厩橋城攻略戦
外交。
バスティが帝国の国王として、僕に覚えろと言ってきた。
彼はその為なら協力を惜しまないと言う。
ヒト族の国は帝国以外にもある。
今後は外交面が非常に重要になると思った僕は、素直に頭を下げて教えを請う事にした。
二人での話を終えて、九鬼との相互協力も得られた今、後は攻めるだけ。
そう思っていた。
しかし半兵衛から、状況が芳しくない事を教わる。
装備面での優劣と、門に掛けられた何かしらの施し。
それ等が相まって、厩橋城は難攻不落となっていたらしい。
それを打破するべく作られていたのが、ヘリコプターだった。
試運転をすると、コバが竹と木で作った外装が空から落下していく。
怖い目に遭ったが、彼曰く試運転は成功だという事だった。
完成したヘリを半兵衛に見せると、作戦が決まったらしい。
二方向から挟撃している間に、空から城門を開く三人を降ろす。
そして城門から入った部隊が乱戦を起こしている間に、裏から僕が滝川一益の洗脳を解く為に侵入するというのだった。
しかし、嘉隆は僕と又左が船に乗り込む事に、少しだけ嫌そうな顔をしていた。
「他人が船に乗るのは嫌?」
率直に嘉隆に聞くと、彼女は大きく首を振った。
「そういうわけではないのです。ただ、彼がちょっと・・・」
「何だ!私がまた悪いのか!?」
嘉隆に何かを言われていたからか、少し喧嘩腰に言っている。
たが、そんな事をしていては話が進まない。
「痛い!魔王様、何をするんです」
「まずはちゃんと話を聞こう。それから怒りなさい」
怒り気味に尻尾が振られていたのが、一気に地面へと着きそうになる。
「問題は二点。まず一点目は、槍が帆を破らないか心配です。二点目は、二人が船酔いをしないかが心配です」
二点目は、僕としては問題無い。
だが一点目を回避するとなると、船の端っこで槍を持って、帆に当たらないようにしないと駄目かな。
そうなると、又左は揺れやすい所に居なくてはならないって事か。
うーん、酔いそうだなぁ。
「又左は船酔いとかする?」
「分かりません!今回乗ったのが初めてでしたが、その時は何もしてないので。いざ動くとなると、動けるかは分かりかねます」
「嘉隆はどう思う?」
「そうですね。最悪の場合、秘伝の酔い止めの薬があります。数が少ないのであまり使いたくありませんが、それを飲めば大丈夫かと思われます。それか、いっそのこと盛大に吐いてもらった方が早いですね」
盛大に吐くとか。
槍に吐瀉物が掛かったら、自分で自分の事を怒りそうな気がする。
自分で自分の頬を殴るんだろうなぁ。
「悪いけど、薬をくれると助かるかな」
「分かりました。用意しておきます」
これで作戦の大筋は決まった。
問題は、三人の開門と城門から入る部隊が、どれだけ時間を稼げるかだ。
「ちなみに城門を開く場所は、分かっているのか?」
「それはコバ殿から頂いた、このドローンが活躍しました」
「ドローンまで作ったのか!」
まさか、こんな物まで作ったとは。
見せてもらうと、こっちの方が猫型ロボットが出しそうな形をしていた。
「これを使って中の様子を上空から確認して、怪しい箇所は目星を付けております」
「猫田さんに頼んだ方が早かったんじゃない?」
「それが、門に施された何かが影響しているのか、影魔法では潜入出来なかったらしいのです」
魔法は駄目だが、ドローンのような物理的な物は通すとな?
面倒だから、魔法で城門を破壊しちゃえば良いのにって思ってたけど、敢えて口にしないで正解だったようだ。
「三人にはその付近に落下してもらい、何とか城門を開いてもらいます」
落下?
