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ドワーフの変わり者

 キルシェもブーフも参っていた。

 同じ改革派の旗頭であった兄ターネンは捕まり、維持派の兄キーファーからは父親殺しの汚名を着せられる。

 状況も戦力も、全て不利になってしまっていたのだ。

 そこで僕の兄は、魔族の部隊をこの戦いに投入する事を提案。

 無線機を購入してくれた各領主へと、連絡する事を決めた。


 久しぶりに丹羽長秀に連絡をすると、詐欺師扱いをされたものの、どうにか戦力を送ってもらう事になった。

 しかも若狭から来るのは、僕等の目の前で活躍した、阿形と吽形だと言う。

 予想以上の戦力に驚いたが、次に連絡したベティの方が上手だった。

 領主である自分が行く。

 部下に任せるのではなく、自分が戦力として向かうと言うのだ。

 本人が良いと言うのだから文句は言えないのだが、これはアリなのかと疑問に思ってしまった。

 そしてその話をテンジにすると、ネズミ族にはそこまでの戦士は居ないと歯痒い気持ちになっていた。

 彼が言うには、初めて僕等が魔王として連合に命令を下したとの事。

 そこには他の領主にナメられてはいけないという、示威行為も含まれていたのだった。

 最後に滝川一益にも連絡したのだが、彼は他の三人と違った。

 何をしているのかと思ったら、バンドの練習に精を出していたのだった。





 ブツッ。

 ふぅ。

 これで戦力は整った。


【オイ!一言聞いただけだぞ。良いのかよ】


 だって、あのノリに付き合って話すのダルくない?


【それはそうだが、ドワーフだけ除け者にしたら、後で面倒になるんじゃないか?】


 クソッ。

 どっちにしろ面倒になるんじゃないか。

 あ、向こうから掛かってきた。


『途中で切るなんて、酷いじゃないか。それで、何か用があるのでは?』


「あるにはあるんだけど、面倒なら断ってくれても良いよ」


 僕は王国で困っている事。

 他の領主には連絡済みで、戦力を送ってもらえる事。

 そして、先代九鬼嘉隆が生きていた事を話した。


『そうか。あの爺さんは生きていたか。ま、殺しても死なんような爺さんだ。無事だとは思っていたがな』


「今は王国内部が危険だから、志摩に帰ってもらったけど。外洋に出る為の船を造る際には戻ってくる。その時にはお前達の協力も必要なんだけど」


『外洋専用の船とな!?なかなか面白い事をしている。ワシも一杯噛ませて欲しいぞ』


 船に関しては好感触だな。

 まあ外洋専用なんて初めての試みだし、面白い事好きの一益なら断らないとは思ったけどね。


「それはさておき、戦力の方なんだけど」


『うーむ、ドワーフも戦闘民族というわけではないからのう。テンジ殿が言っていたように、ワシ等も戦力を出すのは難しいかもしれん』


 やっぱり難しいか。

 そしたら、違う物を送ってもらえるか聞いてみよう。


「戦力以外でも良いんだけど。例えばミスリル製の武具とか。敵側には帝国が絡んでるっぽくてね。向こうがミスリル製の武具で揃えてるんだよね」


『申し訳ないが、ワシが洗脳されていたせいで、ミスリル製の武具の在庫がほとんど残ってないのでな。送れる程、物が無いのだ。それと帝国には、既に輸出規制をしているのだが。本当に王国にミスリルの武具が揃っていたのか?』


