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諍い

 面倒なおっさんへの連絡は、しなかった事にした。

 とはいかず、ドワーフにもちゃんと援軍の要請をした。

 しかし一益の返事は芳しくない。

 ドワーフという種族は戦闘に特化しているわけではなく、更に武具の在庫も既に限りがあるという。

 代わりに彼の用意した案は、鍛治師を送るという事だった。

 名は真田昌幸。

 戦国武将の中でも有名な彼だが、どうにも変わり者らしい。

 本人の意向次第では、安土へ連れて行っても構わないとの事。

 彼に会うのが楽しみになった。


 戦力補強の件をキルシェ達に伝えると、彼女はある事に懸念を抱いた。

 それは報酬である。

 わざわざ危険を冒してまで王国に来る彼等に、何を渡せば良いのか。

 僕は農作物で十分だと言うと、そんな物で良いのかという不安があるらしい。

 そして僕は追加で、船が完成した暁には、外洋で獲れた物の何割かを貰うという約束をした。


 とうとう合流の日になった。

 魔王が目印と伝えたが、それは上手く機能したらしい。

 向かう途中、妖精族の連中に囲まれてしまったが、ある意味合流地点まで連れて行ってもらえたので良しとした。

 魔王が二人。

 ブーフは驚いたが、その中身はネズミ族の乱破ラビ加藤だった。





 キラッ!じゃない。

 むう、無駄に本人よりもオーラが出ている。


「えっ!?どういう事ですか!?」


「何何?あら〜、これはちょっと予想外。アタシもこんな事初めてよぉん!」


 阿形とベティが、魔王が魔王に跪く姿を見て驚いている。

 やはり騙されていたらしい。


「ラビ、もう良いよ。でも今の反応からして、どんなに強い魔族でも欺けるって分かったのは収穫じゃない?」


「そうですね。内心では不届き者として斬られてもおかしくない事をしていたので、焦ってはいたのですが。おかげさまで自信になりました」


 立ち上がったラビだが、未だに僕の姿をしている。

 混乱が収まらないので、他の人になる事にしてもらった。


「お、驚きましたね。このような者が居るとは」


「そうですね。兄の言う通り、未だ知らぬ強者も居るという事。世界は広いです」


 阿形に続き吽形も来たが、一つ間違いがある。


「このような騙す形となり、申し訳ありません。それと私は、強者と言われる者ではございません。戦闘には不向きなので、何卒よろしくお願いします」


「そういう意味の強者ではないと思うわよ。アタシもまんまと騙されたわ。これは魔法?」


「いえ、ちょっとした技術でございます。自分より身体が小さくなければ、ご覧の通り」


 ラビはその姿を妖精族である吽形に変えた。


「私は兄のように強くはありませんが、姿形だけなら幾らでも変える事が出来ます」


「う、吽形!?」


「嘘、僕だ・・・」


 いつものポーカーフェイスが崩れ、素が見え始める二人。

 ハッと気付いたのか、軽く咳払いしていつもの二人に戻った。


「姿形だけ?」


 ベティの質問に、ラビは再び姿を変える。


「そうよぉん。翼はあっても、アタシじゃ空は飛べないの。く・や・し・い!」


「あら!物凄い美人が目の前に現れたから、ビックリしちゃったわ〜!」


「アタシ、自慢じゃないけど顔には自信があるの」


「ヤダ〜!この子サイコー!」


 ベティは、ラビベティが気に入ったらしい。

 身体を舐め回すように見て、自分との違いを探している。


「凄いわねぇ。見分けが付かないわ」


「だって見分けられたら、アタシ仕事にならないもの。アナタ、そう思わない?」


「思う〜!」


 ベティだけでも濃いのに、ダブルベティは相当にヤバい。

 特濃を超えている。


「ラビ。ベティは濃過ぎ・・・見分けが付かなくなるから、また姿を戻してほしいんだけど」


「そうね。二人もアタシが居たら、その美貌に参っちゃうわね。分かったわ」


「あぁ〜ん!アタシが居なくなる〜!」


 アタシが居なくなるって何だよ!