身体強化をすれば問題無いと言っていたけど、気になる事がある。
「佐藤さんも落下するの?」
「あっ!俺は流石にパラシュート欲しいんだけど!?」
本人も言われるまで気付いてなかった。
だが半兵衛はニッコリ笑顔で、悪魔のような事を言っていた。
「バレるから駄目です」
「おぉい!俺は魔族とは違うんだぞ!パラシュート無しでどうやって降りろってんだ!」
「お任せします。というより、貴方の今の強さなら、問題無いでしょう?」
確かにこの人なら、大丈夫そうな気もする。
又左や慶次と戦っても、多少の傷で済むのだから。
「最悪の場合は、太田をクッション代わりに使って良いから。頑張って!」
「それはそれで微妙なんだけど・・・」
とりあえず乗せちゃえば、問題無し!
空に飛んでさえしてしまえば、文句を言う相手も居ないからね。
レットイットビーというヤツだ。
「まずは城門と裏の川から同時攻撃。ある程度敵が前後に集まったら、上空から三人が落下。そして門を開ける。城門から入ったら、一度船は撤退。門前に敵が集中したら、再度船で裏手へ回り、魔王様達の潜入となります」
「分かった。兵達の損害を考えると、時間制限が必要だろう。半兵衛としては正面の戦闘は、どれくらいが限界だと思う?」
「そうですね。ズンタッタ様達が合流してくれたので、少しは延びました。しかしそれでも、二時間が限界でしょう。それ以上となると、死傷者も覚悟の戦いとなりますが」
「ドラン達はそれでもと言うだろう。だけど僕達は、滝川一益を助けに来たのであって、厩橋を攻略しに来たのではない。だから死ぬ事は無駄だと思ってほしい。自ら死にたいなら勝手にすれば良いが、僕はそれを望まない事は、心に刻んでおけ!」
最後の檄が効いたのか、やる気に満ち溢れている。
少し居心地の悪そうだった九鬼も、今の言葉で一致団結したようだ。
「作戦開始だ!」
本当は真っ暗な夜間が良かったのだが、作戦は昼に開始された。
理由はコバが、夜間飛行には慣れていなかったからだ。
流石に城壁に激突や、関係無い所に墜落はいただけない。
そういう理由で、昼間から城門に攻撃開始した。
ドラン達の数少ない銃撃部隊が、城壁の上に居るドワーフ達を狙い撃つ。
「撃てえぇ!」
「敵が来たぞ!撃ち返せ!」
大盾を構えて撃つ兵と、城壁の上から撃つ兵。
どちらも致命傷は与えられず、ただ弾を消費するだけの展開だった。
「城門を打ち破れ!」
銃声が一時止むと、今度は破城槌が用意される。
移動に使う簡易な車輪と、上部からの攻撃に耐えられるような屋根。
その屋根の下では、力自慢のドワーフ達が一斉に破城槌を押していった。
「真下を狙えぃ!破城槌を壊すのだ!」
守備隊長だと思われる男が、新たな指示を出した。
二度三度と、破城槌を城門へとぶち当てるドワーフ。
しかし城門の裏側には、大きな岩が設置されていて動く気配は無い。
開くには岩を退かし、更に鎖を巻き上げて門を開けるしか無いのだった。
そんな中、守備隊長から破城槌へと新たな攻撃が始まった。
「今だ!油を落とせ!」
壺に入った油が破城槌の屋根へと落ちていく。
屋根に当たった壺は割れて、中に入っていた油が屋根全体に広がった。
「火矢を放て!」
「マズイ!退避!退避ぃぃ!!」
屋根に放たれた火矢が、一気に油へと引火していく。
屋根は燃え上がり、そして下の車輪や破城槌まで、全てを炎が覆った。
銃撃隊を守っていた大盾部隊が、急ぎ破城槌へと近付いていく。
彼等を盾の中へと入れて、すぐさま撤退していった。
「むぅ!やはり正攻法では破れんか」
ドランは破城槌の失敗に唸った。
半兵衛も予想通りといった顔だが、心の中では少しでも上手くいけばという期待が無かったわけではなかった。
「難しいですね。相手の将兵も見事です。今のところは隙が無い」
「裏側はどうなっておるかな?」
