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死亡お遊戯マシン

 太田は僕等が単身で敵地に向かうのを反対した。

 何かあったら、ヒト族と魔族の全面戦争もあり得る。

 冗談かと思ったが、本気だった。

 そして代わりに自分が向かうと言う。

 その身体の大きさでは無理だ。

 しかし太田には秘策があった。


 僕の魂の欠片で小さく変身した太田は、羨ましい事になっていた。

 ブーフは、太田に僕等の代わりが出来るか心配らしい。

 彼にはむしろ、暴走しない事を心配しろと伝えておいた。

 ただ、余計な血を流させない為に、太田チビ用の鎧を作る事にした。


 太田に武具一式を作ると、ブーフはそれがとても気になっていた。

 それ等を手に取って実際に見た結果、彼は自分用にも作ってほしいとお願いしてくる。


 小さくなった太田を隠した木箱に、ブーフ用の鎧を入れた木箱。

 二つを積んだ騎馬隊は、維持派の司令官スツールの下へと向かった。

 それに合わせたかのように、進軍を開始する維持派の部隊。

 今度は太田の役割を僕達がする番だ。

 外へ出ようとすると、キルシェから呼び止められる。

 ここでモタモタしていると、自分に全ての罪をなすりつけられる。

 早く終わらせてくれと言ってきたのだった。





 キルシェの言い草はぶっきらぼうだったが、目は真剣だった。

 おそらく本当に時間が無いのかもしれない。


「早く終わらせる為に、太田が頭を潰しに行ったんだ。おっさん、アンタの為に動いてるのに横から口出しされるのは、あまり良い気分じゃない」


「・・・そうだな。申し訳ない。彼の事を信じる、お前を信じよう。武運を」


 ちょっと言い過ぎたか?

 でも、毎回良いように扱われても困るし。

 これくらい言っても文句は無いだろう。


「行ってくる。変な攻撃で死ぬなよ」





 今回は僕が用意しておいた物がある。

 兄さんには、それを使ってもらおうと考えている。


【アレ!?戦闘で使う為に作ってたのか?てっきり安土に戻ったら、子供達に使わせる為かと思ってたんだけど】


 違います。

 間違ってはないけど、どれだけ速いかというのが知りたくてね。

 では、よろしくお願いします!




「よし!行くぞー!」


 門の前に降りた俺は、弟が用意した機械?の後ろに立った。

 その機械は、俺も昔から世話になっている物だ。

 最近ではいろんなバリエーションが増えて、置いてある場所に特色もあるとか聞いている。


 えーと、ここに鉄球を流すだけで良いのかな?

 四台もあるけど、何故こんなに多いんだろ?


(それはだね、一台だとすぐに弾切れを起こす可能性があると考えたからだよ。ちなみに、四台とも全て違うから。楽しみにしててくれ)


 ほぅ?

 それは興味がある。

 まずはお試し。

 第一球、行け!


 ボンッ!という音と共に弾き出される鉄球。

 敵とはまだかなり離れているが、やはり威力は絶大だ。

 胸のど真ん中に食らった兵が、後ろへ吹き飛んで、将棋倒しのように隊列が崩れていった。


 おぉ!

 かなりの高威力じゃないか!

 子供達に使うのは危険過ぎるな。


(そりゃ鉄球でやってるからだよ。普通のボールなら、こんな威力にはならんでしょ)


 まさにその通りだ。

 さっき全部違うって言ってたけど、もしかして?


(そう。それは全て球種が変えてあります。名付けてピッチングキリングマシーン。またの名を我楽多くんベースボールだ!)


 今回は番号じゃないんだな。

 それはどうでもいいんだが、他の三機も気になる。

 どんどん球を出して行こう。


(鉄球に縫い目とか付けとくと、更に変化します。乞うご期待)


 ほっほぅ!?

 これは戦いなんかじゃなくて、普通に使いたいな。

 行け!


 さっきとは違うレールを通って、左側のマシンから放たれるボール。

 なんと、今度はスライダーのようだ。

 盾で防ごうとした男は、目の前で斜めに滑る鉄球を膝に食らった。

 かなり激しい音がしたが、膝がくだけたかな?

 将棋倒しにはならなかったが、やはり隊列は乱れた。


(ふっふっふ。どうかね?)


 面白いよ!

 次行こう!

 更に左のマシンに行くと、今度はまたストレートのようだ。

 と思ったら、落ちた。

 どうやらスプリットか何かかな?