「粗悪品っぽいけどね。皆が言うには、ミスリル製と言える装備だったらしいよ」


『なるほどな。おそらくドワーフ作の武具を真似て、ヒト族が作っているのかもしれんな。長浜はミスリルの輸出に規制は掛けておらんのだろう?』


 それは僕等も知らん。

 むしろ他の領地の事なんか、口出しする立場に無いし。


「後でテンジにも聞いてみるよ。しかし、そうなるとかなり困った事になるな」


 個人の能力は最高とはいえ、少人数なので数に圧倒されると弱い箇所から戦線崩壊が余裕で見える。

 やはり改革派自身の戦力アップが、課題なんだよなぁ。


『・・・ならばこういうのはどうだ?ドワーフは鍛治師を送る。長浜からミスリルを輸入して、王国内で武具を作れば良い』


「鍛治師か。でもそんなに良い腕の鍛治師も送れないでしょ」


『それが、一人だけ都合が良い者が居る。もしかしたら、ワシに次ぐ腕を持っているかもしれん』


 そんな奴なら、名前が売れてるような気がするんだけどな。

 上野国に居た時に、そんな名前聞いてないぞ。


「ちなみに誰?というか名前あるの?」


『名前はある。姓は真田、名は昌幸。ワシの下で働いている男だ』


「さ、真田昌幸!?」


 んー!?

 真田昌幸って言ったら、戦国時代の有名人だぞ。


【俺でも知ってるけど、確か武田信玄の家臣じゃなかったっけ?】


 一時期、信長に降った事があるってドラマで見た。

 もしかして、これも信長が名前付けた?


「ちなみに何故、そんな凄腕の人を送り出すの?手元に置いておいた方が良いでしょ」


『何と言えば良いのやら。独立心が強いというか上昇志向というか。とにかく、自分の店を持つ事に拘っておってな。要は変わり者なのだ。ハッキリ言って、ワシは扱いづらい』


「それって、そのまま安土に連れて行って良いって事?」


『本人がその気なら、それも良いかと考えている』


 なかなか面白い提案だ。

 会った事が無いからどんな人物か分からないが、安土に鍛治師は居ないし、丁度良いとも思う。


「真田昌幸だけじゃ、鍛治師足りないんだけど」


『他にも何人か送るに決まっておろうが。どうせ他の領主は、戦闘に特化した連中を送るのは目に見えておる。こっちはこっちのやり方を見せつけてやるわい』


「それなら安心。合流に関してはまた連絡する。それじゃ、バンド頑張って!」



 若狭と越中は示威行為として、阿吽の二人とベティ本人が。

 長浜は戦力で負けているのを自覚して、悩みながらもラビのような特殊能力特化した者を。

 上野はマイペースに、役に立つ者と厄介払い。

 各領主、色々と思惑が違っていて面白い。





「というわけで、戦力増強の為に呼ぶ事になりました」


 キルシェとブーフにその事を伝えると、二人とも開いた口が塞がらなくなった。

 何故だろう?


「ちょ、ちょっと待って下さい。魔族の援軍ですか?」


「そうだけど。何かマズイ?」


「マズイも何も、魔族の大軍なんか来たら王国が崩壊しますよ!」


「大軍なんて一言も言ってない」


「へ?」


 ブーフは素っ頓狂な声を上げた。

 キルシェは何か考えているようだ。


「来るのは多くて数百人じゃない?主には妖精族と鳥人族が戦士。ネズミ族とドワーフが裏方って感じかな」


「そんな多種族が来るんですか!?」


「敢えて何処の領地が手を貸したか、分からないようにした。あ、ついでに安土からも来るけど、誰が来るかは知らないや」


「なるほど。それだけの多種族ならば、維持派がどの領地を批判すれば良いのか混乱しますね」


「だろ?」


 ブーフと違ってキルシェは、他の事に関心があるようだ。


「・・・それは分かりました。しかし私達は、何を対価に支払えば良いのですか?」


「あっ!」


 ブーフも気付いたようだ。

 様々な魔族の力を借りるのは助かるが、その見返りが何か聞いていないと。

 というより、僕も何も考えていない。


「適当で良いんじゃない?何か農作物を送るとか。その領地ではあまり馴染みの無い物を送れば、それはそれで喜ぶと思うよ」


「そ、そんな簡単に決めて良いのですか!?」


「だったら各領地から来る連中に、色々な野菜とか果物見せれば良いじゃん。その中から気に入った物を送れば良い」


「はぁ・・・。それで良いのであれば、とても助かりますが」


 その事がかなり大きな懸念だったようだが、あまりに拍子抜けな答えに強張った表情が柔らかくなっていく。

 でも、ちょっとだけ僕は吹っかけようと思う。


「ただし!」


 ビクッとなる二人。

 僕の声に驚いている。

 恐る恐るといった表情で、その続きが言われるのを聞いていた。


「安土は更に別の要求もするよ」


「・・・王国の農作物では、納得していただけないと?」


「その戦力を集めたのは僕だからね。だから、追加報酬って形で別の物も貰いたい。ただ、それは今じゃない」


「今じゃない?」


「船が完成して外洋に出たら、そこで手に入れた物を何割か貰いたい」


 そう。

 やっぱり海の魚が食べたいのだ!

