戦力招集
無事にアジトに戻った僕等は、作業員や事務員達から熱烈な出迎えを受けた。
キルシェに魔王、そして何故か太田。
人気者になった太田だったが、魂の欠片を返してもらうと、途端に手のひら返しされていた。
キルシェとブーフの三人で今後について話し合うと、ブーフは他のアジトからこのアジトへ戦力を集結させるべきだと提案する。
しかしそれには、国王殺しの汚名を着せられるのではという懸念があった。
だが二人は、その心配は要らないと思うと言った。
第一王子であるキーファーに、先に罪を被せようという話だった。
彼は国民から頭が悪い上に人望が無く、悪い噂を流されてもその通りだと思われるというのが理由だ。
だが頭が悪いと言われる人が、父親を殺すだろうか?
そうなると残るは必然的に、第二王子のターネンが怪しくなってくる。
彼は逆にお人好しで有名らしく、民からの人気は絶大らしい。
だが同じ改革派。
まずはターネンと合流を図ろうとしたところ、ターネンがキーファーに捕まったという連絡が来た。
だが、次の報告は更に驚く事となった。
国王殺しの犯人はキルシェだと、キーファーが発表したというのだ。
キルシェもブーフも固まった。
先を越された事にも驚いたが、何よりも動きが迅速なのだ。
頭が悪いと言われる彼なら、こちらが多少の不利を負ったとしても問題は無いのでは。
そう考えていたところを、いきなり濡れ衣を着せられたのである。
「どうする?」
「ど、どうすると言われましても・・・」
やはり予想外の出来事に、まだ頭が混乱しているらしい。
「ターネンが捕まり王都へ連行され、キルシェには父親殺しの犯人として濡れ衣を着せる。僕の思った事言っていい?」
「お願いします」
「これを考えたのって、間違いなくキーファーって馬鹿兄貴じゃないよね。そうすると、裏で誰かが操ってる事になるんだけど」
「そうですね。そう考えるのが普通ですよね」
ブーフも落ち着きを取り戻したのか、ようやく会話に入ってきた。
「しかし問題が大きいです。我々だけで対処出来る許容量を超えています」
「そうですわね。戦力でも負けて、王都も向こうの手にある。更にはターネン兄様が人質になっています。どれから手を付けても、敗北必至ですわ」
二人ともかなりのマイナス思考に陥っている。
だけどハッキリ言って、僕でも良い案なんか思いつかない。
半兵衛が居てくれたらなぁ。
【半兵衛呼べば良いじゃん】
それは駄目だろ。
他国の内乱に大きく関わったら、帝国や他の国だって黙ってない。
【いや、だから帝国は関わってるんじゃないの?武具とか売ってるんだし】
それはそうだけど、武具を売るくらいでは文句は言えないでしょ。
【あのさ、安土って国じゃないよな?】
国ではないね。
都市扱いだから。
魔族は都市や町村を守っているだけで、国を形成しているわけじゃない。
【だったら外交なんか関係無いじゃない】
これをキッカケに、帝国が全面攻撃に出てくるかもしれないのに?
【要は安土だと分からなければ良い。だったら混成部隊にして、何処の都市が手を貸したか分からなくしちゃえば良いじゃんか】
でも、そんな事手伝ってくれるかな?
