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負けたくない相手

 無事に草津を脱出した国王。

 ズンタッタとビビディは、涙を流しながら喜んだ。

 国王達はテンジ達と合流してもらい、安全な場所へ退避してもらう予定だ。

 メイドと彼には馬に乗ってもらうつもりだったが、格好を見る限りそれは相応しくない。

 スカートで馬に跨るのはどうかと思ったので、馬車を創造魔法で作り上げた。

 彼は作り上げた馬車をとても気に入って、色々と見回していた。


 テンジ達との合流を目指して山越えをしようとしていたところ、神の悪戯なのか長い雨に足止めをされてしまった。

 本当に神の悪戯なら、電話して文句言っているところだが。

 大きな洞窟で雨が過ぎるのを待っていると、国王は僕に相談があると言ってきた。

 その内容は、この馬車の作り方を教えてほしいという内容だった。

 彼等は帝国にしばらく戻れない。

 その為、ずっと居候ではなく、自分の生活費は自分の手で稼ぎたいという考えからだった。


 しかし僕は国王の話に集中していたせいか、周りが見えてなかったらしい。

 気付くとゴエモンが走ってきて、敵が近くまで迫ってきていると連絡をくれた。





「何人くらいか分かるのか?」


「そんなに多くないみたい。だから気付くのが遅くなったのもあるけど」


 ゴエモンは申し訳なさそうに尻尾が項垂れていた。


「少ないなら大丈夫だろう」


「アニキが言うには、この雨で音も匂いも感知しづらくて、気付くのが遅れたって」


 確かに雨音以外に、外から聞こえる音は無い。

 匂いも同じ理由だろう。

 これで気付けるのは、早々居ない。

 むしろ居るといたら、猫田さんくらいだ。


「それで、見つかる可能性が高いってのいうのは?」


「それは簡単だろう。この人数が隠れられる場所なんか、大きな洞窟を含めてそんなに無いからね。探す場所が限られるって訳さ」


 僕の質問に答えたのは、国王だった。

 ゴエモンもイチエモンから、同じ事を言われたらしい。

 コクコク頷いていた。


「おっちゃんスゲー!アニキと全く同じ事言ってる。カッケーな!」


「子供に褒められると嬉しいねぇ。下心が無いから、ストレートに褒められているって素直に感じるよ」


 満更でもない国王は、ゴエモンの頭をポンポン撫でている。


「それに比べて魔王様は・・・。強いだけのガキだな!」


「ガキ・・・」


 シーファクとメイドの二人は、後ろを向いて震えている。

 絶対に笑いを堪えているからだ。


「ハッハッハ!マオーはガキでも、ただのガキじゃないぞ?最強のガキ、ガキ大将だからねぇ」


「ガキ大将!?大将なのか!?それもスゲーな!」


「あんまり嬉しくない・・・」


「ま、冗談はさておき、彼は本当に凄いんだろう。じゃなければ、私を助け出す事なんて不可能だ。追手のレベル次第では、彼一人で倒せると思うよ?」


 凄いと思っていた国王がベタ褒めしたせいか、ゴエモンの印象が変わったかと思ったんだが。

 そう簡単にはいかないらしい。


「アニキ達を怪我させないで倒した時点で、強いのは知ってるよ。でも、頭良くないよね」


「そんな事無いよ。無いよね?」


 何故そこで疑問形になる。

 そんなだから、ゴエモンも馬鹿にしてくるんじゃないか!

 ちくしょー!

 某有名国立大に現役合格した僕の実力、お前等に見せるからな!





「魔王様すいません」


 合流したイチエモンが謝ってきたが、逆に好都合だ。

 ゴエモンに、僕の実力を見せる場が出来たからな!


「気にするなって!僕がどうにかしてあげよう。そう!僕がね!」


 ゴエモンが見ているのは気付いている。

 だからこそ、僕が解決すると強調するのだ。


「それで、敵は少ないんだって?」


「多分二十人くらいかと」


「じゃあ、佐藤フリージングで一撃じゃない?」


「いや、俺もそう思っていたんだけどさ。その二十人のうち二人は召喚者なんだよ。しかもそのうち一人が、かなり大きい。アレは俺でも苦戦しそうな気がする」


 それって逆に言えば、そのデカイのを僕が倒せば、これまたゴエモンからは凄いと認められるチャンスではないのかね?