 それに海洋生物の素材で、何か出来るかもしれないし。

 確か外の海には、大きな海棲生物が居るらしい。

 そんな連中の牙や鱗を使って、何か新しい武具も出来るかもしれないしね。


「それは、船が完成する事前提として話してますが」


「前提というか、完成させるから。ドワーフの長には鍛治師派遣の話もしてある。長浜からもミスリル輸出を頼んだし。この内乱が終われば、船の建造に本腰入れてもらうよ」


「完成するか分からないのに?」


「だから完成させるって!じゃないと、手を貸した意味が無い。船を完成させて、外洋から色々と調達してもらう。今回の魔族招集は、要は先行投資みたいなものかな」


 将来性を見込んでの、戦力増強という名の投資。

 負けられたら、全てパーである。

 だからこそ、必勝の体制で挑むのだ。


「分かりました。その割合については、私達に損害が出ない程度に考えさせていただきます」


「それならOK。じゃあ、維持派に見つからない集合場所を教えてくれ」





 無線で連絡をしてから約一ヶ月。

 とうとう招集した連中が、連絡した集合場所に来る事になっている。


「しかし、分かりづらい場所ですな。皆、ちゃんと到着出来るのか、心配です」


「太田の心配も分からんでもないが、多分大丈夫だろう」


「知らない土地で集まる保証があるのですか?」


「それは私達も心配していた事です」


 太田に続き、ブーフも心配している。

 確かに、目立ったような物は無いんだけど。

 代わりに目立った人物を用意しておいた。


「多分大丈夫。僕が目印って言ってあるから」


「どういう意味ですか?」


 ブーフ達王国兵は、その意味を理解していない。

 だが太田は、その意味が分かったようだ。


「なるほど。それでネズミ族だけ早い日程だったのですね」


「ご名答。多分、既に集まっていると思うんだけど」


 等と言っていると、何処からか現れた妖精族の連中に囲まれてしまった。


「ま、魔王様!我々は敵ではないと話してもらわなくては!」


 ブーフの部下は武器を構えていたが、どうにも腰が引けている。

 まさか武器を向けられるとは、思っていなかったらしい。


「僕だ。皆が集まっている所へ案内してほしい」


「貴様!魔王様の姿格好を真似るとは、不届き千万!」


 あれ?

 思った反応と違う。


「いや、僕が本物・・・」


「笑止!魔王様が、貴様のような威厳が無い訳がないであろう!」


 僕、知らん妖精族にめっちゃディスられてるんだが。

 凄くキレそう。


「だから、向こうが偽物で・・・」


「黙らっしゃい!お前達全員、魔王様の下へ連行だ!」





 思ってた展開とは違うけど、合流地点には到着した。

 なるほど。

 ドワーフ以外は到着してるらしい。

 真田昌幸に早く会ってみたかったけど、それは後のお楽しみって事かな。


「こっちだ!来い!」


 何故か罪人扱いみたいな感じで連行されているのだが、もう後ろの連中の顔がヤバい事になっている。

 ブーフの部下の中には、泣き出した奴まで現れる始末。

 早く誤解を解かねばならない。


「おっ、居た。ベティも阿形吽形も、やっぱり騙されるのね・・・」


「えっ!?魔王様が二人!?」


 ブーフはようやく言っていた意味が分かった。

 魔王が目印。

 そこには自然と人が集まってくるという訳だ。

 そして向こうも、連行された僕達に気付いたらしい。





「魔王様、ラビ加藤。御用命により参上しました。キラッ!」

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