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アジト攻防

 こちらの兵士は三十人に対して、相手は千人。

 絶望的な人数差だった。

 その差を埋めるべく考えたのは、作業員と事務員を戦場に駆り出す事。

 彼等は早々に諦めて、降伏をしないのかと言った。

 男性よりも女性の方が、肝が座っている。


 自分達に出来る事は?

 彼女達の中で弓矢や銃の取り扱いが出来る者を募り、武器を創造魔法で作って渡した。

 しかし相手の装備はミスリル。

 同じくミスリルを求めていると、太田は船を指差した。

 バラして使いましょう。


 これでも装備が追いついただけで、戦力差が埋まったわけではなかった。

 悩んでいると、兄は太田と僕等が主に戦えば良いと言う。

 彼等にはアジトを守る事に専念してもらい、二人で戦力を大幅に削っていく。

 故に、武器よりも盾や鎧を重点的に作った。


 彼等にはアジトを守ってもらう。

 そして僕等が外で戦う。

 だが、今になって問題が発生した。

 守る事ばかりを考えていて、外に出る方法を考えていなかったのだ。

 太田と僕は、どうやって外に出るべきなのか。

 これもまた、兄が解決策があると自信満々に言うので任せるす事にした。

 すると兄は、徐に太田の足を掴んで、全力で外へと放り投げたのだった。





(オイィィィ!!何も言わずに投げるとか、酷過ぎるだろ!)


 大丈夫だ。

 ほら、なんかカッコ良い感じで落ちてるし。


(落ちてるって言うな!もう!何しでかすか分からないから、交代!)





「あの、あの方は大丈夫なんてすか?」


 作業員の一人が、太田の安否を気にしてくれていた。

 勿論大丈夫!

 と言いたいが、全く分からない。

 身体強化があるから、多分大丈夫だとは思うけど。


「あっ、でも凄いですよ」


 彼が見ていた方を向くと、太田がバルデッシュを構え、縦回転で敵陣の中に飛び込んでいった。

 血飛沫が舞っている事から、かなりの人数を仕留めたと思われる。

 ただ、その後が酷かった。


 太田は地面に叩きつけられて、バウンドしながら更に奥へと転がっていく。

 バルデッシュで巻き込んでいる為にかなり倒してはいるが、その回転が止まると、太田の姿は埋もれて見えなくなってしまったのだ。


「あら?コレ、ヤバいんじゃない?」


 立てば二メートルはある太田だ。

 頭一つが二つは抜き出るのに、それが見当たらない。

 という事は、立てない程のダメージを負った?


「兄さん!」





 俺は外壁の上から、大きな剣に乗って落下していった。

 斬馬刀のようなサイズで、敵を巻き込めるかなと弟が作った物だ。

 太田の居る手前辺りに向かって投げた後、それに向かって飛び乗った。

 百秒しか戦えないわけじゃないが、ちょっと変身したくなった。

 魔力温存の為に、止められているけど・・・。


(王国兵くらいなら、変身しなくても勝てるはずだから。無駄な魔力は使わないようにね)


 そんな何度も言わなくても分かってるよ。

 そろそろ地面に突き刺さるぞ。


「到着!」


 地面を大きくえぐり、大量の土が跳ね上がる。


「ペッ!ペッ!口の中に土が・・・」


「はい、ドーン!」


 大きな剣を横に振り回し、土を被った敵を薙ぎ倒していく。

 目に入った奴なんかは、何も分からずに身体が真っ二つになったりしていた。

 太田が落ちた辺りに向かって、振り回しながら歩いていくと、敵が大勢剣を振り上げている場所を発見。

 これはマズイ。


「太田ぁ!」


 戦場に大きく響く名前。

 俺の周りだけでなく、太田に剣を振り上げていた奴もこっちを見る。

 しかし、その一瞬が命取り。


「ハイィィ!!ワタクシ、起きてます!!」


 すぐさま直立不動で立ち上がる太田。

 太田に剣を振り上げていた連中は、急に立ち上がった太田に驚き、剣をそのまま下ろす者とその場を離れる者。

 両者に分かれた。


「ハッハッハ!魔王様に頂いたこの鎧。そのような剣では傷付きませんぞ!」


 いや、流石に傷は付くだろ。

 太田は前腕で剣を受けると、反対の手で斬り掛かってきた連中を張り倒した。

 落としたバルデッシュを拾い、すぐにトドメを刺す。


「ワタクシの前腕伸筋群が、その心地良い衝撃に喜んでおりますぞ」


「斬られて喜ぶだって!?こ、この変態!!」


 維持派の連中に変態呼ばわりの太田。

 だが心配するな。

 俺もそう思う。


「太田!そのまま敵の指揮官を探せ。俺もお前と一緒に行くけど、遠くまでは見渡せないから。お前が頼りだぞ」


「な、なんですと!?ワタクシが頼りワタクシが頼りワタクシが頼り」


 太田は喜びのあまり、一人ブツブツと呟きながらバルデッシュを振るっている。

 何処を目指しているのか。

 悦に入った状態で、フラフラと真っ直ぐには進んでいない。


(今の言葉、失敗したんじゃない?)


