洗濯、そして命の洗濯
名探偵作戦、それは子供のフリをして大人に優しくしてもらう事。
反対意見もあったが、太田を連れて行くというよりハクトを置いていく事に安全性を見出して、兄は太田を連れて行く事にした。
二人で行動をしていると、太田が二人とも武器を持っていない事を指摘してきた。
本当は僕が作るはずだったが、兄が物干し竿という長い棒を作り出した。
しかし集中し過ぎたのか、周囲を王国兵士に囲まれている事に気付く。
彼等は物干し竿を目印に、森の中を捜索していたようだった。
捜索の結果、僕達が乗ってきた船の残骸が発見された。
一度蘭丸達と合流しようとすると、太田のクシャミというとんでもないミスで見つかってしまう。
僕達が何故こんな所に居るのか。
それを確認する為に、隊長と呼ばれる人が話し掛けてきた。
会話の中で兄は少し違和感を覚えたが、気付いた時には既に遅かった。
兄と太田は、王国で奴隷として売り飛ばす為に、捕まえられたようだった。
おい!
俺は大した事ないだと!?
この野郎、ふざけやがって。
(ちょっと!こんな所で戦闘になったら、蘭丸達も出てきちゃうぞ。多勢に無勢だ。嘉隆とか捕まったら、反抗出来なくなる)
うぅ、そう言われると確かに。
まあ捕まっても、太田と俺ならいつでも逃げられるだろうしな。
「太田、手は出すなよ」
周りに聞こえないように、小さな声で太田に指示を出す。
太田もすぐに指でマルを作ってくれた。
「あの、ワタクシ達はこれからどうなるんです?」
太田はこの先の扱いに興味があるようだ。
あまり緊張感が無い感じなのが微妙だが、バレなきゃどっちでもいい。
俺達を連行している兵士の一人が、わざわざ丁寧に答えてくれた。
「そうだなぁ。お前は多分、高く売れるだろうさ。女だったらラッキー。男なら・・・。ボロ雑巾にのようになるか、寵愛されるかだろうな」
「男性に寵愛されるのですか?」
「そうだ。魔族にも居ないのか?そういう変わった趣味の男」
うーん、そういえばあんまり居ないな。
ベティがそれに当てはまると言いたいが、アイツは別に男性好きって感じじゃないし。
どちらかと言えば、ああいう格好や仕草、言動が好きなだけで、ちゃんと異性が好みって気がする。
「ミノタウロスにはそんな人、居ないと思いますよ」
「ふーん、それにしてもお前。全然怖がらないのな」
ヤバっ!
もう少し怖がったりした方が良さそうだ。
「うえーん、怖いよおぉぉ!」
「あ、お前は大丈夫。多分ただの奴隷だから」
奴隷になる事の何が大丈夫なんだ!
コイツ、ムカつくわぁ。
しかも太田も、ポカーンとした顔で見てやがる。
俺のアカデミー賞級の演技を見て、驚くのは分かる。
だが、お前も乗ってこいっての!
「あっ!う、うえぇん?この先、ドウナッチャウンダア」
大根!
大根役者も良いところだ。
こんなんで騙せるわけが・・・。
「落ち着けよ。お前は首都まで、大事に連行されるからな」
騙せるのかよ!
つーか、お前はってどういう事?
「ちょっ!俺は?」
「お前は今日から雑用だな。逃げ出そうとしたら、即刻斬り殺されるから。気を付けろよ」
俺が奴隷・・・。
太田は大事に連行されるのに。
ムキー!
「ちょっと待って下さい!ワタクシと同じ待遇ではないのですか?」
おぉ!
太田よ、そのまま俺を雑用から救い出せ。
「そりゃあお前、当たり前だろう。お前が最高級品質の牛肉だとしたら、コイツはその辺の魔物の肉だぞ。分けて扱うのが普通だろ」
「くっ!俺はその辺の魔物の肉」
コイツ、後で絶対にシメる。
「駄目ですか?」
「駄目だな」
俺は仕方なく、諦めた。
「おい雑用!早く洗濯しろ!」
「ウェイ!先輩!」
あれから一週間。
俺は今、兵士達の服を洗わされている。
洗濯をしていて分かったのだが、俺が思っていたよりも兵士の数は多かったらしい。
おそらく百人以上は居るだろう。
何故分かるか。
それは俺以外に、もう二人ほど雑用を任されている兵士が居るのだが、俺が洗っている洗濯の量だけで五十人以上はあるからだ。
他の二人が俺の半分だとしても、やはり百人は居る計算になる。
「お前の洗った洗濯物、かなり評判良いぞ。他の二人よりも、汚れが落ちてるって。雑用として、少しは高値になるかもって噂だ」
「マジっすか!?あざっす!」
これは俺の特技でもある。
高校時代、ユニフォームを洗うのは下級生の仕事だった。
俺はその中でも、屈指の洗濯マスターとして先輩から褒められた事がある男だ!
