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逃亡するキルシェ

 太田を投げ飛ばした兄はこう言った。

 カッコ良い感じで落ちてるから、大丈夫。

 確かにバルデッシュで敵を蹴散らしていたが、地面に激突して転がった後、全く動かなくなった。


 すぐさま兄は、太田の転がった辺りに飛んでいった。

 大声で名前を呼ぶと、すぐに立ち上がる太田。

 目を回していただけのようだった。

 太田と兄は、指揮をしている司令官を探す為、敵の中を縦横無尽に歩き回った。

 二人が敵を蹴散らし過ぎたせいで、今度はアジトの方に敵が集中し始めたが、作業員達の活躍で無理なく持ち堪えているようだ。


 一度、周囲の様子を確認する為に、クリスタルに光魔法が入っているバルデッシュを空へ高々と投げた。

 兄はバルデッシュを掴み空へと上がると、アジトの方に敵が集中しているのを確認する。

 そしてもう一つ、戦場から離れる一団が居るのを発見。

 おそらく援軍を呼びに行くのでは?

 そう考えた僕等だったが、追う手立てが無い。

 すると兄は、太田に今度はお前が全力で投げろと言うのだった。





「ちょっと話が飛んでいて、分からないのですが」


(いきなり投げろって言っても、こういう反応になるよ)


 それもそうだった。

 空から見た事を伝えると、太田も少し考えた後、投げる事に同意した。


「俺はあの連中を追う。お前は一旦下がって、アジトの方に集中した敵を倒してくれ」


 破られる事は無いと思うが、万が一の事を考えれば、太田を守備に回した方が良いと思った。

 暗闇の中、何が起きるか分からないのだから。

 弟も賛成していたので、俺の判断は間違ってないと思っている。


「向こうに逃げていったから、全力で向こうに頼む。おっと、その前に」


 地面から創造魔法で、薄い鉄の板を作り出す。

 取手が付いているので、持ちやすい。


「よろしいですか?」


「オゥ!アジトの守備は頼んだぞ!」


 太田は、再び頼んだという言葉に、しみじみと浸っている。


「早くしろ!」


「では、投げますよ」


「阿久野、行きまーす!」





 太田のソレッ!という掛け声と共に、僕等は投げ飛ばされた。

 物凄い勢いで飛んでいくが、やはり敵全部を飛び越えるというのは無理っぽい。

 だからこそ、俺はアレを作ったのだ!


「今こそ、俺が大空を羽ばたく時!」


(それがこの鉄板?)


「行くぞ!トゥ!」


 鉄板を横に広げて滑空を始める。

 うーん、少しは鳥みたいに飛べているのだろうか?


「思ったのと違う・・・」


(そりゃ鉄じゃあ無理があるよ。鳥人間コンテストとか見た事無いの?アレ、ほとんど木とか紙じゃん)


 言われてみれば確かに。

 敵のど真ん中じゃなければ、木材も手に入ったのに。

 仕方ない。

 次の作戦で行く。


(まだあるの?)


 任せろ。

 次は大丈夫。

 鳩とかスズメとかを見てたからな。


(そりゃ、誰だって見るよ・・・)


「翔べ俺よ!世界へはばたけ!あ〜いきゃ〜んふら〜い!!」


 俺は鉄板を、バタバタと羽ばたかせた。

 どうだ?

 これなら少しは距離が稼げるだろう。


(落ちてる速度の方が速いよ)


 クッ!

 いつかじゃない。

 今、本気を出すんだ。

 燃えろ、俺の上腕二頭筋!


「行け!この青空の向こう側へ!」


(真っ暗ですけど)


 さっきからうるさいなぁ。

 俺の気分なんだよ。

 俺が本気出したら、もう凄いからな。




 ・・・疲れた。

 こんなんバタバタやっても、無理ですわ。


(何を今更。でも少しは進んだっぽいよ。あと少しで敵が多い場所は抜けそうだし)


 なんだと!?

 燃えろ、俺のカロリー!

 流石に腹減って、力が出ないぞ!


「あっ!」


 気を抜いたせいか、やらかしてしまった。

 左手で持っていた鉄板、汗で滑って落としてしまった。


 ・・・誰かに当たった音がする。

 土煙で落ちた周辺は何も見えないが、騒いでいるのは聞こえる。

 どうやら、敵の投擲と勘違いしたらしい。


「結果オーライ!」


(まあ、混乱を招いたのは結果的に良かったかもしれない・・・。でも、もう落ちるだけだよ?)


