プロローグ2
内定が決まった今、特にやることは無かった。
兄と違いそこまで才能が無い僕は、努力して大学に行き、ゼミの先輩OBのツテで、結構有名な会社の内定が貰えたのが現実だ。
兄は何故か僕の事を凄い凄いと言うが、むしろ甲子園に行った兄の方が凄いだろう。
高校時代、野球部のキャプテンを務め夏の甲子園に出た事がある。
しかもベスト8まで残った兄は、プロのスカウトから声がかかるほどだった。
ドラフト直前で肩を痛めたのが原因だったのか、プロからの声はかからなかったけど・・・。
そんな怪我をした兄に声かけてくれた大学もあり、彼は一年生の大半を治療にあてながらも、二年生になる頃には完治。
四年生になってベストナインに選ばれ、再びドラフト候補に挙がっている。
そんな兄とは違い凡人の自分は、ゲームや漫画、ラノベを読んだりしながら、部屋でちょっと酒を飲むのが楽しみな小市民だ。
母親が小さい頃に亡くなり男手一つで育ててくれた父も、十二年前に事故で亡くなった。
父は自衛隊員として海外に行っていたのだが、そこで事故に巻き込まれたらしい。
遺体も見つからないほどの大きな事故だったそうだ。
まあ今にして思えば、子供の頃に傷ついた父を見なくて済んだのは運が良かったのかもしれない。
それから僕達は、父方の叔父夫婦に引き取られた。
高校大学まで進学させてくれた二人には、感謝しかない。
しかし、それでもやはりちょっとした心の壁を感じるのは気のせいではないと思う。
今では家族は兄だけだと、心の奥で思ってしまっている。
そんな後ろめたさもあるからか、僕は早く社会に出て金を稼ぎ、叔父夫婦に少しでも恩返しをしたかった。
そんな凡人生活を送ってダラダラと朝まで漫画を読んでいたら、兄が声をかけてきた。
「おーい!起きてるか?」
あぁ、また送ってほしいって話だな・・・。
面倒だけど送ってやるか。
バイクの暖気の為に外に出る。
まだそこまで寒くはないな。
ちなみにこのバイクは、大学の友人から安く譲り受けた物だ。
レポートや代返など色々と協力してあげたからか、かなりのお手頃価格だった。
「じゃあ行くよ」
兄を後ろに乗せて、大学の練習をしているグラウンドまでバイクを走らせる。
あと半年もしたら兄もプロ野球選手かな?
こうやってバイクで二人乗りすることも無いだろう。
そんなことを考えながら、もうすぐグラウンドだ。
ん?ブレーキの効きが甘いような?
カーブが徐々に近づいていくのにスピードが落ちない。
アクセルを戻し、エンジンブレーキも使っているはずなのに。
ハンドルもロックされたように、左右に全くぶれない。
少しでもスピードを落とそうと踵で踏ん張ってみようとしたが、むしろメーターを見ると速度が上がっていた。
もう目の前はガードレールだった。
せっかく兄さんがプロの選手になれるかもって時に・・・。
「ごめん兄さん・・・」
僕は目の前に迫るガードレールから黒い大きな手が出てくるのを見た。
あぁ、これが死神の手なのか・・・。