河童の川流れ
僕の魔法は少なからず、敵にも味方にも影響を与えたようだ。
大男は躍起になって壁を壊そうと、ボールを打っている。
そしてイチエモンとゴエモンは、無詠唱で魔法が使える事に驚いたようだ。
相手を倒す算段は着いた。
三人に絶縁シートを渡し、感電しないように身体を覆った。
あとは電気を流すのみ。
とりあえずクソガキやら何やら色々言われたので、壁越しに悪口を言うだけ言って、放電までのカウントダウン。
途中で相手に合わせるのも何だなと思って飛ばしたが、僕達に関係は無い。
二秒ほどやられるのが早くなるだけなんだから、文句は言わないでほしいものだ。
洞窟へ戻ると、国王一派が出迎えてくれた。
天気も良くなりそうで、翌日には出発出来そうだという連絡もあり、戦勝報告もそこそこに休む事にした。
厩橋の近くまで行くと戦闘が行われていた。
しかしその戦闘は、川の近くという思ってもみなかった場所だった。
城から煙が上がっているのかと思っていたのだが、ゴエモンはそれが違うという。
燃えているのは、川に浮かぶ船だと。
「船!?船って海に出れる船か!?」
「海?そんな場所、行けるわけないじゃん。川を渡る為の船だよ」
それって、船というよりボートみたいなレベルかな?
それとも屋形船?
話の内容からするに、そんなに大きくなさそうだ。
「船なんか誰が持ち出したんだろう?」
「そうだな。船って貴重だからな。戦闘で使う馬鹿は、そんなに居ないと思うのだが」
「船って貴重なの?」
「造船、と言えば良いんですかね?船を作る技術は、まずヒト族にはありません。そして魔族でも、数が限られております」
「ドワーフは?」
「彼等は金属鍛治が主です。船は門外漢に当たると思います」
という事は、ドワーフが船の持ち主という可能性は低いよな。
自分達が作れない貴重な物を、わざわざ戦闘に持ち出すはずが無い。
という事は・・・。
「アレは、九鬼だな」
なぬっ!?
僕のセリフが取られた!
「九鬼?河童の九鬼ですか?」
「帝国も彼等から船を譲ってもらったからね。高かったけど、とても良い船だったよ」
なるほどね。
知らない仲ではないという事か。
「今言った通り、九鬼が正解だろう。自分達で船が造れるなら、壊れても問題無いわけだから」
「流石はマオー。私と同じ考えだねぇ。ただ疑問なのは、九鬼と滝川は元々親交が深いと聞いていたけど。何が起きているのかな?」
「仲違いした?」
「どうなんだろうね」
「それについては私が説明します」
「おおぅ!」
国王の影から、猫田さんが出てきた。
メイドは武器を構えたが、自分達を助けに来た者と同一人物だと気付き、すぐに下ろした。
国王はすぐに後ろへ飛び下がったが、予想より身軽だった。
多分四十代後半だと思うんだけど、世のアラフィフはこんなに身軽ではないと思う。
「一度離れましょう。あの場には、又左様と半兵衛殿がいらっしゃいます。説明をする為、我々が隠れている森へ案内します」
猫田さんについて行くと、十分足らずでドラン達と合流出来た。
「魔王様、申し訳ございません」
第一声がドランの謝罪だった。
何やら気まずそうな顔をしている。
「ドランが何かしたのか?」
「いえいえ!それがその・・・」
何か言い淀んでいるけど、何が原因でこんな所で待機になっているんだ?
「マオー。私も自己紹介したいんだけど、良いかなぁ?」
「この方は?」
ドランが尋ねると、それを察知してかズンタッタとビビディが颯爽と両脇に立った。
「控えい!控えおろう!」
「此方に座すお方をどなたと心得る!」
「この人、帝国の国王ね」
「ちょっ!?」
なんか見た事あるシーンになりそうだったので、すぐさま紹介しておいた。
「ハ〜イ、バスティアンだよ〜。バスティって呼んでくれると喜ぶよ〜。皆さんよろしくね〜」
物凄く緩い空気になったが、これくらいの方がドランも話しやすいかもしれない。
空気を読んで、とは言えないだろうけと、かなり助かった。
「この人が帝国の国王なんだ。思ってたのと違うね」
「俺も思った。あの魔族に何かとありそうな王子の親だから、俺達と会ったらもっと気まずい雰囲気になるかと思ってた」
「いやいや〜、私は魔族と仲良くしたいなって思ってるよ。それを息子が嫌がって、草津に送られちゃったんだけどね」
簡単に言ってるけど、息子に城を追い出されるってよっぽどだと思うのだが。
そんな雰囲気を微塵も出さないのは、王としてのプライドかな?
