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裁きの雷ではない

 追手が来ている。

 しかももうすぐ見つかる可能性がある。

 ゴエモンからの連絡に、国王は理由を指摘。

 称賛を浴びる国王に対して、僕はゴエモンからガキ扱いされる事となった。


 二十人前後の相手に対して、僕は佐藤とイチエモン、そしてゴエモンの四人で対応すると伝えた。

 ゴエモンが同行するのは、彼に僕の凄さを見せる為だ。

 そして万が一を考え、イチエモンに護衛をさせる。

 完璧な作戦を立てた僕は、洞窟から出ていった。


 グローブの力で凍らせて、相手をタコ殴りにする。

 一見すると卑怯極まりないが、これは戦いなのだ。

 しかし佐藤は、雨と氷のダブルコンボで踏ん張りが利かないと言う。

 時間を掛けて相手を倒していると、一人の大男が氷を打ち砕いた。

 テニスラケットで剛球を打つ男に、兄は対抗心を燃やす。

 そして僕の代わりに、あの大男の相手を始めた。


 サーブを打ち返した兄は調子に乗って挑発を繰り返した。

 逆に冷静になっていく彼に、兄は変化球を打たれて顔面にヒットしてしまう。

 木に叩きつけられた兄は、気絶していた。


 仕方ない、ここで選手交代。

 そしてスポーツの時間は終わりを迎えた。





 今まで打ち返していたのに、今度は魔法でボールを防ぐ。

 予想外の行動に、大男も戸惑いを隠せていない。


「スッゲー!アニキ、今のって詠唱してないよ。無詠唱ってヤツだよ」


「あ、あぁ。そういえばそうだな」


 突然のスタイル変更に、イチエモンも戸惑っていた。

 身体強化で、無傷で相手を倒す事が出来るのに、更には無詠唱で魔法を操る。


「魔王様って、やっぱスゲーんだな」


「俺も今の魔法には驚いたよ。俺達、あのまま抵抗していたらどうなっていたか。今更だけど、誰も傷つかなくて良かったと改めて思う」


「アニキ?」


「ゴエモン、あの人は凄い。絶対に怒らせちゃ駄目だぞ?」


「分かった!」


 そんな事を言われてるとは露知らず。

 僕は彼を倒す算段を考えていた。


「あ、そういえば・・・」


 背負っていたバッグをゴソゴソと漁ると、コバから渡されたある道具を取り出す。


「あ〜、二枚しか入ってないのか。まあイチエモン達は二人で使ってもらおう」


 この間にボールが何球か飛んできたが、全て壁に阻まれている。

 焦った相手は、何度も豪速球を打ってきていた。


「何だよ!全然壊せないじゃねぇか!」


「もう少し待ってね。もうすぐ全員、まとめて倒すつもりだから」


「このクソガキっ!」


 頭に来てるのか、コントロールがいい加減だ。

 いろんな所に当たっているが、鉄球はめり込むか弾き返されてその場に落ちている。

 その間に佐藤の元へ行き、バッグから取り出した物を手渡した。


「佐藤さん、コレ被ってね」


「ん?コレってコバさんの作ったアレ?」


「そうそう!何の役に立つんだよ!って思ったけど、今考えるとこういう時だなと思った」


 そのままイチエモンにも手渡し、ゴエモンと二人で被れと伝えた。


「何の為にですか?」


「んー、死なない為?死ななくても、動けなくなるかもしれないから」


「死!?全力で被ります!」


「魔王様!もっとスゲーところ見せて!」


 ありゃ?

 急に態度が変わったぞ?

 何がキッカケだろう。

 分からんけど、凄いと思ってくれたなら都合が良い。

 よーし、もっと凄いところ見せちゃうぞ!


【お前、そういうところは調子良いよな】


 あ、起きたんだ。


【俺、やられちゃったかぁ。悔しいな】


 でも咄嗟に身体強化してくれてたから、気絶した程度で怪我は無いよ。


【そうか。俺、何でやられたの?】


 多分だけど、変化球?