【丹羽のおっさんが言ってた事覚えてる?俺達、魔族連合の何だっけ?】
代表者か。
うーん、個人的な理由な気がしなくもないんだが。
聞くだけ聞いてみるか。
「ツムジ、聞こえる?」
『あら、魔王様。お久しぶりね』
「コバに確認してもらいたい事があるんだけど」
ツムジはそれを聞くと、数分後にコバの居場所まで移動してくれた。
『何であるか?』
「無線機ってどうなった?」
『無線機は大人気である!特に長浜の秀吉が、大量に欲しがっているのである。売るか?』
「特定の場所に大量に出品するのは無しで。他の領主には売れた?」
『若狭国と越中国、それと元から持っている上野国が、買っているのである』
よしよし。
という事は、主要な領主は全員持っている事になるな。
「連絡先を教えて。それと半兵衛にも無線持たせといて」
これで出せる戦力を、出してもらう。
それに半兵衛と、安土からちょっとした戦力を出させて組み合わせれば、混成部隊の出来上がりかな。
しかし、ちょっと前に戦っていた滝川一益は別として、他の領主は久しぶりに連絡する。
特に丹羽長秀は、直接的には全く連絡をしていなかった。
安土にやってくる妖精族の商人に、手紙を渡してやり取りは数回したが。
やはり現代っ子の僕達に、手紙は面倒だった。
メールや電話で済ませたい。
結局気付くと、手紙のやり取りは無くなってしまったのだった。
なので、長秀とは数年ぶりの連絡である。
「もしも〜し」
『誰だ!知らない連絡先から来るなど、聞いた事無いぞ!さては貴様、詐欺師だな!』
いきなり誰だからの、詐欺師扱い。
少し感じが悪い。
「いきなり連絡すいません。阿久野ですけど」
『ほへ?ま、魔王様!?とんでもない失礼をしてしまいました!申し訳ありません!』
向こう側で頭を下げているような、そんな雰囲気の声である。
まあ連絡先を勝手に聞いて連絡したら、こうなるのは分かっていた。
「それは良いんだけどさ。緊急の連絡で、お願いがあるんだけど。少人数を内密に、ライプスブルク王国へ派遣出来ない?」
『・・・それは戦える者という事ですか?』
やはりやり手の領主。
声色が変わり、全てを話してないのに事情をある程度把握したっぽい。
「そうだね。他の領主にも派遣を頼むから、人数は少なくても良いんだけど」
『他の領主?それは長浜の木下殿や上野国の滝川殿といった方々ですか?』
「長浜は今、領主代理で別人だけどね。まあ後は越中国とかかな」
『少々お待ちを』
それからしばらく、無線から声が聞こえなくなってしまった。
考えているのか、無線の調子が悪いのか。
あまり良い返事が貰えそうもない。
そして返ってきたのは、僕等の予想に反した答えだった。
『お待たせしました。こちらからは、阿形と吽形。それと少数の戦闘に長けた種族を送ります』
「えっ!?あの二人来るの!?」
『はい、ご自由にお使い下さい』
まさか、阿吽の二人が援軍で来るとは。
正直なところ、これだけでも十分なんだけど。
「ありがとう。合流に関しての細かい事は、また連絡するので、それまでに準備よろしくお願いします」
『かしこまりました』
【やったじゃないか!あの二人が来れば、百人力も同然だろ!】
もっと渋られると思ったんだけど。
むしろ最強の戦力を送り出してくるとはね。
この調子で、他の領主にも頼んでみよう。
「もしもし」
『はぁ〜い、ベティよぉ〜ん!』
やべっ!
もう切りたい。
【我慢しろよ。コイツにも頼まないといけないんだから】
「阿久野ですけど」
『あら、魔王様から連絡なんて、予想外だったわ。どのようなご用件なのかしら?』
「・・・という感じで、戦力をライプスブルク王国に送ってほしいんだけど」
『・・・他の領主は何と?』
「まだ若狭国しか連絡してないけど、送ってくれるって。阿形と吽形っていう二人を筆頭に、戦闘に長けた種族を派遣してくれるらしい」
『阿形と吽形ですって!?若狭国の盾じゃないの!』
やっぱりあの二人は有名人なんだな。
若狭から離れた越中国でも、名前が知られている。
「ベティの方からも、少数出せないかな?」
『・・・分かりました。アタシがイキ・ます!』
「・・・ん?領主が派遣されてくるっての!?」
『そうよん。戦力が必要って言うなら、アタシが最適じゃないかしら?』
それはそうなんだが。
領主が自分の領地を離れてわざわざ戦いに参加してくるって、アリなのか?
