落下する三人
嘉隆の懸念は、又左だった。
またイチャモンかと何も聞かずに怒る又左だったが、話を聞くと納得がいくものだった。
確かに又左の長槍は、運ぶのに不便だ。
帆を破らないかという心配は、当然だと思う。
そして船酔いも、乗り慣れない連中ならあり得る話だった。
作戦の大筋は決まった。
ドローンという現代機器を使い、内部の偵察もしてあるらしい。
ただし、一つだけ問題が残っていた。
ヘリからの降下改め落下に、佐藤はパラシュートが使えないという事だった。
悪魔の笑みを浮かべながら、半兵衛は何とかなるを繰り返す。
ヘリにさえ乗せれば、どうにかしてくれると信じる事にした。
作戦が開始された。
まずは城門突破を試みる。
定石通りに城壁上の敵を銃撃するが、お互いにほぼ無傷で弾の消費にしかならなかった。
そして門を破る為の破城槌も使用されたが、これも油を撒かれて炎上し、ほとんど効果は無かった。
その裏で、川からの攻撃を開始する嘉隆一行。
又左はやはり揺れる船上で、戸惑いを隠せなかった。
水気のある船上では、銃より弓が基本らしい。
あまり当たらない弓矢に、嘉隆は泣き言を溢していたが、そんな中で二人、守備兵を引かせる程の腕を見せた男が居た。
「友達、ですか?」
「そうだ。俺の親友達だ」
「えーと、あの二人も魔王様と同い年?」
あぁ、そういう事か。
見た目だと向こうは、もう大人だもんな。
俺だって少しは成長してる気がするんだけど。
「年は分からん!だけど、同級生だぞ。俺が旅立った時から、一緒に来てくれた二人だ。流石に又左や太田と比べたら、戦力的には劣るけど。それでもずっと鍛錬に励む連中だ。いつかは戦場で活躍する時が来るはず」
「なるほど。竹馬の友ってヤツですね」
少し羨ましそうな顔をした嘉隆だが、今はそんな悠長な話をしている場合ではない。
「敵が援軍連れて、戻ってきたぞ。此処に引き付けておけば、ヘリからの落下の援護にもなる」
「聞いたか!お前等の活躍が作戦の成功を握っている。どうせお前等じゃあ狙っても当たらないんだ。あの二人よりも数で射てよ!」
嘉隆の檄に、河童達は気合を入れ直した。
「俺、当てたぞ!」
「ワハハ!ちげーよ!今のは俺の矢が当たったんだ!」
「ギャハハ!俺達でも射てば当たるぞ!射て射て!」
とにかく射っては笑う。
本気で先代を探しに来ているのか?
(嘉隆以外は、遊び半分みたいな感じだな)
でも、士気は高い。
嘉隆の手に余るように見えるが、意外にも指示には従っている。
見た目に反して、それなりに軍として成り立っているよな。
(それは確かに否定出来ないね。嘉隆自身の戦闘能力は分からないけど、どの連中とも違うから面白そうだ)
ハマったら強いかもな。
おっ?
そろそろヘリの登場かな。
「これがヘリ!?俺の知ってるヘリと違う!」
佐藤が木と竹で出来たヘリを見て、顔が引き攣りながら叫んでいた。
太田と慶次は、ヘリが何だか分かっていないので、こんな物かといった感じなのだろう。
「まあまあ佐藤殿。早く乗って行きましょう」
「だから、こんなの乗ったら墜落するだろ!」
「しないのである!吾輩の作った物をナメるなよ。さっさと乗れ」
コバが操縦席から怒鳴っていた。
馬鹿にされたと思ったようだ。
「コバの凄さは分かっている!このグローブが凄いのは、使っている俺が身に染みているからな。だが、こんな木と竹だけで作られた物で、空が飛べるかよ!」
「それなら飛んだのである。魔王と一緒に試してきた」
「魔王様が飛んだのであれば、問題無いですな!ワタクシも同じ物に乗れるとは、感極まります」
「拙者、そういうのは良いので、さっさと攻めて暴れた方が気が楽でござる」
三者三様の感想に、コバは頭を抱えている。
面倒だから、佐藤を置いていこうかな?