それとも、そこまで深く考えてない?
「悪い人じゃないから。仲良くしてやって。あと、しばらくは安土に住む事になると思う。商売とかするみたいだから、興味ある人は話してみて」
「国王が商売!?」
「そうだよ〜。マオーにおんぶに抱っこは、カッコ悪いでしょう?だから自分の生活費くらいは稼ぐつもりだよ〜」
「国王なのに自分で稼ぐのか。カッケーな!」
「この子は?」
ドランが子供が居る事に驚いている。
少しは気が紛れたか?
「元山賊の石川一家だ。この子はゴエモン。こんな子供だが、僕も一杯食わされた。馬鹿に出来ない能力だから、気を抜くとやられるぞ?」
「ハァ!?お前負けたの?」
「負けたというか、まあやられたよね・・・」
そんな率直に聞くんじゃないよ!
皆が見ているというのに。
「でも、魔王様はスゲーんだぜ!眠らせたと思ったのに、すぐに起き上がって、アニキ達が一瞬でやられちゃった。それに魔王様は、雷神様なんだぜ。知ってたか?」
フッフッフ。
雷神という響きはカッコ良い。
もっと言ってくれたまえ。
「雷神?また変な事言われてるね。それよりも、ドランさんが何か言いたそうだから、聞いてあげてよ」
ハクトの一言で、雷神は流されてしまった。
その名の通り、一瞬轟いただけで終わった。
【上手い事言うなぁ】
嬉しくないよ。
それより、ドランは何が言いたいんだろう。
そっちが最優先だな。
「私が頼んで、待機してもらっているのです」
此処に居る理由。
それはドランが仕組んだ事らしい。
「何があった?」
「厩橋は見られましたか?」
「川の方で煙が上がってた。アレは誰?」
「九鬼です。九鬼の一族です。ただし、頭領は以前と違います」
「九鬼って滝川と仲良かったんじゃないの?何故それが、戦う事になってるんだ?」
「私も知っているのですが、九鬼嘉隆と滝川一益は釣り仲間でした。とても仲が良く、何かしら時間が出来ると釣りに行ってました」
釣りかぁ。
子供の頃以来やってない気がする。
大人になっても趣味が合う人が身近に居るのは、結構羨ましいかな。
「それで、何で揉めてるんだ?」
「揉めている理由は、九鬼の爺さんが亡くなった事が原因です」
「死んじゃったの!?」
「孫によると、足を滑らせて川に流されたとか」
んー?
ちょっと待てよ。
九鬼嘉隆って、河童の爺さんじゃなかったか?
それで船持ってて、泳げずに流されて亡くなった?
「下流で見つかったとかは?」
「下流は滝だったらしく、おそらくは生存は難しいだろうと」
完全に河童の川流れだな。
油断してると駄目っていうのが、最近負けた僕等には身に染みて分かる。
【確かになぁ。俺達も油断し過ぎてたのかもしれない。九鬼の爺さんと違って生きてるだけ、俺達は運が良い。気をつけようぜ】
そうだね。
本当にそう思うよ。
でも、それで亡くなったから揉めるって、理由が分からないな。
どういう事だろう?
「九鬼嘉隆が亡くなったのは分かった。でも、滝川に攻める理由にはならなくないか?」
「理由としては二つ。一つは、九鬼嘉隆の遺体を探そうと、下流の捜索をした事です。川の下流は上野国の領内。だから許可を得てから捜索をしようとしたところ、なんと滝川側から拒否されたそうです」
「それはちょっと酷いね」
「それに怒った孫である現当主。四代目九鬼嘉隆が、滝川一益に理由を聞こうとしたらしいのですが・・・。死んだ者には興味が無いと、突っ返されたそうです」
仲が良かったはずの人にそんな言い方されたら、そりゃ怒るわ。
しかも遺体捜索くらいは、別に良いと思うし。
何かしら、川を探されると困る事でもあるのか?