「あのさ、ベティが来て鳥人族の人達は困らないの?」
『アタシの部下は優秀よぉん!半年も一年も離れるわけじゃないし、全く問題無いわ』
「誰かに相談とかしなくて良いの?」
『良いの良いの。だってアタシが領主だもの』
「そういうものなのか?」
『こまけぇこたぁイイんだよ!』
最後に妙なおっさんが出てきた気がしたが。
まあ本人が良いって言うなら、これ以上嬉しい事はない。
「合流はまた後で連絡するから」
うーん、なかなか凄い事になってきたなぁ。
次行ってみよう。
「もしもし」
『知らない連絡先からだと!?これがコバ殿が言っていたオレオレ詐欺。私に孫は居りません!』
あの野郎、変な事ばかり教えてやがるな。
「阿久野ですけど、テンジ?」
『魔王様ですと!?これはこれは。急にどのような用件でしょう?』
オレオレ詐欺の事は、サラッと流しやがった。
それについて言いたいわけじゃないから、こっちも聞かなかった事にしよう。
「あのさ、ちょっと頼みたい事があるんだけど」
僕は既に二つの領地から、既に戦力を送ってもらえる事を話した。
『むぅ・・・』
「その様子だと駄目っぽいかな。無理強いは良くないから、難しいなら他を当たるけど」
『ちがっ!違うんです!若狭や越中と比べてしまうと、我が長浜の戦力は微力だなと思いまして・・・』
「微力だなんて!出してくれるだけでありがたいよ」
『そういうわけにはいかないのですよ』
別に阿吽の二人とかベティ程の戦力なんか、そうそう居ない。
それを比べる方が馬鹿らしいんだけど。
何が駄目なんだろ?
『魔王様はおそらく、自分がなされた事の意味を理解していない。これは各領主からすれば示威を見せる、絶好の機会なのです』
「示威?別に皆の凄い所なんか、見てきているけど」
『それは魔王様はそうかもしれません。しかし、各々の領主が戦力を一つの場所に集めて行動する。これは信長様が存命だった頃以来だと思いますよ』
ん?
それ、ちょっと違くないか?
「前魔王が戦力を集めて、帝国と戦ってたと思うんだけど?これは違うの?」
『それは前魔王様が集めた者達ですよね?長浜もそうですけど、各領主は前魔王様の帝国との戦争に反対でしたから。戦力を出したとは思えないんですけど』
そう言われてみると、確かに断ったって話ばっかりだな。
選り好みして選ばれなかった太田や、小人族みたいな存在もあるけど。
「なるほど。なんとなく分かった」
『なので丹羽様と佐々様は、他の領主に対して自分の持つ戦力の示威の意味も込めて、派遣されるのだと思います』
むぅ。
これが政治というヤツか。
魔族と言えど、これは避けられないっぽい。
「それで、長浜はどうする?」
『我々も派遣は致しますが、主には裏方の方に回りたいと思います。戦闘力では敵いっこないですからね』
無線の向こうで、テンションが落ちていくのが分かる。
でも、戦いだけに意味があるわけじゃないからね。
「それならネズミ族の代表として、ラビを借りていくよ」
『おぉ!それは助かります。奴の力は、他の種族には無いと思いますので。これで他の領主達からも馬鹿にされるような事は無いかと』
そんな事をする連中は、居ないと思うけどなぁ。
代理とはいえ、領主には領主の苦労があるんだろう。
「それじゃ、詳しい事はまた後で連絡する」
なかなか領主っていうのは、色々と考えているんだな。
僕等、特に何も考えてないけど、安土は順調に大きくなってるんだよね。
恵まれていると、今更ながら実感してしまった。
さて、最後にドワーフ達の領主か。
一番最近だったし、彼処は僕の連絡先も知ってるからね。
オレオレ詐欺師とは間違えられないし、連絡しやすい。
「もしもし。今、大丈夫?」
『ヘーイ!魔王様ジャーン!今はバンドの練習中だけど、全然問題ナッシング!何の用だい、シェケラベイベー!』