表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/1299

作業員と事務員

 どちらにしても内乱が終わらない限り、危険が付き纏うのだ。

 それなら一度、志摩に戻った方が良い。

 キルシェが勝てば、魔族による王国の出入りもはるかに楽になるだろう。

 嘉隆はそれに納得して、作戦を受け入れる事を承諾してくれた。

 帰るまでは、嘉隆へ頭領としての心構え等を教えるらしい。

 帰ったらエロジジイを演じてもらうわけだから、今しか出来ないとの事だった。


 ブーフは王都から、維持派に攻められているとの情報が入ったと言った。

 城を追われたキルシェを迎えに行くので、アジトを僕等に守ってほしいと言う。

 維持派の連中には、帝国が加担しているらしい。

 ならばこちらは、魔族の手を借りようという話だった。


 ブーフが出ようとすると、国王暗殺の報が入った。

 どうやらキルシェは国王殺しの犯人として、追われているらしい。

 誰が犯人かは分からないが、維持派にも改革派にも怪しい人物が多かった。


 嘉隆達を見送り、ブーフ達も騎馬隊を率いてキルシェを迎えに行った。

 残ったのは船の作業員と事務員が主で、兵士と呼べる連中はほぼ皆無だった。

 このタイミングで襲撃されたら危ないな。

 そんな事を考えた時、維持派の部隊がここに向かっていると連絡が入った。





「魔王様、どうしましょう?この前みたいにわざと捕まりますか?」


「今回は流石に、捕まっても殺そうとするだろうな。目的は改革派の壊滅と、この船の強奪もしくは破壊だろうし。僕等は必要無いからね」


 太田の疑問に答えたが、正直なところ手詰まり感が半端ない。

 細かい情報を得る為、連絡をくれた兵に話を聞いてみた。


「部隊の規模と到着までの時間は?」


「規模は約千人。騎馬隊が中心で、歩兵はほとんど見当たりませんでした。今から三時間もあれば、到着すると思われます」


 昼も過ぎたこの時間。

 三時間後だと、陽も傾く時間か。

 騎馬隊なら夜間に攻撃は無いと思われるし、少しは迎撃までの時間が稼げるかも。


「僕と太田以外に戦える兵士は?」


「偵察に出ている者を除けば、三十人ほどです。あとは作業員と事務員になります」


「そ、それだけですか!?」


「ブーフ様がほとんど連れて行かれたので、最低限の人数しか残っていないのです・・・」


「ま、魔王様!三十人で千人を相手にするなど、無謀ですぞ」


 太田は慌てふためいているが、その図体だとウザい。

 お前が慌てると、他の連中はもっと不安になるだろうし。

 だけど、これは僕等だけじゃ無理だ。


「このアジトにいる連中を、全員集めてくれ」





 早急に外壁を魔法で補強していると、全員が集まったと知らせが入る。

 太田も岩を運び門の前に置くと、急ぎ集合場所へ駆けてきた。

 そこには、水着から服に着替えた作業員と事務員が集まっていた。

 作業員と事務員合わせて、百人くらいだろうか?

 それでも戦力比は十倍。

 効率良くやっていかないと、すぐに瓦解しそうだ。



「諸君!我々の状況は分かっていると思う」


「降伏ですか?」


 一人の作業員が早々に諦めムードに入っていた。

 さっさと降伏すれば、作業員である自分は助かるとでも思っているのかもしれない。


「降伏はしない。むしろ迎え撃つ!まず、作業員の皆にも、戦ってもらう事になる」


「冗談じゃない!」


 冗談で戦えとは言わないんだけど。

 というより、かなり楽観的な連中だな。

 何故降伏したら、自分達が助かるとでも思えるのだろうか。

 弱気な発言が、周囲に大きく伝播していく。

 僕は兄のように、まとめる事は出来ない。

 自分のやり方でやろう。


「ちょっともう面倒だから、口調変えるね。あのさ、何で戦わないで無事でいられると思うの?降伏しても、殺される可能性だってあるんだよ。だってキミ達改革派は、維持派からしたらその考えが危険だからね。不要だと思われても仕方ないと思うんだけど」