 大丈夫だろ。

 今は疲れも感じずに、敵を減らしてくれているし。

 これはこれで良いんじゃないか?

 それよりも問題は、アジトをしっかり守れているかなんだが。

 どうなっているのか、暗くて分からんな。





 陽が暮れてから戦闘が始まった為、アジトでは松明や篝火が用意されていた。

 二人が外へ出てからしばらくすると、そこはもう夜の世界に変わっていた。


「だだだ大丈夫!魔王様達が頑張って敵を減らしているんだ。おおお俺達にだって、出来るはず!」


 しかし、やはり戦闘未経験の差は大きかった。

 下の警戒もせずに、そんな事を言っていると、敵が上がってきていたのだ。


「エイ!エイ!」


 そこに銃を撃った経験がある女性が、三発ほど放つと、敵兵は下へ落ちていく。


「この馬鹿!アンタ、口だけで全然見てないじゃない!ちゃんとやりなさいよ!」


「す、すまない・・・。次はちゃんとやる」


 怒られた彼は、すぐに同僚と細長い鉄塊を持ち上げた。

 ネズミ返しになっている場所へ置くと、彼は紙を取り出した。


「えーと、覗き穴から下を見る。そして敵が来たら、ボタンを押す。なるほど」


 彼は覗き穴から下を見たが、暗くて何も見えなかった。


「なあ、この場合はどうすれば良いんだ?」


「それくらい自分で考えなさいよ。私達は矢を放つのに忙しいんだから」


 事務員の女性に無碍に扱われた彼は、仕方なく同僚と一緒に再び覗き穴から下を確認した。

 すると、暗闇の中から男の顔が急に近くに現れる。


「ギ、ギャアァァァ!!!オバケオバケオバケ!!!」


 ボタンを連打する彼の顔は青い。

 ボタンを押した事で細長い鉄塊の下が開き、そのまま鉄塊は落下していく。


「あ・・・」


 おそらく、覗き穴から見えた男だろう。

 戦闘音に紛れて聞こえる、ボキッ!という派手な音。

 その後には、男達の悲鳴が遠ざかっていくのが聞こえた。


「オゥ・・・。この装置、凄いな」


 覗き穴を見ると、首が変な方向に曲がった男が、下から登ってくる連中を巻き込んで落ちていくのが確認出来た。


「なるほど。それで各場所に落下ボタンがあるのか。魔王様って、凄い事考えるよな」


 自分達の守っている場所の危機が去ったからか、途端に饒舌になる作業員。

 そして事務員の女性も、少し落ち着いた様子でそれに答える。


「そうね。銃や弓もその鉄塊の合間で、守りが薄い場所に指定されてた。初めて魔王様を見た時、キルシェ様が私達ではなく何故あんな子供を頼ったのかと憤慨したけど、今ではキルシェ様の先見の明に敬服しているわ」


「強いのに頭も良いとか、魔族の王様は反則だよな」


「そうね。そして、そんな人と敵対しない道を選んだキルシェ様は、やっぱり凄い!私達もあの方々に負けないように、頑張りましょう!」


 自らを鼓舞した外壁の上の連中は、再び攻撃を開始した。

 しかし一部の場所からは、鉄塊が落ちる前に、何故か必ず驚いたような叫び声が響いたのだった。





「報告します。敵アジト、未だに落とせず。門を壊す事も外壁を登る事もままならず。今は兵力が落ちる一方です」


「報告します。大きな魔族の攻撃で、前線の三割が損耗。もう一人の小さい方も、大剣を振るって後ろを付いて歩いています。どうやら本陣である、この場所を探している模様です」


