声で、そう言っているのを感じ取った。

 おそらく、初めて全員の気持ちが一致した瞬間であった。

 ありがとうベティ!

 お前のおかげで、初めて皆の気持ちが一つになったぞ。


「オレは結婚なんかしなくても良いの!」


「そんな事言っておると行き遅れるぞ。蘭丸殿は・・・婚約者が居るって聞いたの。ハクト殿も・・・難しそうじゃなぁ。魔王様は・・・」


 なぬっ!?

 俺も候補なのか!

 ハイ!

 立候補します!


(全力で手を挙げろ!)


 分かっている!

 こんな嫁来たら、俺は毎日定時で帰る!


「魔王様はオレが嫌だ」


「そんな!」


 まさかの本人拒否。

 爺さんが言う前に呆気なく、俺達は振られたのだった。





 告白もしないで傷心する事、数日。

 船はとうとうアジトに辿り着いた。

 船の数が多過ぎて、アジトに入り切れていない。

 そこで急遽、昌幸とビビディの協力で係留地点を多数作っていた。


「流石はドワーフトップクラスの鍛治師。作りが良い」


「何を仰る。ビビディ殿の手際のおかげで、この短時間で全ての係留地点に小屋まで作られているというのに」


 職人気質な二人は、どうやらお互いを認め合ったらしい。

 かなり仲良くなっていた。



「皆様方、わざわざ私達の為にありがとうございます」


 キルシェが代表者達を、アジトの前にて出迎えてくれた。

 彼女からしたら、彼等が居なければ敗北必至なのだ。

 手厚く出迎えるのは当たり前なんだと思う。


「早速ですが、中へお入り下さい。今まで分かった情報を共有したいと思います」


 休憩もしないでいきなりか。

 失礼な気もするが、どうやらそんな余裕は無いらしい。


「悪いけど、時間が無いみたいだ。皆、集まってくれ」





 自己紹介を済ませた後、彼女は驚くべき事を言ってきた。


「ターネン兄様が処刑されるとの情報が入りました。期日は今から約三ヶ月後。時間に余裕を持たせたのは、私達をあぶり出す為でしょう」


「ターネンという方はどなたですか?」


「私の兄で、名目上では改革派の盟主となっておられる方です。長兄であるキーファー兄様が、維持派のトップを務めております」


「要は壮大な兄弟喧嘩というわけね。アタシは兄弟が居ないから羨ましいわ」


「国王が暗殺された今、兄弟喧嘩から跡目争いの意味合いが大きくなってきたのでは?」


 見当違いなベティを他所に、他の皆は真面目だと思う。

 しかしその跡目争いも、キーファーが大きくリードした形になった。

 次男ターネンは捕まり、キルシェは父殺しの汚名を着せられている。

 キーファーをどうにかしないと、もはやキルシェに勝ち目はない。


「ちょっと聞いていいでござるか?」


 珍しく慶次が挙手してきた。

 こういう場では一切興味を示さないのに、何かあるのだろうか?