そんな考えを持っていたが、作戦の失敗は今後の自分の研究にも影響する。
渋々説得をするのだった。
「そうそう佐藤、お前には魔王からのアドバイスがあったのである」
「それを先に言ってくれ!」
怒鳴り過ぎて疲れ気味の佐藤は、コバからそのアドバイスを聞いた。
半信半疑の様子だったが、上手くいくと言われて、とうとう覚悟を決めた。
「使うタイミングは、そこそこ地面が近付いてからである。まあ、そのそこそこが分からんのだが」
「怖い事言うな!せっかく覚悟を決めたのに」
愚痴を零しつつも、とうとうヘリに乗り込む佐藤。
それを見て、すぐさま太田と慶次が乗り込んだ。
「真ん中が太田殿かよ。狭いな」
「重心の問題で、ワタクシが真ん中の方が良いとの事ですので」
「コバ殿。拙者はこっちから飛び降りても構わんでござるか?」
「どっちからでも降りるなら、構わんのである。ただし、降りる時は一声掛けていくのである。いきなり軽くなると、バランス崩して怖い気がするから」
「お前もビビってるんじゃねーか!」
佐藤のコバへのツッコミは鋭かった。
自分が散々ビビリ扱いされて、イラッとしていたからだ。
「フン!吾輩はお前達と違って、墜落したら死ぬからな。万全を期すのは当たり前なのである。よし、飛ぶぞ!」
木と竹で出来たヘリ。
通称竹ヘリが空へと飛び立った。
半兵衛は大地から手を振りながら、作戦の成功を祈っていた。
「お、お、本当に飛んだ!」
「そりゃ飛ぶのである」
「拙者、空からの景色を初めて見たでござる」
「ワタクシもです。鳥人族は、この景色が普通なのですねぇ」
「太田殿、寄るな!俺が狭い!」
「飛んでも、やかましい男であるな」
女三人寄れば姦しいと言うが、男でも変わらないという事だろう。
見た事の無い景色を堪能する太田と慶次に対し、喚き散らす佐藤。
そして操縦に集中したいのに、うるさくてイライラしているコバ。
ヘリの中は、思った以上に緊張感が無かった。
「このヘリという物は、安土でも運用するのでござるか?」
「どうであろう?魔王の許可次第であるな。流石にこれを使えば、安土の城にも一気に最上階まで行けてしまうのである」
「防衛面を考えれば、危険な道具になりかねないという事ですね」
そんな事を言ったコバだが、別に文句は言わないだろうという判断だった。
理由は、鳥人族が居る時点で対空防御も城に組み込む予定だからだ。
それにヘリを操縦出来るのは、現状でコバ自身だけ。
召喚者に奪われるなら未だしも、安土でヘリを盗む輩は居ないと思われるのが理由だった。
「具申だけはしておくのである。話の途中だが、落下予定地点に着いたのである。用意は良いか?」
「こ、こえぇぇ!!!」
佐藤が扉を開けようとすると、風で煽られて扉が飛んでいってしまった。
それを見た佐藤は、顔面蒼白である。
「佐藤殿、早くして下され」
「こら!急かすな!」
「しかし、もう落下地点ですぞ。早くしないと、敵にバレます」
正論を言われて黙る佐藤。
だが、怖いものは怖かった。
「うぅ・・・。半兵衛め、恨むぞ」
「そんな事言う前に、さっさと降りるでござるよ」
「慶次ぃ!俺はお前達と違って、身体強化が使えないんだ!落ちたら怪我じゃ済まないだろうが!」
「拙者や兄上の打撃を受けても大丈夫な御仁が、何を言っているのやら。佐藤殿の身体、身体強化を使った拙者達と同じくらい頑丈でござるよ」
「えっ!?そうなの?」
慶次の言葉に、素っ頓狂な声を出す佐藤。
しかし時間が経ち過ぎている。
太田は最終手段に出た。
「えいっ!」
「はっ?」
太田に両手で押し出された佐藤。
見事に外へと全身が出た。
「太田あぁぁぁ!!」
悲鳴のような声で、太田の名前を叫びながら落ちていく佐藤。
「ワタクシ達も行きましょう」
「了解でござる」
「二人とも、グッドラックなのである」
後ろを向いて親指を立てたコバに、軽く手を振ってから落ちていく二人。
「おぉぉぉ!!!風が凄いぃぃぃ!!」
「確か、全身を広げて・・・風の抵抗が何とかって言っていたような?」
二人は何も考えずに、直立不動で落ちていく。