あの頃の汚れに比べれば、兵士の服の汚れなんか大した事はない。
「お前の洗濯は丁寧だから、女性陣にも人気だからな」
ほぅ?
俺の洗濯物って、女兵士のも混ざってたのか。
知らなかったな。
「後で女達が、少し話があるって言ってたぞ」
「えっ!?」
何だろう?
ご褒美とか貰えるのかな?
やべっ!
すげー楽しみになってきた。
「おい!洗濯が終わったら、さっさと食器を洗ってしまえ」
「ウェイっす!」
洗い物が終わると出来る、ちょっとした休憩時間。
そこに女兵士達が現れた。
「雑用くん。キミの洗濯が丁寧だって分かったから、こっち
もお願い出来るかな?」
「ウェイ!こっちって何すか!?」
「他の人には頼めないけど、キミは子供だしね。頼んだよ」
「ウェイ!任されたっす!」
女兵士達は洗濯物を渡すだけ渡して、去っていった。
何だよ。
ご褒美なんか無いじゃないか。
ただ、洗濯物が入った袋はとても軽い。
これならすぐに終わりそうだ。
さっさと終わらせて、また休憩しよう。
早速袋から、洗濯物を取り出そうと中を見ると、俺の手は止まってしまう。
「な、な、何だと!?」
(兄さん!これは!!)
ま、間違いない。
確認の為に、一枚取り出してみよう。
ほぅ?
黄色ですな。
しかもレースがあしらってあるとは、この世界ではそこそこお高いのでは?
(次だ!)
奥さん、見ましたか?
なんと黒!
これまた形が際どいんですが、どう思われます?
(うむ、眼福だと言わざるを得ないな。次行こう)
来た!
これです!
情熱の赤!
いやぁ、これは目立ちますよ。
あの鎧の下に、こんな物を履いているなんて。
(今後は見る目が変わりますな!)
・・・ところでなんだが。
(どうしたの?)
これ、マジマジと見ちゃって良いのかな?
兵士達の下着だから、そりゃ汗も沢山かいているだろうし。
(ま、まさか!?)
被ったりしたら、どうなるかな。
(ここに変態がおる!)
いやいや!
言ってみただけ!
言ってみただけよ?
俺もね、洗濯マスターとして信頼されて渡してくれたわけだし。
こういうのは良くない。
そう思ってるのよ。
でもさ、ご褒美とかあるかなって思ってたわけじゃない?
(それで、ご褒美に被りたいと?)
そうは言ってないですよ!
そんな事は、口が裂けても言えませんよぉ。
でも、誰も見てないし。
(この変態が!)
おい!
そこまで言うなら、お前は興味無いんだろうな!?
(別に、そんな事言ってないけど・・・)
このムッツリが!
本当は興味があるクセに、そうやって自分を誤魔化して生きていくのか?
んん?
どうなんだね?
(そこは何というか、倫理観というものがあるわけで。やっぱり駄目だと思うんだよね。だって、汚れた物を渡すっていうのはさ、信用してくれてるわけじゃない?その信頼を裏切るような行為はどうかと思うわけよ)
それは、アレだな。
お前は、使用済みだから駄目って言いたいんだな?
(使用済みって・・・)
その言い方だと、洗って綺麗なら問題無いって聞こえるんだが。
その辺はどう思ってるのかな?
(え、いや・・・それは・・・)
分かった。
皆まで言うな。
俺が全ての泥を被ろうじゃあないか!
洗ったおパンチィを、俺が被る。
お前は、止められなかった事にすれば良い。
(ちょっ!それは・・・)
全て俺に任せろ。
そうと決まれば、全力で丁寧に洗うぜ!
さて、全て洗い終わった。
黄色に緑、黒も赤もある。
誰のだか分からないのは仕方ないが、ここは諦めるしかない。
我が弟よ、お前にどのおパンチィを被るか、選ぶ権利を与えようではないか!