 高速フォークとも言うべきか。

 これ、多分プロでも投げる人居ないと思う。

 これは打てんよ。

 ただ、このマシンはあまり使えないようだ。

 距離があり過ぎて、兵達の手前で落ちてめり込んだだけだった。


(野球は、ピッチャーマウンドからの距離が決まってるからなぁ。流石にそれ以上先で落ちろってなると、ただのストレートと変わらんし。武器としては失敗だな・・・)


 それでも子供達には、面白い遊び道具として渡せると思うぞ。

 最後の一つは何だろう?


(これはね、ぶっちゃけ兄さんにも打てないよ。魔王人形の時にコバと話してて、考えたヤツだからね。見たらビックリして目を丸くすると思う)


 そこまで言うか!

 では、見せてもらおうか。

 弟とコバの、ピッチングマシンの性能とやらを。


 ん?

 この機械だけ、出所か少し低いな。

 やはりストレート・・・。


「なにいぃぃぃ!!」


 俺は声を出して驚いた。

 少し近付いた兵達の目の前で、鉄球が浮かび上がったのだ。

 やはり距離があり過ぎて、盾を構えた兵の前スレスレを鉄球が上がっていく。

 離れた場所で落下した鉄球が見えたが、予想してなかった鉄球にその周辺は混乱している。


(どうよ?)


 まさか、ライズボールとはね。

 これは確かに俺も打てんわ。

 そもそも投げ方が全く違うし、野球だとアンダースローのピッチャーが似てるけど、ここまでじゃない。


(これもあんまり遠いと当たらないね)


 いや、近ければそれなりに便利だと思う。

 それにさっきみたいに、浮かび上がっていきなり落ちてくるから、奇襲には使えてるよ。


(そっか。まだ遠いからアレだけど、この調子でガンガン球を流してよ)


 任せろ!

 楽しくなってきた!





 その反対側である、維持派の兵士達は困惑していた。

 ただの真っ直ぐ来る鉄球なら、盾で防げば問題無かった。

 しかし、盾を構えた位置より下への攻撃や、その隣の者へと動きを変える鉄球。

 更には構えた盾をスルリと抜けて、膝やスネを砕くように変化。

 それを見越して下を守ると、今度は浮かび上がり首の骨を折るような即死級の鉄球が襲い掛かってくるのだ。


「こえー!何だよこの攻撃」


「外壁からも色々と落ちてくるとは聞いたけど、こっちの方が速くて危険だろ!」


「壁に登るどころか、辿り着けないじゃないか・・・」


 四割もの兵を太田の攻撃で失った維持派は、既にその意志は砕かれていた。

 前線に立つ者は、無難に生きて帰ろうという考えに変わり、今ではアジトを本気で落とそうと考えている連中は少ない。

 本気なのは、維持派に心酔している反魔族派だけだった。


「早く進め!」


 反魔族派の隊長が怒鳴るが、前線の足は重い。

 皆、分かっていた。

 前に行けば鉄球に砕かれて、大怪我か死ぬと。


「遅い!私の後に続け!」


 最前線まで来た隊長は、いきなり胸に鉄球が当たり、後ろへと吹き飛んだ。


「なっ!?」


 しかしミスリルの鎧にそこそこの距離が手助けをして、彼のダメージは少ない。

 すぐに立ち上がると、自らを鼓舞するかのように声を上げた。


「敵の攻撃、恐るるに足らず!皆の者、進めぇ!」


 剣を掲げて周囲を促す。

 そこへ追い打ちを掛けるように、今度はライザボールが剣の先に当たった。

 その重さに吹き飛ばされる剣。


「何の攻撃だ!?」


 盾を持ち新たな剣を用意して、警戒をしながら進む隊長。

 そこには鉄球の雨あられが待っていた。


「重さに耐えれば問題無い!」


 盾でストレートの鉄球を防ぐ隊長。

 だが、次の瞬間に悪夢が襲う。


「皆、大丈夫だ。このまま盾で顔を隠しながら進めば、はうっ!」


 高速フォークとも言うべき落ちる球が、彼の下半身を襲った。

 そこは正に、男の急所というべき場所だ。

 鎧で直撃したわけではないが、その衝撃に彼は倒れる。


「ひ、卑怯な・・・。グッ!私はこんな攻撃に屈しな」


 そこに放たれたのは、スライダーのような軌道を描く鉄球だった。

 倒れた彼の顔に、その鉄球はめり込んだ。

 それが彼の最期の言葉となった。


「股間に鉄球食らって、最期に顔面だぜ。こんなの無理だよ」


 彼等は進まない。

 そして新たな反魔族派の隊長が、前線にやって来るのだった。





 なんかさ、こんなテレビ番組あったよな?