 ツッコミを入れたかったけど、頭が痛くなるのでやめておいた。


「魔王様、そうするとまだ到着していないのは、ドワーフと安土の一行ですね」


「安土からも来てない?」


 目的地であるラビは、誰が来ていて誰が来てないか把握していた。

 その二つの領地からはまだ来ていない。

 正直、自分の領地から来てないと言われて焦りを感じた。


「そもそも、安土から誰が来るとか聞いてる?」


「私は聞いてないですね。ドワーフは鍛治師だとは聞いているんですが」


 正直、僕も自分で把握してないからなぁ。

 長可さんとゴリアテに全て投げてしまった。

 ゴリアテがある程度選定しているとは思うけど、どうせ来るのは前田兄弟な気がするんだが。


「安土からの援軍、到着しました」





 僕は目を疑った。

 予想外の人選だったからだ。


「お久しぶりです、魔王様」


「まさか、ビビディが来るとは思わなかった・・・」


「私だって驚いてますよ」


 チラッと後ろに目をやると、半兵衛が軽い会釈をした。

 明らかにこの人選は半兵衛だ。


「他にはノーム達とラコーンに、それとイッシーだと!?」


「イッシーではない。真イッシーだ!」


 どっちでも良い自己紹介ありがとう。

 むしろ、本名の斎田は何処へ行ってしまったのだろうか。


 しかし、これを見るに大半がヒト族なのだが。

 戦力不足で少人数でも実力がある魔族を呼ぼうと思ったのに、これはどういった意味があるのか。


「他は誰が来てる?」


「拙者でござる!」


 拙者だけで分かる人物。

 慶次だった。

 どうやら兄貴は居ないらしい。


「何故に又左じゃなくて慶次だけ?」


「又左殿はコバ殿の手伝いで、少々時間が無いようです。本人は参加したがっていましたけどね」


 コバの手伝いって事は、新しい武器作りかな?


「兄上の穴は、拙者が埋めるでござる。一人で二人、いや千人分の働きをするでござるよ!」


 大きな声で大言壮語を吐く慶次。

 それに反応したのは阿形と吽形、そしてベティだった。


「出来もしない事を大声で言うなんて、どうやらこちらの獣人の方は頭が悪そうですね」


「吽形、本当の事を言っては可哀想ですよ。そういう事は、もっと包んで言ってあげないと」


「あぁ!?」


「品性の欠片も感じない返事。安土ではこんな方が強いと言われるのか」


 笑顔で毒を吐く阿吽の二人に、慶次は本気で怒りを露わにしている。


「二人じゃないと何も出来ない妖精族の代表より、拙者の方が働くでござるよ」


「言ってくれますね」


「兄上、ヤりますか」


 どうにも三人で喧嘩腰になっている。

 そういえば、阿吽の二人は示威を見せつける為に選ばれたっぽいんだった。

 それを慶次が千人分とか言うから、刺激されちゃったのかもしれない。


「ちょっと!アンタ達、やめなさいよ」


 おぉ!

 流石は領主であるベティ。

 コイツも示威行為で自ら来たというのに、対応が大人だ。


「気持ち悪いのは黙ってろ!」


「何じゃワレ!誰に向かって言っとんのじゃ!」


 全然大人じゃない!

