竹で出来ているから
又左と嘉隆は仲が悪いようだ。
メス河童に駄犬とお互いを罵り合っていた。
だが僕達は嘉隆が巨乳美人だとは思いもよらず、僕達は幸せを満喫する事となる。
落ち着いたところで何故、嘉隆がドラン達と協力しないのかを確認した。
すると先代の遺体探しではなく、先代は生きているから下流を探したいという話だった。
寝耳に水の僕達は、何故それを話さなかったのかと再び又左の怒鳴り声が響く。
彼女はそれに対し、滝川一益の重臣であるドランが、本当に味方だと疑わしいという発言をした。
お互いが喧嘩口調になり口論になりかけた時、間に入ったのは帝国の国王だった。
彼は僕の事を煽りに煽った。
ドランと嘉隆の話を聞いた後、僕に何故彼等の戦いに手を出すのかと聞いてきた。
ほぼ一方的に言われてイラッとした僕は、心の中にある言葉をぶちまけた。
他人が怒っていると自分が冷静になる。
たまにあるが、正にそれだろう。
二人ともそれを見た後に、協力を約束してくれる事となった。
国王はその話術でこの場を収めたが、そんな彼は僕にこうアドバイスをした。
信長のように天下統一を目指していないなら、外交を覚えろと。
「外交を担当する人は居るんだよ」
「それは担当をするだけで、決めるのはその人じゃないだろう?彼等を見れば分かるが、全てキミに従っている。他国との外交を間違えれば、それこそ戦争だ。このご時世、難しい外交をその担当者に全て委ねるのか?それは酷というものじゃないかな?」
正論だと思った。
だけどハッキリ言わせてもらえば、ただの学生だった僕達が外交なんてものを教わっているわけが無い。
大学の講義や野球の練習に、他国との外交という事を教わる時間は無いのだなら。
「あまり他国に干渉するのもどうかと思ったのだが、キミはまだ幼いからか、腹芸が苦手なようだね。世の中の大人は、怒りながら心の中で笑っていたりする人も居る。もっと大人にならないと、それこそうちの馬鹿息子のように、搾取される存在としてしか扱われなくなるよ」
「都合の良い扱われ方をするって事ね」
「その通りだ。短い付き合いだけど、私でも彼等の良さは分かったつもりだ。キミという船頭が誤った方向へ進むと、同じ船に乗っている彼等も巻き添えになる。魔王だって人間だ。間違える事はあると思うが、子供だからという事を言い訳にしてはならない。それが王という立場だからだ」
「だけど、そういうのはどうやって覚えるのさ。他の領主は僕に対して協力的だし、他国の人間で会ったのは、ライプスブルク王国という国の王女だけだよ」
「王女?王国の王女と知り合いなのかね?」
バスティが不思議そうな顔でこっちを見てきたが、別に嘘ではない。
何故そんなに不思議そうなのか疑問だが、それは彼の答えにあった。
「今、あの国は大きく揺れているよ。魔族嫌いな王族だったが、誰かが内部から揺さぶりを掛けている。現状維持でヒト族のみとの付き合いをするか、国交を開いて魔族と繋がるか。まさか、キミとその王女がやっている事だとはね」
「というか、アンタは何処でその情報を手に入れている。草津に居ながら、そんな事を知っているのは不自然じゃないか?」
「それは内緒だよ。それよりも、王国との関わりが重要だ。他国の内政にまで影響を与えてしまっているなら、尚更外交を覚えないといけない」
「でもどうやって?」
自分を指差したおっさんが、いつもと違った真顔で言った。
「助けてもらったお礼だよ。それに、キミとは仲良くやっていきたいのも本音」
「それは助かる。先々、クリスタルの産地って言われている場所に行きたいんだけど、門で閉ざしているらしいし。同じ魔族で力ずくとはいかないから、少し困ってたんだよね。だから外交の事、教えて下さい」
僕は頭を下げて、教えを請う事にした。
「さて、内緒話は置いといて。彼等がお互いに協力をするなら、早く解決するんじゃないかな?」
「それはそうだろう。マトモにやり合えば、こっちが負ける要素は無い」
僕は又左や太田の強さを知っているし、半兵衛の知略ならすぐに崩せるとも思っている。
だが、予想だにしない返答が戻ってきた。
「申し訳ありませんが、現状では難しいと判断しました」
「どういう事?半兵衛が難しいって言うなら、無理って事?」
半兵衛の言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。
「あくまでも現状です。問題はやはりミスリルです。帝国や我々の物よりも純度が高く、ハッキリと言って装備の面では全く勝てません。門を破るにしても、その門にすら何かを施されていて、正面から破るのは困難です」
「だから裏から船で攻めていたのか」
河童だからかとずっと思っていたけど、そういう理由もあるらしい。
となると、ドラン達が此処に待機していたのは、あながち間違っていなかったという事か。
「じゃあ、厩橋城は落とさない?」
「いえ、その為の道具をコバ殿が作っております。それを使って、裏から侵入してみせます」
「何作ってるの?」
「ヘリである」
「ふーん、ヘリねぇ。ってヘリコプター!?」
まさかの答えに声が裏返ってしまった。
コバは少しやつれ気味に登場したが、目は爛々としている。
意外と楽しそうだ。
「地上から駄目。船も駄目。それなら空だという結論になりました」
「空ねぇ」
確かにベティ達鳥人族の戦いを見るに、空からの攻撃は有効だと思ったけど、今回は破壊が目的じゃないし。
何か考えがあるのかな?
