表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/1299

落下する三人

 嘉隆の懸念は、又左だった。

 またイチャモンかと何も聞かずに怒る又左だったが、話を聞くと納得がいくものだった。

 確かに又左の長槍は、運ぶのに不便だ。

 帆を破らないかという心配は、当然だと思う。

 そして船酔いも、乗り慣れない連中ならあり得る話だった。


 作戦の大筋は決まった。

 ドローンという現代機器を使い、内部の偵察もしてあるらしい。

 ただし、一つだけ問題が残っていた。

 ヘリからの降下改め落下に、佐藤はパラシュートが使えないという事だった。

 悪魔の笑みを浮かべながら、半兵衛は何とかなるを繰り返す。

 ヘリにさえ乗せれば、どうにかしてくれると信じる事にした。


 作戦が開始された。

 まずは城門突破を試みる。

 定石通りに城壁上の敵を銃撃するが、お互いにほぼ無傷で弾の消費にしかならなかった。

 そして門を破る為の破城槌も使用されたが、これも油を撒かれて炎上し、ほとんど効果は無かった。


 その裏で、川からの攻撃を開始する嘉隆一行。

 又左はやはり揺れる船上で、戸惑いを隠せなかった。

 水気のある船上では、銃より弓が基本らしい。

 あまり当たらない弓矢に、嘉隆は泣き言を溢していたが、そんな中で二人、守備兵を引かせる程の腕を見せた男が居た。





「友達、ですか?」


「そうだ。俺の親友達だ」


「えーと、あの二人も魔王様と同い年?」


 あぁ、そういう事か。

 見た目だと向こうは、もう大人だもんな。

 俺だって少しは成長してる気がするんだけど。


「年は分からん!だけど、同級生だぞ。俺が旅立った時から、一緒に来てくれた二人だ。流石に又左や太田と比べたら、戦力的には劣るけど。それでもずっと鍛錬に励む連中だ。いつかは戦場で活躍する時が来るはず」


「なるほど。竹馬の友ってヤツですね」


 少し羨ましそうな顔をした嘉隆だが、今はそんな悠長な話をしている場合ではない。


「敵が援軍連れて、戻ってきたぞ。此処に引き付けておけば、ヘリからの落下の援護にもなる」


「聞いたか!お前等の活躍が作戦の成功を握っている。どうせお前等じゃあ狙っても当たらないんだ。あの二人よりも数で射てよ!」


 嘉隆の檄に、河童達は気合を入れ直した。



「俺、当てたぞ!」


「ワハハ!ちげーよ!今のは俺の矢が当たったんだ!」


「ギャハハ!俺達でも射てば当たるぞ!射て射て!」


 とにかく射っては笑う。

 本気で先代を探しに来ているのか?


(嘉隆以外は、遊び半分みたいな感じだな)


 でも、士気は高い。

 嘉隆の手に余るように見えるが、意外にも指示には従っている。

 見た目に反して、それなりに軍として成り立っているよな。


(それは確かに否定出来ないね。嘉隆自身の戦闘能力は分からないけど、どの連中とも違うから面白そうだ)


 ハマったら強いかもな。

 おっ?

 そろそろヘリの登場かな。





「これがヘリ!?俺の知ってるヘリと違う!」


 佐藤が木と竹で出来たヘリを見て、顔が引き攣りながら叫んでいた。

 太田と慶次は、ヘリが何だか分かっていないので、こんな物かといった感じなのだろう。


「まあまあ佐藤殿。早く乗って行きましょう」


「だから、こんなの乗ったら墜落するだろ!」


「しないのである!吾輩の作った物をナメるなよ。さっさと乗れ」


 コバが操縦席から怒鳴っていた。

 馬鹿にされたと思ったようだ。


「コバの凄さは分かっている!このグローブが凄いのは、使っている俺が身に染みているからな。だが、こんな木と竹だけで作られた物で、空が飛べるかよ!」


「それなら飛んだのである。魔王と一緒に試してきた」


「魔王様が飛んだのであれば、問題無いですな!ワタクシも同じ物に乗れるとは、感極まります」


「拙者、そういうのは良いので、さっさと攻めて暴れた方が気が楽でござる」


 三者三様の感想に、コバは頭を抱えている。

 面倒だから、佐藤を置いていこうかな?