(何だって!?じゃあ、赤)
おまっ!
即決とは。
本当は興味津々じゃないか。
だが、心配は要らない。
ここには俺達しか居ないのだから。
(兄さん!)
行くぜ!
くうぅぅ!
こんな緊張感は甲子園以来か!?
俺は両手で広げたおパンチィを、堂々と空へ掲げた。
そして徐々に下へ。
そう、顔へと下ろしていく。
いざ!鎌倉!
「フェエェェェド、イン!!」
ふ、ふおぉぉぉぉ!!!
(兄さん!)
俺、今思ったわ。
この世界に来て、初めて良かったと思ってる。
(分かった。僕はもう何も言わない。その視界だけで十分だ)
さて、そろそろ見つかる前に・・・。
あ?
何だこの爆発音?
「キャプテン!」
お、太田の声!?
何だ!
どういう事だ?
「えっと、キャプテンですよね?」
「ち、違う!俺は王国のパシリAだ!」
「いや、声がキャプテンなんですけど」
マズイ!
このままだとバレてしまう。
仕方ない。
使いたくはなかったが、あの手で行くしかないな。
「よくぞ見破った。しかしこの姿の時は、HK!そう呼ぶが良い」
「え?何故です?キャプテンで良いのでは?」
馬鹿!
コイツ、空気読め!
「もう良いよ!それで何だよ!」
「そうでした!誰かがこのテントを攻めてきてます。逃げるなら今かと」
「そういう事は早く言えよ!」
「だって、パシリAとかHKとか言うので・・・」
ぐむっ!
それを言われると否定出来ない。
だが、逃げるチャンスなら即行動だ。
「行くぞ!」
「ところで、攻めてきた相手は誰だか分かっているのか?」
「そこまでは分かりません」
流石に太田も、そこまでは知らされてないか。
見つかると面倒なので隠れながら行動してはいるものの、俺達を探す余裕なんて無さそうだ。
剣を交えてる場面に遭遇したが、相手がヒト族っぽい事しか分からない。
「ところでお前、この一週間は何をしていたんだ?」
「特には何も。敢えて言えば、王国軍へと送る文書作成を手伝わされていました」
「お前、それは結構重要じゃないのか?」
「それが、ほとんど日記みたいなものでして。一週間前にワタクシ達を見つけたとか、今日は天気が悪いから捜索範囲は狭くしたとか。そんな事ですよ」
夏休みの日記か!
もう少し王国の内部に関わる事が、分かればと思ったのに。
「火が上がってますね」
「アレは、中央テントだな。あのムカつく兵士と隊長が居る所だ」
俺の事を奴隷とかその辺の魔物の肉とか言った連中だ。
思い出したらムカムカしてきた。
「よし!脱出前にあの二人をブン殴ってからにしよう」
流石は中央テント。
指揮系統が固まっていたせいか、一番激戦区になっている。
隊長とあのムカつく兵士は、まだ健在らしい。
その辺に倒れている連中の顔を見回したが、見つからないからだ。
流石に急襲されたわけだから、逃げてはいないと思うんだが。
「あの人、ワタクシ達を案内した兵士ですね」
「居たか!?」
どれどれ?
誰だか分からんが、鎬を削ってるみたいだな。
おっ、倒しやがった。
俺達を引き連れたくらいだから雑用かと思っていたが、逆だったみたいだな。
俺達が暴れても取り押さえられるという、強者に入る部類だったのかもしれない。
「よし、俺はアイツの頭をブン殴ってから離れる事にする」
「ワタクシはどうすれば?」
「逃げ道の確認だけしてればいい」
あの野郎がまた鍔迫り合いになったら、俺がすかさず後ろからブン殴ろう。
丁度良い。
誰だか知らんが、そこそこ強い槍の使い手と当たった。
鍔迫り合いにはならないが、目の前の相手に必死になっている。
今なら行ける!
「せえぇぇい!」
俺は身体強化で猛ダッシュして、背後からゲンコツをブチかました。
首が引っ込むくらいの衝撃を受けた奴は、その場で倒れ込む。
「ぃよっし!気持ち良い〜!」
やる事はやった。
隊長は見つかってないが、まあ良い。
コイツだけで十分スッキリさせてもらったからな。
「キャプテン!行きましょう!」
太田が手招きをしている。
すると、目の前の槍使いが、兜を取り払った。
「マオ!?お前何やってんだ!?」