「言いたい事は分かる。ヘリはだな、厩橋に侵入する為の物だ?である」
「攻撃目的じゃないと?」
「門は破れん。壁は登れんと言われたのである。それなら降下すれば良いのだ。無論、安全は考慮するがな」
「それで、完成したの?」
「お前さん待ちだ。ある程度の外装等は作れたが、肝心な部分はこんな森では作れん。最後は魔法で仕上げた方が良いと判断したのである。動力はクリスタル。猫田から持っていると聞いたからな」
「分かった。ちなみに何でヘリ?」
「飛行機では、その場に留まる事は出来ないのである。降下するならヘリの方が向いている。それに話を聞けば、身体強化すればパラシュートなんか必要無さそうだ」
パラシュートが必要無いとか・・・。
改めて聞くと化物だな。
「じゃあ、完成させに行こう」
「ほとんど完成してるじゃん!」
「だから肝心な部分は、と言っている」
外見は木と竹で出来ている。
肝心な部分って、動力部だけみたいだ。
よくもまあ、こんな物が森の中で作れたものだ。
「以前ヘリの構造は教えた。覚えているな?」
「任せて。ちなみにピストンエンジンとターボシャフトエンジン、どっちが良いの?」
「いや、電動にしよう」
「電動!?」
「燃料変換が電気の方が楽だろう?それにエンジンよりも静音性に優れている。戦闘音が激しければ、気付かれないかもしれない」
なるほど。
そういう理由か。
「どうせそんなに乗せられん。高機動で、燃費悪くても良いのである」
うーん、こんな感じか?
僕は電動機とコンデンサーを作り上げ、それをヘリへと組み込んだ。
「ふむ、完成である」
まさか、この世界でヘリを見る事になるとは。
ツムジが知ったら、うるさいとか怒りそうだな。
「ところで、誰が操縦するの?」
「吾輩である」
「えっ!?」
「失敬な。吾輩、免許持っているのである。昔は海外で移動の際、持っていた方が便利だったからな」
なんとまあ、セレブな答えが返ってきたものだ。
ヘリの免許を持っている人なんか、そうそう知り合う機会は無いと思うが。
「試乗するのである。問題無ければ、作戦に組み込むぞ」
こ、怖かった!
扉がバキッという音と共に落ちていき、風がヘリの中を吹き荒れた。
流石に竹から作ったヘリは軽いから便利だと思ったけど、作りが甘いとすぐに分解してしまう。
「よし、問題無い!」
「おい!扉が落ちて問題無いとはどういう事だ!」
「飛んだであろう?扉など、また作れば良いのである。それに皆を降下させた後に、吾輩が無事に戻れればお役御免なのである。耐久性はそこまで必要無い」
うーん、そういうモノなのか?