 そんな考えを持っていたが、作戦の失敗は今後の自分の研究にも影響する。

 渋々説得をするのだった。



「そうそう佐藤、お前には魔王からのアドバイスがあったのである」


「それを先に言ってくれ!」


 怒鳴り過ぎて疲れ気味の佐藤は、コバからそのアドバイスを聞いた。

 半信半疑の様子だったが、上手くいくと言われて、とうとう覚悟を決めた。


「使うタイミングは、そこそこ地面が近付いてからである。まあ、そのそこそこが分からんのだが」


「怖い事言うな!せっかく覚悟を決めたのに」


 愚痴を零しつつも、とうとうヘリに乗り込む佐藤。

 それを見て、すぐさま太田と慶次が乗り込んだ。


「真ん中が太田殿かよ。狭いな」


「重心の問題で、ワタクシが真ん中の方が良いとの事ですので」


「コバ殿。拙者はこっちから飛び降りても構わんでござるか?」


「どっちからでも降りるなら、構わんのである。ただし、降りる時は一声掛けていくのである。いきなり軽くなると、バランス崩して怖い気がするから」


「お前もビビってるんじゃねーか!」


 佐藤のコバへのツッコミは鋭かった。

 自分が散々ビビリ扱いされて、イラッとしていたからだ。


「フン!吾輩はお前達と違って、墜落したら死ぬからな。万全を期すのは当たり前なのである。よし、飛ぶぞ!」





 木と竹で出来たヘリ。

 通称竹ヘリが空へと飛び立った。

 半兵衛は大地から手を振りながら、作戦の成功を祈っていた。


「お、お、本当に飛んだ!」


「そりゃ飛ぶのである」


「拙者、空からの景色を初めて見たでござる」


「ワタクシもです。鳥人族は、この景色が普通なのですねぇ」


「太田殿、寄るな!俺が狭い!」


「飛んでも、やかましい男であるな」


 女三人寄れば姦しいと言うが、男でも変わらないという事だろう。

 見た事の無い景色を堪能する太田と慶次に対し、喚き散らす佐藤。

 そして操縦に集中したいのに、うるさくてイライラしているコバ。

 ヘリの中は、思った以上に緊張感が無かった。



「このヘリという物は、安土でも運用するのでござるか?」


「どうであろう?魔王の許可次第であるな。流石にこれを使えば、安土の城にも一気に最上階まで行けてしまうのである」


「防衛面を考えれば、危険な道具になりかねないという事ですね」


 そんな事を言ったコバだが、別に文句は言わないだろうという判断だった。

 理由は、鳥人族が居る時点で対空防御も城に組み込む予定だからだ。

 それにヘリを操縦出来るのは、現状でコバ自身だけ。

 召喚者に奪われるなら未だしも、安土でヘリを盗む輩は居ないと思われるのが理由だった。


「具申だけはしておくのである。話の途中だが、落下予定地点に着いたのである。用意は良いか?」





「こ、こえぇぇ!!!」


 佐藤が扉を開けようとすると、風で煽られて扉が飛んでいってしまった。

 それを見た佐藤は、顔面蒼白である。


「佐藤殿、早くして下され」


「こら!急かすな!」


「しかし、もう落下地点ですぞ。早くしないと、敵にバレます」


 正論を言われて黙る佐藤。

 だが、怖いものは怖かった。


「うぅ・・・。半兵衛め、恨むぞ」


「そんな事言う前に、さっさと降りるでござるよ」


「慶次ぃ!俺はお前達と違って、身体強化が使えないんだ!落ちたら怪我じゃ済まないだろうが!」


「拙者や兄上の打撃を受けても大丈夫な御仁が、何を言っているのやら。佐藤殿の身体、身体強化を使った拙者達と同じくらい頑丈でござるよ」


「えっ!?そうなの?」


 慶次の言葉に、素っ頓狂な声を出す佐藤。

 しかし時間が経ち過ぎている。

 太田は最終手段に出た。


「えいっ!」


「はっ?」





 太田に両手で押し出された佐藤。

 見事に外へと全身が出た。


「太田あぁぁぁ!!」


 悲鳴のような声で、太田の名前を叫びながら落ちていく佐藤。


「ワタクシ達も行きましょう」


「了解でござる」


「二人とも、グッドラックなのである」


 後ろを向いて親指を立てたコバに、軽く手を振ってから落ちていく二人。


「おぉぉぉ!!!風が凄いぃぃぃ!!」


「確か、全身を広げて・・・風の抵抗が何とかって言っていたような?」


 二人は何も考えずに、直立不動で落ちていく。

 速度が増して、先に落ちていた佐藤に追いついてしまった。


「太田ぁ!テメー、後で覚えてろよ!」