「ゆ、揺れる〜!」
又左が長槍を持って端っこに座っているが、やはり端は揺れが大きいらしい。
川幅がそこまで大きくない為、たまに船が何かとぶつかったりしていた。
その度に揺れる船体に、又左はしっかりとしがみついていた。
「ちなみに船からの攻撃って、何が主なの?」
「弓かな。銃を使う事もあるが、水気のある船上では、不発も多い。それなら弓の方が使い勝手が良いのだ。あ、良いのです」
嘉隆は僕に気を使っているのか、敬語を使おうとして言い直したりしていた。
「別に気にしなくても良いんだけど。又左や太田、ズンタッタ達は敬語を使うけど、友達の蘭丸やハクトはタメ口だからね。使いづらかったら、タメ口でも良いよ」
「いや!駄目だ!です。駄犬・・・前田殿達がしっかりしているのに、頭首である自分がいい加減な態度なのは、わ、私が許せないです」
この辺は頑固なんだなぁ。
海の男ではないけど、それと似たような気質なんだろう。
「着きやした。此処を登る事が出来れば、城内に侵入出来まさぁ!」
河童の男達が、気合を入れたねじり鉢巻で、僕達に到着を知らせてくれた。
なんかイメージ的には、祭りに居るテキ屋に近い。
嘉隆はお嬢って呼ばれてるし、そんな間違ってないと思う。
「野郎共!弓を城壁上のクソ野郎に当てやがれ!」
嘉隆の合図で、一斉に弓矢が放たれた。
見上げるような角度に加えて、城壁上という狙いづらい位置。
ほとんどが守備兵達に当たっていなかった。
当たったとしても、ミスリルに固められた装備には痛みも無く、無傷の一言でしかない。
「全然当たってないね」
「め、面目ない・・・」
「仕方ない。少しだけお手伝いをしてあげよう」
(兄さん、あの頭を隠している場所とか、破壊しちゃって)
分かってる!
幸せおっぱいの借りは、ここで返すのが男だ!
「何か要らない鉄をくれ。あの辺りをぶっ壊す」
「壊す?」
「そう。隠れる場所が無ければ、奴等も弓を警戒するはずだからな」
「どうやって壊すんですか?」
俺は鉄の球を作り出して、ぶん投げた。
「こうやって!」
「おぉ!破壊した!」
「これを繰り返せば、ほらね」
隠れる場所がほとんど無くなった。
奴等の姿は丸見えに近いが、それでも倒すのは無理だろうな。
「野郎共!魔王様がやってくれたんだ!射て!」
そう言って矢を放ち始めるも、相手はほとんど気にしていない。
何故ならフルプレートメイルを着込んで、矢など痛くないという感じだからだ。
関節部に当てる以外に、奴等にダメージを与える方法は無いに等しい。
「お前等ぁ!頑張れよぉ!」
嘉隆の泣きの入った声が響くが、全く当たる様子は無い。
そんな中で二人ほど、守備兵を倒す者が現れた。
「やっぱり船の上は不安定で、難しいな。関節部に狙って二回に一回しか当たらない」
「しょうがないよ。僕なんか、五回に一回だよ」
「蘭丸!?ハクトも!コバの護衛は?」
まさか二人とも乗り込んでいると思わなかった。
「ヘリの方にはあの三人が居るから、護衛なんか必要無いって言われちゃった」
「だから手伝ってこいだって。なんだかんだであの人も、結構人使い荒いよなぁ」
愚痴を零しながらも、矢を放って関節部に当てていく。
下から狙うと、大半が上半身しか当たらない。
なので必然的に当たるのは、肩や肘関節が多い。
「何だ!?弓の名手が二人?九鬼に弓の名手が居るなんて、聞いてないぞ!撤退!撤退だ!」
「引いていく!敵が引いていくぞ!魔王様、彼等は一体?」
二人は弓を射るのを止めた。
蘭丸の船上で立つ姿を見て、俺は思い出した。
弓の鍛錬だと言って、練兵場にいつも通っていた事を。
(努力は必ず報われるなんて言わないけど、この姿を見ると言わざるを得ないな)
あぁ、この姿はマジでカッコ良いと思う。
嘉隆への返答は、普通にこう答えた。
「凄いだろう?俺の自慢の友達だ!」