操縦する本人が良いなら構わないか。
あとどうでも良い事だが、どうしても聞きたかった事がある。
「何故、木と竹で作ったんだ?鉄だって使おうと思えば、使えたと思うんだが」
「馬鹿を言うでない!竹で出来たヘリコプター。そう、それはタケコ・・・」
「よし、半兵衛に完成した事を報告に行こう!」
やはり、そんな事だろうと思った。
「これは、どうやって飛ぶんですか?」
初めてヘリを見た半兵衛は、どうやって飛ぶか分からないらしい。
確かに鳥のような翼が無いヘリは、見た事が無いとヘリは理解出来ないかもしれない。
「この板みたいな物が高速で回るんだ。揚力ってものが発生して・・・。というか、見た方が早いか」
実際に飛ばしてみると、彼は開いた口が塞がらなかった。
「新しい知識を得るという事が、これほど嬉しいとは。まだまだ私は無知ですね」
そりゃ頭の回転と知識は別だけど、それでも半兵衛が無知だというのはあり得ない。
それを言ったら、南の小さい村の村長だった又左とか、洞窟に篭ってずっと字を書いていた太田はどうするって話だ。
「それで、このヘリを使っての作戦は上手くいきそうか?」
しばらく考え込む半兵衛に、周りの連中は静かに固唾を飲んで待った。
「門を開けるまでは大丈夫です。しかし、中に入って滝川様を探す。そして洗脳を解くという事が出来るか。それは時間との勝負になります」
半兵衛でも五分五分だと言う。
「そんなに難しいか?」
「はい。戦闘力の無い私が言うのも申し訳ないのですが、おそらく質と量共に、上野国の軍に負けています」
「そこまで差があるの!?」
「魔王様が前線に出れば逆転しますよ。でも洗脳を解けるのは、精神魔法が使える魔王様のみ。しかも長期に渡って洗脳されている状態で、どれだけ魔力を消費するのか分かりません。それを考慮すると、戦力に組み込むのは愚策です」
又左と太田が居ても駄目なのか。
結構強敵なんだな。
それを考えると、少し気になる事がある。
「あのさ、最初は僕は草津からに来ないつもりだったけど、その時はどうしてたの?」
「撤退ですね。ドラン様には申し訳ないですが、滝川様を助け出すというのであれば、不可能でした。厩橋城を落城させるだけなら、おそらくは可能です。しかし此方も大きな被害を受けて、勝ったとは言えないでしょうね」
「結果的に、バスティの一言が無ければ、撤退していたって事か」
「ハッハッハ!私の運は世界でもトップクラスですよ〜!」
運がトップクラスって、誰と比べてるんだ?
ホントこの人、スイッチが切り替わらないと変なおっさんだな。
「半兵衛殿、そろそろ作戦の内容を」
「そうですね」
馬車の中に居る国王と僕の前に全員が座り、馬車の前に立つ半兵衛が作戦を話し始めた。
「まずこの作戦は二方向から同時に攻めてもらう間に、ヘリコプターから城門を開ける為の人員を降下します」
「ヘリから降りるのは?」
「三人です。慶次殿、そして太田殿と佐藤殿です」
「私は!?」
又左は、まさか自分が外されるとは思っていなかったらしい。
少し戸惑っていた。
「又左殿は別働隊です。後ほど説明します。最初は慶次殿とどちらにするか迷ったのですが、その長槍はヘリに積み込めないので、必然的に慶次殿に決まりました」
確かに、あの長槍はヘリから完全にはみ出す。
下手したら、ヘリのバランスを崩す要因にもなり得る。
そんな危険は、最初から排除しなければならない。
「でも、太田殿が選ばれるのもどうかと思うのですが。彼は身体が大きいですし、ヘリに乗り込むのには適さないのでは?」
「ドラン様の疑問は分かりますが、問題は門を開ける為に回す鎖ですね。これは本来、複数人で回し上げます。しかし少人数でやるとなると、力のある方に任せるしかありません。それを考えると、太田殿の力が必要となるのです」
「なるほど。あい分かった」
「そして二方向の攻撃。裏手からは船で、城門をドラン様ドワーフ軍にやってもらいます」
「オレ達も船から、城内に入っても構わないのか?」
嘉隆はそんな事言っているけど、船が炎上したのを考えると、そんな余裕あるのか?
「はい、むしろ城門よりも裏側が重要になります」
「ほう!オレ達が重要とな!?」
嘉隆は少し嬉しそうだ。
だがその後の言葉に、一瞬だけ嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。
「船には又左殿とハーフ獣人部隊、そして魔王様にも乗船してもらいます」