 バウンドしたボールが、頬に当たったっぽいね。

 鞭打ちとかにもなってないし、特に問題無い。

 悪いけど、今回は僕がやるよ。

 ゴエモンにやられた時は、代わりに頑張ってもらったからね。


【うーん、リベンジと行きたい気持ちもあるけど、あんまり時間も掛けられないしな。頑張ってくれ】





 この土壁も少し危ないな。

 水気を含んでいるから、泥で勢いが無くなっている気もするが、少しずつ下に落ちて薄くなっている。


「阿久野くん!準備出来たよ!」


「俺達もよく分からないけど、被りました!」


 三人がシートを被ったのを見て、僕は準備に入った。

 念の為、少し離れていてもらおう。


「足下も気をつけて。濡れない所へ移動してくれ」


「木の上とかで良いかな?」


「木の上は駄目だぞ!むしろ危ない!」


「え?じゃあ何処へ行けば・・・」


 よくよく考えると、ずっと雨だったからなぁ。

 そんな場所無いか。

 僕の近くが安全か?


「よーし、とりあえず後ろへ集まれ〜!」


 イチエモン達は言われた通り、小走りで後ろに回った。

 そして佐藤さんも、フリージングで再び凍らせてから、すぐに後ろへ走ってくるのが見えた。


「準備は良いね。行くよ!」





「クソガキ!横へ移動すれば横から壁が出てくるし、どうしようもねぇ!逃げるだけかよ!」


 大男からの罵りが聞こえるが、そんなもんは無視である。

 というより、もう準備は出来た。

 ただし、罵りには罵りで返す!


「召喚者二人も居て、壁が破れないの?プ〜、だっさ〜。背が高いだけで、デクの棒って呼ばれてない?」


 よし、言いたい事は言った。

 さらば、帝国兵。


「クソガキが!絶対に手足の骨バキバキに折って、泣かせてやる!」


「そんな事をする暇は無いと思うけどね。さてここで、理科の問題。水に濡れたまま電気を流されると、どうなるでしょう?」


「は?」


「はい時間切れ〜。答えは感電でした〜」


「おい!そんな事したら、お前達だって無事じゃ済まないぞ!」


 壁越しにごちゃごちゃ言っているが、そこは既に対策済み。

 風魔法で服を乾かし、絶縁体のシートで身体を覆う。

 あとは壁の向こう側へ向かって電気を流せば・・・。


「運が良ければ生き残れるよ。それでは、ファイブ、フォー、スリーゼロ!レッツ放電!」


「おまっ!ツーとワンが無っ!ギャアァァァ!!!」


 バチバチッという音が向こうから聞こえる。

 それに合わせて、幾つもの何かがドサドサと倒れた。

 巻き込まれ感電は嫌なので、しばらくは様子見だ。


「もしかしたら動ける奴も居るかもしれないから、佐藤さんは警戒よろしくね」


「あ、あぁ。しかしえげつない攻撃だな。一歩間違えれば、俺達も危なかったんじゃないの?」


「いや、大丈夫だと思うよ?多分だけど」


 佐藤さんは乾いた笑いをした後、壁の向こう側を見に行った。



 両手で丸が出た。

 全員倒したようだ。


「生きてる?」


「どうだろう。ショック死してるんじゃない?」


「まあ生きてても、感電して痺れて動けないか。放置していれば、魔物のエサになるだろう」


 結局、生きてても死んでても、このまま放置で運命は変わらないという事だな。

 三人とも無事だし、良かった良かった。


「おい、やめろって」


 ゴエモンが倒れてる帝国兵を、木の棒でツンツン突いている。

 イチエモンは止めようとしていたが、やはり興味があるのか、口だけだった。


「スゲー。全員倒してる。さっきの攻撃、雷だろ!?」


「雷とはちょっと違うけど、まあ同じ電気だな」


「おぉ!魔王様は雷神様なのか!カッケーぜ!」


 雷神だと!?

 ヤバイな。

 僕の厨二心が疼いてしまった。


【いや、厨二病じゃなくても、雷神なんて言われたら頬が緩むわ。カッコ良いから】


 新しい肩書きに雷神か。

 魔王より嬉しいかもしれない。





「戻ってきました!」


「マオー、その様子だと圧倒したかな?」


 メイドに挟まれた国王が、馬車の荷台で寛ぎながら聞いてきた。

 心配なんか微塵もしてない様子だ。

 それはそれで悲しいものがある。


「スゲーんだぜ!魔王様は雷神にもなれるって、知ってたか!?」


 言葉のボキャブラリーが貧相な気もするが、まあ良いや。

 もっと言ってやってくれ。


「雷神?避雷針の間違いじゃなくて?」


 この小娘!