とりあえず理由は分かった。
「でもさ、何故協力しなかったんだ?」
「それは私達が理由です・・・」
「ドラン達が?」
「私は領主である滝川一益の重臣として、四代目九鬼嘉隆に知られております。それ故に、そんな者の力を借りたくないという事でして。私としても九鬼の爺様にはお世話になったので、せめてドワーフ以外の者達を手助けにという事で、又左殿と半兵衛殿が加わったのですが・・・」
「でも、船燃えてたみたいだけど」
「負けてるんでしょうな・・・」
又左と半兵衛ならと言いたいところだが、今回は駄目だったか。
それに又左が船に乗ってても、あまり役に立たない気もするし。
揺れる船の不安定な足場で、あんな長い槍を振り回せば、もっと揺れるだろう。
それに限られたスペースである甲板で、あの槍は邪魔になりかねない。
多分、何もするなと言われている気がする。
半兵衛に至っては、新参者が命令するなと言ったところか?
アドバイスしても、言う事なんか聞いてくれないんだろうな。
「話は分かった。それで、九鬼のやりたいようにやらせるのか?」
「いや、流石にもう時間切れです。魔王様がバスティアン殿を助け出しているというのに、我々は未だに厩橋城を攻略出来ていない。この時点で半兵衛殿の作戦にも支障が出ているやもしれません。我々は九鬼が何かを言ってきても、厩橋攻略に乗り出します」
ドランの言葉に、待機していたドワーフ達も一斉に賛同していた。
やはり目の前まで来て何もしていないのは、彼等にとっても苦痛だったんだな。
「それで、九鬼と話をするんだろう?」
「はい。夜になったら、又左殿と半兵衛殿を連れて、この森へ来る事になっています」
じゃあ、その時に僕とも話す機会があるな。
夜までは少し休ませてもらうとしよう。
「魔王様、二人が戻ってきました」
ヤバイ!
笑いそうだ。
「ま、又左、大丈夫か?」
「久しぶりにお会いしたのに、こんな体たらくで申し訳ありません」
「いや、それよりも尻尾が・・・。大丈夫なのか?」
尻尾に火が付いたんだろう。
毛が縮れている。
爆破コントの頭みたいになっていて、しかも尻尾が悲しそうに垂れているから、余計に笑いを誘っているように見える。
「痛みは無いのですが、こんな風になってしまって・・・」
「プッ!駄目だ!」
笑いを堪えきれず、とうとう吹き出してしまった。
怒りはしなかったが、やっぱり凹んでいた。
「半兵衛は・・・話すら聞いてくれなかった感じか?」
「その通りです・・・。炎上する船に乗る為だけに、我々は参加したのかと、疑いたくなりました」
予想していた通りの展開だったが、二人は不満たらたらだ。
ドランも申し訳なさそうにしている。
それを感じてか、二人ともドランには話を振らないのでありがたいとも思うが。
本人としては、むしろ罵倒された方が気が楽かもしれないな。
「九鬼とは一緒に来てないの?」
「燃えた船で壁に激突しに行きましたよ」
「ハァ!?」
何処の公国の坊ちゃんだよ!
死んだら、サングラス掛けた男に坊やだからさって言われるだけだぞ。
【それ、この場に居る人で通じるの、佐藤さんがギリだぞ。むしろ知らないまである】
なんだと!?
じゃあこのネタはやめておこう。
「死んでないよな?」
「泳げるから、死なないんじゃないですか?」
うわぁ、凄いいい加減な答え。
もう興味ねぇよと言いたげな感じだな。
そこまで又左は、嫌いになったか。
「うるさいぞ、この駄犬!水の上じゃあ何にも出来ない奴が、偉そうな事言ってんじゃねぇ!」
又左達の後ろから、大声が聞こえてきた。
だけど、この声って・・・。
「九鬼嘉隆を継いだのって、女の人?」