 いや、最後の手段だ。

 鉄板に乗って、サーフィンするしかない。

 波に乗るぜぇ!


(波は空には無いよ)


 じゃあ風に乗るぜぇ!

 ん?

 これが一番進んでる気がする。


(僕が少しだけ鉄板の形変えたから)


 なるほど。

 風の抵抗がさっきより少ないのかな?

 だけど、やっぱり敵を全員越えるのは無理だったようだ。





「うわあぁぁ!!!」


 俺の鉄板を頭に直撃した奴は、そのまま首だけ吹き飛んでいった。

 残った身体から、物凄い勢いで血が噴き出している。

 周りに居た連中は、それを見て悲鳴を上げた。

 いきなり吹き飛んだ首に、混乱と恐怖が周囲を覆い尽くす。


(そのまましゃがんでコッソリ行けば、抜けられると思うんだけど)


 だな。

 泣いてる奴とか居たけど、何しに来たか分かってないのか?

 一方的に攻撃するだけなんて、ありえないだろ。


(事前にアジトには人が少ないとか、情報でも出回ってたんじゃない?反撃されるなんて、これっぽっちも思ってなかったんだよ)


 王国の軍人って、ホントおかしいよな。

 マトモに戦えば、少しは違うだろうに。


 おっ?

 そんな事言ってる間に、とうとう敵陣から抜けそうだ。

 ここからは全力ダッシュで、木の裏にでも隠れよう。





 混乱していて助かった。

 やはり俺の作戦は成功だったようだ。


(それはたまたまでしょ。自分でもさっき、結果オーライって言ってたし)


 そんな事言ったっけ?

 というよりも、さっきの連中を早く追う事が先決だ。

 走っても追いつくけど、流石に疲れた。


(トライクで追う事にしよう。作るのは僕がやるから、運転は任せた)


 俺が運転するの!?


(疲れているところ悪いけど、気配察知は僕より兄さんの方が数倍凄いからね。運転中に襲われそうになっても、僕じゃ対応出来ないよ)


 それもそうか。

 でもなぁ、マジで疲れたんだけど。

 どうしても無理?


(油断してると、僕等だって死ぬかもしれないからね?)


 死ぬのは嫌だな・・・。

 走るよりマシだと思えば、全然良いか。





 やはり電動で良かった。

 馬の走る音の方が大きいから、近付いても全然バレない。

 身体強化のおかげで幸いな事に、暗闇でも奴等の後ろくらいは走っていられる。


(ん?)


 どうした?


(気のせいかな?あの装備、維持派の鎧。いや、帝国の鎧と違う気がするんだけど。暗くて僕じゃ、ハッキリ分からないんだよね)


 俺も運転しながら、この距離は難しい。

 一旦止まってくれでもしたら、確認くらいは出来るんだけど。

 って言ってたら、止まった。



「キルシェ様!」


 キルシェ様?





「キルシェ様、よくぞご無事で」


「アジトから、こんな所まで迎えに来てくれたのですか?わざわざすいません」


 白い鎧に、青いマント。

 非力な女性でも持てるようになのか、少し短めの剣を腰に差していた。

 かなり目立つ格好だが、この夜の暗闇の中では、明かりがないと分からない。


「城に維持派の連中が、大挙して押し寄せてきたというのは本当のようですね」


「維持派だけではありません。帝国兵が一緒に襲ってきたのです。多勢に無勢。我々の戦力では敵わないのは明白でした。無駄な血を流さない為にも、すぐに城を捨てて出てきたのが幸いでしたね」