「そうですね。ワタクシもそう思います。もしワタクシ達二人を差し出しても、多分許されないでしょうね」


 今になって自分達の身の危険を感じたのか、顔が青くなる連中が増えた。

 むしろ事務員の女性達の方が、肝が座っている。


「私達は何をすれば良いのですか?」





「事務員の人達で、弓とか銃が使える人は?」


 数人が名乗り出たが、何か疑問に思う事があるらしい。


「扱う事は出来ますが、肝心の武器が無いですよ?」


「それは、これの事かね?」


 手元にある鉄と土、そして木材等を使い、創造魔法で弓矢と銃を作り出した。


「な、ななな、何ですか!これは!?」


「何って、魔法だけど」


「今のは魔王様にしか使う事が出来ない、創造魔法というものです!」


 太田が腰に手を当てて、胸を張って説明した。

 最近は魔法で驚かれなかったけど、やっぱりヒト族に見せるとこういう反応になるのね。


「資材さえあれば、いくらでも作れるよ」


「しかし相手はミスリル装備です。これでは・・・」


「そうなの?」


「はい・・・」


 連絡をくれた偵察兵が教えてくれた。

 その言葉に、再び士気は落ちていく。

 うーん、ミスリルならミスリルで対抗したいけど、そこまで資材も無いし。


「あるじゃないですか。大量のミスリル」


 太田が軽く言ってきた。

 僕は資材置き場を見たが、そんな物はほとんど残っていない。


「冗談言うなよ」


「冗談じゃありませんよ。ほら」


 彼の示す方向を見ると、皆が絶句した。





「船じゃないか!」


「そうですけど」


 作業員の一人が叫ぶと、太田は軽々しく言った。


「資材が無いなら、解体して使いましょう。壊したら、また作れば良いじゃないですか」


 作業員は渋っているが、事務員は賛成だった。

 仮止めされてた部分を、勝手に剥がし始める始末だ。


「お、おい!」


「死ぬか生きるかの瀬戸際よ!船より命でしょう!」


 怒鳴られる作業員。

 だが、それがキッカケとなった。

 作業員達が、無言でミスリルを剥がし始めたのだ。


「これで資材は出来たわけだ。あとは、どうやって倒すかだな」





 およそ百人弱。

 戦闘はほぼ未経験の連中を率いて、十倍の数を相手に勝つ方法ねぇ。

 太田が飛車なら、残りは歩かな。

 相手は金銀だらけって考えても、どうやって勝てば良いか分からない。

 普通の戦い方じゃ無理だな。


「ミスリルと鉄の準備、終わりました」


 考え込んでいると、作業員が船から剥がした資材をまとめたと報告が来た。

 彼等は戦闘に向いてないし、外壁の上から叩き落とすくらいしか出来ないだろうなぁ。


「あのぅ?」


「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事してた」


 集まった資材の場所まで考えながら歩く。

 うーん。


【あのさ、マトモにやって勝てないなら、マトモにやらなければ良いんじゃない?】


 ん?

 どういう事?


【ぶっちゃけここの人達には、ほとんど戦わなくて良い感じにして、太田と俺達だけで倒せば良い。作業員達にはアジトに入られないように落としてもらうだけで、アジトの外で俺達が戦えば、数は減るだろう?】


 魔力が尽きたら、終わりだけどね。


【最悪の場合、ツムジを呼び出してアジトに戻れば良いんじゃない?】


 太田はどうするの?

 あのガタイじゃ、ツムジには無理だよ。


【魂の欠片があるじゃん。俺達とほとんど同じ背格好なら、ツムジも余裕でしょ】


 なるほど。

 それなら頑張れるかな?


