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大丈夫と言いながら、船酔いで吐きながら喋る太田。

ハクトも顔色は悪く、船に強くない事が分かった。


小さな港町に着くと、地元のお婆さんが話し掛けてきた。

彼女の案内で物置を貸してもらえる事になったのだが、食事がまだだった。

町の食堂を回ってみたが、ある理由で入店を拒否されてしまう。

太田が大きくて、店内に入る事が出来ないのだ。

この辺りではオーガやミノタウロスのような種族は珍しく、町に来た試しがないという話だった。

太田は諦めて物置に戻ると言うが、それは揉める原因にもなる。

なんとか入れる店を探したが、やはりそんなものは存在しなかった。

そこでハクトは、変身魔法を使って太田に小さくなってもらえばいいと提案する。


見事に小さくなった太田だったが、魔法を使用した際に出た光が、町の人を集めてしまった。

目立たないように子供を装い、食堂へ向かった。

料理を頼み待っていると、隣には若い女性の集団が座ってきた。

いつものようにモテる蘭丸とハクトだが、今回は太田にも声が掛けられていた。

そして女性なのに、嘉隆も好印象である。

そんな嘉隆は空気と化した僕に、追い討ちを掛ける言葉を放ってくれやがった。





「魅力、無いかな?」


「無いわけではない、と思う。だけど、なんか目立たない気がする。んー、顔は悪くないけど、纏っている空気が悪い?この二人と比べると、明らかに居ても居なくても良い存在に思える」


嘉隆は言いたい放題言ってくれた。

周りの女性達も、そんな嘉隆の言葉に頷く。


「そうだね。キミも顔は悪くないんだけど、どうしても好きになれない空気なのよね。顔は悪くないのに、勿体ない」


こんな事を言われたとしても、僕はどうすりゃ良いんだか。

言われ慣れたせいもあって、そんなにショックも受けなくなってきていた。

蘭丸とハクトはそんな僕を気にしてか、話題を逸らそうと必死だが、慣れた僕は川海老が美味いなという以外に思う事はないのだ。

太田はそこまで女性に興味が無いのか、最初に来たシャケ定食を無心で食べている。

太田もこの姿なら、ロックに声掛けられるのかな?

僕はなんとなく、そんな事を考えていた。



腹一杯に食事を楽しんで帰る頃に、太田はある事に気付いた。


「この姿でバルディッシュ、持てますかね?」


「無理じゃないか?背が違い過ぎる」


「そうか?俺は持てると思うけど、振り回せないんじゃないかと思ってる」


僕は持てないと思っているのだが、蘭丸は持てるが使いこなせないという意見だった。

この姿になって、色々と試してみたいようだ。


「明日、試して良いですか?」





翌朝、起きるとそこには太田の姿は無かった。

一人だけ早く起きたらしく、外でバルディッシュを振っていた。


「大きい身体の姿に戻ると、違和感とか無いのか?視線の高さとか」


「あっ、おはようございます。そうですね、やっぱり慣れないです」


軽く苦笑いをする太田だが、慣れないというなら慣れたらどうなるのか?

少し気になった。


「昨日言ってた事、試してみる?」


欠片を手渡すと、太田は昨日と同じように僕とほぼ同じ体格まで小さくなった。


「バルディッシュ、持てそう?」


「持てなくはないですね。ただし手も小さくなったので、持ちづらいです。多分蘭丸殿の言った通り、扱うには無理があるかと」


パッと見ると、持つというよりは抱きかかえているように見える。

これじゃ振り回すのは無理だな。


「この姿で戦闘はしないと思うので、問題は無いのですが」


「いや、この先何があるか分からない。王国に行くとなったら、太田の姿だと目立ち過ぎるし。やっぱりこの姿で慣れてもらった方が良いかもしれないな」


太田に言われて気付いた。

普段の太田は目立つのだ。

もし魔族嫌いな王国に密入国する事になったら、絶対にすぐにバレるだろう。

今のうちにこの姿に慣れてもらって、普段と変わらない動作が出来るようになってもらった方が良い。


「上野国の領内に居る間に、お前の新しい武器を考えよう」





港町を離れ、再び川を下り始めた。

所々にある小さな漁村等にも立ち寄り、先代九鬼嘉隆の話を伺って回ったが、やはり目撃情報は無かった。


「この先は滝になっている。そして滝を落ちると、その先は王国の領内だ」


「滝の近くには王国の見張りとか居るか?」


「知らない。でも、すぐ近くには町とか村は無いと聞いている。だから、こんな場所に王国兵が居るとは思えない」


それなら普通に、滝の前で船から下りればいいか。


「この船、どうするんだ?」


「係留しておく場所なんかあるのかな?」


二人の言う事はもっともだ。

確かに下船する場所すら無い。


「嘉隆殿、どうするんです?」


「このまま滝から落ちるしか無いだろう?」


「ハァっ!?」


「落ちてから泳げば良いんだ」


馬鹿かコイツ!