「なるほど。そうやって身体を開くのですね」


「やってみるのでござる」


 二人も全身を広げて、速度を落とした。



「ふー、なかなか気持ち良いでござるな」


「そうですねぇ。魔王様も落下を楽しんだのでしょうか?」


「それどころじゃねぇぇぇ!!城が!城があぁぁ!!」


「本当に元気な人ですなぁ」


 二人の呑気な会話に、佐藤はガチギレだった。

 やはり魔族は違う。

 佐藤は心底思ったのだった。



「さて、もうすぐでござる」


「佐藤殿、何か教わっていたのではなかったか?」


「があぢゃん!俺は落下して死ぬんだぁぁぁ!!」


「佐藤殿!佐藤殿!?」


 パニック状態の佐藤は、話を聞いていない。

 そこに慶次から槍が飛んできた。


「死ぬうぅぅ!アタッ!」


「佐藤!何か教わってただろう!」


「あっ!」


 慶次の声に反応した佐藤は、グローブを下へと構えた。

 そして、初めて言ったセリフを思い出す。


「佐藤、ブロウイング!!」





 グローブから出た風によって、少しだけ落下速度が落ちた。


「これか!」


 少しだけ余裕が出来たのか、先に落ちる形となった太田と慶次を見て、迷いが生じる。

 先に落ちた二人を、風に巻き込むのではないかという事だった。

 一瞬の判断だったが、佐藤は身体を直立にして、再び速度を増す。


「やっぱりこえぇぇ!!それよりも!二人とも、俺の背中に掴まれ!」


「こうでござるか?」


 慶次が佐藤の背中を。

 太田が慶次の背中を掴んだ。


「よし、これで後は俺の覚悟次第。フゥ、めっちゃ心臓が早くなってるのが分かる。だけど頭は冷静に・・・」


 最後の最後になって、落ち着きを取り戻した佐藤。

 今は城内の何処に降りるかまで、自分で分かっていた。


「今だ!佐藤、ブロウゥゥイング!!」





 佐藤の起こした風が、城の外部で吹き荒れた。

 城の中央にある広い部分が目的地だった。


「うぉっ!」


 叩きつけられる寸前で、一瞬身体が無重力状態になる。

 頭から落ちた佐藤だったが、ちょっとした擦り傷だけで済んだ。

 だが、あまりの出来事に呆けていた。


 その横を二人が落ちてきたが、二人も無傷だった。


「佐藤殿、凄いでござるな!」


「ワタクシ達も無傷とは、佐藤殿の判断に感服でしたぞ!」


 二人の声で、ようやく意識を取り戻す事が出来た佐藤。

 自分の周りを見回して、成功したと実感した。


「俺、同じ事は二度とやらねーからな!」


「またまた、そんな事言って!」


「それよりも、城門を開けに行きましょう」


 三人は目的を思い出し、半兵衛が書いた地図の通りに進んで行った。




「この階段を降りた先に、あるみたいです」


 太田の案内に、二人は先行して降りていく。


「くせ者!うわっ!」


 佐藤が即座に殴り倒し、敵の意識を失う。

 慶次もすぐに、側頭部へと石突きを見舞う。


「あった!」


「ワタクシの出番ですね」


 佐藤に地図を渡して、鉄の鎖を巻き上げていく。


「これは確かに、力がある奴じゃないと無理だな。俺と慶次二人でやっても、太田殿一人に敵わないだろうね」


「やはり半兵衛殿の作戦は、いつも的確でござる」


 二人の無駄話を他所に、太田は順調に鎖を巻き上げていくが、異変に気付いたドワーフ達が上からやって来る音が聞こえた。


「やるぞ!」


 太田を残して、階段を上がっていく二人。

 戦闘音が聞こえるが、太田はそれを無視して作業を続けた。



「全部巻き上げましたぞ!」


 上へ向かって叫ぶ太田。

 二人はそれを聞いて、太田を呼んだ。


「装置を壊して、すぐに上がってこい!」


 もう一度鎖を下ろせないように、バルデッシュで装置を破壊すると、太田は駆け上がった。

 すると、既に階段での戦闘は終わっていた。


「外へ出てみよう」



 階段を上がり、城門側の城壁へと向かうと、そこには既に敵がほとんど残っていなかった。


「敵、居ませんねぇ」


「違う。あっちだ!」


 佐藤が指を示した方向には、ドラン達とハーフ獣人の女性達が城内で戦っていた。

 それを見て三人は大声で応援していると、ドランがこっちに気付いたようだ。





「三人とも、よくやった!ここからは我々が暴れるから、休んでいて下され!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