 マジでシーファクは、あークソッ!

 絶対に国王に、ある事無い事言ってやる。


【そういう事言うから、ナメられるんじゃないの?】


 僕のせい!?

 いやいや、兄さんも大概だと思うよ。

 その行動を、省みてごらんなさいよ。

 心当たりがあるはずだから。


【無いな】


 嘘つけこの野郎!

 僕なんかより、よっぽど変な事してるじゃないか!


【何だと!?俺より普段の行いがマトモだから、変な事したら目立つのはお前だろ!】


 ん?

 うーん、そうとも言うな。

 どちらにしても言われてるのは僕等だし、不毛な争いに感じてきた。

 もうやめようか。



「マオーよ。追手の排除に感謝する。それで、相手は全員倒したのか?」


 脳内兄弟喧嘩の終わりと共に、国王が荷台から話し掛けてきた。


「多分ね。全員倒さないと、居場所がバレる可能性もあるし。悪いけど、生死については聞かないでくれよ?」


「そこまで求めていないさ。まして、私の事を狙う連中だ。敵の命を助けてくれなんて言う、そんなお人好しではないのでね」


 とか言いつつ、自国民には甘そうな気がしてるんだけどね。

 それは他国の事だし、僕には関係無いし、興味も無いけど。


「星が見えてますね。明日は晴れるかもしれません」


 洞窟の外から食料を取ってきたチトリが、そんな事を言っていた。

 それなら明日には出発出来そうだ。





「まもなく山を越えます。そこからは道案内は出来ますが、敵との遭遇率も上がると思われます」


 晴れた山を降りるのは、そう時間は掛からなかった。

 思っていたより、時間のロスは少ない。

 しかし、そこそこの人数で馬に乗って移動している分、遠くから見ても目立つ存在だ。

 土煙が上がっていれば、奴等も気付くだろう。


「とりあえずは、このまま移動しよう。厩橋城の近くまで来たら、速度を落として合流を悟らさないようにしたいね」


 イチエモンに伝えると、彼は了承した。




 厩橋が見えてくると、どうやら戦闘中だというのが遠くからでも分かった。

 爆発音と煙が上がっていたからだ。

 城を攻めて押している。

 煙が立ち上がっているのを見て、僕達は全員そう思っていた。

 だが、様子がおかしい。


「城からの煙じゃない?」


「城壁の外から上がっているように見えますね」


 何が燃えているんだ?


「あれ、川の方じゃないかな?」


 ゴエモンが薄めにして煙の方を見ると、思っていたのと全く違う答えが返ってきた。

 イチエモンも同じく目を細めると、そうっぽいと賛同する。


「厩橋の近くに川が流れているって事か?」


「裏手が川になってるんじゃない?そうすると、裏からは攻撃しづらいし」


 シーファクの指摘に、ズンタッタも頷く。

 なるほど。

 あながち間違っていない気がしてきた。


「戦闘は川の周りで行われている?」


「うーん、なんか様子がおかしいような?とにかく、もっと近付かないと分かりませんな」


「もっと近付けば、猫田さんが気付いてくれそうな気もする」


「それもそうね。警戒しつつ、厩橋に行きましょう」



 確かに川の周りで戦闘している。

 しかし、どういう事だ?


「あの連中、うちの者達じゃないぞ。誰だろう?」


「前田殿や太田殿なら、もっと目立ちますからな。何処へ行ったのでしょうか?」


「半兵衛の作戦?」


「どっちか、うちらの味方なんですかねぇ。どっちも敵ってパターンが、一番嫌なんですが」


 話していても分からない。

 だけど、どっちが敵でどっちが味方かも分からないのだ。

 手の出しようが無く、見ているだけしか出来なかった。


「魔王様、あの燃えてるのが何だか分かったよ」


「ゴエモンにはアレが見えるのか?」






「多分だけどね。アレ、船じゃない?俺も船なんか見た事無いけど、それくらいは分かるよ」

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