速度が増して、先に落ちていた佐藤に追いついてしまった。
「太田ぁ!テメー、後で覚えてろよ!」
「なるほど。そうやって身体を開くのですね」
「やってみるのでござる」
二人も全身を広げて、速度を落とした。
「ふー、なかなか気持ち良いでござるな」
「そうですねぇ。魔王様も落下を楽しんだのでしょうか?」
「それどころじゃねぇぇぇ!!城が!城があぁぁ!!」
「本当に元気な人ですなぁ」
二人の呑気な会話に、佐藤はガチギレだった。
やはり魔族は違う。
佐藤は心底思ったのだった。
「さて、もうすぐでござる」
「佐藤殿、何か教わっていたのではなかったか?」
「があぢゃん!俺は落下して死ぬんだぁぁぁ!!」
「佐藤殿!佐藤殿!?」
パニック状態の佐藤は、話を聞いていない。
そこに慶次から槍が飛んできた。
「死ぬうぅぅ!アタッ!」
「佐藤!何か教わってただろう!」
「あっ!」
慶次の声に反応した佐藤は、グローブを下へと構えた。
そして、初めて言ったセリフを思い出す。
「佐藤、ブロウイング!!」
グローブから出た風によって、少しだけ落下速度が落ちた。
「これか!」
少しだけ余裕が出来たのか、先に落ちる形となった太田と慶次を見て、迷いが生じる。
先に落ちた二人を、風に巻き込むのではないかという事だった。
一瞬の判断だったが、佐藤は身体を直立にして、再び速度を増す。
「やっぱりこえぇぇ!!それよりも!二人とも、俺の背中に掴まれ!」
「こうでござるか?」
慶次が佐藤の背中を。
太田が慶次の背中を掴んだ。
「よし、これで後は俺の覚悟次第。フゥ、めっちゃ心臓が早くなってるのが分かる。だけど頭は冷静に・・・」
最後の最後になって、落ち着きを取り戻した佐藤。
今は城内の何処に降りるかまで、自分で分かっていた。
「今だ!佐藤、ブロウゥゥイング!!」
佐藤の起こした風が、城の外部で吹き荒れた。
城の中央にある広い部分が目的地だった。
「うぉっ!」
叩きつけられる寸前で、一瞬身体が無重力状態になる。
頭から落ちた佐藤だったが、ちょっとした擦り傷だけで済んだ。
だが、あまりの出来事に呆けていた。
その横を二人が落ちてきたが、二人も無傷だった。
「佐藤殿、凄いでござるな!」
「ワタクシ達も無傷とは、佐藤殿の判断に感服でしたぞ!」
二人の声で、ようやく意識を取り戻す事が出来た佐藤。
自分の周りを見回して、成功したと実感した。
「俺、同じ事は二度とやらねーからな!」
「またまた、そんな事言って!」
「それよりも、城門を開けに行きましょう」
三人は目的を思い出し、半兵衛が書いた地図の通りに進んで行った。
「この階段を降りた先に、あるみたいです」
太田の案内に、二人は先行して降りていく。
「くせ者!うわっ!」
佐藤が即座に殴り倒し、敵の意識を失う。
慶次もすぐに、側頭部へと石突きを見舞う。
「あった!」
「ワタクシの出番ですね」
佐藤に地図を渡して、鉄の鎖を巻き上げていく。
「これは確かに、力がある奴じゃないと無理だな。俺と慶次二人でやっても、太田殿一人に敵わないだろうね」
「やはり半兵衛殿の作戦は、いつも的確でござる」
二人の無駄話を他所に、太田は順調に鎖を巻き上げていくが、異変に気付いたドワーフ達が上からやって来る音が聞こえた。
「やるぞ!」
太田を残して、階段を上がっていく二人。
戦闘音が聞こえるが、太田はそれを無視して作業を続けた。
「全部巻き上げましたぞ!」
上へ向かって叫ぶ太田。
二人はそれを聞いて、太田を呼んだ。
「装置を壊して、すぐに上がってこい!」
もう一度鎖を下ろせないように、バルデッシュで装置を破壊すると、太田は駆け上がった。
すると、既に階段での戦闘は終わっていた。
「外へ出てみよう」
階段を上がり、城門側の城壁へと向かうと、そこには既に敵がほとんど残っていなかった。
「敵、居ませんねぇ」
「違う。あっちだ!」
佐藤が指を示した方向には、ドラン達とハーフ獣人の女性達が城内で戦っていた。
それを見て三人は大声で応援していると、ドランがこっちに気付いたようだ。
「三人とも、よくやった!ここからは我々が暴れるから、休んでいて下され!」