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バスティの話術

 船が燃えている。

 貴重な船を戦闘に使う。

 それは船を作る事が出来る者達、九鬼の連中だった。

 何故このような事になっているか、それは国王の影から出てきた猫田が説明すると言う。


 開口一番、ドランの謝罪から始まった。

 彼の話から、九鬼が滝川と揉めているのは間違いなかった。

 九鬼が揉めている理由は、頭首である九鬼嘉隆が亡くなった事が原因だが、彼は河童なのに川で流されて亡くなったらしい。

 それだけで驚きだが、彼の遺体の捜索を断られた事で、九鬼嘉隆を継いだ次代の頭首が激怒した。

 捜索をさせない滝川へ攻撃を開始した九鬼だが、同じ敵を相手にするなら協力すれば良い。

 だがドラン達ドワーフの存在がネックとなり、九鬼が協力を拒否した。

 ドワーフの協力は拒否しても、他の種族なら。

 そういう理由から、ドランの頼みで又左と半兵衛が九鬼へと出向いたのだが・・・。

 彼等は何もするなと言われ、不満気に帰ってきた。

 そして二人と共に来るはずだった四代目九鬼嘉隆が、遅れてやって来た。

 又左への罵倒が聞こえてきたが、それは口の悪い女性の声だった。





「出たな、メス河童!」


 又左も負けじと嘉隆へ返す。

 睨み合いが続いたところで、ドランが仲裁に入った。


「やめてくれ!キミ達は敵同士ではないだろう!」


「味方同士でもない!」


「駄犬と同じ意見なのは気に食わんが、その通りだ」


 なるほど。

 猿ではないが、犬猿の仲というヤツか。

 しかし、この人は何と言うか・・・。

 目のやり場に困るな。


【見た事無いくらい大きい胸に、サラシだからな】


 それに加えて、下もピチピチのパンツだ。

 下手な水着よりエロくて、こんなの見てくれって言ってるようなものだろ。


【長可さんは美人だけど、また違ったタイプの美人だな。だけど、又左は全く興味無いか】


 そういえば河童なんだよな?

 頭に皿なんか見えないんだけど。

 ショートヘアーなのに隠れてないのは、皿が無いのか?


「何だこのガキは?人の事をジロジロと見て」


「あぁ、悪い。皿が見えないなと思って」


「皿?見えないようにしているからな。見たいのか?」


「見たいと言われれば、見たいかな?」


「そうか。じゃあ!」


 オオゥ!

 これは・・・。


【おまっ!ズルいぞ!羨まし過ぎる!】


 なんと、抱き抱えられてしまった!

 そのまま肩車をしてもらったのだが、足にその胸が当たっている。

 僕は今、初めてこの姿になって良かったと、心から、心から思う!


【頼む!俺にも!俺にもその感触をぉぉぉ!!】


 分かっている。





「ふ、フオォォォ!!」


「ど、どうした!?泣き始めたぞ!?」


「いや、何でもない。俺は今、新しい扉を開けたんだ」


 おっぱい万歳!


(巨乳万歳!)


 俺は今、足が幸せ過ぎて立てそうもない。

 やっぱり代わってくれ。


(分かる。分かるぞ、その気持ち!)





「フゥ。これが皿か。小さいね」


「まあな。本当は大きな方が、見栄えは良いと言われているが。その分弱点を晒す事になるし、このままで良いと思ってるよ」


「そうなんだ。わざわざ見せてくれて、ありがとう」


 肩車から下ろされた僕は、幸せな時間を提供してくれた事もあり、丁寧にお礼を言った。


「それで、この子達は何者なんだ?」


 この子達?

 後ろを振り向くと、ゴエモンも来ていた。


「俺、ゴエモン!姉ちゃん、スゲー美人だな!」


「美人!?バッ!大人を揶揄うんじゃない!」


 あら?