【さっき将棋に例えてたけど、駒さえ取られなきゃ良いんだよ。駒をクッソ重い金属にすれば、王手を掛けられようが駒を取れないんだから】


 凄く脳筋な発言をありがとう。

 でも、ある意味それがアンパイかもしれない。

 ツムジは最終手段だけどね。


「決めた!武器というより、守る為の盾を作ろう」





「ワタクシがこれを着るんですか?」


「そうだ。慣れないとは思うけど、傷を負わないのが第一だからな」


 太田には全身を覆う鎧を用意した。

 フルプレートメイルというヤツである。

 普通、ミノタウロスは鎧なんか着てないと思うけど、頭まで角すらも守る、完璧なタイプの鎧を用意した。


「後で詳しく説明するけど、お前は一人でアジトの外で暴れる役目だから。頑張って沢山倒してくれよ」


「なんという大役!ワタクシ、武者震いがしてきました!」


 何故、一人で戦うのが大役だと思うのか。

 普通なら捨て駒と勘違いされてもおかしくないのに。

 しかしある意味で勘違いしているのだから、これはこれでアリだ。



「皆も鎧は着たかな?」


「武器よりも鎧にミスリルを多く使ってますが、よろしいのですか?」


「良いの良いの!キミ達は、このアジトを守るのが役目だから。少しでも怪我をすると、それだけで戦力大幅ダウンだ。だからこそ、全身守れるタイプの鎧だ」


 少し疑問にも思っているようだが、全身を守れるという言葉が彼等には大きかった。

 安心したのだろう。

 少し声に元気が出てきた。


「武器は弓矢と銃以外に、槍と大金槌を用意した。金槌は重いので、自信がある作業員だけが使用してくれ。他の連中はコレだ」


 目の前に置かれた物。

 それは横に細長い鉄の塊だった。

 ハッキリ言って、ただの鉄塊だ。


「これが武器?」


「これを壁の上から落とすだけ。それだけで登ってきた者達は落ちる。運が悪ければ首の骨でも折れるだろ。良くても下に落下して骨折だな。それだけで戦闘には参加出来なくなる。これもたんまり用意したから、じゃんじゃん落としちゃってくれ」


「こ、これなら俺達にも出来る!」


 作業員達は袖を巻くってやる気になった。

 運搬作業は彼等も得意だし、上手くやってくれるはず。


「弓矢と銃も、適当に放って良い。どうせ下は敵だらけだ。誰に当たっても敵なんだから、気にするな」


「それなら、未経験者でも銃を使わせても?」


「勿論良い」


 事務員の女性達も、自分達がすべき事が出来て士気が上がった。

 ペンから剣ではなく、銃に持ち替えるのはどうかと思ったが、やる気になっているのだから問題無し!


「それで、魔王様は?」


「僕?太田と一緒にアジトの外で戦うよ?」


「えっ!?それは危険過ぎるのでは?」


「そりゃ危険だけどさぁ。戦闘員じゃない人達が頑張るのに、戦えるはずの人が後ろで構えてるのって、僕はあんまり好きじゃないんだよねぇ。元々ここは、キミ等のアジトだ。僕は後からたまたま来た、傭兵くらいに考えてくれれば良いよ。だからアジトは任せた!」


 思った事を言っただけなのだが、それが功を奏したらしい。

 彼等は自分達の家を守る為に戦うと、奮起してくれた。


「魔王様がここまで言うんだ。俺達が頑張らないでどうする!」


「自分達の家を守りましょう!」


 やる気になってくれて嬉しいよ。



 僕の中では、王国兵は結構扱いづらい。

 元々はスイフト達小人族を襲っている連中が、印象に強いのだが。

 強い者には逆らわず、弱い者にはトコトン強気ってイメージなのだ。

 すぐに降伏発言が出たように、負けそうだと途端にやる気を失くす。

 同じ気質を持っているだろうと思われた彼等をやる気にさせるのは、大変だと思ったのだが。

 キルシェが旗頭の連中は、まだマシだったみたいだ。


「まもなく、アジトから確認出来る距離になります!」





 オウオウ!

 わんさか居るじゃあないか。

 あの鎧は帝国兵が着ている物と同じだね。

 これだけで、後ろから帝国が支援しているのが丸分かりだ。


「外壁の上は、ネズミ返しみたいな作りにしておいた。屋根も作って、弓矢対策もバッチリ。小窓から敵がある程度登ってきたのを確認して鉄塊を落とせば、多人数巻き込めるよ」


「了解しました!」


 各壁を回り、作った装置の使い方を教えた僕は、再び一番敵が多く集まる壁に戻った。

 そこには太田が、今か今かと待っていた。


「ところでワタクシ、どうやって外へ出るのですか?」


 しまった!

 それは考えてなかった!

 外から入られないようにと、そればかり考えていて、外へ出る方法なんか全く頭の中に無かったわ。


【それに関しては任せろ】


 おぉ!

 何か良い考えでも?


【とりあえず代われ。すぐに落とす】


 落とす?



「太田ぁ!準備は良いか!?」


「ん?アレ?キャプテン?」


 俺は太田の足を掴んで、身体強化で目一杯空に向かって投げた。





「飛んでけ!太田ミサイル!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