一益の本気
落下という名の降下をした三人は、城門を開けて外のドラン達を呼び込んだ。
ドラン達と共に城内で暴れていると、川がある裏手の警備が薄くなった。
三人が降下したのを確認した僕達は、再び城を強襲する。
ドラン達の陽動が効果的で、裏手の守備は薄くなっていた。
なんとなく滝川一益が居るであろう部屋を探していると、又左が義隆に質問をしていた。
又左が指す部屋から、大きな魔力を感じる。
その魔力は滝川一益のものなのか?
しかし嘉隆は答えられなかった。
部屋の中に居たのは、自称滝川一益だった。
洗脳されているのか不明だったが、会話は成立する。
会話は成立するが、話は聞かない人物だった。
又左は任せろと槍を振るうが、ミスリルの鎧に阻まれて全くダメージを与えられなかった。
戦闘をしている最中、嘉隆は彼の魔力に誰かの魔力が被っていると言った。
おそらくそれが洗脳した者の魔力だろう。
戦闘中に武器である大槌を投げた一益だったが、又左や河童はそれを好機と見た。
だがそれは勘違いで、意のままに操る大槌によって、又左は後ろから殴り飛ばされてしまった。
後ろからの大槌によって、ピクリとも動かない又左。
投げられた大槌に巻き込まれた河童達も、ほぼ戦闘不可となっていた。
「武器に魔力を込めると、手元から離れても操れるのか?」
「そんな事も知らんのか。今時の寺子屋は、小手先の知識しか教えないのか?昔なら、誰でも知っている技術だぞ」
俺の質問にも答えてくれる。
やはりただ戦うだけの、バーサーカーみたいになったわけじゃないらしい。
ついでだし、聞くだけ聞こう。
「それ、俺も今出来る?」
「出来んな。というよりも、知っていても教えるわけが無い!」
「えー!良いじゃん。敵に塩を送るって事で」
「その言葉、とても嫌いなんだがな。ただの自己満足だろう?そんな事をして我の部下達が被害に遭ったら、誰が責任を取るというのだ」
そう言われると確かに。
しかしコイツ、よく分からん奴じゃない?
(どの辺が?)
だって、ジゼルグだっけ?
ソイツは簡単に処分されたみたいだけど、部下の安否を気遣うなんて、洗脳されててするものかな?
(洗脳って言っても、完全じゃないのかもしれない。だから、言ってる事に矛盾が生じるんじゃない?)
その可能性も否定出来ないか。
嘉隆の話だと、誰かの魔力が上乗せされているみたいだし。
「それよりも、良いのか?」
「何が?あっ!」
話している間に、大槌が無くなってる!
何処行った!?
「後ろだ!」
嘉隆の声に反応した俺は、すぐに横っ飛びで回避した。
そこを自分の身体より大きな大槌が、音を立てずに通過する。
ちょっと怖かった。
「童を攻撃する趣味は無いのだ。少し驚かそうと思った次第だ。そこの獣人の命で勘弁してやるから、兵を引いて帰れ」
又左の命と引き換えに助けてやるだと!?