 顔を赤くして照れてしまった。

 こんな格好しといて、性格はウブなのね。


「ゴエモン!今から大事な話するみたいだから、ちょっと離れていような」


 険悪なような少し和らいだような、そんな空気を察知したイチエモンはゴエモンと去っていった。


「ゴホン!それで、お前は行かなくていいのか?」


 わざとらしい咳でごまかしているが、顔はまだ赤い。

 あんまり憎めるタイプじゃなさそうだ。


「貴様!魔王様に対してお前だと!?万死に値する!」


「うるさい駄犬!ん?魔王?」


「あ、どうも。魔王やってます、阿久野です。ついでに安土の領主です」


「・・・本物?」


「本物」


 信じられないのか、周りに居る人達に聞いて回っている。

 近くの人に聞きまくったからか、ようやく信じる気になったようだ。


「こんな小さいのに魔王様だったとは!オレ、肩車とかしちゃってごめんなさい!」


「いやいや!良いよ。むしろ嬉しかったので、全然気にしないで。もっとしても良いのよ?」


「肩車してもらうのが嬉しいんですか!?では、ワタクシがやりましょう」


 その言葉とほぼ同時に、後ろから太田に掴まれた。

 無理矢理に肩車をさせられたが、嬉しくねぇ・・・。

 僧帽筋が大き過ぎて、むしろゴツゴツしてキモい。


「話しづらいので、下ろしてもらえますか?」


「何故に敬語!?」





「さてと、はじめまして九鬼嘉隆」


「は、はじめまして」


 何故そんなに緊張するのかな?

 さっきまでの勢いは何処へ行ったんだろう。


「お爺さんの話は聞いたよ。単刀直入に聞こう。ドラン達とは共闘出来ないの?」


 やはりそこは譲れないのか。

 少し顔が強張った。

 そこまで嫌な理由が分からない。


「オレは、じいじは死んでないんじゃないかって思ってます」


「え?」


「足を滑らせたのは馬鹿だと思う。だけど、じいじは九鬼で今でも一番泳ぎが上手いんだ!だから滝に落ちたくらいじゃ、死なないと思う。いや、思うんです」


 死んでない?

 じゃあ、何で九鬼嘉隆を継いだんだ?


「お前、そんな重要な話を何故しなかったんだ!」


 又左が声を荒げて言うと、これまた売り言葉に買い言葉。

 嘉隆も怒鳴り気味に返した。


「お前達がドワーフと通じてないか、信じられないからだ!現に此処に、ドワーフ達が居るじゃないか!オレは子供の頃に会ってるから、この人を知ってる。滝川一益の部下だって事をな」


「だからって、あの城をお前達だけで落とせるのかよ!」


「水上なら負けない。だから船を出している」


「ハッ!それで貴重な船を燃やされていれば、世話無いな」


 又左の言葉に唇を噛みしめながら、悔しさを堪えているように見える。

 これは言い過ぎると、泣いちゃうんじゃないだろうか。


「ストップ!ストーップ!感情的になると、本当に言いたい事が言えなくなるから。まずは落ち着こうじゃないの。ね?」


「ハァ」


「アンタ誰?」


「あら?せっかく止めてあげたのに、その言い草はちょっと傷つくわ〜」


 二人の間に立った国王が、ヘラヘラと笑いながら答えている。

 それを見たズンタッタ達が、再び両脇へと走る。

 そうはさせん!


「あ、この人は帝国の国王ね。バスティアン・なんちゃら・ドルトクーゼンさん」


「バスティアン・ハインツ・フォン・ドルトクーゼンね。長いからバスティで良いよ〜。よろしくね〜」


「へ?国王?」


 仲の悪い二人が、声を揃えて言った。

 そして両脇へと急いでいたズンタッタ達は、再び戻っていくのが見えた。

 肩を落としていたが、お前達はそんな事がしたいが為に助けたのかと言いたい。


「じゃあ、ちょっと話を整理しようか」





「まずは色っぽいお姉さんの九鬼さんね。貴女はお爺さんである先代の九鬼嘉隆さんが、まだ生きていると思っている。それが下流である上野国に流されて、今は何処かに居ると考えている。それで間違いない?」


 嘉隆は頷き、その大筋を認めた。


「じゃあ次はこっちサイド。まずはドワーフの、何さん?」


「ドランです」


「ドランさんね。彼は滝川殿の重臣だよね?確か、一度だけお会いした気がするよ。その時は名前を聞いていなかった記憶があるけど。彼は、滝川殿を洗脳から解き放ちたい。合ってる?」


「合ってる合ってる」


「それじゃマオー、キミは?この獣人の彼等は、キミの部下だろう?という事は、彼等はキミの指示で動いている事になるわけだ。キミは何の為に、この戦いに手を出しているんだい?」


 何の為?

 ドラン達に頼られたから?

 違うな。

 長浜でのテンジ達との戦いの流れ?