誰もが泳げるわけじゃないんだぞ!?


「まだ時間あるよな?」


「いや、もうすぐ滝だけど」


「言うのが遅いんだよ!報連相は事前にしろ!」


どうしよう。

このままだと滝から落ちて、無事でいられるかは分からない。


【バルディッシュに魔法込めれば良いじゃないか】


魔法?

なるほど。

そういう手があるか。


「船は壊れても良いんだよな?」


「王国に入って船で移動していたら、目立ってすぐに見つかる。そこからは地道に探すしかない」


嘉隆が船は諦めると言っているなら、都合は良い。

だったら何とかなる。


「太田、バルディッシュを貸せ」


「どうするのです?」


両手で抱えて持っていたバルディッシュを受け取ると、僕はすぐに風魔法をクリスタルへと封じた。


「よし!皆、バルディッシュに掴んで、手を絶対に離さないようにしろ。離したら滝から落ちるぞ!」


ハクトと蘭丸、嘉隆がバルディッシュを握り、僕と太田はハクトと蘭丸の背中におぶさった。

目の前に滝が現れた。

本当にすぐじゃないか!

嘉隆に聞かなかったら、何も知らずに落ちてたんじゃないか?

無事に滝から落ちたら、絶対に文句言ってやる。


「太田、船が滝から落ちたら、途中で叫べよ」


「分かりました」


船の先端が下を向くと、物凄い急降下していく。

既に船は宙を浮いている状態だ。

後は川底に叩きつけられるだけだろう。


「太田!」


「太田、ブロウィング!」


太田が大きく叫ぶと、バルディッシュから風が吹き出した。

途端に落下する勢いが弱くなり、周りの景色がゆっくりになっていく。


「成功だ」


ちょっとした飛び込み台くらいから落ちたような勢いで川に落ちると、皆は一斉に岸へと泳ぐ。

しかし太田は、バルディッシュを握ったまま沈んでいった。


「太田!あの馬鹿!」


「どうするつもりだ!」


蘭丸が川に潜ろうとする僕を引き止めに入るが、お構いなしに潜った。

川底に向かって潜っていくと、太田はバルディッシュを手放さずに沈んでいくのが分かった。


【どうするつもりだ?】


考えはあるから大丈夫。

太田とバルディッシュに追いつき、バルディッシュを握ると、そこはもう川底に近かった。

十メートルくらいは沈んだだろうか?

僕は川底に手をついて、土魔法を使った。

途端に自分達の足元が大きく迫り上がる。




「一分以上経ったよな?」


「大丈夫だよね?」


「いざとなったらオレが潜って探す。でも魔王様の事だから、心配要らないんじゃないか?」


「うーん・・・」


二人は心配要らないと言われても、やはり心配のようだった。

実際に泳いでいる姿を見ていないし、魔王が泳げるか知らないのもある。

それよりも、太田を助けるのに二次被害のような事が起こらないかが心配だった。

だが、そんな二人の心配も杞憂に終わった。


「何かが上がってくるぞ」


川の一部が激しく盛り上がると、そこには大きな土柱が立っていた。


「ブハァ!流石にしんどかった」


「マオ!」


土柱に駆け寄る二人に、僕は手を振った。

何とかなったが、太田の様子がおかしい。

まさか、遅かったのか!?


「太田?太田!?」


【代われ!俺がやる!】



「太田ぁ!起きろぉ!」


ドンと腹に一撃パンチを加えると、太田は身体をくの字に曲げてから呻き声を上げる。


「う、うぅ・・・」


「起きたか?」


顔を覗き込むと、俺に向かって水が吐き出された。

ピューっという音が聞こえるくらいの水が、太田の口から出ている。

まさか漫画みたいな吐き方をする奴が居るとは。

写真に残したかった!


「うっ!く、苦しい!」


太田がお腹を押さえて苦しみ始める。

俺、そんなに強く殴ってないぞ!?