「テメー、調子乗るのもいい加減にしろよ」
「口が悪いな。お仕置きくらいはしないと駄目か」
「少しだけ本気出す」
悪いけど、ちょっと戦うぞ。
「その大槌、どれだけ便利か見てやるよ」
「フン!大人をナメるのも大概にせんと、怪我では済まさんぞ」
大槌が飛んでくるのに合わせて、バットでフルスイングして叩き合う。
固いな。
やっぱり武器もミスリルか、それ以上の物だと思われる。
何度か打ち合っていると、こちらのバットが先に限界を迎えたようだ。
「ミスリルで作られた物なんだろうが、所詮は素人が作った紛い物よ。我が自ら打ち叩いた大槌に、敵うわけがないのだ」
「確かにその通りだ。お前の武器の方が凄いんだろうな」
だけど、だからといって不利なわけじゃない。
壊れたらまた、作り直せばいいのだから。
ヒビが入ったバットを、再び新品のバットへと創造魔法で作り直す。
その一部始終を見ていた一益は、初めて驚いた顔を見せた。
「魔王!?まさか、死んだと聞いていたが。新たな魔王が誕生していたのか!?」
「別に新しい魔王ってわけじゃないんだが。っと!俺はここで一旦交代だな」
「何を言っている?」
「キャプテン!ワタクシの降下、見ていただけましたか!?」
ドランが太田と二人で、廊下を走ってきたのが見えたのだ。
「他の者達は?」
「外で陽動をしております。ドワーフは部下に指揮を任せました。ハーフ獣人の方々は、慶次殿が率いています。少し心配だったので、佐藤殿にもお目付役を頼みましたが・・・。それよりも、お館様!」
ドランが大きな声で、一益に向かって声を掛ける。
聞こえているのは分かるが、その反応はとても薄かった。
「ドランか。貴様も上野国を脅かす敵の一味になっていたか。ジゼルグに負けた腹いせでもしに来たか」
「!?洗脳の影響か!」
すぐに理解したドランは、近付こうとしたのを諦めて距離を取った。
その間に太田は、気を失った又左を揺り起こしている。
「う、うあ・・・。っ!?この野郎!」
「ちょっ!ワタクシですよ」
「おっ?あぁ、すまん。どれくらい気絶してたんだ?」
「そんなに長くはないと思いますが。それよりもあの方の武器、かなり凄いですね」
又左は武器と言われて慌てて見たが、今は普通に扱っている。
どうして自分がやられたのか、理解していなかった。
「・・・聞くのもどうかと思ったのだが、どうやって私がやられたか分かるか?」
「ワタクシ達が来た時点で、既に倒れていらしたので。その様子だと、自分が何をされたのか、理解していないのですね?」
「恥ずかしいが、その通りだ。魔王様は普通に打ち合っているが、魔法で作り直しているのが分かる。やはり相当な武器なのだろう」
手足を普段通りに動かす事が確認出来た又左は、太田の肩を借りてすぐに立ち上がる。
即座に槍を構え攻撃を開始した。
又左がやられた怒りに身を任せて槍を振るっている間、俺は太田を呼び出した。
「何でしょう?」
さっきの又左がやられた攻撃を伝えると、まさかという顔をしていた。
「良いか?武器を投げた後が大事だ。必ず奪い取れ」
「本当にそんな事が出来るのですか?」
「出来ますね。自らの魔力を封じ込めるというのは、コバ殿の武器にも通じます。あの方の魔力操作なら、それくらいやってのけるかと思います」
太田と違ってドランは、それくらいは当然とばかりに賛同してきた。
その言葉を聞いた太田も、半信半疑から認める事となった。
そして、再び又左の大振りに合わせて大槌を投げる一益。
余裕を持って避ける又左だったが、そこまではさっきとほぼ変わらない。
「太田!今だ、取りに行け!」
急ぎ大槌の元へ走り、片手で大槌を拾った太田は、もう片方の手に持ったバルディッシュを振って、こちらにアピールをしてきた。
「キャプテン!やりましたよ!」
「油断するな!そこから飛ぶぞ!」
「えっ?ふぐっ!」
勢いよく手から離れようとする大槌に、顔面を強打していた。
だが、それでも手を離さなかった太田は、筋が浮かび上がるほど力強く握って離さない。
「くっ!まさかこんなに力があるなんて」
バルディッシュを落とした太田は、片手から両手に持ち替えて大槌が飛んでいこうとするのを拒否していた。
「良いぞ!今なら何も持っていない奴を、又左がどうにかしてくれるはずだ」
太田の力なら、そう簡単には負けないはず。
それを考えると、俺は勝利を確信した。
まあ、そういう事を考える時に限って、駄目だったりするんだけどね。
「誰が一つしか操れないと言った!」
そこには俺も、思いもよらない光景が待っていた。
「又左!右に飛べ!」
「御意!」
俺の咄嗟の声にも反応した又左は、言われた通りに右に飛んだ。
「うおっ!?大槌が勝手に飛んできた!?」
「それがさっき、お前がやられた正体だ!」
「大槌が勝手に動くとは。だが、そんな物は見れば避けられる!」
余裕だとばかりに、飛ぶ大槌を避けて一益へと迫る又左。
槍が届く範囲に入ると、即座に右の胸に向かって突きを放つ。
「甘いわ!」
その手には、三度違う大槌が納まっていた。
まさか、更に増えるとは思っていなかった。
振り向くとまだ、太田は大槌を持って踏ん張っている。
「まさか、大槌をいっぺんにこれだけ扱えるとは。脳筋の部類だと思っていたけど、ドランの言った通りだな」
「又左殿!こっちは任せろ!」
ドランは二つ目の大槌を手に取り、太田と同じく押さえ込んだ。
「こ、こんかに強いのか!?これはまさに太田殿ではないと、無理だったかもしれんな」
「腰を落とすと、比較的楽になりますよ」
太田は自分が持っている大槌で、実演してみせた。
「なるほど。こうか?」
「上手いです。ただ、長時間堪えるには辛い。だから前田殿!早く!」
太田の声に返事をしない又左。
それもそのはず、一益に対して攻撃をしているからだ。
いや、攻撃をしているが、全く相手にされていないの間違いかもしれない。
槍を避けようともせずに、その鎧で受ける一益。
お返しと言わんばかりに、大槌を又左へと縦に横にと振り回され、今度はそれを避けるのに精一杯だった。
そして俺は、ある事に気付いた。
俺は攻撃されていないという事だった。
大槌三つが限界なんだろう。
俺まで武器が飛んでこない。
そして攻撃をされないというのなら、今なら出来るんじゃないか?