「そのターネンという者の事でござるが、必ずしも助けなくてはならないという理由はあるのでござるか?」


「それはどういう意味でしょう?」


「普通に考えれば、ターネンを見捨ててキルシェ殿が改革派の盟主になれば良いと思ったのでござるが」


 俺達が最初から思った事だな。

 でもキーファーとの戦力拮抗を狙うなら、ターネン派の連中も引き込まなくてはならなかった。

 その為には、盟主をターネンに譲る必要があった。


「というわけなのだが、分かったか?」


 俺の説明も雑ではあったが、他の連中は納得したという顔だ。だが慶次は、まだそうではないらしい。


「拙者達が来た今、ターネン派の戦力は必要なのでござるか?」


「そう言われてみると、俺もそれ気になるな。ターネン派って、そんな大きな戦力なのか?」


 慶次の言った事は、よく考えてみると俺も疑問に感じてきた。


「そうですね。自慢に聞こえるかもしれませんが、我々だけでもそのターネン殿の戦力よりも上だと自負しております」


「兄上の言う通り、我々の戦力はヒト族のそれを大きく上回っていると思います。それを踏まえて、キルシェ殿が盟主となられた方がよろしいのでは?」


 阿形と吽形はその自信からか、さっさとターネンなんか見捨ててキルシェが代表になってしまえと言ってきた。

 だがそれに待ったを掛けたのが、半兵衛だった。



「我々は確かにヒト族より強力でしょう。しかし、それは個人能力が優れているからであって、数では大きく負けている事を忘れてはなりません」


「数で負けているからどうだと言うのです?」


 半兵衛は俺達が勝っても王国兵が全員負けると意味が無い事を、彼等に説明した。


「なるほど。単純に勝てば良いという考えは、改めなくてはならないですね」


「思ったより難しいわねぇ」


「その為に、王国兵の強化を担当するラコーン様と真イッシー様という、ヒト族の方達に多く参加していただきました。要所要所の戦闘には皆様の力が必要ですが、主な戦闘は王国兵が行います。その為にはターネン派に抜けられると、少々厳しいものがあります」


 半兵衛の説明を聞いて、ようやく理解してくれた。

 俺もその説明で、ターネン派が必要なのは分かった。


「ターネン派の兵は兄を助ける事で、引き入れる事が出来ると思います」


「では、彼等を王都付近へ集めて下さい。王都前に砦を築きます」


「と、砦ですか?」


 ブーフがあまりに突拍子もない事を言われたからか、聞き返している。

 だが、その為のノーム達だ。


「魔法を侮っちゃいかんという事だ。俺もどのくらいの規模で作るか知らんけど、アイツがやるって言うならやるんだよ」


「魔王様がそう仰るのなら。しかし資材はどうされるおつもりで?王都の周りには、大規模な森はありません。現地調達というのは難しいと思われますぞ」


 ブーフの説明に半兵衛も困惑するかに思われた。

 しかしその前に、手伝うという者が現れた。


「船で運べば良いだろ。川を使えば木材を流すなんて簡単だ。それを引っ張っていけば良い」


 半兵衛はそれを考えていたらしく、一言をお礼を述べてから続きを話し始める。


「我々はまず二手に分かれます。このアジトに残るのは、ラコーン様と真イッシー様。お二人にはここで王国兵の強化に当たっていただきます」


「俺達はそれくらいしか出来ないからな。了解した」


「ちょっと待って下さい!」


「何でしょう?」


 ブーフはそれに違和感を覚えたらしい。

 俺はそれに気付いたが、なんとなく理由が分かっていた。


「何故、ターネン派は王都の周りに集合させておいて、キルシェ様の兵達だけを強化するのですか?」


「彼等とは袂を分かつからですよ。ターネン派はお兄様を助けた後に、向こうに戻ります。最初は協力関係にあっても、維持派を制圧した後には次の敵となるでしょう。少し気になる事がありますが、それはラビ殿に頼んで、確認してもらってからになりますね」


 気になる事か。

 理由は予想通りなのだが、その気になる事が気になる。


「なるほど。先を見越しての意見でしたか」


 ブーフはそれを言って下がると、半兵衛は続きを話し始める。


「そしてもう一つの部隊。王都の目の前に砦を築く作業。それは砦作りの名手であるビビディ様と、若狭国から来ていただいているノームの方々。そしてドワーフの方々にも担当していただきます。ついでに魔王様も手伝ってもらいます」


「ついでかよ!」


 また俺達の扱いは雑だなぁ。


「そして四人の代表者の方々は、その砦作りを邪魔する魔物及び王国兵帝国兵の排除を担当して下さい」


「とうとう拙者、戦うのでござるな!」


「了解よぉん!」


「承知しました」


 四人は自分達の仕事が明確になった事で、やる気に漲っている。

 特に阿吽の二人は、今まで見せた失態が多かったからか、他の二人とは違った雰囲気を持っていた。

 同じく失態続きの慶次だが、彼はいつもと変わらない。


「それではあまり時間もありません。早速行動に移りましょう」


 半兵衛がその場を締めると、全員が立ち上がり各々の持ち場へと移動を開始した。

 そしてとうとう、アレが見られてしまうのだった。





「な、ななな何じゃこれは!?ふ、船が・・・ワシの魂が半壊しておるじゃないかあぁぁぁ!!」

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