 立て続けに来た報告に、長身痩躯の男が椅子を蹴り飛ばす。

 怒りを露わにして、顔は真っ赤になっていた。

 彼の名はスツール。

 この維持派の部隊の最高司令官だ。


「話と違うではないか!」


 彼は、とある男を怒鳴りつけた。


「いや、そんなはずは・・・」


「言い訳は良い!貴様の処遇は、私の一存で決まる事を忘れるな。今のままでは、貴公はただの役立たずだ。どうすれば良いか、自分で考えたまえ」


「スツール殿!」


 スツールは、作戦本部のあるテントから出ていく。

 その後ろ姿を見送るだけの男。


「おのれ、魔王!どのようにして戦力を揃えたか分からんが、絶対に許さんぞ!」


 男は続いてテントから出て行き、自らが率いてきた兵達と合流した。



「魔王の動きを止める手立ては何かないか?」


 自らの立場が危うい事を確認した男は、部下達にも良い案がないか聞く事にした。

 失敗は許されない。

 ならば、自分の考えだけに固執するべきではないと判断したからだ。


「やはり、キルシェ様を探した方が良いのでは?」


「今頃になって、小娘と合流するというのか!?」


「違います。捕らえて、その身を彼等に見せつけるのです。抵抗すれば、命は無いとね」


 その案を聞いた彼は、目を細めて言った。


「なるほどな。魔王の動きを止めるには、人質を用意すれば良いという事か」


「左様でございます」


「しかし、奴が何処に居るのか分からんぞ」


「城から逃げ出したのです。ここまでの道のりで、人目に付かない場所を探していけば」


 地図を広げた部下の指を目で追うと、ある一点が示される。


「森の中でも通過に時間が掛かる、この辺りを張ればよろしいのではと、具申します」


「あの橋か。確かに川の流れを考えると、あの橋を渡らないと大勢では通行は不可能。よし!騎馬の準備だ。すぐに向かう」


 彼の一言で、部下達はすぐに馬の準備に走った。

 残った男は、地図を見ながら含み笑いをしている。


「王女さえ捕らえてしまえば、スツールの馬鹿とは立場は逆転よ。せいぜいそれまでは、森の中で威張っているが良い」





「腹減ったなぁ」


「そうですねぇ」


 流れ作業のように敵を蹴散らす二人。

 二人が通った跡は、相手からすると地獄絵図だ。

 当たると骨が折れる程の衝撃か、ミスリルで覆われていない箇所に当たれば、無惨に斬られて真っ二つになる。

 たった二人という事から兵達も強気に攻めるが、その戦力差は大き過ぎた。


「何か食べる物、無いかな?」


「こんな戦場のど真ん中では、食べる余裕はありませんよ」


「だよなぁ。出る前に、何か口にしておくんだった・・・」


 とは言っても、ご飯を食べなかったのは弟だ。

 アイツに文句言ってもいいが、今それをやるともっと腹が減りそうな気がする。


「太田、周りはどんな感じ?」


「そうですねぇ。我々に近付く敵は減ってます。敵が大勢向かう方角があるのですが、もしかしてアジトの方ですかね?」


「暗くて何も見えないしな。あ、お前のバルデッシュ。今、魔法何が入ってるの?」


「そうですよ!今は光魔法です。丁度良いから、使ってみましょうか?」


「じゃあ、バルデッシュを空に向かって投げちゃえ。空から照らした方が、よく見えるだろ。ついでに俺も、バルデッシュ掴んで、空から見回すから」


「それは良いですね!分かりました」


 俺と太田は周りの連中を蹴散らしてから、バルデッシュを投げる体勢に入った。


「行きます!太田、シャイニング!」


 空へと高々と上がるバルデッシュ。

 柄を掴みながら共に空へと上がっていくと、バルデッシュが放つ光のおかげで遠くまで見渡せた。


「やっぱりアジト狙いに切り替えたっぽいな」


(兄さん!前じゃなくてもう一回下を見て!)


 どうした?

 何か見えたか?


(アレ、彼処だけが別行動をしようとしてない?馬に乗って、戦場を離れていく)


 何しに行くんだろうな。

 アジトの裏とか狙っているわけじゃないみたいだし。

 関係無いかな?


(いや、普通ならこの戦力差でおかしな行動はしないでしょ。倒せそうもないから、援軍を呼びに行った可能性とかもあるよ)


 何!?

 それは面倒だな。

 だったら、今のうちに追い掛けて倒した方が良いかもしれない。


(僕もなんとなくだけど、そんな気がする)


 意見も一致したし、そうしよう。

 地面へと落下も始まった。

 仕方ない。

 今度は太田にやってもらうか。


「それ、本気ですか!?」




「そうだ。今度はお前が、俺を全力で投げろ」

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