【ゴエモンに認められる事って、そんなに重要か?別に良くない?】


 必要だよ!

 安土に行って、魔王大したことないとか言われてみな。

 街中で噂になったら、それはそれで皆不安になるでしょうが。

 ただでさえ帝国の国王を受け入れて、王子派に安土攻撃の口実まであるのに。


【そういうものかなぁ?まあお前がそう言うなら、そうなんだろうけど。俺はお前の言う事を信じているからな】


 うぅ、ゴエモンのせいでそう言われると、兄さんの言葉でも嬉しく思ってしまう。


 ここはなんとしても、奴等を全滅させる。

 下手に逃して山の中に居るなんて知られたら、それこそ追手が増えるし。

 追手には悪いが、手加減はしない。





「佐藤さんと僕、あと眠瞳術が使えるゴエモンとイチエモンだけ来てくれ。あとは国王の護衛を頼む。此処を知られる前に、外に出て迎え討つ!」


「俺はともかく、ゴエモンもですか?」


「念の為だ。その術は大いに力があるからな」


 なんてウッソー!

 僕の凄さを目の前で知らしめる為だ。

 僕の事をガキと言った事、後悔するが良い!


【いや、その発言が既にガキっぽいんだが・・・】


 何か言ったかね?

 あーあー何も聞こえない。


【もう良いよ・・・】





 居た。

 確かに情報通りの人数だな。

 この近くにはこれ以上の人数は居ないようだ。


「とりあえず、佐藤フリージングで凍らせちゃって」


「任せろ」


 気付かれる前に凍らせて終わらせる。

 うむ、実にスマートな戦い方じゃあないか!


「佐藤フリージング!」


 小声で地面に拳を振るうと、勢いよく氷が奴等の足に襲い掛かる。


「よし、不意打ちが成功して、向こうは混乱している。このまま出て全員倒そう」


 僕の指示に、三人が従って前に出た。


 卑怯だ何だと喚いているが、そんなの知ったこっちゃない。


「ハーハッハッハ!お前等は僕の術中に嵌ったのだ!残念だったな。佐藤さん、全員殴り倒しちゃって下さい!」


「あ、俺がやるのね」


 軽くその場でジャンプして構えると、近くに居た兵からボディに顔面にとボコボコに殴って行った。


「こ、こえー!あの兄ちゃん、ボッコボコだぜ。俺の眠瞳術に効かなかったら、アニキもあの中の一人と同じ目に遭ったんだな」


「そ、そう言われると確かに・・・」


 ブルっと身震いをしたイチエモンだったが、そこは寒さのせいだったという事にしておこう。


「駄目だ。雨でぬかるんでるし、氷の上で踏ん張りも利かない。これ、予想以上に時間掛かるぞ」


 確かに言われてみると、そうかもしれない。

 佐藤さんのステップが、いつもより小さい。

 しかも足元を凍らせているので、やはりパンチをする際の踏ん張りも利かないようだ。

 これに関しては、コバに新しい案件として提案しないとな。

 ボタン一つでスパイクが出たりする、新しいブーツでも作ってもらおう。


「お前等、調子に乗るなよ!」





 かなり背が高い男が、ポケットから何かを取り出した。

 そして背中に背負っていたバッグから、ある物を取り出す。


「んーえいっ!」


 ポケットから取り出した物を左手で自分の頭上へと上げると、右手に持った道具で地面へ叩きつけた。


「うおっ!マジか!」


 その打ち出された鉄球は、地面の氷を粉々に打ち砕いた。

 全員が動けるようになり、佐藤さんから殴られて意識を失った者だけがその場で崩れ落ちた。


「お前、動けない人間をサンドバッグにするとか、ボクサーというより弱い者いじめにしか見えないぞ」


 正論だけど、それはそれ。

 悲しいけど、戦闘なのよね。


【そんな事はどうでも良い。それよりも見たか?】


 何を?


【アイツ、俺と同じように鉄球を打ち出しやがる。負けたくないんだが】


 いや、それこそどうでも良いんだが。


【馬鹿野郎!これは絶対に負けられない相手だろ!鉄球打つのは俺の専売特許。奴の球は絶対に打ち返す!】


 そこまで言うなら、アイツの相手してみる?