「痛いのか?」


「み、水・・・」


水?

飲みたいのか?


「水を用意すれば良いのか?」


「の、飲み過ぎて苦しい・・・」


俺はその言葉を聞いて、太田の足首を掴んで岸に向かって投げた。


「ちょっ!お前、もう少し丁寧に扱えよ!」


「大丈夫だ。水飲み過ぎて苦しいとか言うくらいだし、吐き出させてやれ」


ハクトはそれを聞くと、太田のお腹を押し出す。

数回にわたって水が口から出されると、太田はゆっくりと起き上がった。


「もう大丈夫です。ご心配お掛けしました」





「昨日からワタクシ、吐いてばかりですね」


岸で座り込んだ太田は、自分の事を思い出して微妙な事を口にした。

確かに間違ってない。


「二人が無事なら、そろそろ此処を離れよう。こんな何も無い場所、魔族が居たら目立ってしょうがないぞ」


「蘭丸くんの言う通りかもね。せめて林とか森の中に隠れないと」


ハクトは太田をおぶって、すぐに立ち上がった。

四人で森のある方へ走り出す。


「うっ!皆、ちょっと待って!」


ハクトの声で止まると、嘉隆も異変に気付いたらしい。

ハクトの耳が忙しなく動く。


「おい、森の中に誰か居るぞ」


「こっちには気付いてないんだけど、このまま入ると鉢合わせになる。少し遠回りだけど、離れた所から入ろう」





周りを気にしながら五分ほど走った辺りで、森の中へと入った。


「この辺まで来れば大丈夫。向こうもすぐに、行動を起こそうとかしてなかったから」


「なぁ、ハクト殿。オレは森から音がするのを聞いただけだが、アンタは何を聞いたんだ?」


嘉隆も音が聞こえたのか。

俺も話し声なのは分かったけど、どんな内容かは分からなかった。


「うん、アレは危なかった」


「危なかった?」


「さっきの人達は、多分兵士だよ。誰かを探しているみたいだった」


兵士は駄目だな。

見つかったら、まず戦いになる。

倒すのは難しくないけど、帰ってこない兵士が居たら、何かあったのはすぐにバレそうだし。


「でも待ってください。兵士って、どっちの兵士でしょう?」


「どっちの兵士とは?」


「この国、今は内乱で分裂してるって聞きましたが。維持派の連中なのか、改革派の連中なのか。それ次第では味方になってくれるのではないでしょうか?」


太田は以前話に出た、王国の内情を覚えていた。

確かにその通りだ。

もし改革派って奴なら、あのおっさん王女の仲間って事だろ?

だったら俺達の事を、知っている連中が居るかもしれない。


「どうする?会いに行くのか?」


「嘉隆さん、それはやめた方が良いですよ。だって、もし敵だったら僕達、囲まれて捕まっちゃいます」


「それならこのまま隠れてるのか?奴等、いつ此処を離れるか分からんぞ」


「マオはどう思う?」


ここで俺の出番か。

とりあえず隠れる事しか考えてなかったな。

どうしよう。


(ひとまず夜になるまで待てば良い。暗くなったら、兄さんとハクトで偵察にでも行けばいいんじゃない?)


そうか。

それが良いな。


「夜になったら偵察に行く。俺とハクトで行けば、そう見つかる事も無いだろ」


「そうだね。そうしようか」


意見がまとまったと思ったのだが、自分が行くと言い出した男が居た。


「ワタクシがキャプテンと一緒に行きましょう」


「お前、急に何を言い出すんだ」


「ちゃんとした理由もあります。ハクト殿は、皆より先に危険が察知出来ます。此処が見つかっても、その前に移動出来るはずです」


太田のクセにマトモな意見だな。

嘉隆も蘭丸よりは耳は良かったけど、俺やハクトと比べると心許ないのは確かだ。


「ハクト殿の代わりに蘭丸殿を連れて行くと、戦闘能力が落ちます。必然的にワタクシが良いかと」


「でも、お前もその姿じゃマトモに戦えないんじゃねーの?」


「戦わなくても大丈夫です」


何言ってんだコイツ。

戦わないといけない可能性だって、あるって言ってるのに。


「先日、魔王様が言ってました」


「何か言ってたか?」





「大人と話す時は子供のフリをしておけ。それだけで大人は優しくしてくれる。え〜と、あっ!名探偵作戦です!」

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