「すぐに出たと?ターネン様はどちらに?」


「兄上とは別々の方へと逃げ出しました。あちらはあちらで、精鋭を率いています。すぐに捕まる事はないかと」


 キルシェは信頼出来る男に、全てを話した。

 だが一つだけ、一番重要な事を話していない。


「それと、国王の件なのですが・・・」


「誰かに暗殺されたようですね。私が第一容疑者のようですが」


「その言い方ですと、キルシェ様ではないと?」


「当たり前です!そもそも私は、城で今後の事をまとめるのに精一杯でした。いつ来るかも分からない父や兄達の事など、気にする時間はありません!」


「ほぅ、そうでしたか」


 男は何かを考えるように、空を見た。

 キルシェは城からの逃亡で疲れ果てていた。

 彼の仕草など、全く気にしていない。

 そして彼が軽く手を前に出すと、全く予想だにしない事が起こり始める。


「ギャア!」


「うわぁぁ!!」


「な、何をする!?」


 味方だと思っていた男の指示で、自分を守ってくれていた兵士達が斬り殺されていく。


「ブーフ!何をしているのか分かっているの!?」


「分かっているとも、王女様」


 キルシェはブーフを、船を建造する秘密のアジトを預けるほど信頼していた。

 安土にも同行したくらい、自分が水面下で集めた古参の部下だったのだ。

 そんな彼が、厳しい目つきで彼女を睨みつける。


「キルシェ王女。アナタには私の出世の為に、役に立ってもらう。すぐには殺しはしないから、安心したまえ」


「私をどうする気です!」


「アナタには、国王暗殺の主謀者になって頂きましょうか。誰が真犯人かなんて、どうでも良いんですよ。アナタが殺したと言いふらせば、国民はそう思うでしょうから」


 国王と敵対している王女ならば、誰も疑わない。

 弁論する余地すら与えられないだろう。


「離しなさい!」


「そうですね。離しても良いですよ。その鎧、服。全てを脱いで、土下座でもすればね」


「この外道が!」


「ま、そう言うと思いましたが。それでは、スツールの下へと送り届けるとしますか」


 縄で縛り上げたキルシェを、強引に引きずっていく。

 そこに暗闇から、何かが現れた。


「ドーンだYO!!」





 まさか、ブーフが裏切り者だったとはね。

 鎧が帝国製の物と違うってお前が気付かなければ、俺は顔まで確認しなかったかもしれないな。


(いや、ホントまさかだった。てっきり援軍を呼びに行く部隊だと思ったのに、全く違ったからね。これこそまさしく結果オーライ)


 だけど、どのタイミングで出るかが問題だ。

 俺一人しかこの場には居ない。

 この場には五十人くらい居るけど、倒す事は不可能じゃないと思う。

 ただし全員を倒しきる前に、キルシェは連れ去られるだろうな。


(連行される直前まで、待ってみよう。多分、連行すると決めたタイミングが、一番油断してそうだから)


 分かった。

 そのタイミングでトライクで突っ込むわ。



「ドーンだYO!!」


 俺は縄を持っていた男にぶつかった。

 男を吹き飛ばすと、落ちた縄を拾おうとした。


「やらせるな!」


「クソッ!」


 三人がかりで前に立ち塞がり、俺のトライクを力任せに止めた。

 縄を拾うどころか、三人の剣が俺に向かってくる。


「今だ!急いで連れて行け!」


「阿久野!」


「おっさん!」


 俺は思わず、キルシェではなくおっさんと呼んでしまった。

 兵達が誰の事?という顔をしていたが、すぐにキルシェを馬へ乗せ走り去る。


「ダアァァァ!!逃げられた!」


「魔王だからと、いつもやられると思うなよ!」


「お前等、調子乗ってると全員ぶっ飛ばすからな」


 トライクから降りた俺は、目の前の三人のうち、一人を殴り飛ばした。

 剣を拾い、他の二人に斬りかかる。

 慣れない剣で袈裟斬りにしようとすると、簡単に折れてしまった。


「へ?」


「馬鹿め!武器は奪われる事を考慮して、雑鉄で作ってあるのよ!」


 その考え、おかしいだろ!

 だけど、今は間違っていない。

 頭良いのか悪いのか。

 王国の連中って、よく分かんねーな。


「魔王は無手だが、気を付けろ!武器を作り出せるからな。距離を取って、ジワジワと嬲り殺せ!」


 雑鉄製と言われている剣や槍が、俺目掛けて投げられる。

 弟が作ったミスリルの鎧のおかげで、ダメージは全く無いのだが。

 時間稼ぎという点では、素晴らしい効果を発揮している。


 マズイな。

 早く追わないと、どんどんキルシェと離される。

 俺はかなり焦っていた。

 頭の中で弟も焦っているのが分かる。

 そんな焦りが、思考を鈍らせる。


 しかし、ブーフ達は更に焦る事となった。

 キルシェを乗せた馬が、何故か戻ってきたのだ。

 青ざめた顔をした兵達に、ブーフは怒鳴りつける。


「馬鹿者!何故戻ってきた!」





「ブ、ブギーマンがやって来ました。囲まれています・・・」

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