【任せろ!絶対に負かす!】





「おい、そこのテニス野郎!」


「ん?」


「そのノロイ球を、早く打ち出しやがれ!」


 俺はバットを構えて、奴が打ってくるのを待った。


「子供?おいおい、俺のボールを子供が野球のバットで打つだって?誰だよ、そんな冗談教えたの」


 奴は笑いながら、アンダーサーブで打ってみろと言ってきた。

 馬鹿め。

 そのニヤケ面を青く染めてやろう。


「死ねぇ!」


 俺の打球は奴の頬を掠った。

 まさか鉄球を打ち返して、尚且つ自分の顔面を狙ってくるとは夢にも思わなかったのだろう。

 青くはならなかったが、ニヤケ面を消す事は出来た。


「ちなみに今のは、わざと外してやったんだ。わ・ざ・と。あーゆーおーけー?」


「このクソガキ!」


 怒りに燃える大男は、更にポケットから鉄球を取り出す。

 頭上から振り下ろされるラケットは、軽く世界最速のサーブを超えていた。


「どっせい!」


「なんだと!?」


 鈍い金属音で弾き返したボールは、奴の足元でバウンドして、後ろへと飛んでいく。


「えーと、フィフティーンラブだっけ?」


「ちっくしょうが!」


 二球目を打ち出すと、今度は俺の頭付近を狙ってきた。

 だが、所詮はビーンボール。

 避けるのは他愛もない。


「ヘイヘイ、そんなんじゃ俺に当たらないぜぇ!」


 俺の煽りが効いたのか、奴は少し黙り、そしてポケットから新たなボールを取り出した。


(あのボール、さっきまでのと違くない?)


 え?そう?

 あ、なんか色合いが少し違うような?

 でもあの感じ、鉄球だよな。


「お前は次で殺す!」


「口ではなんとでも言えるのさ〜」


 あれ?

 挑発に乗らない。

 奴は深呼吸をした後、ボールを二度バウンドさせてから、再び頭上にボールを上げた。


(兄さん!そのボール鉄球じゃない!鉄球なら弾まないだろ!)


 え?


「うんっ!」


 今までの最速だと思われるボールは、俺の足元に向かってくる。

 足首狙いか?

 一瞬そう思ったが、すぐに違う事に気付いた。

 足元に落ちたボールが、俺目掛けてバウンドしてきたのだ。

 野球ではあり得ないその軌道に、俺は反応が遅れた。


「そろもっ!」





 顔面にヒットしたボールは、再び奴の手元に戻っていった。

 そして数メートル後ろの木に叩きつけられた魔王は、そのまま崩れ落ちて動かない。

 他の召喚者と帝国兵を相手にしていた佐藤は、まさかという顔で動きを止めていた。

 イチエモンとゴエモンも、自分達を圧倒した存在が吹き飛ばされるとは思ってなかったんだろう。


「魔王様!?おい!俺達を安土に迎え入れてくれるんだろ!?こんな所で死ぬなよ!」


 ゴエモンは叫びながら近付こうとしていたが、イチエモンが両手で止めていた。



「大言壮語だな、クソガキが」


 トドメの一撃を入れようと、再びボールを上げようとすると彼はあり得ないという表情でボールを落とした。


「イテテテ。全く、油断なんかするから」


「顔面で受けておいて起き上がる!?普通なら首が折れていてもおかしくないんだが・・・」


「まあ、確かに気絶しちゃってるけども」


 咄嗟に身体強化していたのは、流石だと言っておこう。

 だけど気絶したら、負けなんじゃないかな?


 というわけで、僕は僕のやり方でやらせてもらう。


「悪いけど、スポーツの時間は終わりだ」


「何を言っている。お前から打ってこいと言ってきたんだろうが!」


 そうでした。

 正確には僕じゃないけども。

 ややこしいから反論するのも面倒だ。

 しかも既に打つ態勢に入ってるし。


「うん!」


 ボールが再び足元に向かってくる。

 僕の身体強化じゃ、そこまで見極められない。

 それこそ、プロの球が襲ってくるように感じる。

 プロの球なんかテレビでしか見た事無いけどね。


「普通なら、慌てるんだろうね」


「馬鹿な!?・・・魔法?」


 無詠唱で土魔法を使い、向かってくる場所に厚めの壁を作った。

 バウンドをした直後を土魔法で覆うと、そのまま勢いなく転がる。





「ごめんねぇ。自分から言ったんだけど、雨も強くなって寒くなってきたし、終わりにしようと思うんだ」

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