(まさか、一益の意識を奪ってからじゃなくて、このまま洗脳を解こうって言うの!?)
なんだよ、俺の言いたい事分かってるじゃないか。
お前なら、出来るだろ?
(簡単に言うなよ!洗脳を解いた事すら無いのに、そんな軽々しく出来るなんて言えないよ)
それならどうするんだ?
外で戦っている、慶次や佐藤さん達が来るまで待つのか?
そんな事をしている間に、太田もドランも力尽きるぞ。
(それは分かってるよ。だけど・・・。チクショウ!やってみるしかないか)
覚悟を決めろ。
お前に掛かってるからな。
後は頼んだぞ。
簡単に言ってくれるなよ。
僕だって緊張してるんだから。
だけど、やるしかないんだ。
「又左!そのまま奴を動けないようにしろ。このまま洗脳を解く!」
「魔王様!?そんな事可能なのですか?」
「知らん!だけど、このままだと力尽きるのを待つだけだ」
「分かりました。何とかしてみます」
「お前達は馬鹿なのか?作戦が丸聞こえで、何もしないとでも思っているのか!?」
ですよね。
僕だってそう思うもの。
「マズイ!魔王様!」
「うわっ!ビックリしたぁ!」
大槌が僕に向かって飛んで来た。
持っていた三つ目の大槌も、投げてきたようだ。
そうなると、今は武器は無いはず。
又左の槍で、どうにかならんかな?
「ちっ!こういう手段に出るとは!」
飛んでくる大槌を躱しながら、又左の方を確認してみた。
すると一益は又左へ突進して、力比べをしているじゃないか。
又左の両手の自由を奪って、僕には残った大槌を操って攻撃を仕掛けるという算段か。
「魔王様、大丈夫ですか!?」
又左の心配そうな声に、大丈夫だ!と言いたいが実際はそんな事言える余裕は無かった。
僕は兄さんと違って、そこまで身体強化が強い方ではない。
ハッキリ言って、大槌を一撃でも食らうと致命傷になり得る。
だからこそ今は、精一杯避けるしかなかった。
「ごめん!ちょっと難しい!」
「そうですか。おい、九鬼嘉隆!」
僕が弱音とも言える本音を言うと、又左は何か考えがあるらしい。
嘉隆を呼び、何かを提案するようだ。
「何だ!」
「河童全員に命令しろ。魔王様を追う大槌を止めろと!」
なるほど!
又左、頭良いぞ!
「お前達!」
又左への返事もせずに、嘉隆はすぐに河童達を呼び出す。
河童達も何をするべきか分かったのか、率先して大槌と僕の間に身体を割り込んだ。
「行くぞー!俺達の力を、魔王様に見せつけろー!エイエイオー!」
一人の掛け声で、複数の河童が大槌へと掴み掛かった。
そして動きが止まった大槌に、他の河童が上からドスンと座り込む。
「良くやった!お前達!」
「ヘイ!お嬢!」
これなら僕も自由になれる。
どれどれ?
契約とは違って、紙があるわけじゃないんだよな。
ん?
「何だこれ!糸が複雑に絡み合ってるような?これが精神魔法の洗脳!?」