(バレーボールとかぶつけられるのを、避けながら進むヤツでしょ?相当昔のお笑い番組だったと思うけど)


 やっぱりテレビと違って、全然前に来ないからつまらないな。


(キャスター付いてるよ。少し前に出せば?)


 あっ、ホントだ。

 一メートルくらい前にしてみよう。

 気付かずに当たるかもしれない。



 ほら、当たったぜ。

 気付かれなければ、このまま当たるっぽいな。

 よし、ライズボールで頭狙いだ。


(ところでさ、今頃ブーフ達はどの辺まで行ったかな)


 そうだなぁ。

 結構時間経ってるし、今頃は司令官の目の前まで迫ってるんじゃないか?


(荷物検査とか、流石に無いよね)


 その為にブーフの鎧を作ったんだろ。

 心配しなくても、太田ならやってくれるって。


(だよね。よし、じゃんじゃん当てよう!)





 ブーフはスツールの下へ呼ばれていた。


「あの役立たずを早く連れてこい!」


 スツールの声が、テントの外まで響いている。

 誰も司令部のあるテントには近付かなかった。


 そこに帰ってきたブーフを見て、彼等は驚いた。

 周りの連中は皆、ブーフは死んだと思っていたのだ。

 もし生きているのなら、何故改革派は瓦解していないのか。

 キルシェを捕らえると言って彼等の部隊は出て行ったのに、何故戦果も無く帰ってきたのかと。


 既に戦力の約四割を、一人の魔族に削られている。

 司令部の連中は、スツールの怒声と戦局の途中報告にピリピリしていた。

 しかし木箱を二つ持ち帰ったブーフは、悠々とした態度でスツールの下へと向かっていた。


 ブーフがテントの中に入ると、目の前にガラス製の灰皿が顔目掛けて飛んできた。


「貴様、生き恥を晒して何しに戻ってきた!」


「遅くなり申し訳ありません。まずは戦果からお聞き下さい」


「戦果だと!?キルシェの首でも持ってきたか?」


 箱をジロリと睨んだスツールは、それならば良しという態度を示した。


「申し訳ありません。キルシェには魔王の手によって、逃げられてしまいました。しかし!」


「何だ。くだらない物だったら、首を即斬り落とす」


「この箱の中身をご覧下さい」


 箱を開け、鎧と武器を取り出すブーフ。

 訝しげに見るスツールに対して、ブーフはこう言った。


「これはミスリルで作られた軽装の鎧です。そしてこちらは、同じくミスリル製の剣」


「これがどうした。確かに作りは良さそうだが、そんな物一つで許す程、私は甘くないぞ」


「その通りです。しかし、これがいくつあると思われますか?」


「む?」


 いくつという言葉に反応したスツール。

 今回はキルシェに逃げられたが、何か戦果を残さないと王都に戻る事は出来ない。

 彼の頭の中で、ちょっとした打算が始まった。


「よもや百程度とは言わんよな?」


 無言で首を振るスツール。

 ブーフの顔を見て、余裕がある事を確認した。


「・・・千、いや五千か?」


「違います」


「まさか一万もか!?」


「いえいえ、私の失態はそれくらいでは取り返せますまい」


「なっ!?一体いくつだと言うのだ!」


 自分の想像よりも上だと言う数が、スツールには気になって仕方なかった。

 もしそれ等を献上さえ出来れば、自分のアジト襲撃の失敗もカバー出来るのではと考えたのだ。


「その五倍はあります」


「五、五万だとぉ!?」


「キルシェは船の建造以外に、魔王に頼み込み、それだけの武具を用意していたのです。キルシェは逃しましたが、その武具の場所は抑えました」


「でかした!ならばこの戦、これ以上の損害を出さないように後退を命じる」


「ちなみにこの軽装の鎧は、私のサイズに合わせて作った物のようです。キルシェは兵達の事を、逐一観察していました。おそらくは一人一人の武具に合わせて作っていた模様です」


 試しにと、自ら鎧を着用するブーフ。

 続けてこう言った。


「ご覧の通り、ピッタリです。なので、五万もあればスツール様に合う鎧もあると思いまして・・・」


 そう言うと、残った木箱をスツールの前に押し出した。


「なんと!?私に合う鎧もあると言うのか!?」


「私は武具の収集が趣味でして。スツール様の身体に合う物を探して参りました。どうぞ、ご覧下さい」


 ブーフは一歩後ろへ下がると、頭を下げてニヤリと笑った。

 スツールが箱に手を掛けた瞬間、木箱の蓋が吹き飛ぶ。


「よ、呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!お、太田参上!」






「何だ、この子供は?これも土産か?」

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