 あぁ、カオスになっていく・・・。


【選手交代だ。こういうのは俺の方が向いてるだろ】


 助かる・・・。





「お前等、内輪揉めしてんじゃねーよ!」


 俺の大声が辺りに響き渡る。

 手を出すか出さないか、一触即発ムードだったが、その声で場は静まり返った。


「お前等さ、何しにここに来たか分かってる?俺が必要だと思ったから呼んだんだろうが!お前等の力が必要だから、わざわざ頼んだんだろうが!」


 俺の声を聞いて、周りの者達が一斉にこっちを向く。


「お前等、自分等がどれだけ役に立つか俺に見せたいと思って来たんだろうけど。現状では思いきり役立たず扱いな」


「なっ!?」


「え?アタシも!?」


「特にベティ、お前だ!お前、越中国の領主だろ?何故、領主が他の領地の奴と張り合う必要がある?もっと威厳のある態度で接しろよ」


「威厳って・・・。それじゃアタシじゃなくなるじゃない」


「言い訳しない!お前等四人、正座!」


 言われるがまま、地面に正座する四人。

 俺が思うに、この場に居る最高戦力だろう。

 だが、強いからといって特別扱いをしては駄目だ。


「これからお前達に、重要な事を言っておく。今回の作戦で、初めて他の領地の者達との共同作業という者も多いはず。それこそ他の領地の領主も居れば、裏方に回るただの一兵卒まで居るだろう。だけど、この作戦に参加したからには、そういう立場だけで上下関係を作るつもりはない!」


「魔族なら、強い者が偉いのは当たり前でござるが・・・」


「話をしている時に文句は言わない!」


「痛っ!」


 バットで頭をゴツンと叩くと、軽く涙目で慶次がブツクサ言っている。

 そして俺は、ラビを前へと押し出した。

 慶次はさっき居なかったが、長浜で見知った仲なので説明はしない。


「お前等、さっきラビに何て言ったか覚えてるか?戦闘に向かないラビに対して、お前等が凄いって言ったんだぞ」


「そうですね。彼は凄い」


「あのような術は初めて見ましたから」


「あんな美人はそうは居ないわぁ」


「ラビ殿は凄いでござる!」


 何故かラビが褒められて胸を張る慶次は置いといて、三人ともラビの実力は認めていた。

 恐縮ですと身体を縮こめるラビだが、やっぱり凄いものは凄い。


「ラビが凄いのは認められるのに、他の奴は認められないのか?お前等は戦いで凄さを見せたいんだろうが、それが仲間内での喧嘩なら別だ。今のところお前等四人は、減点だからな」


「減点!?」


「若狭で守護を任されている私達が!?」


「あら〜、それ言ったらアタシは領主よ?」


「減点でござるか〜。まあ気にしないでござるが」


「気にしろよ!」


「痛っ!」


 再び慶次はバットで叩いたが、阿吽の二人は大きくショックを受けている。

 若狭ではエリート街道だった二人だが、減点などと言われたのは初めてなのかもしれない。

 ベティはのらりくらりしていて、どっちだか分からん。


「これから来るドワーフ一行の一人は、領主である滝川一益に次ぐ鍛治の腕前を持っているらしい。俺は戦いだけで判断しない。その事を頭に叩き込んでおけ」


「承知しました」


「了解よぉん」


「拙者、いつになったら戦えるのでござるか?」


 四人とも返事はしているものの、どうにも反応が違う。

 阿形達は怒られて凹んでいる。

 多分あんまり怒られ慣れてないんだろう。

 ベティは普通。

 反省しているように見えるが、本気で反省しているか分からない。

 慶次は論外。

 戦う事しか考えてない。

 反省のはの字と無いな。


 しかし各種族のトップが怒られる姿を見せたのは、ちょっと失敗だったか?

 周りの連中も、自分達が怒られたかのように暗くなってしまった。


「お前等四人が活躍するのは、もっと後だ。そしてその時は、お前等が主役になる。その時こそ、本当の勇姿を見せてくれる事を期待してるからな!」


「は、はい!」


「それは任せてほしいわ」


「戦う前に腹減ったでござる」


 ちょっとベタ過ぎたかと思ったが、阿吽の二人はこれで元気になったから良しとしよう。

 ベティはよく分からんけど、一応反省してくれてるから良い。


 問題はこの馬鹿。

 怒られた直後なのに、全く気にせずお菓子食べてやがる。


「お前問題行動ばっか起こしてると、又左に言いつけるからな」


「ブッ!拙者、いつでも本気で真面目でござる」


 口に入っていた物を吐き出したと思ったら、良い顔で真面目とか言ってきやがった。

 やはり慶次には、又左の名前を出すに限る。


 そして俺が四人を叱っている間に、どうやら最後の一行が到着していたらしい。





「魔王様って怖いな。ワシなんかもっと怒られそうだ。嫌だなぁ。何でワシ、ここに呼ばれたんだろ・・・」

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