 そんなついでみたいな話じゃない。

 滝川一益を助けて、恩を売りたい?

 そこまで打算的に考えていなかったはず。


 あれ?

 何の為って改めて聞かれると、答えられないぞ。


「どうした?話せないのか?」


 口調が少し冷酷な感じがするが、そんな事はどうでも良い。

 答えられない事が、僕の中では大きな問題だ。


「魔王様!」


 答えられない僕に、ドラン達が不安そうに見ている。

 クソッ!

 何でこんな事で、追い詰められないといけないんだ。


「キミは、なんとなく介入したのか?」


「違う」


「じゃあ何故だ?キミが出しゃばる理由は無いだろう」


 何故、僕がコイツにこんな風に問い詰められないといけないんだ!


「キミは単なる好奇心で手を出しているのか?」


「うるさい・・・」


「ん?」


「うるさい!黙って聞いていれば何なんだ!」


 もうどうでもいい!

 思った事、全部ぶちまけてやる!





「良いか?ドラン達とは長浜で会った。あの時は秀吉を助けるのに、ドラン達にも手を貸してもらったんだ。僕は直接関係無いが、それでもドランがテンジ達の為に戦ってくれた事は、嬉しかった」


「それが理由?」


「違う!それに滝川一益は洗脳されているって話だ。それによって帝国にミスリルが大量に流れている」


「じゃあ、そのミスリルが狙いかね?それなら滝川殿を倒して、ドランくんを領主に据えた方が、キミには得じゃないか」


「そんな事はドランが望んでないだろうが!あーもう、うるせーな!」


「怒ってる?」


「怒ってねーよ!良いんだよ!僕が助けたいから助ける。魔王だから、魔族が困ってれば助けるで良いじゃねーか!洗脳された滝川一益を洗脳から解く。九鬼嘉隆の爺さんも助ける。面倒だから、同時にやれば良いんだよ!これで良いか!?おっさん!」


「おっさんって・・・。確かにキミからしたら、おっさんだけども。それで、今の言葉を聞いた二人の感想は?」


 凹んでいるように見せておいて、ドランと嘉隆に聞いていた。



「え?そりゃ私は九鬼殿に、若い時からお世話になりましたから。生きている可能性があるのなら、一緒に探したいと思っておりますが」


「オレ、私もそうですね。洗脳なんて状況から脱すれば、祖父の場所を教えてもらえるかもしれないし」


「だったら、二人とも協力した方が早いんでないの?私はそう思うんだけど。どうなのかなぁ?」


「えぇ、私としては最初からそのつもりです」


「オレも、それで祖父が見つかるなら」


「ハイ〜、これで仲直り〜。握手握手。二人とも良かったね〜」






 何だこれ。

 知らぬ間に協力する方向になったけど。


「あ、ついでにキミも仲直りしようね〜」


 又左の手を取り、嘉隆の手と重ねた。


「うぐっ!あ〜、私も言い過ぎた」


「オレも、厳しく当たって申し訳ない」


「良いねぇ良いねぇ。私もこんな美人と握手したいなぁ」


 おっさんはそんな事を言いながら、嘉隆の手を両手で握っていた。

 ちゃっかり触ってるじゃねーか!


「バスティアン様。そのような事を仰っていると、王妃に・・・」


「オゥ!今見た事はシークレットですよ〜。皆、お口にチャックでよろしくね〜。ズンタッタ!ビビディ!お前達は分かっているな?じゃないと私、本当に帝国に戻れないから・・・」


 最後だけは本音っぽい言い方だった。

 どんだけ恐妻家なんだよ。

 ちょっと気になるわ。



 それよりもだ。


「ちょっと言い過ぎた。おっさん、いや国王か。凄いな」


「何が?」


「何って、僕に矛先を向けた事で二人に妥協とか不満を持たせないで、仲裁したじゃないか。最初はイラッとしたけど、今となっては凄いと思ったよ」


「まあね。片方が折れるしかないような場合、後々で気まずくなるから。あの場合、ドランくんが折れたとして先代九鬼嘉隆を見つけたとしても、今度は九鬼がドランくんに頭が上がらなくなる。そんな関係が長く続くと、今度は全体的にそのギクシャクした関係が広がるんだよ」


「なるほど。勉強になります」





「マオー、いや魔王。キミは魔族を統べるなら、今後は外交も覚えるべきだ。信長のように天下統一したいのなら、話は別だがね」

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